前世水乙女の公爵令嬢は婚約破棄を宣言されました。

克全

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第二章「恋愛」

39話

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 カチュアが寝込んだ事で、サライダ王国は騒然とした。
 全ての民が、水精霊様の御加護を失うのではないかと恐怖した。
 余りの騒動に、城代は正直に全てを話した。
 加えて民を諭した。
 もっとドラゴニュートが好むモノを作れと。

 人を喰うより美味しい酒造れ。
 人を喰うより美味しい羊や山羊を育てろ。
 カチュア御嬢様の優しさに甘えるなと。
 御嬢様が優しいから、水精霊様の加護を御受けできるのだ。
 水龍様の仲裁を得られたのも、御嬢様の優しさの御陰だ。

 だが御優しいからこそ、傷つきやすく脆い心を御持ちなのだ。
 お前達が御嬢様に頼り切れば、御嬢様は心労で倒れてしまわれる。
 現に倒れてしまわれた。
 このままでは水精霊様の加護を失うぞ。
 またドラゴニュートが跳梁跋扈するぞ。

 それが嫌なら、御嬢様の心労を取り除く努力をしろ。
 そう叱咤激励した。
 民は奮起した。
 ドラゴニュートが人間よりも美味しいと思うモノを創り出そうとした。
 寝食を忘れて努力した。

 だがこの話は、尾鰭が付いて世界中に広まってしまった。
 サライダ王国が、美味しい酒と肉を求めていると。
 それだけならよかったのだが、ドラゴニュート退治の話まで広まってしまった。
 カチュア姫の婿になれると言う話と一緒に。
 城代一世一代の不覚だった。

 火竜やドラゴニュートと争わないために、民に全てを話した。
 なのに、ドラゴニュートを斃そうとする者を集めてしまった。
 ドラゴニュートとの共存共栄を願っていたのに。
 自分がそれを破るきっかけになってしまった。
 城代は責任を取りたかった。

 だが、自分以外にサライダ王国を指揮出来る者はいなかった。
 死ぬことは勿論、役目を辞する事も出来なかった。
 忸怩たる思いで、城代の役目を続けるしかなかった。
 だから水精霊様に祈った。
 全ての罪を告白して、火竜との間を取り持ってもらいたいと願った。

 だが、水精霊と火竜は天敵だった。
 一段上の存在である水龍は公平だったが、水精霊は火竜が嫌いだった。
 自分を穢した人間の子であるドラゴニュートを忌み嫌っていた。
 だから仲裁などしなかった。
 むしろ各地の仲間を通じて、ドラゴニュートを退治する人間を集めた。

 色んな思いが交錯して時が動いていた。
 火竜もカチュアと水精霊の動きを把握していた。
 城代の失策も分かっていた。
 だが気にしていなかった。
 むしろ歓迎していた。

 愚かで下劣な人間の種から生まれた子は、可愛いが弱過ぎた。
 竜を退治するほどの強い人間の種なら、もっと強い子を産めるかもしれない。
 そんな望みを持っていた。
 だから強い人間が挑んでくるのは大歓迎だった。
 期待外れなら、子供達の餌にすればいいだけだった。

 火竜・水精霊・カチュアの望み通り、多くの強者が集まってきた。
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