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第4話 新たな街と冒険者登録
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村を出てから、もう三日。
朝に出発し、夕暮れには焚き火を囲む。
そんな生活にも、少しだけ慣れてきた。
「ねえランド。街に着いたら、まずギルドに行きましょう!」
「ギルド……それより、飯と風呂と宿を先にしよう」
「だーめ! 冒険者登録が先!」
子どものように張り切るリュミナに、思わず笑う。
ああやって無邪気に夢を語る姿を見ると、こっちまで元気になるな。
そして、丘を越えた先にそれはあった。
遠くに広がる巨大な城壁。
白い壁の内側には、無数の屋根と煙突。
行商人の列、馬車の音、喧騒。
世界が一気に広がった。
「すごいな。まるで別世界だ……!」
「ふふ! ようこそ、冒険者の街・アグネアへ! ……なんちゃって!」
リュミナが両手を広げて笑う。
その笑顔を見た瞬間、俺の胸が熱を帯びた。
ああ、やっぱり来てよかった。
------
結局、採用されたのはリュミナの意見。
年上の威厳はどこへやら、だ。
町について息つく暇もなく、俺たちは冒険者ギルドへ。
その扉を開けた瞬間、空気が変わった。
酒と汗と鉄の匂い。
鎧の金属音、笑い声、怒鳴り声。
場の熱気に圧倒されて、思わず足が止まる。
「お、おおお……」
「ら、ランド。ダメよ、びびっちゃ。堂々と、し、しないと……」
「お、おう……でも、リュミナもだぞ……」
俺たちはガッチガチに緊張しながらギルドの中を進む。
もしかしたら、手と足が一緒に出ていたかもしれない。
それを確認する余裕も無い。
受付に行くと、若い女性職員が微笑んだ。
「いらっしゃいませ。依頼の発行でしたら、こちらの用紙に必要事項をご記入ください!」
あ。
いや、そりゃそうだ。
こんなくたびれたおっさんと、あどけない女の子。
冒険者だなんて思わないよ。
「いえ、ちがくて、その、えっと……」
否定するのもはばかられる。
そんなまごつく俺を見ていたリュミナは、大きなため息をついた。
「もうっ! 私たち、冒険者登録をお願いしたいんです!」
受付嬢の時が、一瞬だけ止まった。
「……登録、ですか? お二人で?」
「ええ!」
「お父様と娘さんで?」
「え――」
ぴたりと空気が止まる。
「ち、違います! パーティです!」
リュミナは慌てて否定する。
「そう、親子じゃなくて、ただの他人です」
俺も援護射撃を送る。
周囲からは、クスクスと笑いが起こっていた。
「おっさん、あの歳で冒険者デビュー……?」
「親子冒険者、いいねぇ。……ぷっ」
……ああ、穴があったら入りたい。
------
冒険者登録をするにあたって、簡単な適性検査をするらしかった。
常識があるか、体は健康か、戦闘はできるか、魔法は使えるか……など。
そのあたりの確認だ。
俺たちはギルドの奥に連れていかれ、訓練場なる場所に通される。
装飾など一切ない、武骨な部屋だ。
何人か訓練中と思わしき者もいる。冒険者たちだろうか。
「それでは、適性検査を始めます。まず始めに……ご存じだと思いますが、冒険者には能力や実績に応じたランクが存在します。一番下がG、そしてAまで順に上がり、特例として最高位のSランクもあります」
検査担当の若いギルド職員が、用紙を挟んだボード片手に淡々と言う。
リュミナは俺の隣で「わぁ……」と感嘆の声を漏らしていた。
「新たに登録される方は基本的にGから始まりますが、この検査で実力が認められた場合や、また過去に何かしらの実績――武闘大会の入賞歴や、魔法学校の卒業証書などがあった場合は、その限りではありません」
へえ……そうなんだ。
いきなり上のランクか。
ちょっと危ないな気がするけどな。
いくら実力あっても、経験が無いと失敗しそうだし。
「ねね! 私、いきなりSランクだったらどうしましょう!」
リュミナは目をらんらんと輝かせている。
「いや、流石に無いだろ……。というか、凄い自信だな。俺はヒヤヒヤだよ。落とされたらどうしようって」
「何言ってるの!? 落とされるわけないじゃない! あんなに凄い魔法を使えるのに!」
「凄い魔法って言ったって……」
多分、神様から貰った破壊と創造のことを言ってるんだろう。
確かに強力な魔法だけど……あれ以来まともに使えてないしなあ。
どうやったら出せるんだろう。
あの時は必死だったから、再現のしようもないよ。
「まずは、魔力量の測定を実施します。こちらの水晶に手を触れ、魔力を流してください」
用意されたのは多面体の角ばった水晶。
神託の儀で使っていたものとは、少し毛色が違うようだ。
まずはリュミナから。
「えいっ」
魔力測定の水晶が、眩しいほどに光った。
職員が目を見張る。
「す、すごいですね……中々見ない魔力量です」
すごいなあ。
記憶喪失……ということであんまり過去のことは語ってくれないけど、魔法の得意な家系の出なのだろうか。
リュミナは得意げに胸を張った。
「当然よ!」
次は俺の番だ。
恐る恐る水晶に手を置く。
「魔力を流せって言われてもな……」
そんなやり方、知らないよ。
とりあえず目を瞑って、そいやっと腕に力を込めてみる。
「こ、これは――」
職員の声に目を開けると、水晶は光っていた。
……うっすらと。
「へ……平均以下ですね」
「で、ですよね……」
俺は後頭部を書きながら、苦笑した。
隣でリュミナが「そんなはずないわ!」と言ってくれていたが、いや、そんなもんなんだよ、俺は。
続く体力測定では、リュミナは木剣を使って見事な剣技を披露した。
戦いの剣というより、どちらかというと舞のような……。
それでも、立派な動きであることに変わりない。
で、俺はと言うと……木剣を振った拍子に、腰をやられた。
「うおっ……! い、いたた……」
周囲の冒険者たちから笑いが起きる。
「おいおい、大丈夫かオヤジ!」
「冒険者になるのやめて、畑でも耕してろよ!」
「は、ははは……お騒がせしてすみません」
俺はぎこちない動きで、ぺこぺこと頭を下げる。
そんな声の中、リュミナが駆け寄って来た。
「ランド、平気? 皆、嫌な感じね」
「だ、大丈夫だよ、たぶんだけど。……それに、こんなだらしない姿を見たら、誰だって笑っちまうさ」
俺が笑って答えると、リュミナは不満げに口を尖らせた。
「……はい、検査は以上です。それでは、結果をお伝えしますので少々お待ちください」
職員はそう言って訓練場を後にする。
入れ替わりで、書類を持った屈強な男が現れた。
スキンヘッドに全剃りの眉。
明らかに、彼がここのボスだろう。
「俺がこの街のギルドマスター、ドレイクだ。以後、よろしくな。……で、検査の結果だが……リュミナ、お前は合格だ。Fランクとする」
「ええ~っ、Fランク? むぅ……でも、冒険者になれたのは嬉しいわ! ありがとう!」
リュミナはぴょこんと飛び跳ねてガッツポーズ。
いや、本当にすごいな……。
ただの口だけじゃないんだ。
そしてこちらへ向き直ったドレイクは、眉をひそめた。
「だが、あんたは……どうすっかな。正直、厳しい。……いや、これが若手なら全然良いんだが、37だろう? うーん……」
思わずうつむいた。
「ですよね……この歳ですし、しょうがない……です、よね」
わかってる。俺には無理だ。
でも、だけど、それでも、胸の奥で何かが抗った。
諦めるのは、もう嫌だった。
「……いや、お願いします!」
気づけば声が出ていた。
「遅すぎるのはわかってます、才能が無いのも……でも笑われたって、失敗したって……俺、挑戦してみたいんです!」
場のざわめきが止まった。
ドレイクは腕を組んだまましばらく黙り込み、それから口の端を上げた。
「その言葉を待っていた。いい目をしているな。……合格だ。ランド・バーナード、Gランクとして登録を許可する」
ドレイクはそう言って、何かを差し出した。
彼の手は固く、大きく、傷だらけ。歴戦の猛者の手だ。
俺も、こうなれるだろうか。
そんなことを考えながら、俺はドレイクから差し出されたものを受け取る。
「これは……」
小さな金属製のカード。
本体は銀色だが、光の角度でうっすら虹色の反射が走る。
表面には、恐らくギルドの紋章――二本の剣を交差したような意匠と、その下に『ランド・バーナード』という俺の名前。
「ギルドカード。認可を受けた正式な冒険者であることの証だ。……失くすなよ、俺も再発行料で何度泣きを見たことか」
冗談めかして笑うドレイク。
俺はギルドカードを大事に両手で持って、深く頭を下げた。
「……ありがとうございます」
訓練場に拍手が起こる。
「やったじゃねえか、おっさん!」
「ぐす……あれ、俺、何で泣いて……ちくしょう……!」
「新しい仲間の誕生だ! 今日は呑むぞ!」
いつの間にか集まってきていた大勢の冒険者たち。
笑っている者も、泣いている者もいる。
俺は彼らに向かって、何度も何度も頭を下げた。
「皆……ありがとう、ありがとう、ありが――いてっ!」
バシンと背中を叩かれる。
振り返ると、リュミナが満面の笑みを浮かべていた。
「言ったじゃない! 落ちるわけないってね!」
「リュミナ……本当に、全部キミのおかげだよ。ありがとう」
「ちょ……そんな改まって言われると照れるわよ! むしろ、こっちこそありがと! 私ひとりじゃ、こんな所まで来れなかったわ!」
リュミナが言って、柔らかく笑う。
水滴が落ちるギルドカードを、俺は静かに見ていた。
37歳、目立った実績・経験は無し。
魔力――平均以下。
体力――人並み。
備考――腰痛持ち。
そんな男が始める、冒険者生活。
「……うん。悪くないな」
こんなにも胸が高鳴るのは、生まれて始めてだ。
朝に出発し、夕暮れには焚き火を囲む。
そんな生活にも、少しだけ慣れてきた。
「ねえランド。街に着いたら、まずギルドに行きましょう!」
「ギルド……それより、飯と風呂と宿を先にしよう」
「だーめ! 冒険者登録が先!」
子どものように張り切るリュミナに、思わず笑う。
ああやって無邪気に夢を語る姿を見ると、こっちまで元気になるな。
そして、丘を越えた先にそれはあった。
遠くに広がる巨大な城壁。
白い壁の内側には、無数の屋根と煙突。
行商人の列、馬車の音、喧騒。
世界が一気に広がった。
「すごいな。まるで別世界だ……!」
「ふふ! ようこそ、冒険者の街・アグネアへ! ……なんちゃって!」
リュミナが両手を広げて笑う。
その笑顔を見た瞬間、俺の胸が熱を帯びた。
ああ、やっぱり来てよかった。
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結局、採用されたのはリュミナの意見。
年上の威厳はどこへやら、だ。
町について息つく暇もなく、俺たちは冒険者ギルドへ。
その扉を開けた瞬間、空気が変わった。
酒と汗と鉄の匂い。
鎧の金属音、笑い声、怒鳴り声。
場の熱気に圧倒されて、思わず足が止まる。
「お、おおお……」
「ら、ランド。ダメよ、びびっちゃ。堂々と、し、しないと……」
「お、おう……でも、リュミナもだぞ……」
俺たちはガッチガチに緊張しながらギルドの中を進む。
もしかしたら、手と足が一緒に出ていたかもしれない。
それを確認する余裕も無い。
受付に行くと、若い女性職員が微笑んだ。
「いらっしゃいませ。依頼の発行でしたら、こちらの用紙に必要事項をご記入ください!」
あ。
いや、そりゃそうだ。
こんなくたびれたおっさんと、あどけない女の子。
冒険者だなんて思わないよ。
「いえ、ちがくて、その、えっと……」
否定するのもはばかられる。
そんなまごつく俺を見ていたリュミナは、大きなため息をついた。
「もうっ! 私たち、冒険者登録をお願いしたいんです!」
受付嬢の時が、一瞬だけ止まった。
「……登録、ですか? お二人で?」
「ええ!」
「お父様と娘さんで?」
「え――」
ぴたりと空気が止まる。
「ち、違います! パーティです!」
リュミナは慌てて否定する。
「そう、親子じゃなくて、ただの他人です」
俺も援護射撃を送る。
周囲からは、クスクスと笑いが起こっていた。
「おっさん、あの歳で冒険者デビュー……?」
「親子冒険者、いいねぇ。……ぷっ」
……ああ、穴があったら入りたい。
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冒険者登録をするにあたって、簡単な適性検査をするらしかった。
常識があるか、体は健康か、戦闘はできるか、魔法は使えるか……など。
そのあたりの確認だ。
俺たちはギルドの奥に連れていかれ、訓練場なる場所に通される。
装飾など一切ない、武骨な部屋だ。
何人か訓練中と思わしき者もいる。冒険者たちだろうか。
「それでは、適性検査を始めます。まず始めに……ご存じだと思いますが、冒険者には能力や実績に応じたランクが存在します。一番下がG、そしてAまで順に上がり、特例として最高位のSランクもあります」
検査担当の若いギルド職員が、用紙を挟んだボード片手に淡々と言う。
リュミナは俺の隣で「わぁ……」と感嘆の声を漏らしていた。
「新たに登録される方は基本的にGから始まりますが、この検査で実力が認められた場合や、また過去に何かしらの実績――武闘大会の入賞歴や、魔法学校の卒業証書などがあった場合は、その限りではありません」
へえ……そうなんだ。
いきなり上のランクか。
ちょっと危ないな気がするけどな。
いくら実力あっても、経験が無いと失敗しそうだし。
「ねね! 私、いきなりSランクだったらどうしましょう!」
リュミナは目をらんらんと輝かせている。
「いや、流石に無いだろ……。というか、凄い自信だな。俺はヒヤヒヤだよ。落とされたらどうしようって」
「何言ってるの!? 落とされるわけないじゃない! あんなに凄い魔法を使えるのに!」
「凄い魔法って言ったって……」
多分、神様から貰った破壊と創造のことを言ってるんだろう。
確かに強力な魔法だけど……あれ以来まともに使えてないしなあ。
どうやったら出せるんだろう。
あの時は必死だったから、再現のしようもないよ。
「まずは、魔力量の測定を実施します。こちらの水晶に手を触れ、魔力を流してください」
用意されたのは多面体の角ばった水晶。
神託の儀で使っていたものとは、少し毛色が違うようだ。
まずはリュミナから。
「えいっ」
魔力測定の水晶が、眩しいほどに光った。
職員が目を見張る。
「す、すごいですね……中々見ない魔力量です」
すごいなあ。
記憶喪失……ということであんまり過去のことは語ってくれないけど、魔法の得意な家系の出なのだろうか。
リュミナは得意げに胸を張った。
「当然よ!」
次は俺の番だ。
恐る恐る水晶に手を置く。
「魔力を流せって言われてもな……」
そんなやり方、知らないよ。
とりあえず目を瞑って、そいやっと腕に力を込めてみる。
「こ、これは――」
職員の声に目を開けると、水晶は光っていた。
……うっすらと。
「へ……平均以下ですね」
「で、ですよね……」
俺は後頭部を書きながら、苦笑した。
隣でリュミナが「そんなはずないわ!」と言ってくれていたが、いや、そんなもんなんだよ、俺は。
続く体力測定では、リュミナは木剣を使って見事な剣技を披露した。
戦いの剣というより、どちらかというと舞のような……。
それでも、立派な動きであることに変わりない。
で、俺はと言うと……木剣を振った拍子に、腰をやられた。
「うおっ……! い、いたた……」
周囲の冒険者たちから笑いが起きる。
「おいおい、大丈夫かオヤジ!」
「冒険者になるのやめて、畑でも耕してろよ!」
「は、ははは……お騒がせしてすみません」
俺はぎこちない動きで、ぺこぺこと頭を下げる。
そんな声の中、リュミナが駆け寄って来た。
「ランド、平気? 皆、嫌な感じね」
「だ、大丈夫だよ、たぶんだけど。……それに、こんなだらしない姿を見たら、誰だって笑っちまうさ」
俺が笑って答えると、リュミナは不満げに口を尖らせた。
「……はい、検査は以上です。それでは、結果をお伝えしますので少々お待ちください」
職員はそう言って訓練場を後にする。
入れ替わりで、書類を持った屈強な男が現れた。
スキンヘッドに全剃りの眉。
明らかに、彼がここのボスだろう。
「俺がこの街のギルドマスター、ドレイクだ。以後、よろしくな。……で、検査の結果だが……リュミナ、お前は合格だ。Fランクとする」
「ええ~っ、Fランク? むぅ……でも、冒険者になれたのは嬉しいわ! ありがとう!」
リュミナはぴょこんと飛び跳ねてガッツポーズ。
いや、本当にすごいな……。
ただの口だけじゃないんだ。
そしてこちらへ向き直ったドレイクは、眉をひそめた。
「だが、あんたは……どうすっかな。正直、厳しい。……いや、これが若手なら全然良いんだが、37だろう? うーん……」
思わずうつむいた。
「ですよね……この歳ですし、しょうがない……です、よね」
わかってる。俺には無理だ。
でも、だけど、それでも、胸の奥で何かが抗った。
諦めるのは、もう嫌だった。
「……いや、お願いします!」
気づけば声が出ていた。
「遅すぎるのはわかってます、才能が無いのも……でも笑われたって、失敗したって……俺、挑戦してみたいんです!」
場のざわめきが止まった。
ドレイクは腕を組んだまましばらく黙り込み、それから口の端を上げた。
「その言葉を待っていた。いい目をしているな。……合格だ。ランド・バーナード、Gランクとして登録を許可する」
ドレイクはそう言って、何かを差し出した。
彼の手は固く、大きく、傷だらけ。歴戦の猛者の手だ。
俺も、こうなれるだろうか。
そんなことを考えながら、俺はドレイクから差し出されたものを受け取る。
「これは……」
小さな金属製のカード。
本体は銀色だが、光の角度でうっすら虹色の反射が走る。
表面には、恐らくギルドの紋章――二本の剣を交差したような意匠と、その下に『ランド・バーナード』という俺の名前。
「ギルドカード。認可を受けた正式な冒険者であることの証だ。……失くすなよ、俺も再発行料で何度泣きを見たことか」
冗談めかして笑うドレイク。
俺はギルドカードを大事に両手で持って、深く頭を下げた。
「……ありがとうございます」
訓練場に拍手が起こる。
「やったじゃねえか、おっさん!」
「ぐす……あれ、俺、何で泣いて……ちくしょう……!」
「新しい仲間の誕生だ! 今日は呑むぞ!」
いつの間にか集まってきていた大勢の冒険者たち。
笑っている者も、泣いている者もいる。
俺は彼らに向かって、何度も何度も頭を下げた。
「皆……ありがとう、ありがとう、ありが――いてっ!」
バシンと背中を叩かれる。
振り返ると、リュミナが満面の笑みを浮かべていた。
「言ったじゃない! 落ちるわけないってね!」
「リュミナ……本当に、全部キミのおかげだよ。ありがとう」
「ちょ……そんな改まって言われると照れるわよ! むしろ、こっちこそありがと! 私ひとりじゃ、こんな所まで来れなかったわ!」
リュミナが言って、柔らかく笑う。
水滴が落ちるギルドカードを、俺は静かに見ていた。
37歳、目立った実績・経験は無し。
魔力――平均以下。
体力――人並み。
備考――腰痛持ち。
そんな男が始める、冒険者生活。
「……うん。悪くないな」
こんなにも胸が高鳴るのは、生まれて始めてだ。
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