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第二章
天正通宝
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「与一郎、完成した金貨と銀貨を見せてくれ」
「これでございます」
「ほう、これは美しいな」
「これならば、十分土地に代えて褒美にすることが出来ます」
「我が国が六百年ぶりに鋳造した銭じゃ」
「はい。殿下が成し遂げられました。上様は勿論、天下人となった足利尊氏公も、源頼朝公も出来なかった事です。銭の力で天下人になった平清盛公も、自分で銭を鋳造する事は出来ず、宋から銭を手に入れただけでございます」
「ならば、これで終わる訳にはいかんな」
「はい。大名や公家だけの間で使われるような金銀の銭だけでは、殿下の威光が天下の隅々まで行き渡りません」
「うむ。全ての民が、余が創り出した銭を使うようになってこそ、余の威光が遍く天下に行き届くことになる」
「そこで御相談なのですが」
「何だ」
「今回鋳造した金貨と銀貨は、一匁(三・七五グラム)で統一しておりますが、十匁と百匁の金銀銅貨を鋳造して宜しいでしょうか」
「計算し易いようにか」
「はい。これからは合戦がなくなるので、銭で戦う事になると思われます」
「それは違うぞ、与一郎。国内に合戦がなくなり、与えるべき土地がなくなったら、朝鮮や唐天竺に攻め込めばよい」
「そんな事をしてしまうと、戦国の世を終わらせた殿下の徳が失われてしまいます」
「馬鹿な事を申すな。誰だって天下に名を知らしめたいし、領地やいい女を手に入れたいのだ」
「ですがその為には、自分の命を賭けて、相手の命を奪わねばなりません。ですが銭の戦いならば、少なくとも命を奪い合う事はありません」
「確かに合戦よりは命の奪い合いは少ないが、商いでも殺し合いがあるではないか」
「あるにはありますが、合戦よりは遥かに少ないです」
「だがその分陰湿ではないか。与一郎が差配してくれた銭の戦いは、忍びの戦いと同じで、直接命を奪い合う事は少ないが、陰湿に騙し合っていたではないか」
「確かにその通りではありますが、殺し合うよりはましでございます」
「これまで与一郎がよくやってくれた事は分かっているが、天下の事を決めるのは余じゃ」
「申し訳ございません」
「儂が唐天竺を攻め取ってやるから、与一郎は唐の皇帝になるための帝王学を学んでおけ」
「殿下」
「反論は許さんぞ。それよりも、金貨と銀貨だ」
「はい」
「銀は元々量目で出回っていたから、五匁でも十匁でも構わないが、金は古くから京目四匁五分が慣例となっておる」
「はい。確かに金貨は一両と天下に広めるならその通りでございますが、殿下が天下人でございます。中金貨一枚を十匁、大金貨一枚を百匁に定められても、何の問題もございません」
「余は関白じゃ。慣例を無視する訳にはいかん。商売に用いる銀は一匁、十匁、百匁とせよ。だが恩賞に使う金は一両と十両で造れ」
「しかし、通宝を造ると決めた時には、一匁で造るようにと申されたではありませんか」
「黙れ、あの時はあの時、今は今じゃ。もう下がれ」
「これでございます」
「ほう、これは美しいな」
「これならば、十分土地に代えて褒美にすることが出来ます」
「我が国が六百年ぶりに鋳造した銭じゃ」
「はい。殿下が成し遂げられました。上様は勿論、天下人となった足利尊氏公も、源頼朝公も出来なかった事です。銭の力で天下人になった平清盛公も、自分で銭を鋳造する事は出来ず、宋から銭を手に入れただけでございます」
「ならば、これで終わる訳にはいかんな」
「はい。大名や公家だけの間で使われるような金銀の銭だけでは、殿下の威光が天下の隅々まで行き渡りません」
「うむ。全ての民が、余が創り出した銭を使うようになってこそ、余の威光が遍く天下に行き届くことになる」
「そこで御相談なのですが」
「何だ」
「今回鋳造した金貨と銀貨は、一匁(三・七五グラム)で統一しておりますが、十匁と百匁の金銀銅貨を鋳造して宜しいでしょうか」
「計算し易いようにか」
「はい。これからは合戦がなくなるので、銭で戦う事になると思われます」
「それは違うぞ、与一郎。国内に合戦がなくなり、与えるべき土地がなくなったら、朝鮮や唐天竺に攻め込めばよい」
「そんな事をしてしまうと、戦国の世を終わらせた殿下の徳が失われてしまいます」
「馬鹿な事を申すな。誰だって天下に名を知らしめたいし、領地やいい女を手に入れたいのだ」
「ですがその為には、自分の命を賭けて、相手の命を奪わねばなりません。ですが銭の戦いならば、少なくとも命を奪い合う事はありません」
「確かに合戦よりは命の奪い合いは少ないが、商いでも殺し合いがあるではないか」
「あるにはありますが、合戦よりは遥かに少ないです」
「だがその分陰湿ではないか。与一郎が差配してくれた銭の戦いは、忍びの戦いと同じで、直接命を奪い合う事は少ないが、陰湿に騙し合っていたではないか」
「確かにその通りではありますが、殺し合うよりはましでございます」
「これまで与一郎がよくやってくれた事は分かっているが、天下の事を決めるのは余じゃ」
「申し訳ございません」
「儂が唐天竺を攻め取ってやるから、与一郎は唐の皇帝になるための帝王学を学んでおけ」
「殿下」
「反論は許さんぞ。それよりも、金貨と銀貨だ」
「はい」
「銀は元々量目で出回っていたから、五匁でも十匁でも構わないが、金は古くから京目四匁五分が慣例となっておる」
「はい。確かに金貨は一両と天下に広めるならその通りでございますが、殿下が天下人でございます。中金貨一枚を十匁、大金貨一枚を百匁に定められても、何の問題もございません」
「余は関白じゃ。慣例を無視する訳にはいかん。商売に用いる銀は一匁、十匁、百匁とせよ。だが恩賞に使う金は一両と十両で造れ」
「しかし、通宝を造ると決めた時には、一匁で造るようにと申されたではありませんか」
「黙れ、あの時はあの時、今は今じゃ。もう下がれ」
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