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第5話 受付嬢マリア
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冒険者の朝は早い。
まだ日が出たばかりだというのに、ギルドは活気に満ちていた。
木造の梁に光が差し込み、冒険者たちの笑い声と金属音が混ざり合う。
少し場違いな気分で立ちすくむ俺に、カウンターの奥から声がかかった。
「おはようございます。新人冒険者のランドさんとリュミナさんですね」
柔らかな声だった。
見上げると、昨日とは違う受付嬢。
『マリア』と名札のついた、落ち着いた雰囲気の女性が立っていた。
年の頃は二十代後半だろうか。
暗い緑色の髪をまとめ、微笑を浮かべる仕草に品がある。
「昨日は本当に申し訳ありませんでした。新人の子が、ずいぶん失礼なことを言ったと聞きました。親子のお客様と勘違いしたそうで……」
「あ、ああ。全然気にしてませんよ。そう思われてもおかしくない年齢ですから」
そう言いつつ、俺は少しだけ目を逸らした。
彼女の笑顔が、なんというか……眩しい。
柔らかな声といい、凛とした立ち姿といい、こんな人に優しくされると、胸の奥が妙にくすぐったい。
落ち着いた人だな。それに、超が付く美人だ。
心の中でつぶやいていると、隣から小さく「ふーん」という声。
見ると、リュミナがじとっとした目をしていた。
なんだその目は。
「それでは本日は、どういったご用件でしょうか?」
マリアが尋ねる。
「ああ、今日は……」
「依頼を受けに来たの! 私たちの初依頼よ!」
俺の言葉を遮って、リュミナが勢いよく答えた。
マリアは優しく微笑みながら、口を開いた。
「依頼ですね、承知いたしました。まずはあちらの掲示板をご覧ください。このギルドで受けることができる依頼の一覧です」
俺とリュミナは並んで掲示板に向かった。
木板にはびっしりと紙が貼られ、護衛、採取、掃除、討伐などなど……。
様々な依頼が並んでいる。
「おお……こんなにあると迷っちゃうな」
「これ! これがいいわ!」
「え、もう決めたのか。えーと、どれどれ……」
リュミナがびしっと指差した紙を見る。
「グレイウルフ討伐、危険度D。……いや待て、これは危なすぎるだろ」
「ええ? でもランドはとっても大きな魔物だって倒せるし、私も頑張るわよ?」
「あれはたまたま! それに、頑張ってもどうにもならない事だってあるんだ!」
「むっ……聞き捨てならない発言ね」
俺が止めても、リュミナは引かない。
ぷくっと頬を膨らませて、ご機嫌ナナメだ。
さて、どうしたもんか……と悩んでいると、マリアが歩み寄ってきた。
彼女は苦笑しながら説明をする。
「残念ですが、危険度がご自身のランクを超える依頼は受けられません。リュミナさんはランクF、ランドさんはGですね。ちなみにパーティで依頼を受ける時は、最もランクの低いメンバーに合わせることになります。なので今回は、ランドさんに合わせて、危険度Gの依頼を受けるようにしてください」
「えーっ、そうなの? ルールって面倒くさいのね」
「命がかかっていますから、どうかご理解ください」
マリアが柔らかく返す。
リュミナは頬をふくらませた。
俺は「やれやれ」と呟いて、別の紙を手に取る。
「これはどうだ。薬草採取。ランクGだし、森の入口あたりらしい」
「地味すぎるわよ!」
リュミナが即座に反論する。
「地味くらいがちょうどいいんだって。初仕事だしな」
俺の言葉を聞いて、マリアが小さく笑う。
「こちらの依頼ですと……薬草を十束納品するのが目標ですね。報酬は、銀貨一枚になります」
「銀貨一枚!? 宿代で終わりじゃない!」
リュミナが叫いた。
ギルド内の数人がこちらを振り向く。
俺は肩をすくめた。
「最初はそんなもんさ。それに薬草を取るだけで銀貨が貰えるなんて、結構割の良い部類だと思うけどな」
「……ふーん。そういうもんなのね」
リュミナはそう呟いて、ジト目を向けてくる。
まったく、子どもか。……いや、子どもだったな。
俺は気を取り直して、薬草採取の依頼書を指差しつつマリアへ視線を向ける。
「それじゃあ、この依頼をお願いします」
「はい。では、依頼の流れを説明しますね」
マリアが書類を取り出す。
「今、現時点をもちまして依頼の『受注』完了となります。ここから、依頼の『実施』をしていただき、結果を『報告』。そこまで終わると、『報酬』の受け渡しになります。ギルドは交代制で24時間開いていますので、いつでもご報告にいらしてください」
丁寧に指で示しながら説明してくれる。
俺は頷き、「肝に銘じます」と答えた。
「では、頑張ってください。――あっ、ランドさんにリュミナさん」
出発しようとしたところで、マリアに呼び止められた。
「武器は、お持ちですか?」
「「……あ」」
忘れていた。
アグネアに着いたら、依頼を受ける前に買いに行くつもりだったんだけどな。
冒険者になれたことに浮かれすぎて、忘れてしまっていた。
「でも大丈夫じゃない? 薬草を取ってくるだけでしょ?」
「そうだけど、森の方へ行くんだから魔物が出ないとも限らない。万が一のことを考えると、何かしら持って行かないと」
出発前に武器屋に寄るか。
……でも正直、金銭的にキツイなあ。
元々手持ちはそれほど多くないし、これからのことを考えると、できるだけ節約したい所ではある。
うーんうーんと唸っていると、マリアが笑って口を開いた。
「お困りでしたら、ギルドの備品をお貸しすることも可能です。共用の武器なので、あまり良いモノとは言えませんが……薬草採取なら十分でしょう」
「本当ですか! ありがとうございます!」
「はい。少々お待ちください」
マリアはそう言うとカウンターの奥に駆けていき、数分後にまたパタパタと戻って来た。
その腕には、使い込まれた剣が抱えられている。
俺は彼女の手から剣を受け取って、腰に差した。
「ありがとうございます。大事に使わせていただきます」
「……本来なら、色々と手続きが必要です。ですがランドさんなら、良いでしょう。きっとあなたは、信頼できる冒険者ですから」
「え……」
真剣な表情で言われ、思わずドキッとする。
翡翠色の瞳に射抜かれた俺は、ただ見つめ返すことしかできなかった。
数秒、硬直したあとで、マリアがふっと表情を緩ませる。
「私、実はランドさんのファンなんです。昨日、ドレイク支部長とのやり取りを見ていて……かっこいいって、思っちゃいました」
「え、あ、ああ。そんな……年甲斐もなく熱くなってしまって、本当にお恥ずかしい限りです」
俺は後頭部を掻きながら答える。
頬が熱い。見られていたなんて、恥ずかしいな。
しっかり覚えてはいないけど、かなり思い切ったことを言った気もするし。
「恥ずかしくなんて、無いです」
マリアはもう片方の俺の手を、両手で握った。
「応援してますよ。ランドさん」
「っ……は、はい!」
声を出した後で、しまったボリューム間違えた、とまた恥ずかしくなる。
マリアは驚いたように目を見開き、またにこっと細めた。
彼女が微笑むたび、胸の奥が不思議と落ち着く。
……温かい人だな。
「~~~っ! もうっ! 早くしないと日が暮れちゃうわよ!」
リュミナにぐいっと服の裾を引っ張られる。
「わっ、とっ、と……急に引っ張るなよ……それじゃマリアさん、ありがとうございました!」
「頑張ってください!」
俺はマリアさんに手を振って、くるりと前を向く。
先を歩くリュミナを追いかけながら、腰の剣に手をかけた。
これが俺の、冒険者として初めての依頼だ。
「……よし、頑張ろう!」
「あったりまえよ! 十束なんて言ってないで千束納品しましょう!」
「いや、だからって報酬が増えるわけじゃないからな!?」
俺はツッコミを入れつつ、内心では嬉しさを抱いていた。
「頑張ろう」と口に出した時に、それ以上の熱量でもって応えてくれる仲間がいる。
……ああ、幸せだな。
まだ日が出たばかりだというのに、ギルドは活気に満ちていた。
木造の梁に光が差し込み、冒険者たちの笑い声と金属音が混ざり合う。
少し場違いな気分で立ちすくむ俺に、カウンターの奥から声がかかった。
「おはようございます。新人冒険者のランドさんとリュミナさんですね」
柔らかな声だった。
見上げると、昨日とは違う受付嬢。
『マリア』と名札のついた、落ち着いた雰囲気の女性が立っていた。
年の頃は二十代後半だろうか。
暗い緑色の髪をまとめ、微笑を浮かべる仕草に品がある。
「昨日は本当に申し訳ありませんでした。新人の子が、ずいぶん失礼なことを言ったと聞きました。親子のお客様と勘違いしたそうで……」
「あ、ああ。全然気にしてませんよ。そう思われてもおかしくない年齢ですから」
そう言いつつ、俺は少しだけ目を逸らした。
彼女の笑顔が、なんというか……眩しい。
柔らかな声といい、凛とした立ち姿といい、こんな人に優しくされると、胸の奥が妙にくすぐったい。
落ち着いた人だな。それに、超が付く美人だ。
心の中でつぶやいていると、隣から小さく「ふーん」という声。
見ると、リュミナがじとっとした目をしていた。
なんだその目は。
「それでは本日は、どういったご用件でしょうか?」
マリアが尋ねる。
「ああ、今日は……」
「依頼を受けに来たの! 私たちの初依頼よ!」
俺の言葉を遮って、リュミナが勢いよく答えた。
マリアは優しく微笑みながら、口を開いた。
「依頼ですね、承知いたしました。まずはあちらの掲示板をご覧ください。このギルドで受けることができる依頼の一覧です」
俺とリュミナは並んで掲示板に向かった。
木板にはびっしりと紙が貼られ、護衛、採取、掃除、討伐などなど……。
様々な依頼が並んでいる。
「おお……こんなにあると迷っちゃうな」
「これ! これがいいわ!」
「え、もう決めたのか。えーと、どれどれ……」
リュミナがびしっと指差した紙を見る。
「グレイウルフ討伐、危険度D。……いや待て、これは危なすぎるだろ」
「ええ? でもランドはとっても大きな魔物だって倒せるし、私も頑張るわよ?」
「あれはたまたま! それに、頑張ってもどうにもならない事だってあるんだ!」
「むっ……聞き捨てならない発言ね」
俺が止めても、リュミナは引かない。
ぷくっと頬を膨らませて、ご機嫌ナナメだ。
さて、どうしたもんか……と悩んでいると、マリアが歩み寄ってきた。
彼女は苦笑しながら説明をする。
「残念ですが、危険度がご自身のランクを超える依頼は受けられません。リュミナさんはランクF、ランドさんはGですね。ちなみにパーティで依頼を受ける時は、最もランクの低いメンバーに合わせることになります。なので今回は、ランドさんに合わせて、危険度Gの依頼を受けるようにしてください」
「えーっ、そうなの? ルールって面倒くさいのね」
「命がかかっていますから、どうかご理解ください」
マリアが柔らかく返す。
リュミナは頬をふくらませた。
俺は「やれやれ」と呟いて、別の紙を手に取る。
「これはどうだ。薬草採取。ランクGだし、森の入口あたりらしい」
「地味すぎるわよ!」
リュミナが即座に反論する。
「地味くらいがちょうどいいんだって。初仕事だしな」
俺の言葉を聞いて、マリアが小さく笑う。
「こちらの依頼ですと……薬草を十束納品するのが目標ですね。報酬は、銀貨一枚になります」
「銀貨一枚!? 宿代で終わりじゃない!」
リュミナが叫いた。
ギルド内の数人がこちらを振り向く。
俺は肩をすくめた。
「最初はそんなもんさ。それに薬草を取るだけで銀貨が貰えるなんて、結構割の良い部類だと思うけどな」
「……ふーん。そういうもんなのね」
リュミナはそう呟いて、ジト目を向けてくる。
まったく、子どもか。……いや、子どもだったな。
俺は気を取り直して、薬草採取の依頼書を指差しつつマリアへ視線を向ける。
「それじゃあ、この依頼をお願いします」
「はい。では、依頼の流れを説明しますね」
マリアが書類を取り出す。
「今、現時点をもちまして依頼の『受注』完了となります。ここから、依頼の『実施』をしていただき、結果を『報告』。そこまで終わると、『報酬』の受け渡しになります。ギルドは交代制で24時間開いていますので、いつでもご報告にいらしてください」
丁寧に指で示しながら説明してくれる。
俺は頷き、「肝に銘じます」と答えた。
「では、頑張ってください。――あっ、ランドさんにリュミナさん」
出発しようとしたところで、マリアに呼び止められた。
「武器は、お持ちですか?」
「「……あ」」
忘れていた。
アグネアに着いたら、依頼を受ける前に買いに行くつもりだったんだけどな。
冒険者になれたことに浮かれすぎて、忘れてしまっていた。
「でも大丈夫じゃない? 薬草を取ってくるだけでしょ?」
「そうだけど、森の方へ行くんだから魔物が出ないとも限らない。万が一のことを考えると、何かしら持って行かないと」
出発前に武器屋に寄るか。
……でも正直、金銭的にキツイなあ。
元々手持ちはそれほど多くないし、これからのことを考えると、できるだけ節約したい所ではある。
うーんうーんと唸っていると、マリアが笑って口を開いた。
「お困りでしたら、ギルドの備品をお貸しすることも可能です。共用の武器なので、あまり良いモノとは言えませんが……薬草採取なら十分でしょう」
「本当ですか! ありがとうございます!」
「はい。少々お待ちください」
マリアはそう言うとカウンターの奥に駆けていき、数分後にまたパタパタと戻って来た。
その腕には、使い込まれた剣が抱えられている。
俺は彼女の手から剣を受け取って、腰に差した。
「ありがとうございます。大事に使わせていただきます」
「……本来なら、色々と手続きが必要です。ですがランドさんなら、良いでしょう。きっとあなたは、信頼できる冒険者ですから」
「え……」
真剣な表情で言われ、思わずドキッとする。
翡翠色の瞳に射抜かれた俺は、ただ見つめ返すことしかできなかった。
数秒、硬直したあとで、マリアがふっと表情を緩ませる。
「私、実はランドさんのファンなんです。昨日、ドレイク支部長とのやり取りを見ていて……かっこいいって、思っちゃいました」
「え、あ、ああ。そんな……年甲斐もなく熱くなってしまって、本当にお恥ずかしい限りです」
俺は後頭部を掻きながら答える。
頬が熱い。見られていたなんて、恥ずかしいな。
しっかり覚えてはいないけど、かなり思い切ったことを言った気もするし。
「恥ずかしくなんて、無いです」
マリアはもう片方の俺の手を、両手で握った。
「応援してますよ。ランドさん」
「っ……は、はい!」
声を出した後で、しまったボリューム間違えた、とまた恥ずかしくなる。
マリアは驚いたように目を見開き、またにこっと細めた。
彼女が微笑むたび、胸の奥が不思議と落ち着く。
……温かい人だな。
「~~~っ! もうっ! 早くしないと日が暮れちゃうわよ!」
リュミナにぐいっと服の裾を引っ張られる。
「わっ、とっ、と……急に引っ張るなよ……それじゃマリアさん、ありがとうございました!」
「頑張ってください!」
俺はマリアさんに手を振って、くるりと前を向く。
先を歩くリュミナを追いかけながら、腰の剣に手をかけた。
これが俺の、冒険者として初めての依頼だ。
「……よし、頑張ろう!」
「あったりまえよ! 十束なんて言ってないで千束納品しましょう!」
「いや、だからって報酬が増えるわけじゃないからな!?」
俺はツッコミを入れつつ、内心では嬉しさを抱いていた。
「頑張ろう」と口に出した時に、それ以上の熱量でもって応えてくれる仲間がいる。
……ああ、幸せだな。
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