王太子に婚約破棄されてから一年、今更何の用ですか?

克全

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11話

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「それで、話というのは何ですか?」

 助けてくれたのは本物のタッカー男爵クロフォード卿でした。
 そこで単刀直入に話を聞くことにしました。
 邪魔になるダグラスは遠くに連れて行ってもらいました。
 口封じなどしませんが、グラント公爵のだす条件次第では、聞かれては困る内容が含まれているかもしれないのです。
 もちろん誇り高いタッカー男爵は子供を殺したりしません。

「こちらも単刀直入に話させていただきます。
 聖女ノヴァ様がこれ以上この国におられると、不要な波風が起こります。
 ですから、聖女ノヴァ様にはこの国を出て行ってもらいたい。
 逃亡資金はこちらに用意してあります。
 この資金を使って、聖女の力を使わないようにして、できるだけ目立たないように、他国で暮らしていただきたい。
 これがグラント公爵の考えです」

 タッカー男爵はグラント公爵の考えだと強調しています。
 つまりタッカー男爵の考えとは違うと、言外に匂わせています。
 私もそう思います。
 武闘派の六竜騎士の方々なら、もっと確実で分かり易い方法を選ばれるでしょう。
 自分が汚名を着る事も厭われないでしょう。
 四大公爵家の人間では選べない道、決断です。
 もちろんお兄様は別ですが。

「分かりました。
 元々私には戻る気などありませんでした。
 あのような王太子と結婚したいとは思っていません。
 だからここまで逃げてきたのです。
 ただ資金と伝手がなかったので、あまり遠くに逃げられなかっただけです。
 それなりの逃走資金があるのなら、遠くに逃げて静かに暮らせます」

「ではこれを確かめてください。
 聖女ノヴァ様とお仕えする方々が、心静かに暮らせる金額だと思います」

 大金を入れるためでしょう。
 とても丈夫な綿布がよういされていました。
 その中には、思っていた以上の金額が入っていました。
 銅貨銀貨ほどではありませんが、村や小さな街でも比較的使いやすい小金貨が、千枚入っていました。
 よくこれだけ思い切った金額を用意してくれたものです。

 まあ、それだけグラント公爵が追い詰められているとも言えます。
 馬鹿女を王太子の婚約者にしたことで、三大公爵家を敵に回してしまっています。
 いえ、三大公爵家だけでなく、ほとんどの貴族士族からの信望を失いました。
 忠誠を尽くして、我儘を受けいれて、三大公爵家を敵に回しても擁立しようとしていた、王太子にまで裏切られたのです。
 現にタッカー男爵にまで自分の考えとは違うと言われている状況です。
 金の事は無視しなければいけないほど、切羽詰まっているのでしょう。

「それと、これもお預かりしています」

 今度は美しい絹の袋です。
 何が入っているか大体想像できますが、さすがに心配になりますね。
 これだけ使ってしまって、グラント公爵は大丈夫なのでしょうか?

「グラント公爵の懐は全く痛んでいません。
 全額メイソン男爵が出しています」

 なるほど、そういう事ですか。
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