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83.廃駅の肝試し⑥(怖さレベル:★★★)
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『……、プツッ』
しかし、どうやら通話はそこで途切れてしまい、
車内には重い沈黙が満ちました。
「は……原。先輩……なんだって?」
意を決してオレが尋ねると、原はビクリと大げさなほど身体を揺らし、
「……っ、悪ィ、とにかく人のいるトコに……」
「え、さ、先に行っちまっていいのか?」
「い、いいから! 早く……っ!!」
尋常でなく真っ青になった顔色の原に圧倒され、
オレたちは馴染みのファミレスまで車を飛ばしました。
「……」「……」「……」
いつものファミレスの座席に通され、
互いに向かい合ってもなお、無言の空間は続いています。
水を持ってきた顔馴染みの店員さえ、こちらに声をかけるのをためらうほど。
オレと水島はなにも聞けぬまま、しばし顔を見合わせていましたが、
意を決して、オレはコツン、とテーブルを叩きました。
「おい、原。……話してくれよ。あの電話……なんだったんだ」
「う……おれも、まだ……混乱してんだ、けど」
ようやく口を開いた奴が、キョロキョロと周囲を警戒するように
確認した後、ポツポツと語り始めました。
「おれ、電話したじゃん、先輩に……で、つながってさ。
今どこ、って先輩に聞いたら……」
はく、と空気を噛むようにどもりつつ、原はわずかに間を置いて、
「『今、廃駅のところにいるの。助けて原クン』って」
「……は? だって、途中まで一緒についてきてたじゃねーか!」
狼狽を隠し切れぬ様子で水島が尋ねると、原はブンブンと首を縦に振って、
「お、おれもオカシイって思ったよ!
でも、実際、先輩は後ろにいなかったし、わけわかんなくて……
そしたら、電話の向こうの先輩が『いっしょに来て。寂しい、寂しい』って」
いっしょに来て。それは一体、何を意味しているのか。
「オレ、急にものすごく怖くなってさ。電話の相手、本当に先輩なのかって……
で、水島に言われた通りスピーカーにしようとしたら、切れちゃったんだよ」
眉をひそめて呻くように息を吐ききった奴は、懐から携帯を取り出しました。
「もう、どうすりゃいいんだか……うわッ!!」
と、突如、原はその機器をオレの方へと投げつけました。
「わっ……おい、ビビるだろーが!」
落ちるすんでのところを片手で引っ掴み、そのまま相手に返そうとするも、
「ち、着信……着信、ヤベェ……」
と、頭を抱えてガタガタと震えています。
「着信?」
ひょい、と携帯の液晶画面に視線を落とすと、
「……うっ」
隣で同様にそれを覗いた水島が、身体を思い切りのけ反らせました。
そこには、見ている間にもズラズラと『非通知』表示の着信が増え続け、
それを知らせるライトが延々チカチカと点滅を続けています。
「うわっ」
目前で増殖する不在着信の数に、一度は収まったはずの
恐怖がブワッとぶり返してきました。
「こ、これ……いったい……」
「や、やっぱ……あんなトコ、行っちゃいけなかったんだ……っ」
原はもはや涙すら浮かべて、席の端っこで丸くなって震えています。
チカチカと手元で光る画面を、なすすべもなく見つめていると――、
ブツッ
着信の嵐に携帯のシステムが限界を迎えたか。
それとも、ただの寿命であったのか。
突如真っ暗の画面になったそれは、
電源ボタンを押下しても立ちあがることはありませんでした。
「……」「……」「……」
再び無言になったこの空間で、しばし、
誰一人言葉を発することはできませんでした。
結局その後、日が昇るのを待ってファミレスで会計を済ませ、
オレたちは解散しました。
原は憔悴がひどく、その日一日フリーだという水島が家にいてやるということで、
オレは二人を送り届け、帰途につきました。
しかし、当然というべきか、
頭の中は昨晩起きた一連の騒動の謎がグルグルと渦巻いて、
大学の授業はもとより、バイト自体にもまったく身が入りませんでした。
「……あっ」
一日が終わり、自宅へと重い身体を引きずりながら戻れば、
タイミングを見計らったかのように水島からの着信が入りました。
「おぉ……どうした」
『……例の先輩の件、だけど』
「ああ。……どうなった?」
朝の別れ際、原が他のバイト仲間や先輩と共にあの駅へ
行ったはずの人たちに連絡をとってみる、と言っていました。
『奴が手当たり次第に連絡したんだけどさ。……例の先輩と
一緒に行ったらしき人たち……軒並み、音信不通だっつうんだよ』
「え……ウソ、だろ」
彼女は、他のメンバーは先に帰ってしまった、
とはっきり言っていたというのに。
『しかも、だ……原のバイト先に、先輩の両親から退職の連絡が入ったらしい』
「えっ……親から?」
『そうだ。オカシイだろ? 原も店長に詳しく聞いたらしいんだけど、
家の事情ってことで詳しくはわかんなかったらしくて、それ以上は……』
親から退職の通知が来た、ということは、
何かしらの情報を家族は握っている、ということなのでしょう。
娘の不在を尋ねるでもなく、辞める旨の連絡を入れてきたということは、
普通に考えれば、彼女は実家に帰った、ということなのでしょうか。
『もう、こっちも訳がわからん。原も珍しくだいぶ落ち込んでるしな。
……木ノ下、念のため、あの車お祓いに出しといた方がいいかもしれないぞ』
「……オイオイ」
縁起でもない台詞を残し、そのまま通話は切れてしまいました。
一体、あの夜の出来事はなんだったのでしょう。
あの先輩は、本物だったのか。
そもそも……本当に、生きているのか。
あの廃駅から帰る時、もし原が先輩の誘いに乗って、
彼女の車に同乗していたら、どうなっていたのか――。
あれから今にいたるまで、先輩の行方はしれません。
しかし、どうやら通話はそこで途切れてしまい、
車内には重い沈黙が満ちました。
「は……原。先輩……なんだって?」
意を決してオレが尋ねると、原はビクリと大げさなほど身体を揺らし、
「……っ、悪ィ、とにかく人のいるトコに……」
「え、さ、先に行っちまっていいのか?」
「い、いいから! 早く……っ!!」
尋常でなく真っ青になった顔色の原に圧倒され、
オレたちは馴染みのファミレスまで車を飛ばしました。
「……」「……」「……」
いつものファミレスの座席に通され、
互いに向かい合ってもなお、無言の空間は続いています。
水を持ってきた顔馴染みの店員さえ、こちらに声をかけるのをためらうほど。
オレと水島はなにも聞けぬまま、しばし顔を見合わせていましたが、
意を決して、オレはコツン、とテーブルを叩きました。
「おい、原。……話してくれよ。あの電話……なんだったんだ」
「う……おれも、まだ……混乱してんだ、けど」
ようやく口を開いた奴が、キョロキョロと周囲を警戒するように
確認した後、ポツポツと語り始めました。
「おれ、電話したじゃん、先輩に……で、つながってさ。
今どこ、って先輩に聞いたら……」
はく、と空気を噛むようにどもりつつ、原はわずかに間を置いて、
「『今、廃駅のところにいるの。助けて原クン』って」
「……は? だって、途中まで一緒についてきてたじゃねーか!」
狼狽を隠し切れぬ様子で水島が尋ねると、原はブンブンと首を縦に振って、
「お、おれもオカシイって思ったよ!
でも、実際、先輩は後ろにいなかったし、わけわかんなくて……
そしたら、電話の向こうの先輩が『いっしょに来て。寂しい、寂しい』って」
いっしょに来て。それは一体、何を意味しているのか。
「オレ、急にものすごく怖くなってさ。電話の相手、本当に先輩なのかって……
で、水島に言われた通りスピーカーにしようとしたら、切れちゃったんだよ」
眉をひそめて呻くように息を吐ききった奴は、懐から携帯を取り出しました。
「もう、どうすりゃいいんだか……うわッ!!」
と、突如、原はその機器をオレの方へと投げつけました。
「わっ……おい、ビビるだろーが!」
落ちるすんでのところを片手で引っ掴み、そのまま相手に返そうとするも、
「ち、着信……着信、ヤベェ……」
と、頭を抱えてガタガタと震えています。
「着信?」
ひょい、と携帯の液晶画面に視線を落とすと、
「……うっ」
隣で同様にそれを覗いた水島が、身体を思い切りのけ反らせました。
そこには、見ている間にもズラズラと『非通知』表示の着信が増え続け、
それを知らせるライトが延々チカチカと点滅を続けています。
「うわっ」
目前で増殖する不在着信の数に、一度は収まったはずの
恐怖がブワッとぶり返してきました。
「こ、これ……いったい……」
「や、やっぱ……あんなトコ、行っちゃいけなかったんだ……っ」
原はもはや涙すら浮かべて、席の端っこで丸くなって震えています。
チカチカと手元で光る画面を、なすすべもなく見つめていると――、
ブツッ
着信の嵐に携帯のシステムが限界を迎えたか。
それとも、ただの寿命であったのか。
突如真っ暗の画面になったそれは、
電源ボタンを押下しても立ちあがることはありませんでした。
「……」「……」「……」
再び無言になったこの空間で、しばし、
誰一人言葉を発することはできませんでした。
結局その後、日が昇るのを待ってファミレスで会計を済ませ、
オレたちは解散しました。
原は憔悴がひどく、その日一日フリーだという水島が家にいてやるということで、
オレは二人を送り届け、帰途につきました。
しかし、当然というべきか、
頭の中は昨晩起きた一連の騒動の謎がグルグルと渦巻いて、
大学の授業はもとより、バイト自体にもまったく身が入りませんでした。
「……あっ」
一日が終わり、自宅へと重い身体を引きずりながら戻れば、
タイミングを見計らったかのように水島からの着信が入りました。
「おぉ……どうした」
『……例の先輩の件、だけど』
「ああ。……どうなった?」
朝の別れ際、原が他のバイト仲間や先輩と共にあの駅へ
行ったはずの人たちに連絡をとってみる、と言っていました。
『奴が手当たり次第に連絡したんだけどさ。……例の先輩と
一緒に行ったらしき人たち……軒並み、音信不通だっつうんだよ』
「え……ウソ、だろ」
彼女は、他のメンバーは先に帰ってしまった、
とはっきり言っていたというのに。
『しかも、だ……原のバイト先に、先輩の両親から退職の連絡が入ったらしい』
「えっ……親から?」
『そうだ。オカシイだろ? 原も店長に詳しく聞いたらしいんだけど、
家の事情ってことで詳しくはわかんなかったらしくて、それ以上は……』
親から退職の通知が来た、ということは、
何かしらの情報を家族は握っている、ということなのでしょう。
娘の不在を尋ねるでもなく、辞める旨の連絡を入れてきたということは、
普通に考えれば、彼女は実家に帰った、ということなのでしょうか。
『もう、こっちも訳がわからん。原も珍しくだいぶ落ち込んでるしな。
……木ノ下、念のため、あの車お祓いに出しといた方がいいかもしれないぞ』
「……オイオイ」
縁起でもない台詞を残し、そのまま通話は切れてしまいました。
一体、あの夜の出来事はなんだったのでしょう。
あの先輩は、本物だったのか。
そもそも……本当に、生きているのか。
あの廃駅から帰る時、もし原が先輩の誘いに乗って、
彼女の車に同乗していたら、どうなっていたのか――。
あれから今にいたるまで、先輩の行方はしれません。
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