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第19話 初めての打ち上げ
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いつも以上の賑わいを見せる、ギルド併設の冒険者専用酒場。
木製ジョッキがぶつかり合う音、冒険者たちの笑い声、香ばしい肉の匂い。
それらすべてが祝福のように響いている。
そんな中で、この大騒ぎの主役である俺たちは、一番奥の大きなテーブルを陣取っていた。
「おっさん! 乾杯の音頭はアンタだ!」
エルドが立ち上がり、声を張る。
あまりに勢いよく動いたもんだから、テーブルの上に並んだ料理が揺れた。
「え、えぇ!? 俺が!?」
「ま、そうよね。リーダーなんだし」
「うん。当然だね。それがリーダーさ」
リュミナとセラが口を揃えて言い、うむうむと頷く。
うう、マジか……逃げ場がないな。
「そ、それじゃ……その……」
喉がやけに乾く。ジョッキを握る手に汗が滲んだ。
俺は腹をくくって、大きく息を吸った。
「Dランク昇格に――か、カンパーイ!」
「「「カンパーイ!!」」」
店中に声が響き、また一段と盛り上がりが強くなる。
ぶつかり合うジョッキから、泡が飛び散った。
そう。俺たちは今回の依頼を経て、EからDへとランクアップしたのだった。
Eランクでかなり実績を重ねていたエルドとセラの二人は余裕で。
Eランクに上がって間もない俺とリュミナはギリギリの昇格だったらしい。
「うーしっ! とうとうDだ! もっとオレの実力を証明してやらなきゃなあ!」
「ちょっと、調子に乗りすぎないでよ。……でも、ま。実力の証明って部分には、ボクも大賛成だけどね」
「私も! こんな所で止まらないわよ! このままAランクまで駆け抜けるんだから!」
出発前、ぎこちなく並んで酒を飲んだあの夜とは大違いだ。
今は、誰もお互いに対して敵意なんて抱いていない。
「ねぇ、あの時のセラ、かっこよかったよね! あんな熱の中で、氷を張り続けるなんて!」
リュミナは料理を頬張りながら、満面の笑みで言った。
セラは苦笑する。
「ふふ。あまり根性論は好きじゃないんだけど……皆を守りたくて、必死だったのが良かったのかもね」
エルドがジョッキを傾けながらうなずいた。
「オレもあのとき、本気で終わったと思ったぜ。あのデカブツのブレス。……情けねえが、魔法が使える奴じゃなきゃ、どうにもできねえ」
「今回はたまたま、魔法が有効だっただけだよ。例えば魔力を吸収する妖精系の敵なんかは、ボクじゃ勝てない。……頼りにしてるよ」
「お、おう! ……へへ」
犬猿の仲だと思っていた二人も、しっかりとお互いを認め合えたようだ。
「おい、あれがグラトンを倒した連中か!」
「結成してすぐネームド討伐ってマジかよ!」
「とんでもない若手たちだなあ! こっちまでやる気が出るぜ!」
気づけば、周囲の冒険者たちが次々と乾杯の輪に加わっていた。
リュミナはすっかり上機嫌で、見知らぬ客の肩をぽんぽん叩いて笑っている。
エルドは机を叩きながら豪快に歌い、セラは「うるさい」と呟きながらも頬を緩めていた。
俺はその光景を眺めていた。
こんな夜が、自分にも来るなんて思わなかった。
家族を支えるだけで、遊ぶ時間もなかった俺が、今は仲間と笑っている。
たったそれだけのことが、どうしようもなく嬉しい。
胸の奥がじんわり熱くなった。
「――楽しそうですね。お隣、良いですか?」
穏やかな声が隣から聞こえた。
振り向くと、マリアさんが立っていた。
制服のまま、いつもの柔らかな笑顔で。
「ま、マリアさん! モチロンですよ!」
思わず声を裏返す俺。
彼女は笑いながら腰を下ろす。
「お疲れさまでした、ランドさん。素晴らしい結果でしたね」
「いえ、俺よりも……皆が頑張ってくれたおかげです」
「ふふ。そういうところが、ランドさんらしいです」
そう言って、彼女は身を寄せてくる。少し、近い。
酒のせいか、心臓の鼓動が早くなる。
頬の火照りをごまかすように、俺は言葉を紡いだ。
「お、俺、こうやって仲間と笑って飲むの、初めてなんです」
「そうなんですか?」
「はい。ずっと働いてばかりで……夢とか、遊びとか、そういうの全部後回しでしたから」
マリアさんは静かに頷いた。
「……そういう一生懸命なところに、皆惹かれるんでしょうね」
「そ、そんな立派なもんじゃないですよ」
笑いながらも、胸の奥が熱くなる。
やっぱり、マリアさん。俺のことそんなに悪くは思ってない……よな?
わからない。女心は本当にわからない。
けど、けど、言うなら、今しかない……!
酒の勢いに背中を押されるように、俺は立ち上がった。
「ま、マリアさん!! 明日も、一緒に夕食を取りませんかっ!! ……こ、今度は二人で!!」
言った。
ついに言ってしまった。
言ったはいいが、声が思ったよりも大きかった。
……静寂。
酒場の喧騒が、一瞬で止まってしまった。
周囲の視線が全て俺に集まる。
やらかした。そう理解するまで、時間はかからなかった。
マリアさんは少し目を瞬かせて、静かに言った。
「すみません」
すみません。
すみません、とは。
断られた、のか。
俺は茫然としてしまう。
「ですよねー!!」
「無理だって! マリアちゃんは難攻不落なんだぞ!」
「おっさん玉砕!」
野次が飛び交い、どっと笑いが起きる。
ようやく状況を理解した俺は、頭を抱えて項垂れた。
「す、すみません! 今のは……忘れてください!」
顔が熱い。きっと耳まで真っ赤だ。
「いえ」
マリアさんが小さく首を振った。
「明日の夜は、シフトが入っていますので――」
少し間を置いて、柔らかく微笑む。
「ランチにしましょう?」
「え……」
「「「「「えええええええっ!?」」」」」
酒場中が一斉に叫ぶ。
俺は真っ赤になりながら、心の中で拳を握った。
「……ランチはお嫌いですか?」
「い、いえ! 全然全然!! むしろ大好物! 三食全部ランチがいいです!!」
言いながら思う。
自分でも何を言っているのか意味不明だ。
そんな俺たちを囲んだ酒場の冒険者たちは、ジョッキをぶつけあって笑う。
「むう……なんか気に入らないけど、とにかくおめでと」
「や、やったじゃねえかおっさん……! くう……オレも密かに憧れてたのに……!」
「へえ。今度、どうだったか聞かせてね」
英雄団、初の大勝利の夜。
その笑い声は、酒場の外まで響いていた。
木製ジョッキがぶつかり合う音、冒険者たちの笑い声、香ばしい肉の匂い。
それらすべてが祝福のように響いている。
そんな中で、この大騒ぎの主役である俺たちは、一番奥の大きなテーブルを陣取っていた。
「おっさん! 乾杯の音頭はアンタだ!」
エルドが立ち上がり、声を張る。
あまりに勢いよく動いたもんだから、テーブルの上に並んだ料理が揺れた。
「え、えぇ!? 俺が!?」
「ま、そうよね。リーダーなんだし」
「うん。当然だね。それがリーダーさ」
リュミナとセラが口を揃えて言い、うむうむと頷く。
うう、マジか……逃げ場がないな。
「そ、それじゃ……その……」
喉がやけに乾く。ジョッキを握る手に汗が滲んだ。
俺は腹をくくって、大きく息を吸った。
「Dランク昇格に――か、カンパーイ!」
「「「カンパーイ!!」」」
店中に声が響き、また一段と盛り上がりが強くなる。
ぶつかり合うジョッキから、泡が飛び散った。
そう。俺たちは今回の依頼を経て、EからDへとランクアップしたのだった。
Eランクでかなり実績を重ねていたエルドとセラの二人は余裕で。
Eランクに上がって間もない俺とリュミナはギリギリの昇格だったらしい。
「うーしっ! とうとうDだ! もっとオレの実力を証明してやらなきゃなあ!」
「ちょっと、調子に乗りすぎないでよ。……でも、ま。実力の証明って部分には、ボクも大賛成だけどね」
「私も! こんな所で止まらないわよ! このままAランクまで駆け抜けるんだから!」
出発前、ぎこちなく並んで酒を飲んだあの夜とは大違いだ。
今は、誰もお互いに対して敵意なんて抱いていない。
「ねぇ、あの時のセラ、かっこよかったよね! あんな熱の中で、氷を張り続けるなんて!」
リュミナは料理を頬張りながら、満面の笑みで言った。
セラは苦笑する。
「ふふ。あまり根性論は好きじゃないんだけど……皆を守りたくて、必死だったのが良かったのかもね」
エルドがジョッキを傾けながらうなずいた。
「オレもあのとき、本気で終わったと思ったぜ。あのデカブツのブレス。……情けねえが、魔法が使える奴じゃなきゃ、どうにもできねえ」
「今回はたまたま、魔法が有効だっただけだよ。例えば魔力を吸収する妖精系の敵なんかは、ボクじゃ勝てない。……頼りにしてるよ」
「お、おう! ……へへ」
犬猿の仲だと思っていた二人も、しっかりとお互いを認め合えたようだ。
「おい、あれがグラトンを倒した連中か!」
「結成してすぐネームド討伐ってマジかよ!」
「とんでもない若手たちだなあ! こっちまでやる気が出るぜ!」
気づけば、周囲の冒険者たちが次々と乾杯の輪に加わっていた。
リュミナはすっかり上機嫌で、見知らぬ客の肩をぽんぽん叩いて笑っている。
エルドは机を叩きながら豪快に歌い、セラは「うるさい」と呟きながらも頬を緩めていた。
俺はその光景を眺めていた。
こんな夜が、自分にも来るなんて思わなかった。
家族を支えるだけで、遊ぶ時間もなかった俺が、今は仲間と笑っている。
たったそれだけのことが、どうしようもなく嬉しい。
胸の奥がじんわり熱くなった。
「――楽しそうですね。お隣、良いですか?」
穏やかな声が隣から聞こえた。
振り向くと、マリアさんが立っていた。
制服のまま、いつもの柔らかな笑顔で。
「ま、マリアさん! モチロンですよ!」
思わず声を裏返す俺。
彼女は笑いながら腰を下ろす。
「お疲れさまでした、ランドさん。素晴らしい結果でしたね」
「いえ、俺よりも……皆が頑張ってくれたおかげです」
「ふふ。そういうところが、ランドさんらしいです」
そう言って、彼女は身を寄せてくる。少し、近い。
酒のせいか、心臓の鼓動が早くなる。
頬の火照りをごまかすように、俺は言葉を紡いだ。
「お、俺、こうやって仲間と笑って飲むの、初めてなんです」
「そうなんですか?」
「はい。ずっと働いてばかりで……夢とか、遊びとか、そういうの全部後回しでしたから」
マリアさんは静かに頷いた。
「……そういう一生懸命なところに、皆惹かれるんでしょうね」
「そ、そんな立派なもんじゃないですよ」
笑いながらも、胸の奥が熱くなる。
やっぱり、マリアさん。俺のことそんなに悪くは思ってない……よな?
わからない。女心は本当にわからない。
けど、けど、言うなら、今しかない……!
酒の勢いに背中を押されるように、俺は立ち上がった。
「ま、マリアさん!! 明日も、一緒に夕食を取りませんかっ!! ……こ、今度は二人で!!」
言った。
ついに言ってしまった。
言ったはいいが、声が思ったよりも大きかった。
……静寂。
酒場の喧騒が、一瞬で止まってしまった。
周囲の視線が全て俺に集まる。
やらかした。そう理解するまで、時間はかからなかった。
マリアさんは少し目を瞬かせて、静かに言った。
「すみません」
すみません。
すみません、とは。
断られた、のか。
俺は茫然としてしまう。
「ですよねー!!」
「無理だって! マリアちゃんは難攻不落なんだぞ!」
「おっさん玉砕!」
野次が飛び交い、どっと笑いが起きる。
ようやく状況を理解した俺は、頭を抱えて項垂れた。
「す、すみません! 今のは……忘れてください!」
顔が熱い。きっと耳まで真っ赤だ。
「いえ」
マリアさんが小さく首を振った。
「明日の夜は、シフトが入っていますので――」
少し間を置いて、柔らかく微笑む。
「ランチにしましょう?」
「え……」
「「「「「えええええええっ!?」」」」」
酒場中が一斉に叫ぶ。
俺は真っ赤になりながら、心の中で拳を握った。
「……ランチはお嫌いですか?」
「い、いえ! 全然全然!! むしろ大好物! 三食全部ランチがいいです!!」
言いながら思う。
自分でも何を言っているのか意味不明だ。
そんな俺たちを囲んだ酒場の冒険者たちは、ジョッキをぶつけあって笑う。
「むう……なんか気に入らないけど、とにかくおめでと」
「や、やったじゃねえかおっさん……! くう……オレも密かに憧れてたのに……!」
「へえ。今度、どうだったか聞かせてね」
英雄団、初の大勝利の夜。
その笑い声は、酒場の外まで響いていた。
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