仇討浪人と座頭梅一

克全

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第四章

第八十六話:驚愕

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 大道寺長十郎の機嫌がとてもよくなっていた。
 剣の達人だけあって、自分の気分で表向きの態度が悪くなる事などない。
 だが気配がどうしても刺々しくなってしまう。
 命のやり取りをする戦場では抑えられても、評定の場ではでてしまう。
 連日の評定には参加しているが、する事もないので何一つ口を利かなかった。
 仇討ちが否定された評定など時間の無駄でしかなかったからだ。

 だが今は確かな目標があった。
 一橋治済の流罪が決定して地方に送られる日時と道順を確かめ、待ち伏せして殺すという、仇討ちができるめどがついたのだ。
 そのためには自分が急病で死んだことにしなければいけないが、梅吉が身代わりにする遺体を用意してくれるというので、何の心配もいらなかった。
 だから密偵になって敵陣に紛れ込んでいる気分で、周りに溶け込もうと付和雷同の言葉を口にするようになっていた。

「それでは主犯だと目される水谷と立石の家族につきましては、大納言様を弑逆した大逆の一族として連座を適用いたします」

 担当の目付が内心の張り切りを隠して淡々と話している。
 だがこれを出世の足掛かりにしようとしている事は、漏れ出る気配から大道寺長十郎には一目瞭然だった。
 内心では反吐が出る思いだったが目立たないように小さく賛同の言葉を口にした。

「立石の家族に関しましては、婿養子として入った立石家の者たちおりますが、問題なのは戸籍を偽って血の繋がらない立石を三男だとした鈴木家でございます。
 血の繋がらない者を金で三男として、旗本の血統でない者が立石家の当主になる道をつくってしまいました。
 鈴木家がこのような事をしなければ、大納言様が弑逆されることもなかったかもしれません。
 鈴木家も処刑にすべきでございます」

 目付が内心興奮していたのは、この悪事を調べ上げた事からだった。
 確かに鈴木家が戸籍を売るような悪事をしなければ、徳川家基は弑逆されなかったかもしれないから、調べ上げた事は評価される。
 だがそれを出世の足掛かりにしようとするのは見苦しい。
 少なくとも長十郎には汚く見えた。

「更にでございます。
 更に立石は鈴木家から戸籍を買う前に、妻子をもうけいていたのです。
 剣の修業をしていた沼田道場の娘を誑かして子供を産ませ、次期道場主の座を手に入れ、師が亡くなると道場を売り払い妻子を捨てて立石家に婿入りしたのです」

 目付が自分を抑えきれなくなって、そこまで調べた自分の手柄を誇るように話す。

「何と卑劣な奴だ」

 若年寄の一人があまりの非道さに思わず吐き捨てるように言った。

「捨てられたとはいえ、大逆を犯した者の妻子です。
 特に子供は逆賊立石の血を継いでおります。
 この二人も処刑すべきだと思われます」

「捨てられた妻子を処刑するのはかわいそうだが、逆賊の血を継いでいるのならしかたがない事であろうな」

 先程義憤に囚われた若年寄が無情な言葉を吐く。
 本当は止めたいと思っている長十郎だが、一橋治済を殺すまでは目立たないようにしなければいけないと自制していた。

「では、沼田りょうと沼田虎太郎は処刑という事でよろしいですね」
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