巻き込まれ召喚のモブの私だけが還れなかった件について

みん

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第四章ー王都ー

フェンリルと巫女②

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あの某国の人間は…我ではなく…その巫女に目を付けたのだ─。

我の加護が無くなった後、我に代わる守護も得られず国内が荒れ出し、その上他国からの侵略も度々あったそうだ。そこで、我を使を手に入れれば、また我が某国を守護すると…思ったようだ。

そう、彼女はただの“巫女”だったのだが、我の魔力を使いこなしていた為に“魔法使い”と思われていたのだ。魔法使いは、この世界でも殆ど居ないと言われている。某国は…そんな彼女をも欲したのだ。

勿論、巫女は某国に行くのを拒否した。パルヴァンの巫女である事に誇りを持っていた。それに、今まで守護をしてくれていた我を、アッサリ始末しようとした某国の人間達に対して、憤りを禁じ得なかったのだ。

そうこうしている間にも、某国はどんどん荒れていき─遂に、強硬手段に出た。我が少し巫女の側を離れた時に巫女を拘束して某国へ連れ去ろうとしたのだ。巫女は、我の魔力を使い穢れを祓えても、攻撃や防御などの魔法は一切使えなかった。巫女は抵抗した。そして…抵抗する巫女を押さえ付けようとした某国の騎士に…過って殺されてしまったのだ。



我が戻って来た時には…手遅れだった。離れていた時に、急に繋がりが切れた事が判って驚き、急いで巫女の元に戻ったが…全てが遅かったのだ。そして、我の魔力が一気に膨れ上がり暴走し出した。そして油断した瞬間、某国の騎士に左目を射抜かれ、体は剣で切りつけられた。

もう、我の主である巫女が居ないのだ…それに我はもう疲れていた。抵抗するのは止めて…我はそのまま眠りに就いたのだ。








「ひょっとして…アイスブルーの魔石が填まっていた…あの大樹?」

『そう。あの樹の中で眠っていた。あの魔石は…あの時射抜かれた我の左目だ。』

「えっ!?左目!?ごごめんなさい!あの、起きたら?ちゃんと返します!!」

ーあれが左目だったなんて…思いもしなかった。加工とかしなくて良かったー

そんな焦った私を見て、フッと笑った。









何年眠っていたか分からぬが…ある時、あの巫女の気配を感じて目が覚めた。とても懐かしくて…優しい魔力。あの主が還って来たのかと…。どうしても名を呼んで欲しくて…大樹から出ると、を囲む騎士達が目に入った。

我はその瞬間…我を失ってしまったかのように、その騎士達に飛び掛かってしまったのだ。

まだ、あの悪夢が続いているかと勘違いしてしまったのだ。

でも、飛び掛かった瞬間に気付いた。これらは某国の騎士ではないし、この3人の中に巫女は居ないと。それでも、我を止める事ができず、1人の騎士に大怪我を負わせてしまったが…。

ーパルヴァン様の事…だよね…間違いでかー

それから、騎士達の攻撃をかわしつつ巫女の気配を探して…見付けたのだ。




ーあの邸に居るー







「あの時の…。あれは、攻撃では…なかった?」

『すまない。嬉し過ぎて、我の大きさを忘れて…飛び付こうとしてしまったのだ…。』

ーえっと…一歩違ってたら死んでたけどね?でも…シュンと項垂れるフェンリルは可愛いー

『そんな我から、主を護ったあの騎士には感謝している。あの騎士は…良い瞳をしている。』

ーカルザイン様の…事だよね?本当に、感謝しなきゃだよねー


とにかく、我は起きたばかりで、今がどんな状況なのか分からなかった故、あの魔導師に拘束されたフリをして、周りの─この国の情報や主の様子を調べる事にしたのだ。

ーあぁ…拘束されたフリだったんだー

情報はすぐに把握できた。主が異世界から巻き込まれて来た事。聖女達の浄化が終われば、元の世界に還ってしまう事も。ただ…

『主は微かだが、すでに我と繋がっていた。だから…主は元の世界に還れなかった…。我の魔力が、主の中にある我の魔力を引き寄せてしまった。』

フェンリルは、更にシュンと項垂れた。

ーあぁ…私は還れなかったのかー

引っ張られる感覚がしたのは、本当に引っ張られたから。この…フェンリルに…。

未だに項垂れているフェンリルに、そっと手を伸ばし、頭を撫でてみる。

すると、目をパチクリと瞬かせた後、嬉しそうに目を細めて更に私の方へと頭を向けてきた。

「私は…この世界に居ても…良い存在なのかなぁ?」

『…主が元の世界に還りたがっていたのは知っている。でも、我は…主が還れなかった事が、ここに居てくれる事が、我の名を呼んでくれた事が…とても嬉しい。すまない…。』

嬉しいと言いながらも、耳がシュンとしている。

「ふふっ…」

『主?』

「何故還れなかったのか?って、ずっと悩んでたの。この世界に居て良いのか。私は何のためにここに居るのか─って。でも、ここに居て良い理由があった。私がここに居て、あなたが嬉しいと言ってくれるなら…私も嬉しい。」

そう言って、私はフェンリルの首に抱き付いた。そして、フェンリルは、グルグルと喉を鳴らしながら私の頭に自身の頬を擦り寄せて来た。


ーお姉さん達、私はモブな魔法使いだけど、この世界に居ても…良いようですー








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