神に祝福された善良なるおっさん、破壊と創造の魔法で人生やり直します!

厳座励主(ごんざれす)

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第6話 初めての依頼達成

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 森へと続く街道を抜けると、空気がひんやりと変わった。
 湿った土の匂い、揺れる木漏れ日、風に揺れる草の音。
 ここが、俺たちの初めての仕事場だ。

「わあ……本当に森の中に入るのね!」

 リュミナが目を輝かせて見回す。
 初めての依頼だというのに、まったく怖気づく様子がない。

「ああ。薬草や素材が潤沢に育っていて、生息する魔物もそれほど強くない。駆け出し冒険者御用達ごようたしの森だから、通称『始まりの森』と呼ばれる場所だ」

 腕を組みながら語る俺に、リュミナはいぶかしむような視線を向けてくる。

「それ、勉強したの?」
「……元々知ってたさ。いくつだと思ってるんだ?」
「へー。その割には酷いくま」
「えっ、本当か!?」
「なんて、冗談よ。……その慌てよう、やっぱり夜更かしして勉強したんじゃない」

 ぐ、バレてしまった。
 大人にカマをかけるとは。侮れん娘だ。
 昨日は、冒険者になれた感動とか興奮とか、初依頼前の緊張とか不安とか……。
 色んな感情がぐちゃぐちゃになって、あまり寝られなかった。
 夜風にあたろうと思って部屋を出て、宿のフロントにたまたま置いてあった冒険者向けの本を見つけたのだ。

「ま、まあそれは置いといて」
 
 こほんと咳ばらいを一つ。

「あんまり浮かれすぎるなよ。いくら初心者向けとはいえ、森は危険なんだ。急に魔物が飛び出してきたり、足を置いた所に穴があったりするからな。慎重に、慎重にだ」
「はいはい、ランド監督。わかってますよ!」

 軽口を叩くわりに、足元はふらふらだ。
 靴に泥が張りつき、何度もバランスを崩しては俺に腕を掴まれていた。
 こういう場所を歩くのは、あまり慣れていないのだろう。
 リュミナは「記憶喪失だ」と言ってるけど、言動やいでたちの節々に妙な『都会っぽさ』があるんだよな。
 きっと、良いとこのお嬢さんなんだろうなと、勝手に推測している。
 
「あ、川よ! って、きゃあ――!?」

 どすん。
 小川のそばで足を滑らせ、とうとう転んだ。
 
「いったぁ……! あーもう、最悪っ!」
 
 膝から少し血が滲んでいる。
 あーあ、言わんこっちゃない。

「どれ、見せてみろ」

 俺はしゃがみ込み、腰のポーチを開けた。
 取り出す包帯、布、消毒液。こういうのは慣れている。
 弟妹きょうだいたちが転んでは泣いていた頃を思い出す。
 あの頃の俺は、今よりもっと必死だった。

「しみるけど我慢しろよ」
「……んっ、ちょっと痛い。でも、手際いいわね」
「子供の頃は日課みたいなもんだったからな。弟妹はすぐ怪我を作るんだ」
「へぇ、お兄ちゃんしてたんだ」
「そうだな」

 俺はリュミナの膝に包帯を巻きながら、弟妹たちのことを考える。
 あいつら、元気でやってるだろうか。

「弟妹さんたちは、今何をしているの?」
「さあ?」
「さあって、知らないの!?」
「ああ。皆、17~8歳ぐらいの頃に独り立ちして、家から出て行ったからな」
「そうなんだ……ちょっと、恩知らずって感じね」

 腕を組んでしかめっ面をするリュミナに、俺は思わず笑ってしまった。
 
「なんでリュミナが怒ってるんだよ」
「だって、ランドのおかげで大きくなれたのに。家のことを手伝ったり、仕送りしたりするのが普通じゃないの?」
「いやいや、良いんだよ。あいつらは皆、夢を追いかけるために家を出たんだ。俺や母さんは、その足枷になりたくなかった。だから全員、俺の方から『家のことは考えなくていい、全力で夢を追え』って言って追い出したんだよ」
「そうなんだ……」
「うん。……よし、これでいい」

 包帯を巻き終えると、リュミナが膝を眺めて「ありがと」と笑った。
 ほんのささいな笑顔なのに、心の奥に温かいものが灯る。
 俺はその感情をごまかすように、立ち上がって肩の荷を整えた。

「足の調子が良ければ、先へ進もう。俺たちの初仕事が待ってるからな」
「そうね! 了解っ!」

 森の中を進むうちに、薬草の群生地帯にたどり着いた。

「何なのよコレ! いっぱいありすぎて分からないわ!」

 リュミナは草の上にごろんと寝ころんだ。

「はは。最初はそうだよな。ホラ、これが今回の依頼の薬草だよ。葉先が少しギザギザしてるだろ?」
「ギザギザ……なるほど。そこを見ればいいのね。っていうか、ずいぶん詳しいじゃない」
「……うん。村のそばの森で薬草を集めて、薬湯を作ってたからな」
「薬湯? お風呂かなにか?」

 リュミナは草を手で仕分けながら、小首を傾げて問うてきた。

「いや、飲むんだよ。母親の病状を、少しでも和らげたいと思ってな。子供の浅知恵だ」
「へえ……効果は無かったの?」
「あったと言えばあったし、無かったと言えば無かった……かな。俺が作った薬湯を飲んだ母さんは『よく効いたわ』って言って、一緒に村を散歩してくれたんだ。……嬉しかったな。それまで寝たきりだった母親が、元気にスキップまでしてくれて」
「凄いじゃない! 効果抜群!」
「はは、まさか。いくら凄い薬でも、飲んですぐ効果が出るわけないさ」

 俺は肩をすくめ、言葉を続ける。

「あれは……俺を喜ばせようとしてくれた母さんの、ただのやせ我慢だよ」
「そういうこと……。でも、だなんて無粋だわ。よ」
「そうかも、な。――さ、気を取り直して仕事だ。日が暮れる前に終わらせよう」
「うん。私、頑張るわ」
 
 その宣言通り、リュミナは薬草を見つけるコツを覚え、どんどん束ねていった。
 笑いながら泥まみれになる姿は、まるで子どもみたいだ。あ、子どもだったか。
 俺は採取袋を背負い直し、辺りの音に耳を澄ませる。

 ――ぬるり。

 妙な音がした。
 見れば、木陰から半透明の青い塊が這い出てくる。
 ぷるぷると揺れながら、こちらを見つめていた。

「スライムか」
「で、出た! 魔物! やっぱり森にはいるんだ!」

 リュミナが剣を構える。
 彼女の武器も、俺と同じでギルドからの貸与品だ。
 けれど、そのスライムは襲う様子もなく、薬草の山を見つめているだけ。

「こ、来ないならこっちから行くわよ! そりゃ――」
「いや、待て。攻撃するな」
「え? で、でも……」
「ほら、これでどうだ」

 俺はゆっくりとしゃがみ、採取した薬草の束を一つ掴み上げる。
 それを差し出すと、スライムはぷるんと震えて、束をごくんと呑み込み、満足げに体を揺らす。
 次の瞬間、森の奥へとぴょんぴょん跳ねて消えていった。

「……行っちゃった」
「多分、お腹が減ってたんじゃないかな。俺たちが摘んだ薬草の匂いに釣られたんだ」
「そ、そういうことか……でも、ほんとに逃がしちゃってよかったの?」
「彼らの住処にお邪魔してるのはこっちだろ? 敬意を払わないとな」

 そう言った俺に、リュミナは少しだけ目を丸くしたあと、柔らかく笑った。

「やっぱり優しいわね、ランド」
「優しい? ……いや、どっちかと言うと、臆病なんだよ。30歳超えると、無茶もできなくなる」
「それでも、悪くないと思うわよ」

 夕暮れの光が木々の間から差し込み、彼女の笑顔が橙に染まった。



------



 ギルドに戻ると、マリアがカウンター越しに出迎えてくれた。

「おかえりなさいませ、ランドさんにリュミナさん。無事に戻られて、何よりです」
「はい、なんとか」
 
 俺が採取袋を掲げると、マリアは笑顔を見せた。

「薬草、しっかり十束ありますね。初仕事、達成ですね。おめでとうございます」
「良かった……。ありが――」
「――で! 報酬は?」

 俺のセリフを遮ったのはリュミナ。
 なんか、マリアと話す時やたら被せてくるな。

「こちら、事前の提示どおり、銀貨一枚です」
「くうう……わかってたけど、本当にそうなのね……。一日頑張って、銀貨一枚ぃぃぃ……」
 
 リュミナの悲鳴に、マリアがくすりと笑う。

「報酬の高い依頼を受けられるようになるまで、お二人なら、それほど時間はかからないと思いますよ」
「そんな……」
「まあ、そうかもね」

 恐縮する俺をガン無視し、リュミナはえへんと胸を張る。
 本当に凄い自信だな。
 その十分の一でもわけてほしいよ。

「それでは……こちら、お受け取りください」
「おお……」

 銀貨一枚が手のひらに乗る。

「何はともあれ、私たちの記念すべき初依頼達成ね! 今日はコレでパーッといきましょ!」
「だ、ダメだ! 少しでも貯金しとかないと、今後何があるかわからないんだから!」
「ぶー! それじゃ、武器を買いましょ! 良い武器を買ってもっと稼ぐのよ!」
「ダメったらダメ! 節約!!」

 俺はリュミナに奪われないように、ぎゅっと銀貨を握りしめる。

 冷たい金属の感触。

 だが、不思議と心はあたたかかった。
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