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83.廃駅の肝試し⑤(怖さレベル:★★★)

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「っうおっ! び、ビビらせんなって……」
「水島クンったら、大げさねェ。
 もう心霊スポットもとっくに過ぎたってのに、どーしたんだよ?」

あからさまに怯えの色を浮かべている水島に対し、
原はニヤニヤとさらに首筋をつつきまわしています。

「っやめろっつーの! ……ったく、なんでもねぇよ。
 ちょっと……気になるコトがあっただけだ」
「あぁ? 気になるコト?」

いやに含みを持った言い草に、オレはハンドルをしっかり
握ったまま、オウム返しに問いかけました。

「ああ。……まぁ、気にしすぎなだけかもしんねぇけど」
「なんだよ。やけにもったいつけんじゃねぇーか。言えよ、気になるだろ?」

やんややんやと、後ろから原がはやし立てます。

「あー……わかったよ。でも、原お前、気ィ悪くするかもしれねぇぞ」
「あぁ、おれ? へーきへーき、ドンと来いっ」

いつものウザったらしいほどのポジティブさを取り戻した原は、
気の抜けた声と共に、偉そうに腕を組んでいました。

「じゃあ、言うけど。……木ノ下、例の先輩、ちゃんと後ろついてきてるか?」
「おう。車のランプもハッキリ見えるぞ」

バッグミラーを確認すれば、
一定の距離を保って、例のシルバーの車体が見えます。

「…………。結論から言うぞ。あの先輩……変じゃねぇか」

上機嫌でふんぞり返っていた原の表情が、
その一言で硬直しました。

「なっ……なに言い出すんだよ!」
「俺はふだんのあの人のコト知らねぇし、見当違いなら悪ィけど……オカシイだろ。
 女の子が丸一日、山ん中で車のカギ探し続けるなんて」
「っだから! 携帯車ん中で、どうしようも無かったって……!」
「まぁ確かにな。……じゃあどうして、道沿いを歩いて助けを呼びにいかなかったんだ?
 この廃駅から、徒歩っつったって二時間も歩けば人里だろ。
 あれから一日経ってるんだ。夜は動けないにしたって、日が出てるうちなら」

シン、と静まった車内に、
雰囲気にそぐわぬ深夜ラジオの陽気な音声だけが流れます。

「お、女の子だし……怖かったんじゃ」
「まぁ、それも考えられる。……なら、この時間、心霊スポットって言われてる廃駅んトコで、
 懐中電灯一つなく、枯れ葉にまみれて車のカギを探してるってのはどうなんだ?」

その水島の淡々とした言葉に思い返される、あの瞬間。

背後に立たれ、感じた悪寒。
耳元でボソボソとささやかれた、なにごとかの異音――。

「それに、だ。今時、心霊スポット行くっつーのに
 携帯置き去りにするか? 写メ撮る絶好のチャンスだぞ?」

トドメとばかりに言い放たれた一言には、さすがの原も言い返せぬようでした。

確かに、どこへ行くにも、今は財布よりも携帯の時代。
特に同じ大学生とくれば、それは必需品です。

ボーッと背後から向けられる車のライトが、
じわじわと不気味に思えてきました。

「それに当人の車だってあんなに汚れてて……イタズラだ、なんて言ってたけど、
 森ん中から一度も車に戻らなかったってのか? なんかオカシイんだよ、あの人の言動」
「……ッ、じゃあお前、先輩がユーレイとでも言う気かよ!」

水島の語る内容に反論すらできなくなったのか、
感情のままに原が身を乗り出して呻きました。

「そこまでは言わねぇ、けど……言ってることが嘘くさいんだ。
 なんで嘘をつくかもわからん。……だから、怖いんだよ」

と、水島はそれだけ言いきると、
そのまま口をつぐんでしまいました。

「……先輩」

原もボソリと彼女のことを呟くと、心配そうに後続車を振り返って――
途端、陸に打ち上げられたコイのごとく、ビクリと身体を跳ねさせました。

「オイッ! 車、ついてきてねぇぞ!」
「はあっ!?」

慌ててバックミラーを確認するも、

「……ウソだろ? 一本道だぞ、ココ」

背後には、ただただ暗いアスファルトの道が続いているのみ。

脇道にそれたり、道をまちがえるなんてことは十中八九ありえません。

本当に、ついさきほど。
数分前まで真後ろについていたはずです。

エンジンでも止まってしまったか、
考えたくはありませんが、フェンスでも突き破って谷底に落ちでもしたか――?

「ど、どうする!?」
「もっ、もちろん引き返すだろ!!」
「原。……携帯番号知ってんだろ? 電話してみろよ」

勇んで戻ろうとする原を抑え、冷静に水島が声をかけます。

「あ、そ、そっか……よし、かけるぞ」

オレは念のため、邪魔にならぬ路肩の幅広の場所に車を停め、
背後をチェックしつつ神妙な原の様子を見守りました。

「…………」

原は焦った表情のまま、液晶画面を凝視しています。

「……。……あ、もしもし、もしもし!?」

どうやらつながったらしく、
奴は血相を変えて耳元に機器を押し付けました。

「せ、先輩、今ドコに……えっ? ……あ、え……?」

会話の途中、目に見えて原の声のトーンが下がりました。

「ちょ、え、先輩……いや、あの……」

しどろもどろな口調になった原に、
水島が怒鳴るように叫びました。

「スピーカーにしろ、原!」
「あ、う……っ」

奴は震える指で耳元から携帯を引きはがし、
プツ、と画面を押下しました。

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