【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~

榊シロ

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62.まねきババア①(怖さレベル:★☆☆)

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(怖さレベル:★☆☆:微ホラー・ほんのり程度)
『50代女性 染谷さん(仮)』

あれはねぇ、あたしがとあるスーパーに勤めていた時のコトなんですよ。

今まで長いこと働いていた青果店が店じまいするってんで、
家からちょいと離れたソコが求人出しているのを見かけて。

レジ打ちパートですぐに採用され、研修も一通り終えて、
そろそろ一人でレジに立ち始めようか、と店長に言われた頃のことです。

「ねえねえ染谷さん。染谷さんってうちのスーパー使ったことあった?」

休憩の時間に、先輩であるパートの女性がウキウキと声をかけてきました。

「え、いいえ……」

このスーパーは自宅から少々距離もあり、
青果店に勤めていた時にはそこですべて買い物が済んでいた為、
一度か二度くらいしか訪れたことはありません。

「やっぱり! 全然あのコト聞いてこないから、そーだろうと思ったぁ」
「あのコト……ですか?」

妙に勿体ぶる彼女に、あたしは気後れしつつ尋ねました。

「ここらじゃ有名よ! まねきババアのこと」
「ま……まねき、ババア……?」

あんまりなネーミングに、
あたしは唖然としてその言葉を反すうしました。

「そ。うちのスーパーの入り口付近に、たまーに出没すんのよ」
「し、出没って……どんな?」
「名前の通りよ。あれ、染谷さんってここで勤めて五日くらいだっけ?
 もしかしたら、そろそろ見かけるかもねっ」
「あ、ちょっ……」

彼女は言うだけ言ったかと思うと、
足取り軽やかに売り場の方へ出て行ってしまいました。

(まねきババアって……お客さんのこと?)

よく常連客にはあだ名がつく、と言いますが、
その人も果たしてそういう名称の一環なのか。

「染谷さーん、ちょっとこっち手伝ってーっ」
「は、はーい!」

しかし、そんな疑問は、次々とかけられる声に、
すっかり忘れ去ってしまったのでした。



ようやく仕事にも慣れてきて、
一人でおおよその対応ができるようになってきたとある日のこと。

早番で出社したあたしは、自転車から降りて店の従業員用入り口に向かう途中、
妙なモノに気づいて足を止めました。

「……人?」

まだ開店前の、シャッターの下りたスーパーの入り口。
そこに、一人の黒い人影が見えます。

仕立ての良い、黒い着物を着用した腰のピンと張った老婆。
年齢はもう喜寿に近いのではないかと思われるほど。

そんな老婆が一人、まるでおいでおいでをするかのように、
ゆっくりと手招きをして突っ立っているのです。

(何、あれ……気味が悪い……)

明らかな不審者的な動きに、
店長か警察を呼ぼうとか戸惑っていると、

「おはよう、染谷さん」

同じ早番パートの羽田さんに、ポン、と背を叩かれました。

「あ、お、おはようございます」
「早番でしょ? いっしょに行……あ、今日まねきバアさん来てるのね」

先日、別のパートさんが言っていたのと同じ名前を、彼女も口にしたのです。

羽田さんはちらりと入り口で不審な動きを
続ける老婆の方を見て、さらにボソリと呟きました。

「そっか、染谷さん、まだ来たばっかりだもんね。
 ……とりあえず、中行こ。詳しく話すから」
「あの……店長とか呼ばなくっていいんですか?」
「あー、大丈夫大丈夫。なんていうかね……常連さんだし」

彼女は老婆をあまり視界に入れぬよう、
そそくさと足取りを速めて従業員入り口へと入って行ってしまいました。

あたしはまだあの老婆が気にかかったものの、
説明をしてくれるという彼女の言葉につられるように、その後を続きました。



「まねきバアさん……まねきババアって呼ぶ人もいるけど、
 あの人、うちのスーパーの福の神なのよ」

まだ誰も出社していない控え室で、
羽田さんはポツポツと語り始めました。

「ふ、福の神……ですか?」
「そ。あの人……いつも来るワケじゃないんだけど、
  ああして入り口のトコに立つとね、うちはなぜか大繁盛するの」
「えっ……」

神妙な表情で語る彼女に、思わず言葉が詰まりました。

だって、入り口にいくら身なりはしっかりしているとはいえ、
無表情の老婆がおいでおいでの動きなどしていたら、
普通は嫌厭するものでしょう。

それなのに、逆に繁盛するとはどういうコトなのでしょう。

「不思議なんだけど、事実よ。たぶん、今日も忙しくなるわぁ」
「は、はぁ……」
「あ、信じてないでしょう。……まあ、信じられないよね。
 実際、お客さんへの印象が悪いだろう、って追っ払おうとした人もいたし」

彼女は微妙なあたしのリアクションにも気を悪くすることなく笑いました。

「ま、今日やってみればわかるよ。まねきバアさんの力」
「は……はい」

そんなこと、本当に起こるのだろうか、と失礼ながら疑いつつ、
徐々に出社してきたパートの人たちと共に、
あたしたちは持ち場へと向かったのでした。

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