ミリしらな乙女ゲームに転生しました。

猫宮乾

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【十七】エルディアス侯爵領地の別荘

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 無事に隣国から戻って、五日が経過した。セレフィ様のご婚約は正式にまとまったので、王国新聞にもその記事が連日掲載されている。私はと言えば、本日からエルディアス侯爵領地への旅行なので、身支度を整えていた。

 昼食後に出発して、道中で二泊して、領地に入る。
 四人乗りの馬車で、私とグレイル、グレイルのお母様のメアリ様、そして道中の世話をする侍女で領地まで向かうと聞いている。馬車で迎えに来てくれるそうなので、私は昼食を取ってから、手土産の確認をしていた。何事も無ければ将来、義理のお母様となる方だ。夜会の際にはそれほどお話しできたわけでは無かったので、正直どんな方なのか気になっている。

 そんな事を考えていると、執事が呼びに来たので、私は慌てて立ち上がった。
 そうして玄関へと向かうと、グレイルが立っていた。

「会いたかった、リリア」
「……私もです」

 これは本音だ。グレイルを見ると、ホッとする私がいる。その後、執事達に見送られて馬車に乗り込み、私はメアリ様にご挨拶をした。扇を手にしていたメアリ様は、とても若々しい。幼少時に母が亡くなっている事もあり、私はあまりこの年代の貴婦人を知らない。前世を振り返っても、前世でも私の母は早くに亡くなっていた覚えがある。

「宜しくお願いいたします、メアリ様」

 私がそう伝えると、ゆったりと扇を仰いでから、メアリ様が頷いた。私の隣にはグレイルが座っていて、テーブルをはさんで向かい側にメアリ様と侍女が座っている。侍女と言っても、礼儀作法を習うために仕えている方のようで、伯爵家の方なのだという紹介があった。王立学園は義務教育ではないので、通わない子女が侍女や侍従として、高位貴族の所で働く事は珍しくないらしい。

「お世話をさせて頂く、ルルーゼ伯爵家の三女で、ターナと申します」

 笑顔で名乗ったターナは、現在十三歳なのだという。早速ターナが紅茶を用意してくれた。それを見守りながら、走り出した馬車の中で、私は手土産をお渡しした。馬車の中は、穏やかな空気が満ちている。

 その馬車が停車したのは、一泊目をする王都とエルディアス侯爵領地の間にある街での事だった。ここは、王都ではないが、王家が直轄管理をする土地だ。街の説明を聞きながら夕食をとり、この日は早めに就寝した。

 そして翌朝は早く出発し、続いてエルディアス侯爵領地でも一泊してから、三日目の昼下がりに、私達は目指す別荘へと到着した。湖畔にある城で、湖も含めて一枚絵のような佇まいをしていた。

「私は、領地の方々にご挨拶をしてまいります。グレイル、リリアさんに失礼が無いように」
「いってらっしゃいませ、母上」

 領地について早々、そんなやりとりがあって、メアリ様はターナを連れて出かけていった。別荘に残された私とグレイルは、この別荘を管理している使用人に案内されて、まずは荷物を置きに客間へと向かった。グレイルには自室があるようだったが、私の手伝いに来てくれた形だ。三階にある部屋に荷物を置き、私は窓を見た。湖に映る城が美しい。

「リリア、この別荘の庭には、様々な花があるんだ。旅疲れもあるだろうから、少し休むとして、その後見に行かないか?」
「有難うございます。ぜひ、拝見したいです」

 私が花を好きな事を、グレイルは多分よく覚えていてくれるのだと思う。そんな気遣いが嬉しい。なお、旅疲れはそんなにしていない。今すぐにでも見に行ける気分だ。ただ、旅路で纏っていたドレスから、滞在用のものに着替えるなどしなければならないから、時間は少しかかる。ちなみに私は動きやすい装いを心掛けていたのだが、メアリ様はかなりの軽装だった。かなり快活な方のようで、アクティブな印象を受けた。

「着替えたいと思います」
「――そうか。では、準備が出来たら声をかけてくれ。一階の応接間にいる」
「分かりました」

 グレイルが出ていったので、私は荷ほどきをしてから、静かに着替えをした。
 今日から三日間、この別荘に滞在する事になっている。滞在中は、グレイルが近隣を案内してくれると聞いていた。まだ結婚したわけではないが、領地の視察は、侯爵夫人としての役目の一つでもあるから、将来を見据えての事でもあるのかもしれない。

 そうして着替えてから、私は一階へと向かった。すると気づいた別荘専任の侍女が、一礼してから、グレイルを呼んできてくれた。

「リリア」
「お待たせいたしました」
「いくらでも待つ。が……綺麗で、その、目のやり場に困る」
「え?」
「なんでもない。行こう」

 グレイルが私に手を差し出した。おずおずと指先を載せると、はにかんだグレイルに、手をギュっと握られた。こうして私達は、庭へと向かった。グレイルが言った通りで、庭には様々な花が咲き誇っていた。一見自然のままなのだが、よく見れば、しっかりと手入れされている事が分かる庭園だった。その一角には、白いテーブルクロスがかけられた茶席が用意されていて、既に侍従の姿があった。私達が席に着くと、紅茶を淹れてから、その侍従は下がっていった。完全に二人きりになるのは、先日カフェでお茶をした時以来である。

「綺麗ですね」
「気に入ってもらえたならば、嬉しい」
「ええ、私こそ、連れてきて頂き嬉しくて……」
「他にも連れていきたい場所は沢山ある」

 そんなやりとりをしながら、私達はお茶を楽しんだ。そうしていると、時間があっという間に過ぎていき、夕陽が映る湖が、その場所からも見え始めた。綺麗だなと考えていたら、グレイルが言った。

「そろそろ戻ろう。晩餐が近い」
「はい」

 私が頷くと、グレイルが立ち上がった。そして私まで歩み寄ってきた。そちらを見ると、グレイルが少し屈んで私を覗き込んだ。

「リリア」

 そっとグレイルが手を伸ばし、私の頬に触れた。いきなりの事で驚いたが、決して嫌ではない。そのまま吸い寄せられるようにグレイルの瞳を見ていると、僅かにグレイルが顔を傾けた。そして顔を近づけ、静かに、囁くように唇を動かした。

「好きだ」
「っ」

 真摯な眼差しでそう言われ、私は目を丸くする。どんどん唇が近づいてくる。あ、キスされると思って、反射的に私は瞼を伏せていた。その想像は当たっていて、直後唇を掠め取るように奪われた。触れるだけの柔らかな口づけで、すぐに唇は離れたが、私の心拍数は大変な事になった。薄っすらと目を開けたのは、グレイルが私の肩に手を置いた時だ。グレイルはもう一方の手で私の顎を持ち上げると、再び唇を重ねてきた。

 再び触れるだけのキスをされ、私は目を開けてから、赤面した。

「リリアが、好きだ」
「……私も、好きです」

 必死でそう答えると、グレイルが微笑した。夕陽の中で見るその笑顔があんまりにも綺麗だったものだから、私の心臓は、より一層煩くなったのだった。

 その後、グレイルに手を取られて、私は立ち上がった。そして二人で城の中へと戻ると、メアリ様が帰っていると聞いた。そのまま夕食となり、ダイニングへと促された。

 このようにして、一日目は終了した。


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