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12話

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 メイソン男爵家は、大陸中に数多くの支店を持つ、大陸一二の大商人と呼ばれる男が、百人を超えると噂される子供一人、アメリアのために買い与えた爵位です。
 そのアメリアが王太子の婚約者になり、王妃の座まで見えてきたとなれば、資金援助は惜しまないでしょう。
 遠慮も心配も全く不要でしたね。
 こういう状態だからこそ、タッカー男爵クロフォード卿は、寄親のグラント公爵への不信を公言したのですね。

「これだけあれば、世間から隠れて心静かに暮らせるわね。
 今直ぐ国境を越えたいのだけれど、残念ながらオウエンがいないの。
 オウエンがいなくては、心配で逃げられないわ。
 ここでオウエンを待ちたいのだけれど、いいかしら?」

「私達が護衛すると言っても、納得していただけないようですね」

「もし貴男が私の守護騎士だったら、この状態で移動していいと、護るべき大切な主人に言うのかしら?」

「絶対に言いませんね。
 何があっても地下道で時間を稼げと言いますね。
 そのための魔道具や作戦も渡しておきます。
 オウエンの援軍に行きたいところですが、我々がいなくなった状態で、他の連中が襲ってきたら困りますし、オウエンを信じて待つしかありませんな」

 ピィィィィィィ。

「聖女ノヴァ様。
 地下道の奥に隠れてください」

 またも他の勢力が襲ってきたようです。
 本当に忙しい事です。
 タッカー男爵が隠れてくれと言うくらいですから、先ほどのような烏合の衆、犯罪者崩れの連中ではなく、鍛えられた者達なんでしょう。

「隠れましょう、母さん」

「ええ、私の陰に隠れていてください」

 だいぶ精神的に落ち着けたようです。
 また親子の会話に戻れました。
 咄嗟の時にも、同じように会話できるようになりたいですね。

「どけ、どれ、どけ、どけ!
 俺達は近衛騎士だ!
 イーサン王太子殿下の命令で動いているんだ!
 邪魔をする奴は貴族であろうと処罰するぞ!
 どけ、こら、ボケ!」

 最低ですね。
 私のいない間に、近衛騎士の質が怖いくらい劣化しています。
 恐らくですが、多くの近衛騎士に愛想を尽かされて、新たに御追従の巧みな者達を近衛騎士に選んだのでしょう。
 末期的な状態ですね。

「誰の命令であろうと関係ない。
 士族ごときが、それも昨日今日御追従で騎士に叙勲された程度のモノが、貴族にそのような口をきけば、無礼討ちにされてもしかたがないと理解しているのか?」

「う!
 う、う、う、うるさい!
 俺達にはイーサン王太子殿下とメイソン男爵がついているんだ。
 貴族であろうと逆らえると思うなよ!」

「分かった。
 今の言葉、このタッカー男爵クロフォードに対する挑戦と理解した」

「げっえええ!
 すまねえぇぇ!
 許してくれ!
 この通りだ!」

 どうやら地に這いつくばって謝っているようです。
 生き延びるためなら、そんな事まで平気でやれる、名誉も誇りもない連中ですね。
 タッカー男爵はどうするのでしょうか?
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