前世水乙女の公爵令嬢は婚約破棄を宣言されました。

克全

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第二章「恋愛」

40話

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「よくぞここまで来てくれました。
 この御恩、忘れはしません」

「姫様の御憂慮を御払いするためなら、この命惜しくはありません」

「では、火竜とドラゴニュートを退治してくれるのですね」

「はい。
 我ら一同、身命を賭して、火竜とドラゴニュートを斃して御覧に入れます」

 サライダ王国には、自称勇者、自称英雄が数多く集まった。
 なかにはカチュア姫とサライダ王国を騙し、あわよくば王配となり、王国を横領しようという輩も混じっていた。
 だが、サライダ王国には城代がいた。
 彼が悪党の好き勝手にはさせなかった。

 誰がどれほど勇者英雄を名乗ろうとも、一切の便宜を図らなかった。
 むしろ王国に金を落とすように仕向けた。
 王城に攻め込むには拠点がいる。
 王都地区に泊まらなければならない。
 装備品も購入しなければならない。

 支援金を騙し取ろうとしていた悪党は、全く支援金が支給されず、盗みを働いて逃げようとした。
 しかし水精霊が護るサライダ王国で盗みなど出来なかった。
 いや、水精霊が動く前に、警備隊が捕縛した。
 金は勿論、武器や防具も取り上げられ、王城前に放り出された。
 生贄刑に処せられたのだ。

 ゴライダ王国が豊だったように、後継のサライダ王国も豊かだった。
 元々東西交易の要衝で、多くのキャラバンが富を落としていた。
 精霊の加護で、砂漠地区とは思えないほど豊饒な作物が実った。
 その豊穣のままに、人口が激減したのだ。
 民一人が得られる富は十倍になった。

 いや、富を独占していた全ての王族貴族が滅んだのだ。
 士族もサライダ公爵家の陪臣だけしか残っていない。
 カチュアの指示で、最低辺の領民も飢えることがなくなった。
 いや、商才の有る者は、急激に莫大な富を蓄えていた。
 悪人が来ることで、サライダ王国は更に富めることになっていた。

 だが中には、本当の勇者英雄も極稀にいた。
 そんな者達は、王都内での振る舞いも綺麗だった。
 王城内に侵入しても生きて帰ってきた。
 王城と王都の境には、サライダ家の戦士が見張っている。
 万が一ドラゴニュートが裏切った時のことを考えてだ。

 そんな戦士が、実際に王城に入って生きて帰ってきた者を評する。
 そこで初めて城代と会見出来るのだ。
 そんな者の中には、ドラゴニュートと互角に戦える者もいた。
 中には実際にドラゴニュートを斃せる者さえいた。
 ドラゴニュートを斃した者は、カチュア姫と謁見出来るのだ。

 どんな勇者英雄も、カチュア姫を一目見て恋に落ちた。
 命を捨ててでもと、火竜とドラゴニュートを斃す覚悟を新たにした。
 そんな勇者の中に、アシュラムと言う男がいた。
 産まれて直ぐに孤児となったが、幸運にも僧院に引き取られた。
 その僧院で文武を学び、長じて救世の決意をして旅に出た漢だった。
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