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第五章ー聖女と魔法使いとー
お出掛け②
しおりを挟む「何を買うのかは、決めているんですか?」
パルヴァン邸を出て街迄行く道すがら、カルザイン様に尋ねる。因みに、今日の移動は馬車でも愛馬でもなく、歩きだ。
「毎年、私からは花束を送っていたんだが、今年は、普段使える髪留めが欲しいと言われてね。それで、今迄そう言う物を女性に贈った事がなかったから、悩んでいたんだ。」
「今迄、一度もなかったんですか!?」
ビックリだ!どこをどう見てもモテる筈。今迄恋人の1人や2人居たとしても、おかしくないのに?
「そんなに驚く事か?」
「驚きますよ!」
「何故?」
「何故って──。」
ーえー?カルザイン様、自分のイケメン具合に自覚無いの??ー
「カルザイン様って、綺麗な顔をされてますから、モテても不思議じゃないと思いますし…こんな私にもスマートに対応してくれるので、慣れてるのかなぁ?って思いまして…。」
と言うと、カルザイン様の歩みが止まった。どうしたのかな?と思って、カルザイン様の方を仰ぎ見ると
「ハル殿から見て、私の顔は…綺麗だと?」
「?はい。」
「普段、そう言われても何も思わないが…ハル殿に“綺麗だ”と言われると…嬉しいものだな。」
と、本当に嬉しそうに笑うカルザイン様。
ーあ…カルザイン様も…青い瞳なんだー
レフコースのアイスブルーの瞳。とても綺麗で大好きな瞳。カルザイン様の青も、とても綺麗だと思う。
「カルザイン様は瞳の色も…綺麗ですね。」
と、思わずカルザイン様の瞳をジッと見つめたまま、口からポロリと出てしまった。
「ん?そう…か?ありがとう。でも、私からしたら…ハル殿の淡い水色の瞳の方が…綺麗だと思うけどね。」
と、私の目元をカルザイン様がソッと撫でて行く。
「─っ!?」
「さぁ、時間が勿体ないから…前に進もうか?」
そう言って、カルザイン様は何事もなかったかの様に、ゆっくりと歩きだす。
ーカ…カルザイン様…何時にも増して…甘く…ない!?心臓が痛い。私…今日は生きて帰って来れるんだろうか???ー
「ハル殿、お陰で良いものが買えたと思う。ありがとう。」
あれから、お店をいくつか回って、カルザイン様から聞いたお母様の容姿に似合いそうな髪留めを選び終えると─
「ハル殿、少し…私の買い物にも付き合ってもらえるだろうか?」
「はい、勿論大丈夫です。」
そう言って連れて来られたのは、さっき2件目に訪れたお店だった。
「何か、気になる物でもあったんですか?」
「普段、佩帯している剣にはいざと言う時の為に、魔力を込めた魔石を填めているんだが、数日前、その魔石が割れてしまってね。新しい魔石を探していたんだけど…あぁ、これだ。この魔石が気になってね…。」
と、カルザイン様が指差した魔石は、透き通る様な水色の魔石だった。
「わぁ…綺麗な色の魔石ですね。」
「あぁ…そうだな…。」
「あ、でも…その横にある魔石の方が、カルザイン様に似合いそう…。」
似合いそうと言うか、カルザイン様の瞳の色によく似ている青だ。
「ハル殿に“似合う”と言われたら嬉しいが…俺は…こっちの淡い水色の方が…好きかな。」
ー……えっ?ー
私は、ショーケースに並んでいる魔石を見つめたまま固まる。横に居るカルザイン様が、私を見つめているだろう事は…分かっている。
『ん?そう…か?ありがとう。でも、私からしたら…ハル殿の淡い水色の瞳の方が…綺麗だと思うけどね。』
『ハル殿に“似合う”と言われたら嬉しいが…俺は…こっちの淡い水色の方が…好きかな。』
“淡い水色”
そんな言い方されると…ちょっと…どうしていいか…困るよね!?いや─カルザイン様の事だし、他意は無いんだろう…。サラッと言っただけなんだろう。
「…ふっ…顔が…赤いな?」
横でカルザイン様が笑っているのが分かる。
「…揶揄いましたね?」
「まさか…思ったままを言っただけだが?…ふっ…」
ーほら!嗤ってるから!もう騙されない!ー
それからカルザイン様は暫く笑った後、気になっていたと言っていた魔石と、私が似合いそうと言った魔石を、二つとも購入した。
ーカルザイン様…本当に今迄彼女とか居なかったんだろうか?ー
買い物が終わり、そろそろお昼時だなーと思っていると
『近衛騎士の仲間内で、人気のある店を予約してるから、そこでランチをしよう。』
と言われてやって来たお店。入店すると、確かに店内は満席で、店内で待っている人達も居た。その待っている人達の横を通り過ぎ、店員さんに案内されたのは…個室だった。
ー2人きりだけど、大丈夫?私がこの世界の勉強をした時とは…色々とルール?が変わって来てるのかなぁ?ー
帰ったら、ルナさんとリディさんに訊いてみよう。なんて考えていると
「どうも賑やかな所で食事をするのが苦手でね。個室の方が落ち着くんだ。」
「あー、そうなんですね。」
成る程、そう言う事か。騎士と言っても貴族様だもんね…。うん。それなら…仕方無い…のかな?
と、微妙に納得をした私を、カルザイン様はとても綺麗な笑顔で見ていた。
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