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第9話 ランド、Eランクへ昇格する
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馬車の車輪が村の石畳を踏む。
その音が聞こえた瞬間、村の人々がわっと駆け寄ってきた。
商人の男が手を振りながら叫ぶ。
「みんなー! 戻ったぞ! 食糧も、薬も、たんまり買ってきた!!」
その言葉に歓声があがった。
「よかった……!」
「荷馬車、戻ったんだ!」
「おかえりー! おっちゃーん!」
荷馬車を停め、俺とリュミナは荷台から降りる。
商人が俺たちを紹介すると、村人たちは口々に礼を言ってきた。
特に人気だったのはリュミナ。
彼女が手を振ると、子どもたちが花を持って駆け寄り、抱き着く。
「お姉ちゃん、すごいね! 魔物、やっつけたんでしょ!」
「え、それは私っていうか……」
リュミナはそこで言葉を区切り、こちらに視線を向ける。
俺はにこっと微笑んで、頷いた。
とどめこそ俺が担当したが、戦闘の大部分は二人で戦ったんだ。
変に遠慮なんかする必要ない。
「女の子なのに、すっごいね!」
「お姉ちゃん、とっても強い冒険者さんなんだ!」
「え、ええ……そんな……ま、まあね! あはは!」
顔を赤くしながら、リュミナは笑う。
「おう、アンタら! ずいぶんうちの代表が世話になったらしいじゃねえか! 泊まっていってくれ、今日は宴だ!」
「ああ、助かるよ。実はもうヘトヘトなんだ」
俺とリュミナは、すすめられるままに歓迎をうけた。
------
翌朝、村人たちに見送られながら出発した。
当然、帰りは荷馬車無しの歩きになる。
「うう……まさか、徒歩で戻るなんて聞いてない……脚が棒になるぅ……」
「本当にな……でもしょうがない。貴重な馬を借りるわけにもいかんだろ」
「そう、だけど……でもぉ……」
「昨日、あんなに夜更かしするからだぞ」
「そ、それは……! しょうがないじゃない! 広いお部屋が嬉しかったんだから!」
リュミナは頬をふくらませ、ぴょんと跳ねる。
背中の荷袋ががさっと揺れた。
「ったく……荷物、半分持つか?」
「ほんと!? さすがランド、頼りになる!」
「こういう時だけ調子いいな」
「気のせい気のせい!」
ころころ表情の変わるリュミナを見ていると、疲れもどこか吹き飛ぶ。
風の吹く街道を、二人並んで歩く。
胸の奥には、昨夜の温もりがまだ残っていた。
------
数日かけて、ようやくアグネアの街に帰還した。
通りを抜けてギルドの扉を開けると、木の香りと熱気が混ざった空気が流れ込んでくる。
受付のカウンターに立っていたマリアが、すぐこちらに気づいた。
「おかえりなさい。無事に戻ってきてくれて、本当によかったです」
その穏やかな声に、俺は自然と笑みがこぼれた。
「まあ、ちょっと色々ありましたけどね」
すぐ隣で、リュミナが肩で息をしながら口を開く。
「ちょっとどころじゃないわよぉ……。本当、大変だったんだからぁ……」
マリアはくすっと笑い「お二人らしいですね」とペンを取った。
俺たちは並んで、カウンターに報告書を出した。
こういった依頼は、報告書に依頼者のサインを記入してもらうことで、完了証明となる。
「……確かに、受け取りました。荷馬車の護送依頼、無事完了です。……そういえば『色々あった』とおっしゃっていましたが、何かトラブルでも?」
「ええ……少し、魔物に襲われまして」
マリアさんの手が止まる。
「魔物、ですか? その様子だと、スライムやゴブリンではなさそうですね。どんなものだったんです?」
「ええと……灰銀の毛で、ところどころ鉱石みたいな結晶が浮き出てて、とにかくデカい狼みたいなやつでしたね」
「あと、おでこに宝石みたいなのが付いてたわ!」
リュミナの補足に、俺はうんうんと頷く。
その瞬間、カウンター周りの空気が変わった。
マリアが顔を上げる。
職員たちも、手を止めてこちらを見ている。
「え……灰銀の毛……結晶のような皮膚に……額に宝石……?」
「そうです。そうそう」
口にした途端、空気が凍った。
周囲の冒険者が動きを止め、ざわざわと視線が集まる。
なんだこの雰囲気……?
リュミナも首をかしげている。
「……それ、もしかして『灰牙のゴルムホーン』じゃ……」
「ゴ、ゴルム……ホーン?」
「獣型の魔物、ハウンドドッグのネームドです。討伐に挑んだ冒険者パーティが何度も壊滅し、現在の危険度はDですが、それも上昇中の……」
その言葉を聞いた途端、場がざわめきに包まれた。
「ネームド!?」
「D級の!?」
「そんなバカな!」
俺はぽかんとしたまま立ち尽くす。
「あ、あの……すみません。何がなんだか……ネームドって、何でしょう」
後頭部をかきながら尋ねると、マリアは慌てて両手を軽く振った。
「いえ、ランドさんが知らなくても無理はありません。ネームドというのは、同種の魔物の中でも、特異な変化を遂げた危険個体のことを指すんです」
「危険、個体……」
俺が復唱すると、マリアはこくんと頷く。
「たとえば、スライムの『水霊のウンディーネ』、ワイバーンの『蒼炎のラグナヴェル』のように、異常な魔力や知性を得たものにだけ、固有の名が与えられます」
「名前のついた魔物、ってことですか」
「はい。ネームド個体には、危険度とともに懸賞金が設定されます。冒険者の仕事の一つですね。魔物との戦闘が必ず発生しますので、通常の依頼より当然危険ではありますが、その分報酬も高く設定されていて、ネームドの討伐を生業とするパーティもいらっしゃいます」
へえ。
危険だけど、その分カッコいいなあ。
俺もいつか、そんな強い冒険者になりたいものだ。
「そして、ランドさんが『倒した』とおっしゃるその魔物は、危険度Dのネームドである『灰牙のゴルムホーン』の特徴と合致しています」
マリアさんの声はいつもの柔らかさを保っていたが、わずかに震えていた。
ギルド職員たちも緊張した面持ちでこちらを見ている。
「え……いやいや、俺たちがそんな魔物を倒せるわけないです。他人の、いや、他魔物の空似じゃ……」
言いかけたところで、奥の扉が開いた。
重い足音。黒いロングコートの巨体。
ギルドマスターのドレイクさんだ。
「討伐証明があれば、一発だぞ」
低く通る声に、場の喧噪が一瞬で消えた。
「え?」
「ネームド討伐の報告には証明部位が必要だ。個体ごとに設定された、その魔物の特徴的な部位を持ち帰らなければ、こちらとしても認定できん」
「あ……」
「灰牙のゴルムホーンの証明部位は、額の宝石だ」
思い出す。
戦いのあと、倒れた獣をそのまま放ってきた。
「すみません、何も持ってきてなくて……」
ドレイクは腕を組み、静かに頷いた。
「そうか。なら、認定は――」
――ころん。
「え……」
カウンターに転がる、紫色の宝石。
それは、俺たちが倒した魔物の額についていたものと、瓜二つで。
宝石を転がした小さな手は、そのまま持ち主の腰に当てられた。
「これでいい? 私たち、ちゃんと倒したわよ」
リュミナの声が響いた。
場の視線が一斉に彼女へ向く。
宝石を持ち上げ、マリアさんが目を見開く。
「ま、間違いありません……! ゴルムホーンの核結晶です!」
どよめきが一斉に広がった。
「登録してまだ数日だぞ!?」
「Gランクの新人が……!?」
「マジかよ、ネームド討伐だってよ! 大型新人の登場だ!!」
喧騒の中、ドレイクが笑いながら前へ出た。
「ほう……やるじゃねぇか」
リュミナは胸を張って満面の笑み。
「どう? やっぱり私たち、なかなかのチームでしょ?」
俺は額に手を当てる。
「な、なんで証明部位、持って……?」
「え、えっと……」
リュミナはもごもごと口ごもる。
ばつの悪そうに視線を逸らしながら、ぼそっと言った。
「…………売れるかと、思って」
売るつもりだったのか……!?
ギルド全員がずっこけるような空気。
マリアさんは思わず口元を押さえて笑っていた。
ドレイクが大声で笑い、手を叩く。
「ははっ、豪胆でいいじゃねぇか!」
そして、俺たちの前に立つと、真っ直ぐこちらを見た。
「ランド・バーナード、リュミナ。お前らの討伐功績、正式に認定する」
その一言で、場のざわめきが止まった。
「よって、一気にランクEに昇格だ!」
歓声が爆発した。
「おっさんEランク!?」
「早すぎだろ!」
「すげぇー!」
拍手と口笛、笑い声。
リュミナが嬉しそうに飛び跳ねる。
「やった! ランド、聞いた!? Eだって! E!!」
「あ、ああ……実感、全く湧かないけどな」
マリアさんが穏やかに微笑む。
「本当に……おめでとうございます。私、十年以上ギルドに務めてますが、これほど短期間でランクを上げた冒険者は初めてです。……お二人なら、きっとこれからも大丈夫ですね」
ドレイクが腕を組み、笑い混じりに言った。
「聞いたぜ? タダ働きしたんだってな。……次はちゃんと、依頼を受けて来いよ。金欠で潰れちまう前にな」
「はは……それは、肝に銘じます」
俺は笑いながら頭を下げた。
けれど胸の奥に、じんわりと温かいものが広がる。
誰かのために動いて、たまたまとは言え、それが形になった。
悪くない気分だ。
「ねえねえ! Eランクってことは、もっと凄い依頼を受けられるってことよ!? 早速掲示板を見に行かなきゃ!」
ぴょんぴょん飛び跳ねるリュミナ。
彼女はまるで、子どもみたいに笑っていた。
「お、おい! さっきまでヘロヘロだっただろ!?」
「疲れなんて吹っ飛んじゃった! ほら、急いで!」
ぐいぐいと引っ張られながら、俺は笑いをこらえきれずに吹き出した。
「まったく……元気すぎるったらないな」
けれどその背中を追う足取りは、不思議と軽かった。
心臓がどくどくと高鳴るのがわかる。
年甲斐もなく熱くなって、昇格に興奮してる。
新しい一歩が、今、確かに始まった気がした。
その音が聞こえた瞬間、村の人々がわっと駆け寄ってきた。
商人の男が手を振りながら叫ぶ。
「みんなー! 戻ったぞ! 食糧も、薬も、たんまり買ってきた!!」
その言葉に歓声があがった。
「よかった……!」
「荷馬車、戻ったんだ!」
「おかえりー! おっちゃーん!」
荷馬車を停め、俺とリュミナは荷台から降りる。
商人が俺たちを紹介すると、村人たちは口々に礼を言ってきた。
特に人気だったのはリュミナ。
彼女が手を振ると、子どもたちが花を持って駆け寄り、抱き着く。
「お姉ちゃん、すごいね! 魔物、やっつけたんでしょ!」
「え、それは私っていうか……」
リュミナはそこで言葉を区切り、こちらに視線を向ける。
俺はにこっと微笑んで、頷いた。
とどめこそ俺が担当したが、戦闘の大部分は二人で戦ったんだ。
変に遠慮なんかする必要ない。
「女の子なのに、すっごいね!」
「お姉ちゃん、とっても強い冒険者さんなんだ!」
「え、ええ……そんな……ま、まあね! あはは!」
顔を赤くしながら、リュミナは笑う。
「おう、アンタら! ずいぶんうちの代表が世話になったらしいじゃねえか! 泊まっていってくれ、今日は宴だ!」
「ああ、助かるよ。実はもうヘトヘトなんだ」
俺とリュミナは、すすめられるままに歓迎をうけた。
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翌朝、村人たちに見送られながら出発した。
当然、帰りは荷馬車無しの歩きになる。
「うう……まさか、徒歩で戻るなんて聞いてない……脚が棒になるぅ……」
「本当にな……でもしょうがない。貴重な馬を借りるわけにもいかんだろ」
「そう、だけど……でもぉ……」
「昨日、あんなに夜更かしするからだぞ」
「そ、それは……! しょうがないじゃない! 広いお部屋が嬉しかったんだから!」
リュミナは頬をふくらませ、ぴょんと跳ねる。
背中の荷袋ががさっと揺れた。
「ったく……荷物、半分持つか?」
「ほんと!? さすがランド、頼りになる!」
「こういう時だけ調子いいな」
「気のせい気のせい!」
ころころ表情の変わるリュミナを見ていると、疲れもどこか吹き飛ぶ。
風の吹く街道を、二人並んで歩く。
胸の奥には、昨夜の温もりがまだ残っていた。
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数日かけて、ようやくアグネアの街に帰還した。
通りを抜けてギルドの扉を開けると、木の香りと熱気が混ざった空気が流れ込んでくる。
受付のカウンターに立っていたマリアが、すぐこちらに気づいた。
「おかえりなさい。無事に戻ってきてくれて、本当によかったです」
その穏やかな声に、俺は自然と笑みがこぼれた。
「まあ、ちょっと色々ありましたけどね」
すぐ隣で、リュミナが肩で息をしながら口を開く。
「ちょっとどころじゃないわよぉ……。本当、大変だったんだからぁ……」
マリアはくすっと笑い「お二人らしいですね」とペンを取った。
俺たちは並んで、カウンターに報告書を出した。
こういった依頼は、報告書に依頼者のサインを記入してもらうことで、完了証明となる。
「……確かに、受け取りました。荷馬車の護送依頼、無事完了です。……そういえば『色々あった』とおっしゃっていましたが、何かトラブルでも?」
「ええ……少し、魔物に襲われまして」
マリアさんの手が止まる。
「魔物、ですか? その様子だと、スライムやゴブリンではなさそうですね。どんなものだったんです?」
「ええと……灰銀の毛で、ところどころ鉱石みたいな結晶が浮き出てて、とにかくデカい狼みたいなやつでしたね」
「あと、おでこに宝石みたいなのが付いてたわ!」
リュミナの補足に、俺はうんうんと頷く。
その瞬間、カウンター周りの空気が変わった。
マリアが顔を上げる。
職員たちも、手を止めてこちらを見ている。
「え……灰銀の毛……結晶のような皮膚に……額に宝石……?」
「そうです。そうそう」
口にした途端、空気が凍った。
周囲の冒険者が動きを止め、ざわざわと視線が集まる。
なんだこの雰囲気……?
リュミナも首をかしげている。
「……それ、もしかして『灰牙のゴルムホーン』じゃ……」
「ゴ、ゴルム……ホーン?」
「獣型の魔物、ハウンドドッグのネームドです。討伐に挑んだ冒険者パーティが何度も壊滅し、現在の危険度はDですが、それも上昇中の……」
その言葉を聞いた途端、場がざわめきに包まれた。
「ネームド!?」
「D級の!?」
「そんなバカな!」
俺はぽかんとしたまま立ち尽くす。
「あ、あの……すみません。何がなんだか……ネームドって、何でしょう」
後頭部をかきながら尋ねると、マリアは慌てて両手を軽く振った。
「いえ、ランドさんが知らなくても無理はありません。ネームドというのは、同種の魔物の中でも、特異な変化を遂げた危険個体のことを指すんです」
「危険、個体……」
俺が復唱すると、マリアはこくんと頷く。
「たとえば、スライムの『水霊のウンディーネ』、ワイバーンの『蒼炎のラグナヴェル』のように、異常な魔力や知性を得たものにだけ、固有の名が与えられます」
「名前のついた魔物、ってことですか」
「はい。ネームド個体には、危険度とともに懸賞金が設定されます。冒険者の仕事の一つですね。魔物との戦闘が必ず発生しますので、通常の依頼より当然危険ではありますが、その分報酬も高く設定されていて、ネームドの討伐を生業とするパーティもいらっしゃいます」
へえ。
危険だけど、その分カッコいいなあ。
俺もいつか、そんな強い冒険者になりたいものだ。
「そして、ランドさんが『倒した』とおっしゃるその魔物は、危険度Dのネームドである『灰牙のゴルムホーン』の特徴と合致しています」
マリアさんの声はいつもの柔らかさを保っていたが、わずかに震えていた。
ギルド職員たちも緊張した面持ちでこちらを見ている。
「え……いやいや、俺たちがそんな魔物を倒せるわけないです。他人の、いや、他魔物の空似じゃ……」
言いかけたところで、奥の扉が開いた。
重い足音。黒いロングコートの巨体。
ギルドマスターのドレイクさんだ。
「討伐証明があれば、一発だぞ」
低く通る声に、場の喧噪が一瞬で消えた。
「え?」
「ネームド討伐の報告には証明部位が必要だ。個体ごとに設定された、その魔物の特徴的な部位を持ち帰らなければ、こちらとしても認定できん」
「あ……」
「灰牙のゴルムホーンの証明部位は、額の宝石だ」
思い出す。
戦いのあと、倒れた獣をそのまま放ってきた。
「すみません、何も持ってきてなくて……」
ドレイクは腕を組み、静かに頷いた。
「そうか。なら、認定は――」
――ころん。
「え……」
カウンターに転がる、紫色の宝石。
それは、俺たちが倒した魔物の額についていたものと、瓜二つで。
宝石を転がした小さな手は、そのまま持ち主の腰に当てられた。
「これでいい? 私たち、ちゃんと倒したわよ」
リュミナの声が響いた。
場の視線が一斉に彼女へ向く。
宝石を持ち上げ、マリアさんが目を見開く。
「ま、間違いありません……! ゴルムホーンの核結晶です!」
どよめきが一斉に広がった。
「登録してまだ数日だぞ!?」
「Gランクの新人が……!?」
「マジかよ、ネームド討伐だってよ! 大型新人の登場だ!!」
喧騒の中、ドレイクが笑いながら前へ出た。
「ほう……やるじゃねぇか」
リュミナは胸を張って満面の笑み。
「どう? やっぱり私たち、なかなかのチームでしょ?」
俺は額に手を当てる。
「な、なんで証明部位、持って……?」
「え、えっと……」
リュミナはもごもごと口ごもる。
ばつの悪そうに視線を逸らしながら、ぼそっと言った。
「…………売れるかと、思って」
売るつもりだったのか……!?
ギルド全員がずっこけるような空気。
マリアさんは思わず口元を押さえて笑っていた。
ドレイクが大声で笑い、手を叩く。
「ははっ、豪胆でいいじゃねぇか!」
そして、俺たちの前に立つと、真っ直ぐこちらを見た。
「ランド・バーナード、リュミナ。お前らの討伐功績、正式に認定する」
その一言で、場のざわめきが止まった。
「よって、一気にランクEに昇格だ!」
歓声が爆発した。
「おっさんEランク!?」
「早すぎだろ!」
「すげぇー!」
拍手と口笛、笑い声。
リュミナが嬉しそうに飛び跳ねる。
「やった! ランド、聞いた!? Eだって! E!!」
「あ、ああ……実感、全く湧かないけどな」
マリアさんが穏やかに微笑む。
「本当に……おめでとうございます。私、十年以上ギルドに務めてますが、これほど短期間でランクを上げた冒険者は初めてです。……お二人なら、きっとこれからも大丈夫ですね」
ドレイクが腕を組み、笑い混じりに言った。
「聞いたぜ? タダ働きしたんだってな。……次はちゃんと、依頼を受けて来いよ。金欠で潰れちまう前にな」
「はは……それは、肝に銘じます」
俺は笑いながら頭を下げた。
けれど胸の奥に、じんわりと温かいものが広がる。
誰かのために動いて、たまたまとは言え、それが形になった。
悪くない気分だ。
「ねえねえ! Eランクってことは、もっと凄い依頼を受けられるってことよ!? 早速掲示板を見に行かなきゃ!」
ぴょんぴょん飛び跳ねるリュミナ。
彼女はまるで、子どもみたいに笑っていた。
「お、おい! さっきまでヘロヘロだっただろ!?」
「疲れなんて吹っ飛んじゃった! ほら、急いで!」
ぐいぐいと引っ張られながら、俺は笑いをこらえきれずに吹き出した。
「まったく……元気すぎるったらないな」
けれどその背中を追う足取りは、不思議と軽かった。
心臓がどくどくと高鳴るのがわかる。
年甲斐もなく熱くなって、昇格に興奮してる。
新しい一歩が、今、確かに始まった気がした。
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