81 / 203
第四章ー王都ー
レフコースとハル
しおりを挟む『ところで、主の本当の名は何と言うのだ?』
「名前…」
『いや……無理には聞かぬし、言わなくて良い。真名でなくとも、既に繋がっている故、問題なく契約は交わせると思う。“ハル”としてでも良い。名を…交わしてくれるか?』
きっと、“名を交わす”と言うのは、“契約”を交わすと言う事だろう。
「私で…良い?」
『…ハルが良い。』
スリッと、私に頬擦りしながら答えるフェンリルは…とても愛おしいと思った。
「私の名前は…ハル。あなたの名前は…レフコース…。」
そう言うと、私達の足下で魔法陣が展開した。
優しい光りが私とレフコースを包み込む。すると、私の中にレフコースの魔力が流れ込んで来るのが分かった。とても優しい魔力だ。
その時、微かに声が聞こえた
『コトネ、ありがとう。レフコースの事、宜しく頼む…』
主の意識の中に入り、無事名を交わし我の魔力が主に流れ込んで行く。真名ではないから、我も全ての力を発揮できる訳ではないが…枯渇しかけた魔力分はもう戻った筈だ。
現実に戻って来て、主が寝ているベッドに前足を掛けて主の顔を覗き込む。
ー良かった。今度は…間に合って良かったー
今度こそ、主が嫌がる者や物から、我が守ってみせる。
我と主の魔力を纏ったピアスを着けている者が(うち1人は時々外していたが)3人。ブレスレットを着けている者が2人。この王城敷地内に居る。この5人は主が気を許した者かと思って、我の近くに来ても放っておいたが…どうやら違うようだ。まぁ、主に害が無いようだから…やっぱり放っておこう。
その中でも…あの騎士の事は気に入っている。我が主を傷付けてしまいそうなのを防いでくれた。今回も真っ先に駆けつけて主を救ってくれた。
主に魔力封じの首輪を着け、贄の魔法陣を発動させようとしたあの人間達…。あの騎士の言う通り、楽には死なせぬ─。我が主に手を出した事、必ず後悔させてやろう。
『─ん?またあの魔導師か…』
我を拘束したつもりの魔導師。奴はよくチョロチョロと動き回る。嫌いではないが……主が望んでいない事に関しては、それ以上は踏み込むな─と、牽制を込めて魔力を溢れさせる。
『ふむ─。』
あの魔導師はチョロチョロとするが、素直だ。我が少し威圧すると、すぐに止める。
可愛い奴なのかもしれぬな。
そして、もう1人のパルヴァンの騎士。奴は何の問題も無いな。主も奴には結構気を許している様に見える。いや、基本、パルヴァンの人間は、皆、主にとって“大切”な者達の様だな。
ならば、我にとってもパルヴァンは大切な物の一つ…と言える。
主は、元の世界に還りたかったのに…我の我が儘のせいで還れなかったのだ。そんな我に…主は笑って赦してくれた。ここに居て良いのか?と。我が嬉しいと私も嬉しいと言ってくれた。
これから、もっと、主にとって大切な者や物、嬉しい事が増えたらいいなと思う。
ただ気になるのは…あの“聖女”とか言う者だな─。あの者が来てから、奴の雰囲気が少し変わった様な気がする。主に害が無ければ良いが…少し様子をみるかー。
「…ん…」
ピクリと、我の耳がその声に反応する。
グイッと我の顔を更に主の顔の方に近付ける。
閉じられていた瞼がゆっくりと開かれて、淡い水色の瞳が現れた。
何度かパチパチと瞬きをした後
「レフコース?」
『何だ?主。』
名前を呼ばれたのが嬉しくて、尻尾がパタパタと揺れる。
「こんなに…小さかった?」
『あぁ─。このサイズにならないと、主の側におれぬからな。それとも、大きい方が良いか?』
「うーん…小さい方が良い…かな?大きいと…また興奮した時に潰されそう。ふふっ…」
『う゛ーもう、あの様な馬鹿はせぬ…』
「ふふっ…」
主がフワリと優しく笑って、我の頭をまた撫でる。主に撫でられるのは、正直、とても気持ちがいい。
「…私が…あなたの“主”だって。自分に自信が持てるようになったら、私の真名と…交わし直させてくれる?それまで…待っててくれる?」
主に自信があっても無くても、我にとっては主に変わりは無いのだが…
『勿論だ。いつまでだって、待っている。』
そう、今迄もずっと待っていた。これからは、側に居れるのだ。そんな事位、いつまででも待てる。
『そろそろ、主が目を覚ました事、奴等に知らせようか…。』
「やつら?」
『ふむ。名は分からぬが、騎士2人と魔導師1人が隣の部屋に居るのだ。』
「騎士2人と魔導師1人…」
『勿論、その3人はここには入らせぬがな。医師を呼んでもらうのだ。』
ーパルヴァンの者は別として、あの2人に会う会わぬは主次第だー
我はそう考えながら、前足をベッドから下ろして、隣の部屋に繋がる扉へと向かった。
211
あなたにおすすめの小説
取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?
きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。
しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……
【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです
大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。
「俺は子どもみたいな女は好きではない」
ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。
ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。
ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。
何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!?
貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。
自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~
浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。
本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。
※2024.8.5 番外編を2話追加しました!
お飾り公爵夫人の憂鬱
初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。
私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。
やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。
そう自由……自由になるはずだったのに……
※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です
※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません
※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります
0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。
アズやっこ
恋愛
❈ 追記 長編に変更します。
16歳の時、私は第一王子と婚姻した。
いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。
私の好きは家族愛として。
第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。
でも人の心は何とかならなかった。
この国はもう終わる…
兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。
だから歪み取り返しのつかない事になった。
そして私は暗殺され…
次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。
婚約破棄されたトリノは、継母や姉たちや使用人からもいじめられているので、前世の記憶を思い出し、家から脱走して旅にでる!
山田 バルス
恋愛
この屋敷は、わたしの居場所じゃない。
薄明かりの差し込む天窓の下、トリノは古びた石床に敷かれた毛布の中で、静かに目を覚ました。肌寒さに身をすくめながら、昨日と変わらぬ粗末な日常が始まる。
かつては伯爵家の令嬢として、それなりに贅沢に暮らしていたはずだった。だけど、実の母が亡くなり、父が再婚してから、すべてが変わった。
「おい、灰かぶり。いつまで寝てんのよ、あんたは召使いのつもり?」
「ごめんなさい、すぐに……」
「ふーん、また寝癖ついてる。魔獣みたいな髪。鏡って知ってる?」
「……すみません」
トリノはペコリと頭を下げる。反論なんて、とうにあきらめた。
この世界は、魔法と剣が支配する王国《エルデラン》の北方領。名門リドグレイ伯爵家の屋敷には、魔道具や召使い、そして“偽りの家族”がそろっている。
彼女――トリノ・リドグレイは、この家の“戸籍上は三女”。けれど実態は、召使い以下の扱いだった。
「キッチン、昨日の灰がそのままだったわよ? ご主人様の食事を用意する手も、まるで泥人形ね」
「今朝の朝食、あなたの分はなし。ねえ、ミレイア? “灰かぶり令嬢”には、灰でも食べさせればいいのよ」
「賛成♪ ちょうど暖炉の掃除があるし、役立ててあげる」
三人がくすくすと笑うなか、トリノはただ小さくうなずいた。
夜。屋敷が静まり、誰もいない納戸で、トリノはひとり、こっそり木箱を開いた。中には小さな布包み。亡き母の形見――古びた銀のペンダントが眠っていた。
それだけが、彼女の“世界でただ一つの宝物”。
「……お母さま。わたし、がんばってるよ。ちゃんと、ひとりでも……」
声が震える。けれど、涙は流さなかった。
屋敷の誰にも必要とされない“灰かぶり令嬢”。
だけど、彼女の心だけは、まだ折れていない。
いつか、この冷たい塔を抜け出して、空の広い場所へ行くんだ。
そう、小さく、けれど確かに誓った。
笑い方を忘れた令嬢
Blue
恋愛
お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる