召喚先は、誰も居ない森でした

みん

文字の大きさ
31 / 78

31 二つ名の聖女

しおりを挟む
ふと、懐かしい匂いがして目が覚めた。

「ここは……どこ?」

オールステニアの王城でも、竜王国の王城の部屋の天井でもない。お城よりも小さ目の部屋だけど、ベッドには天蓋が付いている。

「昨日は……あっ!」

何があった?と考えるよりも前に、体が動いてベッドから飛び出した。
ここが何処だか分からないけど、懐かしい匂いの方へと走って行く。

「お母さん!!」
「あ、茉白、おはよう」
「──っ!」
「あらあら……」

ギュゥッ─とお母さんに抱きつくと、お母さんも抱きしめてくれた。

ー良かった。夢じゃなかったー


昨日は、久し振りにお母さんと会えて嬉しくて、泣いて泣いていっぱい泣いて、泣きながらも色んな話をして──そこからの記憶が無いから、そのまま寝てしまったんだろう。なら、ここはサンフォルトさんの家だ。

「茉白、お腹空いてない?サンドイッチと玉子スープを作ってるんだけど」
「食べる!!」

2人分の朝食を机に並べて、お母さんと向き合って座って手を合わせて『いただきます』と言ってから食べ始める。お母さんの作るサンドイッチは、私が同じように作っても同じ味にはならなかった。3年ぶりに食べるサンドイッチは、お母さんのサンドイッチだ。

「あれ?そう言えば、サンフォルトさんとサリアスさんは?」
「あの2人なら、竜王国に行ってるわ。また、今日中に戻って来るって行ってたけど」
『キーキー!』
「キース!どうしてここに!?」

キースは昨日は居なかった筈。

「大丈夫だと思うけど、もしもの時の為に、カイルスさんがキースを呼び出したのよ」
「もしもの時の為に?」

隼のキースが、もしもの時の為にとは?普通の鳥…だよね?獰猛な鳥と言われているけど、キースは人懐っこい鳥で、人に危害を加えるようには見えない。

「あぁ、もしもの時は、キースが助けを呼んで来てくれるって事?」
「そう……なの?」
『キ…………』

何だろう?笑顔でお母さんがキースに圧を掛けて、キースが怯えているように見えるのは、気のせいかな?

「まぁ……何も無いと思うけどね。レナルドさんがこの家に結界を張ってるし、魔道具を身に着けてるから、私と茉白の存在がバレる事は無いから」

聞けば聞くほど、レナルドさんがいかに凄い魔道士なのかが分かる。お母さんと私を護ってくれた人。フィンとは正反対だ。

「これからどうするかは、レナルドさん達が戻って来てから話し合うとして、それ迄は何もする事がないんだけど、茉白は何かしたい事はある?」
「お母さんといっぱい話がしたい。もし、お母さんが大丈夫なら、聖女としてのお母さんの話が聞きたい」
「あ、それ、訊いちゃう?」

と、ニヤリと不敵に笑うお母さんから聞いた“聖女ユマ”の話はとんでもない話だった。



“救国の聖女”とは別に“戦闘の聖女”と言う二つ名があった。私の“聖女”のイメージは、王子や騎士に護られながら国中の穢れを祓う清い心を持つ女性。それが、まさかの『浄化も攻撃も戦闘もOK!』『男には頼らない!』なんて言う聖女だとは思わなかった。確かに、年齢よりも若く見えて可愛い容姿にしては、男気のある性格をしている。

「だって、イケメンにちやほやされて調子に乗った聖女の行く末なんて決まってるからね。聖女の力を失って、どこぞかの令嬢に弾劾されて一生幽閉なんて真っ平ごめんじゃない!それに、逆ハーレムって何!?気持ち悪いだけじゃない!」

ーラノベの読み過ぎじゃない?ー

とは言わないでおこう。

「だから、誰にも文句を言われないように力を付けた結果、そんな聖女になったのよ。最後には恋をして茉白を生んで幸せをゲットしたわ」
「お母さんは……恋をした事と、私を生んだ事を後悔してない?」

恋をした相手に番が現れて、理不尽にも命を狙われて。日本に戻れたのは良いけど、両親とは縁を切られて女一人手で私を育てる事になった。苦労ばかりの人生だ。私が居なければ、日本で両親と一緒に平穏な生活を送って、また新しい恋愛だってできた筈だ。

「私は、彼に恋をした事も、茉白を生んだ事も後悔なんてしてないわ。彼には、騎士として私を護ってくれた事を感謝しているし、好きだった気持ちも大切な思い出の一つになってるわ。茉白は私にとっては宝物よ。茉白が居たから私は強く生きる事ができているの。茉白が私の生きる理由なの」
「お母さん………私も、お母さんが大好き!!」
「ふふっ、それじゃあ、相思相愛ね!」
『キー………』

キースが……泣いている……鳥も涙を流すようだ。やっぱり、この世界はファンタジーで溢れている。

「あ、久し振りに一緒にパイでも作る?」
「作る!」

日本で、2人の休日が揃った日によくお菓子を作っていた。お味噌も作ったりしていた。

「お味噌も作る?」
「え!?お味噌……作れるの!?」
「聖女を舐めてはダメよ。土地に大豆が育ったのよ」
「お…おう…………」

どうやら、お母さんはチートな聖女なようです。



しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢は嫁き遅れていらっしゃる

夏菜しの
恋愛
 十七歳の時、生涯初めての恋をした。  燃え上がるような想いに胸を焦がされ、彼だけを見つめて、彼だけを追った。  しかし意中の相手は、別の女を選びわたしに振り向く事は無かった。  あれから六回目の夜会シーズンが始まろうとしている。  気になる男性も居ないまま、気づけば、崖っぷち。  コンコン。  今日もお父様がお見合い写真を手にやってくる。  さてと、どうしようかしら? ※姉妹作品の『攻略対象ですがルートに入ってきませんでした』の別の話になります。

公爵夫人の気ままな家出冒険記〜「自由」を真に受けた妻を、夫は今日も追いかける〜

平山和人
恋愛
王国宰相の地位を持つ公爵ルカと結婚して五年。元子爵令嬢のフィリアは、多忙な夫の言葉「君は自由に生きていい」を真に受け、家事に専々と引きこもる生活を卒業し、突如として身一つで冒険者になることを決意する。 レベル1の治癒士として街のギルドに登録し、初めての冒険に胸を躍らせるフィリアだったが、その背後では、妻の「自由」が離婚と誤解したルカが激怒。「私から逃げられると思うな!」と誤解と執着にまみれた激情を露わにし、国政を放り出し、精鋭を率いて妻を連れ戻すための追跡を開始する。 冒険者として順調に(時に波乱万丈に)依頼をこなすフィリアと、彼女が起こした騒動の後始末をしつつ、鬼のような形相で迫るルカ。これは、「自由」を巡る夫婦のすれ違いを描いた、異世界溺愛追跡ファンタジーである。

わたしの方が好きでした

帆々
恋愛
リゼは王都で工房を経営する若き経営者だ。日々忙しく過ごしている。 売り上げ以上に気にかかるのは、夫キッドの健康だった。病弱な彼には主夫業を頼むが、無理はさせられない。その分リゼが頑張って生活をカバーしてきた。二人の暮らしでそれが彼女の幸せだった。 「ご主人を甘やかせ過ぎでは?」 周囲の声もある。でも何がいけないのか? キッドのことはもちろん自分が一番わかっている。彼の家蔵の問題もあるが、大丈夫。それが結婚というものだから。リゼは信じている。 彼が体調を崩したことがきっかけで、キッドの世話を頼む看護人を雇い入れことにした。フランという女性で、キッドとは話も合い和気藹々とした様子だ。気の利く彼女にリゼも負担が減りほっと安堵していた。 しかし、自宅の上の階に住む老婦人が忠告する。キッドとフランの仲が普通ではないようだ、と。更に疑いのない真実を突きつけられてしまう。衝撃を受けてうろたえるリゼに老婦人が親切に諭す。 「お別れなさい。あなたのお父様も結婚に反対だった。あなたに相応しくない人よ」 そこへ偶然、老婦人の甥という紳士が現れた。 「エル、リゼを助けてあげて頂戴」 リゼはエルと共にキッドとフランに対峙することになる。そこでは夫の信じられない企みが発覚して———————。 『夫が不良債権のようです〜愛して尽して失った。わたしの末路〜』から改題しました。 ※小説家になろう様にも投稿させていただいております。

ついてない日に異世界へ

波間柏
恋愛
残業し帰る為にドアを開ければ…。 ここ数日ついてない日を送っていた夏は、これからも厄日が続くのか? それとも…。 心身共に疲れている会社員と俺様な領主の話。

異世界転移した私と極光竜(オーロラドラゴン)の秘宝

饕餮
恋愛
その日、体調を崩して会社を早退した私は、病院から帰ってくると自宅マンションで父と兄に遭遇した。 話があるというので中へと通し、彼らの話を聞いていた時だった。建物が揺れ、室内が突然光ったのだ。 混乱しているうちに身体が浮かびあがり、気づいたときには森の中にいて……。 そこで出会った人たちに保護されたけれど、彼が大事にしていた髪飾りが飛んできて私の髪にくっつくとなぜかそれが溶けて髪の色が変わっちゃったからさあ大変! どうなっちゃうの?! 異世界トリップしたヒロインと彼女を拾ったヒーローの恋愛と、彼女の父と兄との家族再生のお話。 ★掲載しているファンアートは黒杉くろん様からいただいたもので、くろんさんの許可を得て掲載しています。 ★サブタイトルの後ろに★がついているものは、いただいたファンアートをページの最後に載せています。 ★カクヨム、ツギクルにも掲載しています。

悪夢から逃れたら前世の夫がおかしい

はなまる
恋愛
ミモザは結婚している。だが夫のライオスには愛人がいてミモザは見向きもされない。それなのに義理母は跡取りを待ち望んでいる。だが息子のライオスはミモザと初夜の一度っきり相手をして後は一切接触して来ない。  義理母はどうにかして跡取りをと考えとんでもないことを思いつく。  それは自分の夫クリスト。ミモザに取ったら義理父を受け入れさせることだった。  こんなの悪夢としか思えない。そんな状況で階段から落ちそうになって前世を思い出す。その時助けてくれた男が前世の夫セルカークだったなんて…  セルカークもとんでもない夫だった。ミモザはとうとうこんな悪夢に立ち向かうことにする。  短編スタートでしたが、思ったより文字数が増えそうです。もうしばらくお付き合い痛手蹴るとすごくうれしいです。最後目でよろしくお願いします。

竜帝と番ではない妃

ひとみん
恋愛
水野江里は異世界の二柱の神様に魂を創られた、神の愛し子だった。 別の世界に産まれ、死ぬはずだった江里は本来生まれる世界へ転移される。 そこで出会う獣人や竜人達との縁を結びながらも、スローライフを満喫する予定が・・・ ほのぼの日常系なお話です。設定ゆるゆるですので、許せる方のみどうぞ!

皇帝とおばちゃん姫の恋物語

ひとみん
恋愛
二階堂有里は52歳の主婦。ある日事故に巻き込まれ死んじゃったけど、女神様に拾われある人のお世話係を頼まれ第二の人生を送る事に。 そこは異世界で、年若いアルフォンス皇帝陛下が治めるユリアナ帝国へと降り立つ。 てっきり子供のお世話だと思っていたら、なんとその皇帝陛下のお世話をすることに。 まぁ、異世界での息子と思えば・・・と生活し始めるけれど、周りはただのお世話係とは見てくれない。 女神様に若返らせてもらったけれど、これといって何の能力もない中身はただのおばちゃんの、ほんわか恋愛物語です。

処理中です...