愛するということ

緒方宗谷

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15.旅行2日目 

1.真っ裸の3人

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 満天の星空だ。昨日の夜は、泉質が違うお湯が用意されている大浴場の温泉に入った有紀子だったが、今日は露天風呂に入ることにした。
 伊豆といったら海と温泉のイメージが強い。どちらかといえば温泉の方が強いか。
「結構広いよね、私と有紀子だけの貸切だよ」加奈子が言う。
「……? 何してるの?」
「いや、隣と繋がっていないかなって」
 隣って……隣は男風呂だ。竹の塀1枚で仕切られている。誰もいないようだから、男風呂がどうなっているのか見てみたいようだ。加奈子らしい。
 どうせ似た様なつくりだと思うから、別に覗いてみたくもない。有紀子は加奈子がどうして変なことが気になるのか不思議に思う。
 いろんな形の石ダタミが敷き詰められていて、湯船は幾つもの大きな岩でできている。端の方は黒くて丸いツルツルした石ころが敷き詰められていた。さすがは東京と違う。遠くはないが、どことなく南国な観葉植物が植わっている。
 誰か来た。有紀子は、まさか陸じゃないよね、と思った。2人共息をひそめて、様子を窺う。様子って何の様子だ。どこの誰ともわからない宿泊客なんて気にせず、会話を楽しんでも良いのだが。なんか気になる。
 聞こえた咳ばらいは陸か。目を見合わせて言葉なしにそう伝え合う。
 加奈子がニンマリと屈託のない笑みを浮かべる。
「ウシシシシシっ、覗いてやろうか。想像してみてよ、今の陸君、まっぱだよ」
「ウシシシシって、いつの時代のアニメよ」
 そう言いながらも、実際そう笑うアニメは見たことが無いし、昔のアニメにあったかも分からない。普通こういう会話は男子がするものだろう。17歳の乙女が、クラスメートの男子を覗くだなんて。……覗くのだろうか。有紀子はちょっと興味があった。
 真剣に思い悩む(心の葛藤中)の有紀子を見て、加奈子が「なはは」と笑う。「そうか、そうだよね、この場合、覗くとしたら陸君の方か」
 そう言った加奈子は、おもむろに竹の塀の方に泳いでいって叫ぶ。
「陸君? おーい、陸くーん」
「村上さん?」
「あ、やっぱり陸君だ」
 有紀子は急にドキドキしてきた。(今全裸じゃん。私も陸君も)。温泉に浸かっているのだから当然だが、自宅の湯船では味わえない外気に晒された肌に伝わる空気の感触も相まって、有紀子は息を飲む。陸がどうするのか気になる。(覗かれるのかな? 覗かれたらどうしよう。怒ればいいのかな? なんか複雑)。
 またも加奈子が叫んだ。
「陸くーん、想像してみて。竹の壁1枚隔てただけの温泉に、クラスの美少女2人が全裸で入っているよ」
「……。だからなんだよ」
 陸は乗ってこない。加奈子は声を出さずに歯を出して有紀子に笑って、もう一度陸に言った。
「覗いてもいいんだよ、っていうか、覗くよ」
「え? 何言っているの、やめなよ」有紀子が慌てる。
「大丈夫、大丈夫、一言声かけているんだから、前くらい隠すでしょ?」
 前を隠したからって、良いわけがない。良いわけないのか? そうだろうか。プールでは、水着だけで他は裸なのだから、見えている部分はそれと変わらない。だから、良いのだろうか。
 いや、いけないはずだ、と自分に言い聞かせつつも、有紀子は、ちょうど良い岩を見つけて上りに行く加奈子の後を追う。言葉とは裏腹に止めもせず。覗く気満々だ。

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