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第25話 満天の告白
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夜の屋上。
風の音だけが響く。
遠くの街灯がぼんやりと瞬き、ギルドの旗がかすかに揺れている。
俺は手すりにもたれ、何度目かわからない深呼吸をした。
「本当に、来てくれるかなあ」
先ほど仕事中のマリアのもとを訪ね、「終わったら屋上へ」とだけ告げて来た。
彼女は驚いたような表情を浮かべつつ「わかりました」と言っていたが……。
心臓がやけにうるさい。
緊張してる自分に呆れながらも、笑みが漏れた。
「……まいったな。こんなに緊張したこと、これまでの人生には無かったよ」
その時、鉄の扉がきぃと音を立てた。
振り向くと、月明かりの下に、マリアが姿を現していた。
制服の上から羽織った薄いショールが、夜風にふわりと揺れる。
光に照らされた横顔が、穏やかで、それでいてどこか寂しげだった。
「お待たせしました。深夜勤務の担当と、交代してきました」
「いえ、俺もいま来たところですから……あ」
そんなわけない。
仕事中のマリアに声をかけ、その足で屋上へ向かったのを見られているはずだ。
我ながらベタすぎる言葉が出て、恥ずかしさに頭をかく。
マリアさんは少しだけ目を細めて笑った。
「ふふ。お気遣いいただいて、ありがとうございます」
風が通り抜け、二人の間を柔らかく揺らす。
「それで、何のご用でしょうか?」
マリアに問われ、俺は姿勢を正し、彼女の瞳をまっすぐに見つめた。
「支部長から、聞きました」
マリアさんの瞳がわずかに揺れる。
「……聞きました、とは」
「マリアさんと、クライブさんとのこと、全部です」
「……そうですか」
彼女は驚きも怒りもなく、ただ静かに受け入れるようにうなずいた。
言葉を選びながら、胸の奥の熱を抑えきれずに吐き出す。
「正直、苦しかったです。かつて、あなたの隣にそんなに凄い人が居たのかと思うと、自分があまりに小さくて。……でも、思ったんです」
一拍置く。そして、また言葉を紡ぐ。
「人を想うのに、勝ち負けなんてない。あなたがクライブさんを想う、その全部をひっくるめて――」
夜風が止まり、世界が静まった。
「――俺は、あなたを好きになりました」
マリアさんは唇をかすかに開いたまま、言葉を失っていた。
琥珀色の澄んだ瞳の奥に、月の光が映る。
彼女は俯き、胸の前で手を重ねた。
細い指が小刻みに震えている。
「嬉しいです……でも、ごめんなさい。私は、やっぱり彼を忘れることは……」
「忘れなくていい。俺だって、忘れさせたいわけじゃない。ただ、あなたが背負っている過去の隣に、俺という現在を置かせてほしい」
「っ……」
「俺は、これからの人生を、あなたと共に歩んでいきたいんです」
月光が、二人の影をひとつに重ねる。
重たい静寂を打ち破ったのは、マリアの方だった。
「私……怖いんです。また誰かを失うのが」
「同じです。俺も、怖い。相棒を失うのが、仲間を失うのが、ギルドの皆を失うのが。……そして何より、大切な人を失うのが」
「……ふふ、臆病ですね。私たち」
「ええ、臆病です。だからこそ、俺は何も失わないよう全力で頑張ります」
そこまで言った時、夜風が吹き抜け、マリアのショールが舞い上がった。
思わず手を伸ばして押さえる。そのまま、彼女の手と重なった。
冷たくて、でも柔らかい。マリアが少しだけ笑う。
「ランドさん」
「……はい」
マリアが一歩、近づく。
距離が詰まって、吐息が混じる。
彼女の瞳が、まっすぐ俺を見ていた。
「私……もう一度、誰かと生きてみたい。あなたとなら、きっと前を向けます」
ゆっくりと笑って、言葉を添える。
「――こちらこそ、よろしくお願いします。……これが、私の答えです」
「マリアさん……!」
胸が弾けるように熱くなった。
何かを言おうとしたけれど、声にならなかった。
ただ彼女の瞳があまりに綺麗で、そのまま引き寄せられるように、顔が近づいて。
唇が、触れた。
ほんの一瞬。
世界が静かに色づいた。
離れたあと、マリアが小さく笑う。
「……ふふ。何だか、照れくさいですね」
「はい。とても」
俺たちはしばらく手を繋いだまま、夜空を見上げた。
東の空がわずかに白み始めている。
「……もうすぐ朝ですね」
「ええ。新しい日が始まります」
マリアの手を握る力を、少しだけ強める。
気を抜けばふっと消えてしまいそうなほど儚い彼女を、この世界に繋ぎとめておきたくて。
「マリアさん、俺、もっと――」
「――マリア」
「え……?」
言葉の途中で、彼女がそっと遮った。
顔を上げると、マリアが小さく笑っていた。
いつもの柔らかい微笑みじゃない。
どこか恥ずかしそうで、けれどまっすぐな瞳。
「マリアさんじゃなくて、マリアって呼んでください。もう、特別な人なんですから」
「そんな、急に……」
夜灯の光が彼女の髪を縁取る。
深い緑の髪が夜風に揺れ、月明かりを受けて金糸のように光っていた。
その視線を真正面から受け止めた瞬間、胸の奥で何かが跳ねる。
「……ま、マリア」
口にした名前が、夜空に溶けていく。
「……はい。ランドさん」
マリアはそっと目を細め、嬉しそうに微笑んだ。
その笑顔があまりにも綺麗で、息をするのを忘れそうになる。
風が止まり、世界が静まり返る。
遠くで星々が瞬き、街の灯がゆるやかに滲んだ。
冒険者ギルドの屋上に伸びる二本の影が、もう一度重なった。
風の音だけが響く。
遠くの街灯がぼんやりと瞬き、ギルドの旗がかすかに揺れている。
俺は手すりにもたれ、何度目かわからない深呼吸をした。
「本当に、来てくれるかなあ」
先ほど仕事中のマリアのもとを訪ね、「終わったら屋上へ」とだけ告げて来た。
彼女は驚いたような表情を浮かべつつ「わかりました」と言っていたが……。
心臓がやけにうるさい。
緊張してる自分に呆れながらも、笑みが漏れた。
「……まいったな。こんなに緊張したこと、これまでの人生には無かったよ」
その時、鉄の扉がきぃと音を立てた。
振り向くと、月明かりの下に、マリアが姿を現していた。
制服の上から羽織った薄いショールが、夜風にふわりと揺れる。
光に照らされた横顔が、穏やかで、それでいてどこか寂しげだった。
「お待たせしました。深夜勤務の担当と、交代してきました」
「いえ、俺もいま来たところですから……あ」
そんなわけない。
仕事中のマリアに声をかけ、その足で屋上へ向かったのを見られているはずだ。
我ながらベタすぎる言葉が出て、恥ずかしさに頭をかく。
マリアさんは少しだけ目を細めて笑った。
「ふふ。お気遣いいただいて、ありがとうございます」
風が通り抜け、二人の間を柔らかく揺らす。
「それで、何のご用でしょうか?」
マリアに問われ、俺は姿勢を正し、彼女の瞳をまっすぐに見つめた。
「支部長から、聞きました」
マリアさんの瞳がわずかに揺れる。
「……聞きました、とは」
「マリアさんと、クライブさんとのこと、全部です」
「……そうですか」
彼女は驚きも怒りもなく、ただ静かに受け入れるようにうなずいた。
言葉を選びながら、胸の奥の熱を抑えきれずに吐き出す。
「正直、苦しかったです。かつて、あなたの隣にそんなに凄い人が居たのかと思うと、自分があまりに小さくて。……でも、思ったんです」
一拍置く。そして、また言葉を紡ぐ。
「人を想うのに、勝ち負けなんてない。あなたがクライブさんを想う、その全部をひっくるめて――」
夜風が止まり、世界が静まった。
「――俺は、あなたを好きになりました」
マリアさんは唇をかすかに開いたまま、言葉を失っていた。
琥珀色の澄んだ瞳の奥に、月の光が映る。
彼女は俯き、胸の前で手を重ねた。
細い指が小刻みに震えている。
「嬉しいです……でも、ごめんなさい。私は、やっぱり彼を忘れることは……」
「忘れなくていい。俺だって、忘れさせたいわけじゃない。ただ、あなたが背負っている過去の隣に、俺という現在を置かせてほしい」
「っ……」
「俺は、これからの人生を、あなたと共に歩んでいきたいんです」
月光が、二人の影をひとつに重ねる。
重たい静寂を打ち破ったのは、マリアの方だった。
「私……怖いんです。また誰かを失うのが」
「同じです。俺も、怖い。相棒を失うのが、仲間を失うのが、ギルドの皆を失うのが。……そして何より、大切な人を失うのが」
「……ふふ、臆病ですね。私たち」
「ええ、臆病です。だからこそ、俺は何も失わないよう全力で頑張ります」
そこまで言った時、夜風が吹き抜け、マリアのショールが舞い上がった。
思わず手を伸ばして押さえる。そのまま、彼女の手と重なった。
冷たくて、でも柔らかい。マリアが少しだけ笑う。
「ランドさん」
「……はい」
マリアが一歩、近づく。
距離が詰まって、吐息が混じる。
彼女の瞳が、まっすぐ俺を見ていた。
「私……もう一度、誰かと生きてみたい。あなたとなら、きっと前を向けます」
ゆっくりと笑って、言葉を添える。
「――こちらこそ、よろしくお願いします。……これが、私の答えです」
「マリアさん……!」
胸が弾けるように熱くなった。
何かを言おうとしたけれど、声にならなかった。
ただ彼女の瞳があまりに綺麗で、そのまま引き寄せられるように、顔が近づいて。
唇が、触れた。
ほんの一瞬。
世界が静かに色づいた。
離れたあと、マリアが小さく笑う。
「……ふふ。何だか、照れくさいですね」
「はい。とても」
俺たちはしばらく手を繋いだまま、夜空を見上げた。
東の空がわずかに白み始めている。
「……もうすぐ朝ですね」
「ええ。新しい日が始まります」
マリアの手を握る力を、少しだけ強める。
気を抜けばふっと消えてしまいそうなほど儚い彼女を、この世界に繋ぎとめておきたくて。
「マリアさん、俺、もっと――」
「――マリア」
「え……?」
言葉の途中で、彼女がそっと遮った。
顔を上げると、マリアが小さく笑っていた。
いつもの柔らかい微笑みじゃない。
どこか恥ずかしそうで、けれどまっすぐな瞳。
「マリアさんじゃなくて、マリアって呼んでください。もう、特別な人なんですから」
「そんな、急に……」
夜灯の光が彼女の髪を縁取る。
深い緑の髪が夜風に揺れ、月明かりを受けて金糸のように光っていた。
その視線を真正面から受け止めた瞬間、胸の奥で何かが跳ねる。
「……ま、マリア」
口にした名前が、夜空に溶けていく。
「……はい。ランドさん」
マリアはそっと目を細め、嬉しそうに微笑んだ。
その笑顔があまりにも綺麗で、息をするのを忘れそうになる。
風が止まり、世界が静まり返る。
遠くで星々が瞬き、街の灯がゆるやかに滲んだ。
冒険者ギルドの屋上に伸びる二本の影が、もう一度重なった。
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