ミリしらな乙女ゲームに転生しました。

猫宮乾

文字の大きさ
28 / 42

【十八】恋人繋ぎ

しおりを挟む




 翌日は朝から、グレイルと二人で別荘の近くの領地を見て回った。馬車の中でも、外に立った時も、グレイルはずっと私の手を握っていた。恋人繋ぎをしたままで、私達は綺麗な風景を見たり、領地の名物が食べられる料理店に入ったりした。気恥ずかしかったが、グレイルの手を振りほどこうとは思わなかった。

 二日目の夜は、ささやかな夜会が開かれたので、私は人生で二度目となる、グレイルとのダンスを頑張った。領地の人々は、明るく私達を迎えてくれた。

「少しテラスに出ないか?」
「主賓が外して良いのですか?」
「星空も絶景なんだ。どうしてもリリアに見せたい」

 熱気の中、そう言われて、私は頷いた。こうして別荘のテラスに出ると、グレイルの言葉の通りで、星空が綺麗だった。ひと気のないテラスで、暫く星についてあれやこれやと話してから、その場でも触れるだけのキスをした。グレイルの体温が、私は嫌いではない。寧ろ、好きだ。大好きだ。

 そうこうしていると、別荘での日々はあっという間に過ぎ去り、帰りの馬車に乗る頃には、寂しささえ感じていた。

 王都のクリソコーラ侯爵家まで帰還した時、私はメアリ様にご挨拶して馬車を下りてから、送り届けてくれたグレイルの目を見た。

「楽しかったです」
「俺もだ。来年も再来年も、いいや、いつでも、良かったらまた行こう」

 グレイルは私の手の甲に口づけをしてから、帰っていった。見惚れてしまう。馬車が遠ざかるのを見送ってから、私は家の中へと入った。するとマルスが顔を出した。

「姉上、幸せそうですね」
「ええ……そうね」

 思わず赤面してしまったので、私は顔を背けながら答えた。すると最近、かなり背が伸びたマルスが私の隣で吹き出した。


 このようにして夏休みの時間は流れていった。学園が始まるまでの間に、私は何度かグレイルとお茶や食事をしたのだが、その帰り際は必ずと言っていいほど、唇を重ねた。前世でもキスをした事は無かったから、私はグレイルの口付けしかしらないのだが、次第にその行為が好きになっていった。キスという概念はあっても、具体的接触はこれに関してもミリしらだったので、グレイルに教えられた心地だ。唇と唇が触れるだけのキスだが、ドキドキせずにはいられない。

 他にも夏休みには、何度かセレフィ様とお茶をしたりもした。セレフィ様は、大学卒業後にご結婚なさるらしい。二十二歳で卒業だから、二十三になる年の春から、本格的に準備が始まると聞いた。大陸全土でみても、平均的な年齢だ。多分この辺は、乙女ゲームの設定に準拠している気がする。私が育った現代も、学生結婚は少数だった。

 そんなこんなで夏休みが終わり、私は久方ぶりに通学した。
 王立学園は三学期制である。私の前世は二学期単位制だったから、その部分はちょっと違う。二学期が始まってすぐ、配布されたのは、大学の希望学部に関する進路調査票だった。貴族の子女は、高等部のみで終了する者も珍しくはない。その場合は、家事手伝いなどをしながら、結婚などを待つ事が多いと聞いている。私はセレフィ様が進学する限り、進学だ。自分の意志ではない。

 大学からは、男女の別なく、専攻が決まるそうだった。ただ、女子は圧倒的に教養学部が多い。私の場合は、セレフィ様のご希望する学部に進学する――と、当初考えていたのだが、夏休みの間に叔父様から手紙が届いていた。

『学部は別でも構わない』

 要約するとこの一言である。というのは、セレフィ様が『結婚前の最後のわがまま』として、服飾学部に進学するからとの事だった。お針子仕事は、基本的に貴族の子女は学ばない。ただ、私はセレフィ様が刺繍――というには、ちょっと度を越えて、お裁縫が好きだと知っている。ぬいぐるみを作ってもらった事もあるからだ。大学からは、平民も進学してくるので、普段外注している貴族の子女が通うと、非常に目立つ学部である。私が一緒に通えば、裏があると逆に勘繰られるという懸念があるそうだった。かつ私は、お世辞にも器用とはいえない。侯爵令嬢として最低限の事は学ばせられたが、上手くはない。好きか嫌いかでいえば、普通である。

「……」

 しかしここにきて、そう言われて逆に迷ってしまった。私は、将来何がやりたいのだろうか。漠然とセレフィ様をお守りしながら近衛騎士として働くくらいの考えしかなかったし、今となってはグレイルのお嫁さんとなる未来があるわけだが……専攻と言われると困る。無論、破談となる可能性は十分残っているし、近衛騎士としてでなくとも、何か将来に役立つ技能は身につけておきたいが……やりたい事、かぁ。

 提出までにはまだ時間があるので、私は鞄にその紙をしまった。
 そして放課後は、セレフィ様と共に、生徒会室へと向かった。

 こうして二学期も始まった。
 特に何事も無ければ、ほぼ毎日、グレイルとはそこで顔を合わせる。その時間が貴重だ。何より、卒業後は、今もグレイルは戦力だが、私もいない以上、書類仕事をもっと頑張ってもらわなければならない。ただ最近は、エドワード殿下や、ユイレやマーサも手伝ってくれるので、本当に前に聞いた通り、生徒会補佐の人員が増える可能性が出てきた。私にできる事は仕事を教える事なので、日々やり方を教えている。

 目下の仕事は、秋に行われる学園祭の準備だ。
 と、そう考えている内に季節はすぐに流れて、気づけば学園祭も終わり、冬休みが迫る秋となっていた。紅葉している木々を生徒会室の窓から眺めながら、私は細く吐息した。その息が、白く染まっている。

 珍しく一人きりで生徒会室にいると、背後で扉が開く音がした。視線を向けるとグレイルが立っていた。

「リリア」
「グレイル……」

 いつの間にか、私もまた、グレイルと呼び捨てにするようになっていた。
 グレイルに、良かったらそう呼んで欲しいと言われた事が大きい。ひと目がある場所ではその限りではないが、好きな相手の希望は叶えたいので、私は頷いた。

「今日は冷えるな」

 私の隣に立ち、グレイルが言った。本当に背が高い。頷いてから、私は視線を窓の外に戻す。

「週末、良かったら食事に行かないか?」
「はい」

 私が頷くと、下ろしたままの手で、グレイルが私の指先に触れた。そのまま二人で手を繋ぐ。恋人繋ぎにも、すっかり慣れた。

「店に予約を入れておく。そこで、冬休みの話をしよう」
「ええ」

 冬休みも、旅行に行こうかと話をしている。こんな日々が、本当に幸せだ。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

処理中です...