愛するということ

緒方宗谷

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14.旅行

3.最初の夜

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「残念だね、陸君と違う部屋だなんて」加奈子が言った。
 そして続けて有紀子の父道信に、
「おじさん、何で別々の部屋なんですか? せっかくの旅行なんだから、一緒でも良かったのに。
 そうだ、どうせ知らない仲じゃないんだから、ふすま開けちゃいましょうか? お隣同士だし」
「やめてよ、はしたない」有紀子が止める。
 何がはしたないのか。言った有紀子にも分からない。そもそも、有紀子の父親と加奈子は相部屋なのだから、有紀子と陸が相部屋でもおかしくないはずだ。 
 クラスメート同士と、父親と娘の友達は違うとは言えなくもないが、有紀子がさらりと加奈子の話に便乗できれば、ふすまを開けることくらいわけない。
 だが、そうならなかった。別に有紀子と陸が布団を並べて寝るわけではなかったし、当然2人きりであるわけでも無い。なのに有紀子は動揺してしまう。なんとなく流れで部屋が繋がればと思うが、結果的に自分の言動はふすまを開けない方に向かわせた。
 有紀子本人も気が付いていないが、開けてほしいと望みながら、1対3の多数決で開けない決議が採択される結果に加担してしまったのだ。
「おじさん、いくら私が可愛いからって、襲ったりしないでくださいね」笑う加奈子に「何言ってるの! 変なこと」と有紀子が怒る。
「襲わないよー。襲うんなら妻を――」
 道信はおどけてそう言って、ちらりと妻を見た。
「いやですよ、私は」妻由実即答。
 ガックシだ。道信は、妻の由美にフラれて肩を落とす。加奈子は笑って道信を慰めた。そしておもむろに言った。
「有紀子も、陸君の寝込みを襲っちゃいけませんからね」
「しないわよ、バカね!」
 有紀子は、枕を投げつけてやった。
 由美が冗談交じりに、「襲いにくるのはよかったりして」と言う。
 なんて母親だ。だが、みんなが寝静まった夜に迫られたらと思うと、寝るまでまだ時間があるというのに、有紀子の胸はドキドキがとまらない。
 恋は盲目なのか、有紀子がバカなのか。こんな大人数の部屋に夜這いに来る男なんていない。自分の両親と相手の両親がいるのだ。にもかかわらず有紀子は、陸がくるかもしれない、と思った。
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