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王太子の外堀埋め

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❋“置き場”に投稿した話になります。こちらに移動してきました❋










初めまして。
私の名前は─メリッサ=ハザルバート。
ハザルバート伯爵家の嫡子です。

私には、仲良くしている友達が2人居る。
1人は─ルイーズ=ファルストリア
第二騎士団長を務める父親を持ち、ルイーズ自身も女性騎士のたまごである。

もう1人は─エヴィ=ブルーム
光の魔力持ちの双子の妹が居て、エヴィ本人は魔力無しだそうで、社交界に於いては常に噂に上がっている令嬢だ。

“魔力無し”だから何?魔力持ちだからと言って、魔力持ち全員が善人、優秀な人ばかりではないし、魔力無しだからと言って魔力無し皆が悪人や馬鹿と言う訳でも無い。げんに、魔力無しのエヴィの学校での成績は1、2を争っている程で、エヴィ本人はとても可愛らしくて優しい子である。
逆に光の魔力持ちである双子の妹の方が……よっぽと質が悪いと言える。脳内は花が咲き乱れている。常春なんだろう。

エヴィとルイーズとは、教室での席が前後と横で近く、入学してからすぐに話をするようになった。
魔力無しだけど─と困った顔をしながら言うエヴィに「「それがどうしたの?」」と、ルイーズとハモった時は、エヴィは嬉しそうに笑っていた。その笑顔を見て、エヴィがブルーム家でどんな扱いを受けているか─何となく想像はできたけど、実際、後々エヴィ本人から聞かされか話は、何とも後味の悪いモノだった。
ハッキリとした虐待ではない。表面上は、誰が見ても幸せそうな家族に見えるだろう。そんな環境の中で、よく擦れずに育ったなぁ─と思う。自称、我儘令嬢らしいけど。自分で“我儘令嬢だから!”と言っているエヴィは、可愛いだけ。ルイーズは騎士─近衛騎士を目指しているからか、特にチマチマ動くエヴィが可愛く見えるようで、いつも、雛を見守る母鳥の様な眼差しをエヴィに向けている─なんて事は、エヴィ本人は全く気付いていない。でも、それに気付いている人が、私以外にもう1人いた。






「ルイーズ嬢には、このまま成績をキープして、尚且つ、近衛騎士になれるよう武に於いても上を目指して欲しい。」

ある日の放課後、エヴィが居ない隙を狙ったかのように、ロドヴィック=オルテウス様が私達の教室にやって来て、そのまま生徒会室へと連れて来られた。
そこで、生徒会長であり王太子殿下に、そう告げられたルイーズ。

「私はもともと、父が団長を務めている近衛騎士を目指していますので、努力するつもりですが……どうして?と、お訊きしても?」

「あぁ、そうだったな。私は、エヴィを……王太子妃に迎えたいと思っているんだ。」

「「えっ!?」」

それには驚いた。てっきり、光の魔力持ちのリンディが、その立場になると思っていたから。王妃の器ではないけど。
エヴィなら、問題ないとは思うけど……それには、どうしたって“魔力無し”がネックになってしまう。

「“魔力無し”に関しては、特に問題視していない。それ以上のモノを、エヴィ自身が持っているから大丈夫だ。」

と、王太子殿下はニッコリと微笑んでいる。一見爽やかそうに見える笑顔。エヴィにとっては……腹黒笑顔らしい。

「それで、ルイーズ嬢は、いつもエヴィを見守っているだろう?エヴィもルイーズ嬢とメリッサ嬢に対しては信を置いている。なら、ルイーズ嬢には、このまま近衛騎士を目指して、ゆくゆくは、王太子妃となったエヴィ専属の近衛騎士になってもらいたいと…思っている。」

ーあれ?確か…エヴィは殿下から全力で逃げてなかったかしら?それなのに……王太子妃となるのは…決定事項なの?ー

素直に思い浮かんだ疑問。それが、顔に出てしまっていたんだろう。
目の前の殿下は、それはそれは美しい笑顔を浮かべて私を見ている。

「………」

“キュン”ではない。“ゾクッ”と自然と体が震えてしまう、その笑顔。この時初めて、エヴィが言う“腹黒爽やか殿下”の意味を理解した。

ーエヴィ…残念ながら…エヴィは殿下からは…逃げられないと思うわー

「それと、メリッサ嬢。ハザルバート夫人が運営している商会は、主に魔石を取り扱っていたな?」

「あ、はい。商会を立ち上げた曽祖父が一番最初に扱ったのが魔石でしたので、ウチは魔石メインの商会です。」

魔石は特に平民には欠かせない物。平民も8割が魔力持ちではあるが、貴族に比べればその魔力は弱くて少ない。その為、私生活の一部としては問題はないが、働く場では大量の魔力が必要になる事が多く、それを魔石で補っているのが現状である。その為、魔石に関しては、ハザルバートの者は幼い頃からしっかりと勉強させられるのだ。
実際、10歳の年に魔石の採掘現場に行かされ、一週間の現場体験もさせられている。労働者には、尊敬しかない。

「まだ公表されてはいないが、今度、ゲルダン王国と魔石の外交を始める事になってね。」

「ゲルダン王国……ですか!?」

ゲルダン王国─

あまり国交の無い国だけど、国全体が山脈で囲まれていて、その山脈も鉱山が多い。しかも、その鉱山では純度の高い魔石がよく採れる─らしい。祖父が何度かゲルダン王国の商会と魔石の商談を持ち掛けたが、契約を結ぶ事はできなかった。

「それで、調べてみたら、魔石に関してはハザルバートが一番熟知していると。だから、今度行われる予定のゲルダン王国との商談の席に、我が国の代表としてハザルバート商会に立ち会ってもらいたい。」

スッと、殿下が書類の入った封筒を差し出して来た。

「その旨を認めたモノだ。夫人に渡してもらえるかい?」

「勿論でごさいます。ありがとうございます。それで……見返りは、何をお望みで?」

ルイーズには、エヴィ専属の近衛騎士になれと言った。それは、ルイーズに厳しい試練を与える代わりに、将来は王太子妃、王妃専属にすると言うご褒美を与えている。

なら、ゲルダン王国の魔石の取り扱いの優先権を与えられた代わりに、何かを求められるのは必然だろう。

「流石はハザルバート伯爵家の嫡子だ。理解が早いと助かる。」

フッと笑ってから言われた見返りとは─


エヴィが王太子妃、王妃になっても、外交の場に出るのは必然になるだろうと。他国で、エヴィだから─エヴィなら─と言う外交官や商会があるらしい。
そんな時に、私にサポート、付き添いをして欲しいとの事。我がハザルバートは国を跨ぐ活動をしている為、身を守る為の護衛の育成にも力を入れている。その辺りも考慮されているんだろう。それに、相手がエヴィの女友達の私なら、殿下もと言う訳だ。

それに、この見返りは、ハザルバートこちら側にはメリットしかない。

「勿論、それは喜んでお受け致しますわ。」

私もニッコリと微笑む。


ーエヴィ。残念ながら、外堀りは既に埋まってるわー


後は、殿下がどうやってエヴィを落とすか。エヴィがどうやって落ちるか…。


エヴィが嫌がった時は……なんとか頑張って、国外に逃がせば良いかしら?と、隠れられそうな国をいくつか頭に浮かべた。






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