公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています

六花心碧

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本編

4、ミラのメイド情報

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 昼食を終えてから、私は部屋で昨日の夜会を思い出しぼーっとしていた。

 なんか目まぐるしい1日だったなあ。

 結局あの後は、エリック様とのダンスを心待ちにしていた令嬢たちの冷たい視線に耐えられなくて、早々に引き上げてきたのだ。

 一度踊っただけで、あんなに敵意を向けられるなんてなんだか切ない。

 ふう、と溜め息をついた私を見て、メイドのミラは私の前に紅茶のカップを置きながら不思議そうに言った。

「あら、お嬢様どうされたのですか? 昨日は楽しい夜会だったでしょうに」
「うーん、王女様ともお話できたから楽しかったけど、他の令嬢たちからあれだけ敵意を向けられたらねえ」
「それはしょうがないですよ。だってロラン公爵様とダンスを踊られたのでしょう?」

 そう言ってミラは目をキラキラと輝かせている。

「それがそんなに重大なことなのかな?」
「やだ! お嬢様ったら、公爵様の人気をご存知ないのですか?!」

 ミラの勢いに圧倒されて、思わず口に含んだ紅茶を吹き出しそうになる。

「あ、うん。そりゃあ、あれだけ格好良いなら大人気よね」
「ダンスに誘われただなんて、お嬢様ったら本当にすごいです!」
「いや、たまたまエリック様の視界に入っただけなんだと思う」

 偶然が重なって遭遇したからねえ。

「え?! もうすでにお名前で呼ぶ仲なんですか?!」

 ミラはさらに目をキラリと光らせて私に迫ってくる。

「た、たまたま、よ」

 ミラは顔をぐっと寄せて、ひそひそ話し出す。

「いいですか、お嬢様。公爵様は参加する夜会では気の向いた令嬢とダンスをして、そのまま公爵邸へと連れ帰るのです」

 ひえ。

「毎回誰が選ばれるのか、ご令嬢たちは嬉々としてその座を狙っているんですよ。公爵様が夜会に参加されるのは常にではないですから、ご令嬢方にとってはお近づきになれる貴重な機会なんです」

 なるほど。確かに小説でも彼は人に心を許さない上に気まぐれな性格だった。それにヒロインに出会うまでは、奔放に遊んでいたって描写だったものね。

「でも私のメイド仲間の情報によると、昨日はお嬢様と踊った後はそのままお一人でお帰りになったようなのです」

 そ、そうなんだ。メイドさんのネットワークって凄いのね。思わずそちらの方に感心してしまう。

「それって、お嬢様より魅力のあるご令嬢が見つけられなかったってことじゃないですか?!」
「何か用事があったんじゃない?」

 私はミラの妄想に思わず苦笑いをして言った。

「いーえ、今までそんなことは一度もなかったはずです」
 ミラは自信満々に言う。

 そうなんだ、それじゃあヒロインを見て何か思うことがあったのかもしれない。
 やっぱり小説の通りに話は進んでいけそうね!

 一度、小説の内容を整理してみよう。

「ねえミラ、ペンとインクと紙はどこだっけ?」
「はいはい、今お持ちしますね」

 ミラはご機嫌な様子で準備をしてくれた。
 私は机に向かい、ペンを握りしめて小説の内容を思い出す。

 まずは、今後の展開として重要なのが、男主人公であるロジャー・スコフィールドとの出会いよね。

 この夜会の数日後に出会いのイベントが起こるはず。

 確か、ロジャーが王宮騎士団の騎士団長に任命された日で、任命式の後にヒロインと出会って二人はビビッと恋に落ちるの。

 そこへ任命式に招かれていたエリック様もやってきて、夜会の時すでにヒロインに一目惚れしていた彼は、二人の様子を感じ取りロジャーと犬猿の仲となってしまう。

 そして、一番注意したいのが王宮魔術師の女性師団長であるエリザだ。
 ロジャーに恋している彼女は、ヒロインの王女様を目の敵とするようになる。

 毒を飲まされたり魔術をかけられそうになったりと、嫉妬から危険な目にさらされてしまうのよね。

 王女様が危険な目に遭わないためにも、エリック様との距離を近づけて、なんとかしてロジャーとの出会いを回避できないだろうか。

 そうすればエリザに嫉妬されることもなくなり、みんな平和にエンディングを迎えられるんじゃない?!

 私は自分の思いつきに思わず膝を打つ。


 ロジャーには少し申し訳ない気もするけれど、でも後々エリック様に襲われることを考えたら、恋よりも怪我をしないことや命の方が大切だと思う。

 ロジャーの美貌なら、これから恋の機会なんていくらでもあるだろうし!
 うん!それがいい!

 ああ、でも、これってほとんどが王宮内で進む話だから、王宮に行けないと手の打ちようがないのよね……。

 私の立場だと、自由に出入りできる場所ではないからなあ。


 どうしたものかと思案する私に、翌日ラッキーなお知らせが舞い込むことになるとは露知らず、その日は夜更けまで悩み続けた。
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