巻き込まれ召喚のモブの私だけが還れなかった件について

みん

文字の大きさ
72 / 203
第四章ー王都ー

ピアスの発動

しおりを挟む
その魔導師の元まで一気に駆け寄り、先ずは、剣ではなく思いっきり蹴り上げる。

「カルザイン様!?」
「エディオル!?」

後ろでティモス殿とクレイルが、ビックリしたように俺を呼ぶが今は無視をする。

その魔導師がぶっ飛んで床に倒れこんだと同時に、彼女の体の下で展開していた魔法陣が消えたのを確認する。そのままフェンリルに視線を向けると…

怒りの消えた瞳で俺を見ていた。そして、フェンリルは、優しい瞳を彼女に向けた。

ーやっぱりー

今は…彼女はフェンリルに任せておくのが一番だろうと思い、彼女から意識を離し、再び魔導師に意識を向ける。

「ちょっ…エディオル!ルディ殿を助ける方が先だろう!?」

かなり焦った様にクレイルが叫ぶ。

それもそうか…今のフェンリルは、クレイルが仕掛けた光の檻から出ていて、その上、足と首にあった枷も解かれているのだ。しかも、足元に彼女が横たわっている。誰がどう見ても、フェンリルが彼女を襲っているよに見えるだろう。

「いや─。彼女にとっては、あそこが一番安全なんだ。先にやるべき事は…あの魔導師を潰す事だ─。」

「はぁ!?エディオル、何を言って─…」

「カルザイン様、は必要ですか?」

クレイルはまだ納得していないようだが、ティモス殿の方は冷静なようだ。流石は、パルヴァンの騎士と言ったところか。

「いや─必要ない。あっちで倒れてる奴を頼む。」

「承知した。」

そう言うと、お互いが直ぐに動き出した。



ー彼女に手を出した事、後悔させてやるー



もう一度蹴り上げてやろうか?と思ったが、相手は曲がりなりにも魔導師。立ち上がり防御の魔術を発動させる。

ー遅いけどー

完全に発動させる前に懐に飛び込み、やっぱりもう一度同じ所を蹴り上げる。

「ぐぅ─っ!!」

倒れこんだ男の元まで一気に詰めて、男の胸に右膝を付いて押さえ込み、左手で男の喉元を押さえる。

「楽に…死ねると思うなよ?」

これじゃあ、どちらが悪者か分からないが…手加減なんてする気は全くない。


『どうやら、この夜会にパルヴァン辺境伯を恨む輩が居たようで…。』


この2人だけ始末しても、に誰が居るのか分からなければ、また同じ様な事が起こるかもしれない。王族としても、この国の重要なパルヴァン辺境地絡みの事件となれば、放ってはおけないだろう。だから、この2人には生きていてもらわなければいけない。

もとより、楽になれる道なんて選ばせるつもりもないが…。

こんな不利な状況にも関わらず、この男はニヤリと嗤い出した。

「何がおかしい?」

「…何が…か…誰がお前に教えてやるもんか…はははっ…」

「エディオル気を付けろ!そいつ、の魔石を持ってる!」

ー攻撃魔法を込めた魔石か!?ー

「ここで使う気はなかったけどね!はい、バイバイ」

そう言うと、その男は魔石に込められた魔術を発動させた。ほぼ同時にクレイルが何やら魔術を展開させようとしたようだが、多分間に合わないだろう。

ー流石に、この距離でやられたら少しヤバいかもしれないなー

と、呑気に考えていると、左耳がほんのり熱を持ち温かくなる。

目の前に攻撃魔法が現れ─


「エディオル!!」


クレイルの叫び声が酷く響いた。


パ──ンッ


「……?」


目を閉じて衝撃を覚悟していたが、何も起こらなかった。不思議に思い目を開けると、魔導師の男は気を失っていた。チラリとクレイルを見ると、クレイルとティモス殿が驚いた様に目を見開いて固まっている。

未だにほんのりと温かいピアスに手をやる。

今迄感じた事はなかったが、この魔石に何か…防御系の魔力が込められていた?

「…嘘…だろう…」

そう囁いたクレイルを見ると…顔が引き攣っていた。

ピアスの事も気になるが、兎に角今は、2人の男が逃げないように拘束する事。そして─

フェンリルの方を見ると、フェンリルが横たわっている彼女を囲むようにして臥せっていた。何となく…フェンリルは満足気に笑っている…ように見える。

さて…その彼女をどうするか…。おそらく、レオン殿は勿論、ティモス殿もきっと知っているんだろう。知らなかったのは…俺達の方だけ。クレイルは、まだ気付いてないだろう。ルディ殿がハル殿だと言う事に。
それに、彼女はきっと王城ここには居たくない筈だ。どうする?と考えていると─

「取り敢えず、ルディ殿を城の医務室に連れて行こうか…」

と彼女に近付こうとすると、フェンリルがクレイルに軽くだが、殺気を飛ばした。

「えっ…何で?」

「城に…連れて行かせたくないんだろう?」

そう言うと、フェンリルは殺意を消し、また、満足げに笑う。

「取り敢えず…。クレイル、この2人を拘束して、牢屋に放り込んでおいてくれ。事が事だから、王も動かざるを得なくなるだろう。それに…グレン様も動くと思うから、絶対に逃がすなよ。」

「…だよね…。はぁー…本当に、新たな聖女様が来て以降、色んな事があり過ぎだよ…。私にはよく分からないけど…ルディ殿の事は、エディオルとティモス殿に任せるよ。ルディ殿が休めるように、神殿ここの客室を用意させておくよ。」

と言って、クレイルは魔術で2人を拘束し、転移魔法を発動させた。








しおりを挟む
感想 152

あなたにおすすめの小説

水魔法しか使えない私と婚約破棄するのなら、貴方が隠すよう命じていた前世の知識をこれから使います

黒木 楓
恋愛
 伯爵令嬢のリリカは、婚約者である侯爵令息ラルフに「水魔法しか使えないお前との婚約を破棄する」と言われてしまう。  異世界に転生したリリカは前世の知識があり、それにより普通とは違う水魔法が使える。  そのことは婚約前に話していたけど、ラルフは隠すよう命令していた。 「立場が下のお前が、俺よりも優秀であるわけがない。普通の水魔法だけ使っていろ」  そう言われ続けてきたけど、これから命令を聞く必要もない。 「婚約破棄するのなら、貴方が隠すよう命じていた力をこれから使います」  飲んだ人を強くしたり回復する聖水を作ることができるけど、命令により家族以外は誰も知らない。  これは前世の知識がある私だけが出せる特殊な水で、婚約破棄された後は何も気にせず使えそうだ。

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?

きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。 しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……

【完結】初恋相手に失恋したので社交から距離を置いて、慎ましく観察眼を磨いていたのですが

藍生蕗
恋愛
 子供の頃、一目惚れした相手から素気無い態度で振られてしまったリエラは、異性に好意を寄せる自信を無くしてしまっていた。  しかし貴族令嬢として十八歳は適齢期。  いつまでも家でくすぶっている妹へと、兄が持ち込んだお見合いに応じる事にした。しかしその相手には既に非公式ながらも恋人がいたようで、リエラは衆目の場で醜聞に巻き込まれてしまう。 ※ 本編は4万字くらいのお話です ※ 他のサイトでも公開してます ※ 女性の立場が弱い世界観です。苦手な方はご注意下さい。 ※ ご都合主義 ※ 性格の悪い腹黒王子が出ます(不快注意!) ※ 6/19 HOTランキング7位! 10位以内初めてなので嬉しいです、ありがとうございます。゚(゚´ω`゚)゚。  →同日2位! 書いてて良かった! ありがとうございます(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)

笑い方を忘れた令嬢

Blue
恋愛
 お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。

異世界に召喚されたけど、従姉妹に嵌められて即森に捨てられました。

バナナマヨネーズ
恋愛
香澄静弥は、幼馴染で従姉妹の千歌子に嵌められて、異世界召喚されてすぐに魔の森に捨てられてしまった。しかし、静弥は森に捨てられたことを逆に人生をやり直すチャンスだと考え直した。誰も自分を知らない場所で気ままに生きると決めた静弥は、異世界召喚の際に与えられた力をフル活用して異世界生活を楽しみだした。そんなある日のことだ、魔の森に来訪者がやってきた。それから、静弥の異世界ライフはちょっとだけ騒がしくて、楽しいものへと変わっていくのだった。 全123話 ※小説家になろう様にも掲載しています。

0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。

アズやっこ
恋愛
 ❈ 追記 長編に変更します。 16歳の時、私は第一王子と婚姻した。 いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。 私の好きは家族愛として。 第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。 でも人の心は何とかならなかった。 この国はもう終わる… 兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。 だから歪み取り返しのつかない事になった。 そして私は暗殺され… 次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。

処理中です...