公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています

六花心碧

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本編

3、面白い女

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 それから私は王女様と会場へ戻った。
 ちょうどダンスが盛り上がっているタイミングで、みんな楽しそうに踊っている。

 ふと視線をやると人だかりができている一角があり、目を凝らして見るとエリック様が貴族の男性や令嬢たちに囲まれている様子が見えた。

 さすが、小説の主要人物だけあって人気があるなあ。

 彼はふとこちらに視線を向けて、私と王女様に気づいた。
 周囲の人を軽く制して、こちらにカツカツと近づいてくる。


 さあ、いよいよね。
 小説の展開と違うことが起きて焦ったけど、やっぱりちゃんと道は整うものだわ。
 なんといっても、ヒロインとエリック様のダンスが物語のスタートなんだもの。

 期待に胸が高まる私は王女様の後ろに下がった。


 あ、なんかお腹空いたし食べながら見物するのもよさそうだな~。
 ふと向こうの方を見ると、美味しそうな軽食がたくさん並んでいる。

  わー美味しそう!あそこに行って食べながらヒロインとエリック様のダンスを見物しよう!

 そう思って一歩を踏み出した途端、横からさっと手が伸びて来て、心地よさを感じさせる低い声が響いてきた。

「俺と踊ってくれないか?」

 声のした方へ顔を上げると、エリック様が上品な微笑みを携えて私の前に手を差し出している。

 え??私に言ってるの???
 相手、間違ってない?

 周囲は軽くザワザワしている。

 そりゃそうよね、公爵様がなんでわざわざ子爵令嬢のレイラなんかにダンスを申し込むのか謎すぎる。

 さっきの人だかりの中に、私より余程見合ったご令嬢がいたはずだ。
 あからさまに嫌悪感や妬みを露わにしている令嬢の顔もちらほら見える。

 う、ちょっと怖いよ……。

 焦って王女様の方を見ると、いってらっしゃいとばかりに微笑んでいる。
 私が悩んでいると、なぜか王太子であるエドワード殿下が王女様へダンスのお誘いに来て二人は行ってしまった。

 あ、あれ?こんな展開小説にあったかな?

 小説の中ではエドワード殿下と王女様はほとんど顔を合わせることがなかったはずだけど……。

 そんなことを考え、王女様たちの後ろ姿を見送りながらぼーっとしていると、エリック様はしびれを切らしたようにじれったい様子で聞いてくる。

「踊ってはくれないのか?」
「あっ! 踊ります」
 私は愛想笑いをしながらエリック様の手を取った。

 なんだか腑に落ちなかったけど、せっかく推しがダンスに誘ってくれてるんだものね。

 踊り始めると、幸いレイラの身体が自然と反応してくれて、私は戸惑うことなくダンスが出来ていた。

 それに何よりエリック様のリードが完璧で、まるで私までダンスが上手くなったかのように思えるほどだ。

 本当にどこからどこまでも、完璧な公爵様ね。

 私は踊りながら、彼の美しい顔を見上げぼーっと見惚れていた。
 なんだかこうしてるのが夢みたい。

 そうやって見ていると、彼はふっと笑って呟いた。

「お前は面白い女なのだな」
「えっ?」
「あんな風に俺と二人きりになって道案内をさせた女は初めてだ」

 …………。

「その上ダンスの誘いにまで躊躇されたのも初めての経験だ」

 ………………。――


 ――……なんていうか、こう、この人って自信があり過ぎなのよね……。

 これだけ完璧で美青年ならそうなるのもしょうがないけど、これは欠点にもなり得るかもしれない。

 だって、その過剰な自信があのバッドエンドを手繰り寄せてしまったと言っても過言ではないのだ。


 よし!ハッピーエンドを目指すにあたって、ここはちょっと釘を刺しておいた方がよさそうね。

「みんながみんな公爵様に興味を持つと思ったら大間違いですよ」
「ほう、そうなのか?」
「そうなんです! 常に複数の可能性を想定することは大事です!」

 私は小説のバッドエンドばかりに気を取られ、身分の差も忘れて熱弁してしまった。

 次の瞬間、エリック様は踊りを止めて私を強く引き寄せ、片腕で胸の中に抱いてからもう片方の手で私の顎に指を添えてそっと自分の方へ向ける。

「お前も俺に興味はないのか?」
 そう言って、甘い感じのする瞳で私の顔を覗いてくる。

 何これ、格好良すぎる……!
 あるよ!大ありだよ!

 まあ、興味というより私の場合は推し活なんだけど。

 ううん、そんなことよりも、私はあなたを幸せにするって目標があるんだから!
 冷静に考えたら、それは興味とはまた違うかも。

「そ、そうですね。特には……」
 私は思わず目を逸らしながら答える。

 小説のバッドエンドを回避して、あなたに幸せになってもらいたいの!なんて言えないもん。

「……そうか」
 そう言って、少し間を置いてから彼は口を開いた。

「お前の名をまだ聞いていなかったな」
「あ、レイラ・リンゼイと申します」
「俺はエリック・ロランだ」
「もちろん、公爵様のお名前は存じております」

 私がそう答えると、彼は身体を離して私の手を取り甲にキスをしながら言った。

「エリックだ。エリックでいい」

 真っ直ぐに見つめられて私は思わずたじろぐ。

「あ、はい。エリック様」
 心の中では勝手に呼んでたけど、いざ実際に名前で呼んでみると緊張する。

 エリック様は私の手を離し、背を向けて歩き出した。
 彼は少し歩いてから軽く振り返り、不敵な感じのする微笑みを浮かべて言った。

「またな、レイラ」

 それは今日一番、エリック様の美しさを感じた瞬間だった。
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