召喚から外れたら、もふもふになりました?

みん

文字の大きさ
10 / 64

兄妹

しおりを挟む
「あぁ!ルーナ!本当に可愛い!!」

ムギュウッ─と、目をキラキさせて私を抱きしめているのは、姪のリナティアさん。ゆるふわなシルバーブロンドの髪に、少し吊り上がった目は紫色の瞳をしている。16歳とは思えない程大人びている。

公爵令嬢と言う、身分も高いにも関わらず、私と同じように森の地べたに座り、私を撫で回したり抱きついたりと、服が汚れようが全く気にしていない様子で、一緒について来ている侍女のユラさんも、そんなリナティアさんを微笑ましそうに見ているだけだった。

「リナ、ここに居たのか」

「お兄様!」

そこへ、兄であるリュークレインさんが、侍従のハンスさんと一緒にやって来た。

「叔母様に、ルーナは森に生っているフルーツが好きだと聞いたから、取りに来たの」

「慣れてる森で、安全な場所と危険な場所が分かっていると言っても何が起こるか分からないから、次からは俺に声をかけるように」

「あ、ごめんなさい」

シュンとして素直に謝るリナティアさん。そんなリナティアさんの頭を、リュークレインさんはポンポンと優しく叩いた。

「まぁ…俺が居なくても、殿下が影を付けているだろうけどね」

「──そんな事無いわよ」

「リナ?」

リナティアさんは、自分のスカートをギュッと握りしめたまま俯いた。

「殿下は……私の事なんて………」

とても小さく呟いたその言葉は、白狼動物である私には聞こえたけど、リュークレインさん達には聞こえていなかった。




その日の夜、各自が自室に下がり、アシーナさんと2人きりになってから、私はアシーナさんに昼間の事を話す事にした。

「リナと王太子の仲?」

『何となくなんですけど、リナティアさんが、自分は王太子様によく思われてない─みたいに思ってる感じだったんです。』



“殿下は……私の事なんて………”

小さな小さな声だった。耳がいい白狼わたしだから聞こえただけ。そう呟いた時のリナティアさんの目は、見覚え─記憶がある。あの目は、何かを諦めいる時の目だ。

信じたいけど、信じられない

前に進みたいのに、進めない

「ここから王都は離れていて2人の噂を耳にする事はないし、リナからは勿論の事、兄のレインからも何も聞いていないわ。もともと、リナと王太子様は幼馴染みで、昔は仲が良かったとは記憶しているけど」

“昔は仲が良かった幼馴染み”

ここでの生活が(白狼姿な事を省いて)楽しくて忘れてたけど、陽真達はどうなったんだろう?
アシーナさんが何も言わないと言う事は、何も情報が無いと言う事なんだろうけど。
私が急に黙り込んだからか、アシーナさんが心配そうな顔をして私の横までやって来て、いつものように優しくて頭を撫でてくれる。

「キョウコの事もそうだけど、リナの事も少し調べてみるわね」

『アシーナさん、ありがとうございます』



普段は床に寝床であるクッションを敷き詰めた篭の中で寝るのだけど、この日は少し寂しくなって、アシーナさんのベッドで一緒に寝させてもらった。





*滞在4日目*


今日は、アシーナさんとリナティアさんは街へ買い物に行っている。ならば─と、森でお昼寝でもしようかなと思い森迄やって来て、いつものお昼寝スポットでうとうととしていると、誰かが近付いて来る気配がして、ソロソロと視線を向けると、リュークレインさんが私に向かって歩いて来ていた。

『?』

ー森に何か用かな?ー

取り敢えず、ソロソロと起き上がってお座りをして待っていると、目の前迄来たリュークレインさんが、また、私の両脇に手を差し込んでそのまま私を持ち上げた。

ーだから!お腹を無防備に曝け出すのは恥ずかしいんですからね!!ー

と、後ろ足をバタつかせて抗議するけど、相手は身体のデカイ騎士。小物な私がバタついたところでピクリとも動かない。

「お前……月の加護持ちなんだな」

と、リュークレインさんは至近距離で私の瞳を覗き込んでいる。

「叔母上もそうだが、お前─ルーナの瞳もキラキラしていて綺麗だな。シルバーオブシディアンみたいだな」

ジッと見つめて来る、そのリュークレインさんの瞳はリナティアさんと同じ紫色。リナティアさんの色よりも、少し薄い感じだろうか?そのリュークレインさんの瞳だって、とても綺麗だと思う。

「あ、この持ち方は嫌いなんだったな?すまない」

困ったように笑った後、私を下ろして─はくれずに、そのまま私が寝転んでいた木の根本に腰を下ろし、私はリュークレインさんの膝の上に座らされた。

ー何で?ー

コテンと小首を傾げてリュークレインさんを見上げると

「可愛いな……」

と、ワシャワシャと体中を撫で回された。

アシーナさんやリナティアさんに撫で回されると気持ちいいしかないのに、リュークレインさんに撫で回されるのは、何だかめちゃくちゃ恥ずかしい。異性だからだろうか?
それでも、あまりの気持ちよさに、私はそのままリュークレインさんの膝の上で寝てしまっていた。


しおりを挟む
感想 107

あなたにおすすめの小説

【長編版】この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ

・めぐめぐ・
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。 アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。 『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。神聖魔法を使うことしか取り柄のない役立たずのくせに』 そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。 傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。 アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。 捨てられた主人公がパーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー長編版。 --注意-- こちらは、以前アップした同タイトル短編作品の長編版です。 一部設定が変更になっていますが、短編版の文章を流用してる部分が多分にあります。 二人の関わりを短編版よりも増しましたので(当社比)、ご興味あれば是非♪ ※色々とガバガバです。頭空っぽにしてお読みください。 ※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?

きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。 しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……

二周目聖女は恋愛小説家! ~探されてますが、前世で断罪されたのでもう名乗り出ません~

今川幸乃
恋愛
下級貴族令嬢のイリスは聖女として国のために祈りを捧げていたが、陰謀により婚約者でもあった王子アレクセイに偽聖女であると断罪されて死んだ。 こんなことなら聖女に名乗り出なければ良かった、と思ったイリスは突如、聖女に名乗り出る直前に巻き戻ってしまう。 「絶対に名乗り出ない」と思うイリスは部屋に籠り、怪しまれないよう恋愛小説を書いているという嘘をついてしまう。 が、嘘をごまかすために仕方なく書き始めた恋愛小説はなぜかどんどん人気になっていく。 「恥ずかしいからむしろ誰にも読まれないで欲しいんだけど……」 一方そのころ、本物の聖女が現れないため王子アレクセイらは必死で聖女を探していた。 ※序盤の断罪以外はギャグ寄り。だいぶ前に書いたもののリメイク版です

出来損ないと言われて、国を追い出されました。魔物避けの効果も失われるので、魔物が押し寄せてきますが、頑張って倒してくださいね

猿喰 森繁
恋愛
「婚約破棄だ!」 広間に高らかに響く声。 私の婚約者であり、この国の王子である。 「そうですか」 「貴様は、魔法の一つもろくに使えないと聞く。そんな出来損ないは、俺にふさわしくない」 「… … …」 「よって、婚約は破棄だ!」 私は、周りを見渡す。 私を見下し、気持ち悪そうに見ているもの、冷ややかな笑いを浮かべているもの、私を守ってくれそうな人は、いないようだ。 「王様も同じ意見ということで、よろしいでしょうか?」 私のその言葉に王は言葉を返すでもなく、ただ一つ頷いた。それを確認して、私はため息をついた。たしかに私は魔法を使えない。魔力というものを持っていないからだ。 なにやら勘違いしているようだが、聖女は魔法なんて使えませんよ。

巻き込まれではなかった、その先で…

みん
恋愛
10歳の頃に記憶を失った状態で倒れていた私も、今では25歳になった。そんなある日、職場の上司の奥さんから、知り合いの息子だと言うイケメンを紹介されたところから、私の運命が動き出した。 懐かしい光に包まれて向かわされた、その先は………?? ❋相変わらずのゆるふわ&独自設定有りです。 ❋主人公以外の他視点のお話もあります。 ❋気を付けてはいますが、誤字脱字があると思います。すみません。 ❋基本は1日1話の更新ですが、余裕がある時は2話投稿する事もあります。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

処理中です...