巻き込まれ召喚のモブの私だけが還れなかった件について

みん

文字の大きさ
105 / 203
第五章ー聖女と魔法使いとー

痛い?帰り道

しおりを挟む

「えっと…“馬”ですね…」

何かがおかしい。カルザイン様は、私をパルヴァン邸迄送ってくれると…言っていなかっただろうか?

「こいつは“ノア”。私の愛馬だ。」

成る程。カルザイン様の愛馬か。流石、騎士様の馬だけあって、身体はガッシリとしていてとても綺麗だ。

ーで?何で…馬?ー

頭のなかは?ばかりが飛んでいる。取り敢えず、ヨシヨシとノアを撫でさせてもらっていると、カルザイン様がヒョイッとノアに騎乗した。そして、馬上から

「ハル殿、手を…出してくれるか?」

「手?」

何だかよく分からないけど、右手をカルザイン様に差し出す。あれ?前にもこんな事あったような…?と思った瞬間─

「──っ!?」

差し出した手を掴まれ、そのまま馬上に引っ張り上げられた。

「っ????」

大変です!脳内はパニックです!

そう、以前もこんな事がありました。あったけど…あの時は、ティモスさんの後ろ側に座ったんです。しかも、ティモスさんは本気で馬を走らせたから、必死以外のなにものでもなかったんです。でも─


「そんなに緊張しなくても…落としたりはしない。もう少し…背中を私に預けた方が楽だと思うよ?」

はい。何故か…私はカルザイン様の前に座らされています。手綱を持ったカルザイン様の両腕の間に…。薬師の服装─ズボンを履いていたので、横座りではなく、しっかり馬に跨がるように…。

ーまだ…ズボンで良かったー

いやいやいやいや!背中を預けるって…何!?背凭れなんて無いよね!?

「背中を…預ける???何処に???」

つい言葉にしてしまったのが…いけなかった…

カルザイン様が、左腕を私のお腹に回して優しくグイッとカルザイン様自身の体に引き寄せる。

「─っ!!??」

預けるって事だ。」

「ひゃいっ!?」

グッと私を引き寄せたままで、耳元で囁かれて、思わず変な声が出た。

ーななな何が…どうなっているんですか!?はっ!レフコース!ー

と、レフコースに助けを求めようとしたら

『主、2人で馬で帰るなら、我が居なくても大丈夫であろう?我は、久し振りにその辺を散歩してから帰る故、先に行くぞ?』

と言って、姿を消して飛び立って行った。

ーレフコース!?ー

「ん?レフコース殿は…どうした?」

ー耳元で話すのは…止めて下さい!ー

「あの…えっと…散歩…して帰るそう…です…」

「…そうか…」

優しい声。とても。あまりにも優しい声だったから、つい、カルザイン様の方へ視線を向けてしまった。

「ん?」

カルザイン様と目が合った。とても、優しい顔で微笑んでいる。

ー心臓が痛いー

「あの…近過ぎませんか?」

「離れると危ないが?」

ーですよね。分かってますー

「う゛ーん…」

熱くなった頬を両手で抑えながら唸る。

「ふっ…本当に…ハル殿は…可愛いな…。それじゃあ、ゆっくり進めるけど、もし怖かったら言ってくれ。ノア、宜しく頼むよ。」

そう言って、カルザイン様がノアに声を掛けると、ノアはゆっくりと歩きだした。


ーカっ…また…カワイイって言われた!うぇっ!?ー

あんなにも怖いと思っていたカルザイン様。何がどうなってるの?ちょっと…落ち着こう?落ち…着けるわけないよね!?

馬上で、1人脳内パニックを起こして、顔を真っ赤にした薬師。そんな薬師を後ろから優しく見守る、近衛騎士のエディオル=カルザイン。

この様子が、王都内に一気に広がったのは…言うまでもない。




『ふむ─。外堀からと言うやつだな?あの騎士も、なかなかやるなぁ。』

と、レフコースは嬉しそうに尻尾を揺らしながら囁いた。











「ハル殿、今日はお疲れ様。お願いの事、また宜しく頼む。では、私はこれからグレン様に用があるから、失礼する。」

「あ、はい。こちらこそ…今日はありがとうございました。また…2日後に…。」

パルヴァン邸に到着後、カルザイン様はロンさんの案内で、パルヴァン様の待つ部屋へ、私は迎えてくれたルナさんと自室へと向かった。







「疲れました…」

部屋に入って、フカフカのソファーにダイブしました。今だけは許して欲しい─。

「調査は、そんなに大変だったんですか?」

「──調査…」

ーあーっ!ソレ、スッカリ忘れてた!ー

「あー…あのー、ルナさん。喉が渇いたので、何か飲み物をもらえますか?」

「はい。すぐ用意をして来ます。」

そう言って、ルナさんは一度部屋から出て行った。


『主、お帰り。』

スルリと、レフコースが私の足元に現れた。

「…レフコース…」

ー裏切り者がここに居ますー

ジトリとした目で見ているのに、レフコースは何故かご機嫌なようで、尻尾がフリフリとよく動いている。

ーくそうっ…やっぱり可愛いなっ!!ー

我慢できずにレフコースに抱き付いた。

「…助けてくれたら良かったのに…」

『何から助けるのだ?馬乗りは…楽しくなかったのか?』

私が抱き付いているのにも関わらず、レフコースはコテンと首を傾げる。

ー楽しくなかったか?ー

あれからの帰り道は…いつもよりもグンと高い目線で、ゆっくりと町並みを眺めながら帰って来た。その間、カルザイン様はずっと…優しかったし、楽しくなかった訳じゃない─けど…。

「心臓が痛くて疲れたの…。」

『…主…』

レフコースのその声に、憐れみが含まれているような気がしたのは…気のせいにしておいた。




しおりを挟む
感想 152

あなたにおすすめの小説

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?

きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。 しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~

浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。 本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。 ※2024.8.5 番外編を2話追加しました!

お飾り公爵夫人の憂鬱

初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。 私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。 やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。 そう自由……自由になるはずだったのに…… ※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です ※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません ※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります

0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。

アズやっこ
恋愛
 ❈ 追記 長編に変更します。 16歳の時、私は第一王子と婚姻した。 いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。 私の好きは家族愛として。 第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。 でも人の心は何とかならなかった。 この国はもう終わる… 兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。 だから歪み取り返しのつかない事になった。 そして私は暗殺され… 次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。

婚約破棄されたトリノは、継母や姉たちや使用人からもいじめられているので、前世の記憶を思い出し、家から脱走して旅にでる!

山田 バルス
恋愛
 この屋敷は、わたしの居場所じゃない。  薄明かりの差し込む天窓の下、トリノは古びた石床に敷かれた毛布の中で、静かに目を覚ました。肌寒さに身をすくめながら、昨日と変わらぬ粗末な日常が始まる。  かつては伯爵家の令嬢として、それなりに贅沢に暮らしていたはずだった。だけど、実の母が亡くなり、父が再婚してから、すべてが変わった。 「おい、灰かぶり。いつまで寝てんのよ、あんたは召使いのつもり?」 「ごめんなさい、すぐに……」 「ふーん、また寝癖ついてる。魔獣みたいな髪。鏡って知ってる?」 「……すみません」 トリノはペコリと頭を下げる。反論なんて、とうにあきらめた。 この世界は、魔法と剣が支配する王国《エルデラン》の北方領。名門リドグレイ伯爵家の屋敷には、魔道具や召使い、そして“偽りの家族”がそろっている。 彼女――トリノ・リドグレイは、この家の“戸籍上は三女”。けれど実態は、召使い以下の扱いだった。 「キッチン、昨日の灰がそのままだったわよ? ご主人様の食事を用意する手も、まるで泥人形ね」 「今朝の朝食、あなたの分はなし。ねえ、ミレイア? “灰かぶり令嬢”には、灰でも食べさせればいいのよ」 「賛成♪ ちょうど暖炉の掃除があるし、役立ててあげる」 三人がくすくすと笑うなか、トリノはただ小さくうなずいた。  夜。屋敷が静まり、誰もいない納戸で、トリノはひとり、こっそり木箱を開いた。中には小さな布包み。亡き母の形見――古びた銀のペンダントが眠っていた。  それだけが、彼女の“世界でただ一つの宝物”。 「……お母さま。わたし、がんばってるよ。ちゃんと、ひとりでも……」  声が震える。けれど、涙は流さなかった。  屋敷の誰にも必要とされない“灰かぶり令嬢”。 だけど、彼女の心だけは、まだ折れていない。  いつか、この冷たい塔を抜け出して、空の広い場所へ行くんだ。  そう、小さく、けれど確かに誓った。

笑い方を忘れた令嬢

Blue
恋愛
 お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。

処理中です...