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第一章
30話
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「何故それを早く言わなかったのです!」
「しかしながら御嬢様。
御嬢様に万が一の事があれば、それこそ精霊様の加護が失われてしまいます。
精霊様に見限られるような者を助けようとして、御嬢様に何かあったら、我が家に逃げ込んだ弱き者達はどうなるのですか?!」
カチュアは、新たに逃げ込んできた民からの話で、王国の本当の惨状を初めて知った。
それを教えてくれなかった城代を詰問したが、城代からは別の視点で反論された。
心優しいカチュアは、卑しき人間も助けたかった。
だが城代は、その為に危険を冒すのは、弱き民を見捨てる行為だと諫言した。
どちらも間違っている訳ではない。
価値観の相違だ。
カチュアは心優しき慈悲の人だ。
だからこそ、水乙女に選ばれたのだ。
一方城代は現実の為政者だ。
優しく夢見がちな公爵夫婦に成り代わり、領地を護ってきた切れ者だ。
城代の忠誠と優しさには厳格な順位がある。
それは絶対に曲げられないモノだ。
まずは主君である公爵夫婦と御嬢様が一番なのだ。
同輩の家臣や領民は、主君あってのモノだ。
大切にしていない訳ではない。
城代は仁道の人なのだ。
だが、あくまでも主君の次なのだ。
他領の民の為に、自分より大切な御嬢様を危険に晒すなど有り得なかった。
まして御嬢様を貶めた王家や貴族士族など、自分の手で叩き殺したいほど憎んでいたのだ。
だからカチュア御嬢様には何も伝えなかった。
これは城代だけではなかった。
サライダ公爵家に仕える全ての家臣の総意だった。
騎士も徒士も。
ずっと御側近くに仕えてきた戦闘侍女などは、絶対の御耳に入れないようにしていた。
だが、それでも。
忠誠心が強いだけに、御嬢様が進んでなされる事を、邪魔する事も出来なかった。
心の中では葛藤の嵐が吹き荒れていたが、心優しいカチュア御嬢様が、逃げて来た民から直接話を聞き、施しをなされるのを止める事が出来なかった。
だから耳に入ってしまった。
王都内での暴動や、王城内での惨状を。
耳にして、何もしないでいられるカチュアではなかった。
城代に確認した上で、助けようとした。
しかし、城代の諫言を受けて、何も出来なくなってしまった。
自分が死んでしまったら、サライダ公爵領の水まで涸れてしまうのは目に見えていた。
自分が安全な場所にいて、それでも王都の惨状を治めようとすれば、家臣が命懸けで領外に出ることになる。
そうなれば、必ず多くの家臣が死傷することになる。
そう考えると、カチュアは何も言えなくなってしまった。
だから、ただひたすら祈った。
水の精霊様に、愚かで汚い人間を許して欲しいと祈った。
心から、人として詫び、人として許しを乞うた。
「しかしながら御嬢様。
御嬢様に万が一の事があれば、それこそ精霊様の加護が失われてしまいます。
精霊様に見限られるような者を助けようとして、御嬢様に何かあったら、我が家に逃げ込んだ弱き者達はどうなるのですか?!」
カチュアは、新たに逃げ込んできた民からの話で、王国の本当の惨状を初めて知った。
それを教えてくれなかった城代を詰問したが、城代からは別の視点で反論された。
心優しいカチュアは、卑しき人間も助けたかった。
だが城代は、その為に危険を冒すのは、弱き民を見捨てる行為だと諫言した。
どちらも間違っている訳ではない。
価値観の相違だ。
カチュアは心優しき慈悲の人だ。
だからこそ、水乙女に選ばれたのだ。
一方城代は現実の為政者だ。
優しく夢見がちな公爵夫婦に成り代わり、領地を護ってきた切れ者だ。
城代の忠誠と優しさには厳格な順位がある。
それは絶対に曲げられないモノだ。
まずは主君である公爵夫婦と御嬢様が一番なのだ。
同輩の家臣や領民は、主君あってのモノだ。
大切にしていない訳ではない。
城代は仁道の人なのだ。
だが、あくまでも主君の次なのだ。
他領の民の為に、自分より大切な御嬢様を危険に晒すなど有り得なかった。
まして御嬢様を貶めた王家や貴族士族など、自分の手で叩き殺したいほど憎んでいたのだ。
だからカチュア御嬢様には何も伝えなかった。
これは城代だけではなかった。
サライダ公爵家に仕える全ての家臣の総意だった。
騎士も徒士も。
ずっと御側近くに仕えてきた戦闘侍女などは、絶対の御耳に入れないようにしていた。
だが、それでも。
忠誠心が強いだけに、御嬢様が進んでなされる事を、邪魔する事も出来なかった。
心の中では葛藤の嵐が吹き荒れていたが、心優しいカチュア御嬢様が、逃げて来た民から直接話を聞き、施しをなされるのを止める事が出来なかった。
だから耳に入ってしまった。
王都内での暴動や、王城内での惨状を。
耳にして、何もしないでいられるカチュアではなかった。
城代に確認した上で、助けようとした。
しかし、城代の諫言を受けて、何も出来なくなってしまった。
自分が死んでしまったら、サライダ公爵領の水まで涸れてしまうのは目に見えていた。
自分が安全な場所にいて、それでも王都の惨状を治めようとすれば、家臣が命懸けで領外に出ることになる。
そうなれば、必ず多くの家臣が死傷することになる。
そう考えると、カチュアは何も言えなくなってしまった。
だから、ただひたすら祈った。
水の精霊様に、愚かで汚い人間を許して欲しいと祈った。
心から、人として詫び、人として許しを乞うた。
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