神に祝福された善良なるおっさん、破壊と創造の魔法で人生やり直します!

厳座励主(ごんざれす)

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第24話 リスタート

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 夜の帳が街を包み込んでいた。
 灯された街灯が石畳を淡く照らし、橙色の光が途切れ途切れに連なっている。
 靴の底が、静まり返った通りに乾いた音を刻む。
 遠くの酒場から笑い声がかすかに漏れ聞こえるのに、不思議と自分だけが別の世界に取り残されたようだった。

「……はあ、俺、どうすればいいんだろ」

 考えれば考えるほど、胸の奥が重くなる。
 クライブ。マリアさん。ドレイク支部長。
 みんな、まるで物語の主人公みたいだな。
 輝いてて、困難にぶつかってて、一生懸命で……。
 俺なんかに、彼らの輪の中に混ざる資格なんてないよ。
 そう思った瞬間だった。

「あーっ! いたわよーっ!」

 甲高い声に、ハッと顔をあげる。
 通りの向こうで、リュミナが両手をぶんぶん振っていた。
 その後ろには、エルドとセラ。英雄団の三人だ。
 皆、息を弾ませて駆けてくる。

「やっと見つけた!」
「お前、どこほっつき歩いてたんだよ!」
「ちょっと、心配したんだよ? 落ち込んで身を投げちゃったんじゃないかって」
「おい! まだ失敗そうと決まったわけじゃねえだろ!」

 三人が勢いよく取り囲む。
 俺は目を瞬かせた。

「え、えっと……」
「で、だ!」

 エルドがぐっと身を乗り出す。

「デートはどうだった!?」

 リュミナもセラも身を寄せてくる。
 思いのほか距離が近くて、少しのけぞった。

「え、いや、その……」

 しどろもどろのまま、何も言えずにいると、
 三人は顔を見合わせて、同時にため息をついた。

「……うう、同士よ……今夜は飲み明かそうな……」
「ま、そういう日もあるわよ」
「そうそう。あのマリアって受付嬢、男の誘いに絶対乗らないことで有名らしいよ? それがランチに行ってくれただけでも、奇跡みたいなもんじゃん」

 エルドが豪快に笑い、リュミナが肩をぽんぽん叩く。
 セラも淡々とした言い方ではあるが、その内容は俺をフォローするようなものだった。

「元気出してよ。さ、英雄団、飲み会二日目いきましょう!」

 リュミナの明るい声。
 その響きが、どこか心地よかった。

「――あ、そういやさ」

 エルドが頭をかきながら呟く。

「英雄団って名前……やっぱり変えないか?」
「ええ? や、やっぱり俺の付けた名前、センス無かったか……?」

 俺が尋ねると、エルドは慌てて「違う違う!」と大きく首を振った。

「いや、悪くないけどよ。あれも勢いで付けた名前だし……お互いのことを知った今の俺たちには、もうちょい合う名前がある気がしてさ」

 セラが興味深そうに眉を上げた。

「へえ。そこまで言うからには、何か考えてきてるんだよね?」
「へへ、モチロンだぜ!」

 ランドはそう言うと、コホンと咳ばらいを一つ。
 ゆっくり息を吸って、言葉を吐いた。

「――『』ってのはどうだ!」
「おお……」

 思わず感嘆のため息を漏らす。
 良い。かなり良い。
 言葉の響きがスッと入ってくるし、俺たちに合ってる気がする。
 リュミナも俺の隣で、ぱっと顔を輝かせていた。

「いい! それ、いいじゃん!」
「リスタート……再出発か、いいんじゃない? ボクたちらしくて」
「へへ……だろ?」

 エルドは照れくさそうに笑いながら続ける。

「家族のために生きてきた男と、記憶をなくした女と、仲間を失って力に囚われた男と、裏切られて人を信じられなくなった女。みんなそれぞれ過去を引きずってるけど、それでも、こうして前を向いて一緒に歩いてる。そんな俺たちだから、もう一回始めるって意味で『リスタート』がいいと思ってさ……どうかな? おっさん」

 俺、リュミナ、セラを順番に見ながらエルドは言った。

「……賛成だ。今日から俺たちは、『リスタート』だ」

 セラは頬に手を当てて小さく笑う。

「ふーん。エルドもたまには良いこと言うんだね」

 リュミナは両手を広げ「決まり! リスタート結成~!」と叫んだ。
 エルドが笑い、セラが肩をすくめ、三人の笑い声が混じる。
 その光景を見ているうちに、胸がじんわり熱くなった。

 俺は、なんていい仲間に恵まれたんだ。
 こんなに明るくて、温かくて、誰かの再出発を真っ直ぐに応援できる仲間たち。

「……本当に幸せだなあ」

 そう呟いた時、ふとマリアの顔が浮かぶ。
 もしかしたら、あの人も……本当は、再出発をしたいと思ってるんじゃないのか。

 心の奥に灯がともる。違ったなら、それでいい。
 余計なお世話なら、いくらでも恥をかいてやる。
 でも、もしも……もし少しでも前に進みたいって思ってるなら。
 俺は今度こそ、その背中を押したい。

「――ごめん、みんな!」

 三人が一斉にこちらを見た。

「俺、行かなきゃいけない!」

 リュミナが目を丸くし、何かを言いかけた瞬間、エルドが笑いながら腕を組む。

「……ま、何となく察したぜ」
「今度こそ、しっかり玉砕してきなよ。骨は拾ってあげるから」

 セラがため息をつきながらも、どこか優しい目で告げる。

「え、ええ……? もーっ! よくわかんないけど、いっけー!」

 リュミナが大きな声で言って、拳を掲げた。
 俺は手を振り返し、夜の坂道を駆けだす。
 胸の奥で、確かに何かが燃えていた。

 点々と道に並んだ街頭の光が、視界の端で一本の線のように繋がっていく。
 熱い頬にあたる風が冷たくて心地いい。
 心臓の鼓動が、夜の静けさを打ち破るように響いた。

「ハァ、ハァ……! 今度は、逃げない……!」

 走る足が止まらない。
 夜の街の喧騒が遠のき、代わりに彼女を呼ぶ心の声だけが響く。

 ――ランド・バーナード、三十七歳。おっさんの青春は、まだ終わらない。
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