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その後
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❋“置き場”に投稿した話になります。こちらに移動してきました❋
王太子妃となってから3年─
有り難い事に、今でも外交の仕事に携わる事ができている。勿論、王太子妃としての公務が第一優先だ。
「分かるわね?アシェル。コレは、外交ではあるけど、公務ですからね?必ず王太子夫妻で行ってもらいますからね?」
と、ニッコリ微笑むのは王妃陛下であるクリフォーネ様。
「……分かってますよ。必ずエヴィと行きますよ。」
と、苦虫を噛み潰したような顔で返事をしたのは、王太子であるアシェルハイド様。
「「……………」」
そんな2人のやり取りをハラハラしながら見守っているのは、国王陛下であるギデルト様と、私─エヴィだ。
今、私達4人が居るのは国王両陛下のプライベートルームであるリビングルーム。普段の国王陛下は、少し近寄り難い雰囲気─威圧感があるけど、プライベートな時間になると、途端に優しい義父になる。
性格が似ているのか、お義母様とアシェル様はよく黒い笑顔を浮かべながら……会話をしている。
そんな2人を、私はお義父様と一緒に見守っている。これが、いつものルーティンだ。最初の頃は戸惑いもしたけれど、今では(ハラハラするけど)少し慣れてきて、2人が話し合いをしている間、お義父様に「エヴィ、コレ美味しいから食べなさい。」と、2人を横目にお菓子をくれるので、「ありがとうございます。」とお礼を言って、コソコソと食べたりもしている。
「嫁が可愛い──」
ーん?ー
私がコソコソ、モグモグ食べていると、いつもお義父様は何かを呟くのだけど、声が小さくて聞き取る事ができない。コテン─と小首を傾げても「何でもないから、気にしなくて良いよ」と、頭を撫でられるだけなので、気にしないようにしている。
アシェル様と言い、お義父様と言い、頭を撫でたりポンポンとするのが好きなようで、私によくしてくるのだけど、それがまた……嬉しかったりもする。血の繋がった本当の両親から与えられなかったモノを、国王両陛下とアシェル様から沢山貰えている事が、とても嬉しい。
「──と言う事で、エヴィ。来月のゲルダン王国への訪問、宜しく頼むわね。」
ニッコリ微笑むお義母様に「承知しました」と返事をすると、お義母様からも頭を撫でられた。
ーあれ?私、子供扱いされてる?ー
と思ったりしなくも無い、今日この頃である。
“ゲルダン王国への訪問”
それは、ゲルダン王国と正式に貿易の契約を結んだ後、直ぐに行われる予定だったが、国内が少し騒がしくなったようで、落ち着く迄の間は訪問を延期する事となった。
箝口令が敷かれているのか、国内で何が起こったのか…私達の耳に入って来る事はなかった──筈なんだけど……どうやら、国王両陛下とアシェル様は知っているようだ。その為、何故か、アシェル様が私をゲルダン王国に連れて行く事を、少し渋っていたのだ。
相変わらずの過保護ぶりである。
勿論。アシェル様だって、コレが公務である事は分かっているから、本気で私を連れて行かない─とは思ってはいない。ただ、ゲルダン王国には、私の元家族が居るから心配しているだけなのだ。
両親だった2人は別として、リンディ(とサイラス)は元気にやっているんだろうか?ゲルダンに行けば、会えなくとも、少しは情報を得る事ができるかな?
*ゲルダン王国*
到着した日は、国王両陛下に挨拶をした後は、疲れをとる為に王城でゆっくりと過ごした。ゲルダンの王城は要塞のような城で、内装もシンプルな作りで、充てがわれた部屋に使われている家具などもシンプルな物で統一されていて、落ち着いた感じの部屋だった。
アラバスティアの王城も、華美過ぎずシックな家具で揃えられていて好きだけど、こう言うシンプルなのも嫌いではない。
そして、翌日は王城にゲルダン王国の主だった貴族を招いての昼食会が開かれた。
招かれた貴族達を見ると、何となく…若い人が多いな─と言う印象を受けたが、特にそれ以外では問題もなかった為、その昼食会は穏やかな雰囲気のまま進んで行った。
その昼食会も終わり、貴族達と少し話をした後、帰って行く貴族達を見送り国王両陛下とアシェルと私は、王城の奥にある庭園のガゼボへとやって来た。
そこで、国王陛下から聞かされたのが、1年程前に起こった国内の騒ぎの話だった。
「魔力無し………」
それは、私にとっては色々と衝撃的な事実だった。
王弟が光の魔力持ちのリンディを娶ったのは、自身が行っていた非道な行いを隠す為。
母であったポーリーンが魔力無しだった事。
その上、今では禁止薬物とされているモノを服用し続け、魔力持ちを装っていた。それが、ゲルダン王国では手に入らないモノで服用できなくなり、そのまま副作用でゲルダン王国に来てから1年も絶たずに亡くなっていたのだ。
しかも、亡くなった事に関して、夫であるフロイド=ブルーム侯爵からは何の連絡もなかったそうだ。
王弟ルシエルの行いを、妻であるエイミー様によって国王陛下に伝えられ、国王陛下は直ぐ様迷う事なく王弟ルシエルを断罪し、それを機に、魔力主義者の貴族達を一掃したのだ。その為、世代交代などが行われ、今は若い当主が増えたと言う事だった。
ーだから、昼食会では若い人が多かったのねー
と、1人納得していると
「王太子妃─エヴィ様、この度の事、本当に申し訳無かった。」
「えっ!?」
何故か、目の前に座っているゲルダンの国王両陛下が、頭を下げて謝っている。
「あっ…頭を上げて下さい!謝られるような事なんて…」
「愚弟の思惑や行いに気付かず、エヴィ様の家族を巻き込んでしまった。特に…リンディ嬢には…とても辛い思いを…させてしまった。」
「あ……」
リンディ──は、一体今は、どうしているのか。
「あの……母の事は……自業自得ですし、その、私からは正直な話特に何も言う事はありませんが、リンディは…今はどうしているんでしょうか?」
「あぁ、リンディ嬢なら今は───」
ゲルダン王国訪問の旅も、残すところ2日となった日の夜は、国王主催の夜会が開かれた。
高位貴族な程若い者が多かった─と言う事は、高位貴族な程魔力主義者が多かったと言う事なんだろう。この若い者達が、これからどう魔力無しと向き合って行くのか……意識がぼんやりとしかけた時、隣に立つアシェルがソッと私の腰に手を添えて支えてくれた。
「エヴィ、大丈夫?」
「アシェル…ありがとう。大丈夫よ。」
ニッコリ笑うと、アシェルも微笑んでくれる。アシェルはいつもこうだ。私が何も言わなくても助けてくれる。寄り添ってくれる。腹黒真っ黒だけど、とても優しい。
「余計な事を考えてるよな?覚えておけよ?」
「………」
耳元で囁かれる。その顔は、やっぱり爽やか腹黒笑顔だ。そんな顔も、最近では愛しく思ってしまったりする─のは、アシェルには絶対に言わない。言ったら最後だからね!
「失礼致します。アラバスティア王太子様、王太子妃様、ご挨拶、よろしいでしょうか?」
「……あぁ、構わないよ。」
声を掛けて来たのは、ゲルダン王国の辺境地に住んでいる子爵の子息だった。何でも、当主である子爵の代理で今日の夜会に、婚約者と一緒に参加しているとの事だった。その婚約者とは─
「リン……ディ?」
その子爵の子息─ネッドの後ろから姿を表したのは、私の双子の妹リンディだった。
夜会が行われているホールに続いているテラスに、今、私はリンディと2人きりで向き合っている。勿論、そのテラスの硝子張りの扉は少し開いたままで、そこには私の近衛でもあるルイーズとゲルダン王国の護衛が待機している。
「…リンディ、元気にしてた?私…この国で起こっていた事を全く知らなくて……」
「知らなくて当たり前なの。私が、エヴィに……アラバスティアに伝えないで欲しいとお願いしたから!エヴィ…ごめんなさい!」
「え!?」
「勿論、謝ったところで、許してもらおうなんて思ってないわ。許す必要もない。ただ、エヴィにどうしても謝りたかったの。自己満足だと言われても…仕方無いと思ってる。本当に……ごめんなさい!」
と、目の前に居るリンディが、私に頭を下げて謝っている。
ーえ?コレは誰?コレは…本当にあのリンディなの!?ー
ある意味、私の頭の中はパニックだ。リンディに謝られた事は勿論の事、頭を下げられた事なんて一度もなかった。一体何があった?何が起こってるの??
「如何に私が愚かだったのか……」
と、リンディはゲルダンに来てからの話をしだした。
リンディは“白い結婚”だった。妻とも側室とも女扱いされる事もなく、ただただ魔力無しと言う理由だけで色んな意味で傷をつけられていく側室2人を癒すだけの日々。逆らえばポーリーンを盾に脅され、王弟ルシエルの言うがままに過ごした日々。そこで、ようやく自分が如何に愚かだったのかを思い知ったと言う。
そして、エイミー様によって開放され自由を得た3人の側室達は、それぞれの路を歩み始めた。それぞれ、贅沢さえしなければ、働かなくとも生涯食べていける程のお金を貰ったらしいが、1人は自領へ戻り領地の発展の為に、もう1人は療養を経た後、料理好きが高じてお店をオープンさせ、今では人気のカフェになっているそうだ。そして、リンディは、ゲルダンの国王から聞いていた通り、ブルーム侯爵の領地として与えられた土地にある鉱山で働く人達を癒しているそうだ。
「他人の為に力を使うのって、本当に楽しいの。私の光の力はそんなに強くも多くもないから、1日に数人しか癒せないんだけど…そんな私にも“ありがたい”って、皆がお礼を言ってくれるの。それが…本当に嬉しくて。」
と、リンディはフワリと優しい笑顔を浮かべる。それは、とても自然で綺麗な笑顔だ。憑き物が落ちた様な─スッキリした笑顔。
ーあぁ、リンディは、本当に変わったんだなぁー
「さっきも言ったけど、私は、今更エヴィに許してもらおうとは思ってはいないの。ただ…ケジメをつけたかったのかも知れない。今迄の自分の行いのせいで、この光の魔力がいつまで私にあるのか分からないけど、私の中にある限り、私は他人の為に使って癒していこうと思ってるの。」
それだけ、伝えたかったの──
リンディはそれだけ言うと、テラスからホールへと入って行き、入れ替わるようにアシェルがやって来た。
*アシェルハイド視点*
「エヴィとの時間を作っていただき、ありがとうございました。もう二度と……2人の前には…姿を現しませんので、ご安心下さい。エヴィの事…これからも、宜しくお願い致します。それでは…失礼します。」
と、リンディ嬢はネッドと一緒にホールの中へと進んで行った。
「──アシェル……」
テラスに居るエヴィの元へ行くと、珍しくエヴィの方から俺に抱き着いてきた。
「あのリンディが…頭を下げてごめんなさいって……」
「そうか…」
「これからは、他人の為に力を使うって…」
「そうか…」
「………ポーリーンも………魔力無しだったって……」
「………」
顔は俺の胸に埋めているままだから、どんな顔をしているのかは分からないが、俺の服を握っている手は震えている。
「自分と同じ魔力無しだったから…余計に私の事が疎ましかったのかなぁ…って。」
「…エヴィ……」
名を呼ぶと、俺の腕の中で顔を上げたエヴィは、泣いてはいなかった。そこには、透き通る様に綺麗な琥珀色の瞳があった。
「私、アシェルの横に並び立つに恥じないように、これからももっともっと頑張ります!魔力無しが、もっともっと住みやすい…生きやすい国を…世界を作る為にも……」
俺の腕の中でニッコリ微笑むエヴィは、本当に綺麗で可愛くて愛しい。もう既に、恥じる存在ではなく、王太子妃らしい立派な存在になっている事を、本人だけが知らないのだ。
学生時代から俺に見付けられて捕らわれて、気が付いた時には逃げ場がなかったエヴィ。
ー本当に、自分は嫌な奴だなぁー
と思うが、エヴィをどうしても逃したくなかったから仕方無い─と、自分に言い聞かせる。ある意味可哀想なエヴィ。でも、その分、これからも俺はエヴィをどんなモノからも護っていく。
「俺も、エヴィに恥じないように、立派な王太子、国王になるように頑張る……一緒に頑張ろう。」
「──っ!はい!」
そう、1人だけじゃない。一緒に頑張るのだ。
そして、ソレを誓うように、愛しいエヴィにそっと触れるだけのキスをした。
それから1年後─
お花畑はネッドと結婚し、同時に父親の子爵がネッドに子爵を引き継がせ、お花畑は子爵夫人となったが、毎日のように鉱山へと足を運んでいるそうだ。
フロイド=ブルーム侯爵は、表立った魔力主義の活動はしていなかった為、特にお咎めはなく、今でも領地運営に力を注いでいる。
サイラス=ブルームは、侯爵家嫡男であり、姉が光の魔力持ちと言う事もあり、釣書が毎日のように送られて来ているとか。
そして、魔力主義に傾いていたのを、リンディの再教育と一連の国の出来事とで、流石のサイラスも心を入れ替えて来ているようだ。
「アシェル?」
自室の椅子に座って報告書を読んでいると、寝室で眠っていた筈のエヴィが、目を擦りながらやって来た。
ー可愛いな!ー
「エヴィ?どうした?」
サッと立ち上がり、俺が羽織っていたショールをエヴィの肩に掛けて抱き寄せる。
「ん…目…覚めたら…アシェが居なかったから……」
「ごふっ─────」
ー寝ぼけたエヴィがデレている!!しかも、舌っ足らず!アシェ呼び!ー
サッとエヴィを抱き上げると
「アシェ……温かいね………」
「ぐぅ────っ」
と、寝ぼけたデレエヴィが、俺の胸にスリッと頬ずりをした後、スースーと寝息を立てて寝てしまった。
「くっ───」
ーこの感情をどうしろと!?ー
腕の中で安心したような顔で寝ているエヴィ。
大概の事は計算できるし思い通りに動かせる事はできるが、エヴィに関しては、思い通りにいかない事が増えてきたな─と思うが、エヴィになら振り回されるのも悪くない。
「エヴィ、おやすみ。」
頭にキスをしてからエヴィをベッドに寝かせて、俺もその横に潜り込み、エヴィを背中から抱き締めて俺も眠りに就いた。
王太子妃となってから3年─
有り難い事に、今でも外交の仕事に携わる事ができている。勿論、王太子妃としての公務が第一優先だ。
「分かるわね?アシェル。コレは、外交ではあるけど、公務ですからね?必ず王太子夫妻で行ってもらいますからね?」
と、ニッコリ微笑むのは王妃陛下であるクリフォーネ様。
「……分かってますよ。必ずエヴィと行きますよ。」
と、苦虫を噛み潰したような顔で返事をしたのは、王太子であるアシェルハイド様。
「「……………」」
そんな2人のやり取りをハラハラしながら見守っているのは、国王陛下であるギデルト様と、私─エヴィだ。
今、私達4人が居るのは国王両陛下のプライベートルームであるリビングルーム。普段の国王陛下は、少し近寄り難い雰囲気─威圧感があるけど、プライベートな時間になると、途端に優しい義父になる。
性格が似ているのか、お義母様とアシェル様はよく黒い笑顔を浮かべながら……会話をしている。
そんな2人を、私はお義父様と一緒に見守っている。これが、いつものルーティンだ。最初の頃は戸惑いもしたけれど、今では(ハラハラするけど)少し慣れてきて、2人が話し合いをしている間、お義父様に「エヴィ、コレ美味しいから食べなさい。」と、2人を横目にお菓子をくれるので、「ありがとうございます。」とお礼を言って、コソコソと食べたりもしている。
「嫁が可愛い──」
ーん?ー
私がコソコソ、モグモグ食べていると、いつもお義父様は何かを呟くのだけど、声が小さくて聞き取る事ができない。コテン─と小首を傾げても「何でもないから、気にしなくて良いよ」と、頭を撫でられるだけなので、気にしないようにしている。
アシェル様と言い、お義父様と言い、頭を撫でたりポンポンとするのが好きなようで、私によくしてくるのだけど、それがまた……嬉しかったりもする。血の繋がった本当の両親から与えられなかったモノを、国王両陛下とアシェル様から沢山貰えている事が、とても嬉しい。
「──と言う事で、エヴィ。来月のゲルダン王国への訪問、宜しく頼むわね。」
ニッコリ微笑むお義母様に「承知しました」と返事をすると、お義母様からも頭を撫でられた。
ーあれ?私、子供扱いされてる?ー
と思ったりしなくも無い、今日この頃である。
“ゲルダン王国への訪問”
それは、ゲルダン王国と正式に貿易の契約を結んだ後、直ぐに行われる予定だったが、国内が少し騒がしくなったようで、落ち着く迄の間は訪問を延期する事となった。
箝口令が敷かれているのか、国内で何が起こったのか…私達の耳に入って来る事はなかった──筈なんだけど……どうやら、国王両陛下とアシェル様は知っているようだ。その為、何故か、アシェル様が私をゲルダン王国に連れて行く事を、少し渋っていたのだ。
相変わらずの過保護ぶりである。
勿論。アシェル様だって、コレが公務である事は分かっているから、本気で私を連れて行かない─とは思ってはいない。ただ、ゲルダン王国には、私の元家族が居るから心配しているだけなのだ。
両親だった2人は別として、リンディ(とサイラス)は元気にやっているんだろうか?ゲルダンに行けば、会えなくとも、少しは情報を得る事ができるかな?
*ゲルダン王国*
到着した日は、国王両陛下に挨拶をした後は、疲れをとる為に王城でゆっくりと過ごした。ゲルダンの王城は要塞のような城で、内装もシンプルな作りで、充てがわれた部屋に使われている家具などもシンプルな物で統一されていて、落ち着いた感じの部屋だった。
アラバスティアの王城も、華美過ぎずシックな家具で揃えられていて好きだけど、こう言うシンプルなのも嫌いではない。
そして、翌日は王城にゲルダン王国の主だった貴族を招いての昼食会が開かれた。
招かれた貴族達を見ると、何となく…若い人が多いな─と言う印象を受けたが、特にそれ以外では問題もなかった為、その昼食会は穏やかな雰囲気のまま進んで行った。
その昼食会も終わり、貴族達と少し話をした後、帰って行く貴族達を見送り国王両陛下とアシェルと私は、王城の奥にある庭園のガゼボへとやって来た。
そこで、国王陛下から聞かされたのが、1年程前に起こった国内の騒ぎの話だった。
「魔力無し………」
それは、私にとっては色々と衝撃的な事実だった。
王弟が光の魔力持ちのリンディを娶ったのは、自身が行っていた非道な行いを隠す為。
母であったポーリーンが魔力無しだった事。
その上、今では禁止薬物とされているモノを服用し続け、魔力持ちを装っていた。それが、ゲルダン王国では手に入らないモノで服用できなくなり、そのまま副作用でゲルダン王国に来てから1年も絶たずに亡くなっていたのだ。
しかも、亡くなった事に関して、夫であるフロイド=ブルーム侯爵からは何の連絡もなかったそうだ。
王弟ルシエルの行いを、妻であるエイミー様によって国王陛下に伝えられ、国王陛下は直ぐ様迷う事なく王弟ルシエルを断罪し、それを機に、魔力主義者の貴族達を一掃したのだ。その為、世代交代などが行われ、今は若い当主が増えたと言う事だった。
ーだから、昼食会では若い人が多かったのねー
と、1人納得していると
「王太子妃─エヴィ様、この度の事、本当に申し訳無かった。」
「えっ!?」
何故か、目の前に座っているゲルダンの国王両陛下が、頭を下げて謝っている。
「あっ…頭を上げて下さい!謝られるような事なんて…」
「愚弟の思惑や行いに気付かず、エヴィ様の家族を巻き込んでしまった。特に…リンディ嬢には…とても辛い思いを…させてしまった。」
「あ……」
リンディ──は、一体今は、どうしているのか。
「あの……母の事は……自業自得ですし、その、私からは正直な話特に何も言う事はありませんが、リンディは…今はどうしているんでしょうか?」
「あぁ、リンディ嬢なら今は───」
ゲルダン王国訪問の旅も、残すところ2日となった日の夜は、国王主催の夜会が開かれた。
高位貴族な程若い者が多かった─と言う事は、高位貴族な程魔力主義者が多かったと言う事なんだろう。この若い者達が、これからどう魔力無しと向き合って行くのか……意識がぼんやりとしかけた時、隣に立つアシェルがソッと私の腰に手を添えて支えてくれた。
「エヴィ、大丈夫?」
「アシェル…ありがとう。大丈夫よ。」
ニッコリ笑うと、アシェルも微笑んでくれる。アシェルはいつもこうだ。私が何も言わなくても助けてくれる。寄り添ってくれる。腹黒真っ黒だけど、とても優しい。
「余計な事を考えてるよな?覚えておけよ?」
「………」
耳元で囁かれる。その顔は、やっぱり爽やか腹黒笑顔だ。そんな顔も、最近では愛しく思ってしまったりする─のは、アシェルには絶対に言わない。言ったら最後だからね!
「失礼致します。アラバスティア王太子様、王太子妃様、ご挨拶、よろしいでしょうか?」
「……あぁ、構わないよ。」
声を掛けて来たのは、ゲルダン王国の辺境地に住んでいる子爵の子息だった。何でも、当主である子爵の代理で今日の夜会に、婚約者と一緒に参加しているとの事だった。その婚約者とは─
「リン……ディ?」
その子爵の子息─ネッドの後ろから姿を表したのは、私の双子の妹リンディだった。
夜会が行われているホールに続いているテラスに、今、私はリンディと2人きりで向き合っている。勿論、そのテラスの硝子張りの扉は少し開いたままで、そこには私の近衛でもあるルイーズとゲルダン王国の護衛が待機している。
「…リンディ、元気にしてた?私…この国で起こっていた事を全く知らなくて……」
「知らなくて当たり前なの。私が、エヴィに……アラバスティアに伝えないで欲しいとお願いしたから!エヴィ…ごめんなさい!」
「え!?」
「勿論、謝ったところで、許してもらおうなんて思ってないわ。許す必要もない。ただ、エヴィにどうしても謝りたかったの。自己満足だと言われても…仕方無いと思ってる。本当に……ごめんなさい!」
と、目の前に居るリンディが、私に頭を下げて謝っている。
ーえ?コレは誰?コレは…本当にあのリンディなの!?ー
ある意味、私の頭の中はパニックだ。リンディに謝られた事は勿論の事、頭を下げられた事なんて一度もなかった。一体何があった?何が起こってるの??
「如何に私が愚かだったのか……」
と、リンディはゲルダンに来てからの話をしだした。
リンディは“白い結婚”だった。妻とも側室とも女扱いされる事もなく、ただただ魔力無しと言う理由だけで色んな意味で傷をつけられていく側室2人を癒すだけの日々。逆らえばポーリーンを盾に脅され、王弟ルシエルの言うがままに過ごした日々。そこで、ようやく自分が如何に愚かだったのかを思い知ったと言う。
そして、エイミー様によって開放され自由を得た3人の側室達は、それぞれの路を歩み始めた。それぞれ、贅沢さえしなければ、働かなくとも生涯食べていける程のお金を貰ったらしいが、1人は自領へ戻り領地の発展の為に、もう1人は療養を経た後、料理好きが高じてお店をオープンさせ、今では人気のカフェになっているそうだ。そして、リンディは、ゲルダンの国王から聞いていた通り、ブルーム侯爵の領地として与えられた土地にある鉱山で働く人達を癒しているそうだ。
「他人の為に力を使うのって、本当に楽しいの。私の光の力はそんなに強くも多くもないから、1日に数人しか癒せないんだけど…そんな私にも“ありがたい”って、皆がお礼を言ってくれるの。それが…本当に嬉しくて。」
と、リンディはフワリと優しい笑顔を浮かべる。それは、とても自然で綺麗な笑顔だ。憑き物が落ちた様な─スッキリした笑顔。
ーあぁ、リンディは、本当に変わったんだなぁー
「さっきも言ったけど、私は、今更エヴィに許してもらおうとは思ってはいないの。ただ…ケジメをつけたかったのかも知れない。今迄の自分の行いのせいで、この光の魔力がいつまで私にあるのか分からないけど、私の中にある限り、私は他人の為に使って癒していこうと思ってるの。」
それだけ、伝えたかったの──
リンディはそれだけ言うと、テラスからホールへと入って行き、入れ替わるようにアシェルがやって来た。
*アシェルハイド視点*
「エヴィとの時間を作っていただき、ありがとうございました。もう二度と……2人の前には…姿を現しませんので、ご安心下さい。エヴィの事…これからも、宜しくお願い致します。それでは…失礼します。」
と、リンディ嬢はネッドと一緒にホールの中へと進んで行った。
「──アシェル……」
テラスに居るエヴィの元へ行くと、珍しくエヴィの方から俺に抱き着いてきた。
「あのリンディが…頭を下げてごめんなさいって……」
「そうか…」
「これからは、他人の為に力を使うって…」
「そうか…」
「………ポーリーンも………魔力無しだったって……」
「………」
顔は俺の胸に埋めているままだから、どんな顔をしているのかは分からないが、俺の服を握っている手は震えている。
「自分と同じ魔力無しだったから…余計に私の事が疎ましかったのかなぁ…って。」
「…エヴィ……」
名を呼ぶと、俺の腕の中で顔を上げたエヴィは、泣いてはいなかった。そこには、透き通る様に綺麗な琥珀色の瞳があった。
「私、アシェルの横に並び立つに恥じないように、これからももっともっと頑張ります!魔力無しが、もっともっと住みやすい…生きやすい国を…世界を作る為にも……」
俺の腕の中でニッコリ微笑むエヴィは、本当に綺麗で可愛くて愛しい。もう既に、恥じる存在ではなく、王太子妃らしい立派な存在になっている事を、本人だけが知らないのだ。
学生時代から俺に見付けられて捕らわれて、気が付いた時には逃げ場がなかったエヴィ。
ー本当に、自分は嫌な奴だなぁー
と思うが、エヴィをどうしても逃したくなかったから仕方無い─と、自分に言い聞かせる。ある意味可哀想なエヴィ。でも、その分、これからも俺はエヴィをどんなモノからも護っていく。
「俺も、エヴィに恥じないように、立派な王太子、国王になるように頑張る……一緒に頑張ろう。」
「──っ!はい!」
そう、1人だけじゃない。一緒に頑張るのだ。
そして、ソレを誓うように、愛しいエヴィにそっと触れるだけのキスをした。
それから1年後─
お花畑はネッドと結婚し、同時に父親の子爵がネッドに子爵を引き継がせ、お花畑は子爵夫人となったが、毎日のように鉱山へと足を運んでいるそうだ。
フロイド=ブルーム侯爵は、表立った魔力主義の活動はしていなかった為、特にお咎めはなく、今でも領地運営に力を注いでいる。
サイラス=ブルームは、侯爵家嫡男であり、姉が光の魔力持ちと言う事もあり、釣書が毎日のように送られて来ているとか。
そして、魔力主義に傾いていたのを、リンディの再教育と一連の国の出来事とで、流石のサイラスも心を入れ替えて来ているようだ。
「アシェル?」
自室の椅子に座って報告書を読んでいると、寝室で眠っていた筈のエヴィが、目を擦りながらやって来た。
ー可愛いな!ー
「エヴィ?どうした?」
サッと立ち上がり、俺が羽織っていたショールをエヴィの肩に掛けて抱き寄せる。
「ん…目…覚めたら…アシェが居なかったから……」
「ごふっ─────」
ー寝ぼけたエヴィがデレている!!しかも、舌っ足らず!アシェ呼び!ー
サッとエヴィを抱き上げると
「アシェ……温かいね………」
「ぐぅ────っ」
と、寝ぼけたデレエヴィが、俺の胸にスリッと頬ずりをした後、スースーと寝息を立てて寝てしまった。
「くっ───」
ーこの感情をどうしろと!?ー
腕の中で安心したような顔で寝ているエヴィ。
大概の事は計算できるし思い通りに動かせる事はできるが、エヴィに関しては、思い通りにいかない事が増えてきたな─と思うが、エヴィになら振り回されるのも悪くない。
「エヴィ、おやすみ。」
頭にキスをしてからエヴィをベッドに寝かせて、俺もその横に潜り込み、エヴィを背中から抱き締めて俺も眠りに就いた。
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