妹に魅了された婚約者の王太子に顔を斬られ追放された公爵令嬢は辺境でスローライフを楽しむ。

克全

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6話

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「あそこです。
 あそこが私達の家です」

 私には分かっていました。
 リリーに案内されている時も、魔法で周囲を探っていました。
 私が移動すると、移動先にいる魔獣が逃げ出します。
 私の事が恐ろしのでしょう。
 でもお陰で無用の殺しをしなくてすみます。
 食べきれない命を奪いたくはありません。

 リリーの案内に従って歩いていると、索敵魔法に大量の魔獣が感知されました。
 同時に、忘れることなどできない、懐かしい魔族の反応が感知できたのです。
 リリーとの出会いの時には発動していなかった、詳細な情報が分かる索敵魔法を展開しているのです。
 強力な魔術で、大量の魔力を消費してしまいますが、雲散霧消してしまう魔力の範囲で使える魔術です。
 魔族を見逃すくらいなら、常時展開します。

「急いで食糧を届けましょう。
 凄く弱った人がいます。
 このままでは死んでしまいます」

「え?!
 はい!」

 周囲にいた魔獣達が逃げ去った後の魔族の家に向かいます。
 家とはいっても、頑丈な扉をつけた洞窟です。
 魔力と魔術を失った魔族には、洞窟しか安全な場所がなかったのでしょう。
 崖に開いた洞窟に向かいますが、周りには果樹が植えられています。
 リリー家族の食糧源なのでしょう。
 ですが、実りは全て食い荒らされています。

「おかあさん!
 おとうさん!
 わたしよ、リリーよ!
 食べ物を持ってきたの!
 魔獣は逃げていないわ!
 だから早く開けて!」

 僅かに開いた扉を強引にこじ開けて入りました。
 一刻を争う状況です。
 二人死にかけた人がいます。
 僅か十三人。
 この人達が、この世界に残され唯一の魔族の可能性すらあるのです。
 一人だって死なせるわけにはいきません。

 私には一瞬で状況が分かりました。
 もう食糧がなくなってしまったのでしょう。
 僅かな食糧を、子供や孫にだけ食べさせて、祖父母は何も食べなかったのです。
 自分達が餓死したら、自分の遺体を食べてでも生き残るように伝えたはずです。
 飢饉の時代の記録には、そのような実例が書かれていました。
 眼の前の状況をみれば、それ以外考えられません。

「死ぬな!
 死んじゃ駄目です!
 食べ物は沢山用意しています。
 だからこれを飲むの!」

 私は瀕死の祖父から助けようとした。
 口移しで用意してあった果汁を飲ませた。
 餓死寸前の魔族の内臓には負担のかかる食べ物だ、だがこれしかない。
 それに私には魔術がある。
 食べ物さえ与えられたら、魔術で無理矢理身体に取り込ませることは可能だ。

「体力回復!」

 私は躊躇せずに魔術を使った。
 大量の果汁を飲ませた。
 直ぐに魔術で取り込ませないと、確実に下痢をして排泄されてしまう。
 一刻を争うのだ。
 私の行動を止めようとしていた、ガリガリに痩せ細った魔族の男が、魔術を見て固まった。
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