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第五章ー聖女と魔法使いとー

謝罪とお礼

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「軽食を用意してあるから」

と言われて、カルザイン様に連れられて来たのは─



「わぁー。きれいー。」

以前、私が使っていた部屋の庭だった。

そう、その庭には、サエラさんと一緒に植えた、色とりどりのかすみ草が今でも綺麗に咲いていたのだ。

「ベラトリス王女とサエラ殿が、今でもよく手入れをしているんだ。」

「そうなんですね…。」

今すぐには会えないけど、今度会う時には…たくさんお礼をしよう。

暫く、そのかすみ草を眺めた後、カルザイン様に促されて、軽食が用意されていたテーブルについた。




「それで、私に話とは?」

丸テーブルに、私とカルザイン様は対面に座り、私の足元にレフコースが丸まって寝ている。
椅子に座り、少し軽食を摘まんだ後、カルザイン様が口を開いた。私は姿勢を正し─


「本当は、あの日、元の世界に還る前に言うべき事だったんですけど…。」

カルザイン様の目をしっかりと見据える。

王城ここでお世話になっている時に、貴族の令嬢にからまれた時と、図書館で困っている時に助けていただいたのに、お礼の一つも言えずに…すみませんでした!」

言い終えた後、椅子に座ったまま頭を下げる。

少しの沈黙の後─

「顔を上げてくれ。それに関しては…ハル殿が謝る必要はない。」

言われて顔を上げ、カルザイン様を見ると、困ったような顔をするカルザイン様。

「最初に私がんだ。ハル殿を傷付けた。だから、私の事が…怖かったんだろう?それこそ、私の方が謝るべき事だ。」

「いえ、その事に関しては先程も王太子様にも言いましたけど、謝罪は受け取ってますから、そんな事は…お礼を言わなかった理由には…ならないと思うんです。」

お互いひきません!─みたいに黙り込む。

そして、先に溜め息を吐き口を開いたのはカルザイン様だった。

「ふー。分かった。ハル殿が納得するのならば…その謝罪、受け取ろう。」

やっぱり、少し困った顔をしながら、謝罪を受け取ってくれた。

「それとですね!」

と、私は続けて話し出す。

「パルヴァンでは、このレフコースから護っていたたわいた事と、先日の夜会で助けていただいた事も、本当にありがとうございました。本当に…カルザイン様には助けてもらってばっかりで…。それで…何かお礼がしたいと思って…。でも、この世界でのお礼の基準?がよく分からなくて…。」

「…基準?」

そう、お礼の基準。元の世界に還る前に、オーブリー様とカルザイン様とダルシニアン様から“お礼だから”と言って、装飾品を貰った。かたや、私はお礼にとクッキーを作ってサエラさんに渡してもらったんだけど…お礼の質が…違い過ぎた…。やっぱり、貴族世界でのお礼は装飾品が当たり前なのだろうかと…すごく悩んでいるんですと、素直に打ち明けた。

私の悩み?を聞いたカルザイン様は、一瞬キョトンとした後、ソロリと左手で口元を隠して

「…伝わっていない?…」

何かを囁いたけど、よく聞こえなかった。

「?」

首を傾げて、カルザイン様の言葉を待つ。

「お礼は要らない─と言っても、それではハル殿が納得いかないのだろうな?」

「はい。」

勿論です!だって、命を助けてもらってますからね!?手助けとかのレベルじゃないですからね!?

「別に、貴族だから、お礼は装飾品で─という事はない。今回のそれらも、たまたま装飾品だっただけだと思う。ハル殿から貰ったクッキーも、美味しかった。ありがとう。」

何故か、逆にお礼を言われてしまった。その時の顔も優しい顔で…本当にドキドキしてしまう。

「んー…それじゃあ、お礼として…私のお願いをきいてもらおうかな?」

「“お願い”…ですか?」

「そう。お願い。」

と、カルザイン様はニッコリ微笑む。

ー何だろう…素直に頷いてはいけない…ような気がするのは…気のせいかなぁ?ー

「えっと…私が出来る事なら…」

「勿論、出来る事だ。」

ジッとカルザイン様を窺い見る。

ーカルザイン様が、変なお願いとかする訳ないよね?ー

「分かりました。どんな…お願いですか?」

私がそう言うと、カルザイン様は更に微笑んで、お願いを口にした。














「パルヴァン様に話があるから、パルヴァン邸迄送って行く。」

と、帰り際に、カルザイン様が言い出した。

「え?あの…私、パルヴァン家の馬車を待たせて…って…あれ?」

朝、送って来てくれた御者さんが、ここで待ってますと言ってくれていた場所に居なかった。

ーえ?何で?ー

「あぁ、その御者に、グレン様に先触れの手紙を頼んだんだ。帰りのハル殿は、私が送るから迎えは要らないと言っておいたんだ。」

ーいつの間に!?ー

今日、ずっと一緒に居た…よね?

「それじゃあ、パルヴァン邸に行こうか。」

と、カルザイン様は笑顔で言うけど…

「えっと…“馬”ですね…」

そう。私達の目の前には馬車ではなく、黒い毛並みの綺麗な馬が一頭居るだけだった。






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