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第五章ー聖女と魔法使いとー
バッドタイミング?
しおりを挟む「ハル殿が倒れた?」
「あぁ。今日は予定通り、第一騎士団所属のステファン=オーブリー殿に話を聞きに行っていたんだが、話の途中で様子がおかしくなって…。その、おかしくなったと思うのが…今地下牢に居る魔導師の話をしている時だったんだ。」
「それって…」
「おそらく…あの時の事を思い出したんだろう。魔力が枯渇寸前迄奪われていたんだ…かなり辛かったんだと思う。」
神殿の医務室を出た後、直ぐにクレイルの元に行き、ハル殿の事を伝えて、パルヴァン邸に魔術で手紙を飛ばしてもらい、そのままクレイルを連れてランバルトの執務室迄やって来た。丁度、イリスも居た為、そのままハル殿の事を報告した。
「医師のマリン殿曰く、まだ魔力は不安定だけど、落ち着いて来ているから、悪化する事はないと。ただ、2~3日は安静にとの事だ。」
「…ハル殿は、あの時の事をあまり話さない…と言うか何ともないみたいにしているから…大丈夫なのかと思ってしまっていたな…。そんな筈は…無いのにな。」
ランバルトはそう囁いて黙り込んだ。
『ハル殿は…いつも自分の事は後回しにする。お人好しな所があるが…肝心な部分では上手く感情を隠してしまう。シルヴィアがな、ハル殿の心が壊れてしまうのを…心配している。壊れる時は…一気に壊れてしまうと。だから、エディオル殿、ハル殿を守りたいと言うなら、ハル殿の心も…守って欲しい。』
グレン様にそう言われて、勿論、守ると言った。
「ランバルト…いえ。王太子殿下、お願いがあります。」
「…何だ?」
普段の調子ではなく、改まった態度でランバルトに向き合う。
「暫く…数日でいいので、近衛を外させて下さい。」
クレイルもイリスも居るが、気にせず頭を下げる。
暫くの沈黙が続いた後─
「はぁー。エディオル、頭を上げろ。お前が頭を下げて願い出る必要は無い。」
「それは─」
どう言う事だ?と訊こうと頭を上げると
「もともと、ハル殿があんな状態になってしまったのは…こちらの失態だ。ハル殿は被害者だ。その事でハル殿が、今回倒れたと言うなら、我々が彼女を助けないでどうする?」
「…ラン…王太子殿下…。」
「エディオル=カルザイン。ハル殿の体調が元に戻る迄、私の近衛の任を解く。その間は、ハル殿を…しっかり守ってやれ。良いな?」
「ありがとう…ございます。」
「でなければ…また、グレン殿がパルヴァンから出て来そうだな…」
と言うと、言ったランバルトとクレイルもイリスも顔を引き攣らせた─が…隠しておくのも良くないかと思い…
「あー…ランバルト…。父上…第一騎士団長には既に報告済みなんだが…今度は、ゼン殿が…来るらしい。」
「………………………は?」
「「………」」
直接の被害を被る事のないであろう、クレイルとイリスでさえ顔色が一瞬にして青くなる。が、直接被害を被るであろうランバルトは、尋常ではない位に青を通り越して、白い顔色になっている。
「……ど……どうして…そこで…ゼン殿が出て来るんだ!?」
「あー…ランバルトは知らなかったか?ハル殿は…パルヴァンの三強に、娘の様に可愛がられているんだ。今回の件で、一番キレているのが…ゼン殿らしい。グレン様が、止められないだろうと言っていた。」
「……ちょっと待て!今!このタイミングで来るのか!?ハル殿が倒れた…このタイミングでか!?」
「あー…ハル殿が倒れた事、今から第一騎士団に報告しに行って来るね…。」
と、クレイルが部屋を出て行き
「私は、陛下と父上に報告して来ます。」
と、イリスが部屋を出て行った。
「……なぁ…エディオル…。ハル殿は…すぐに…目覚めそうなのか?」
「…分からない。」
「私は…やっぱりグレン殿の時のように…引き摺り出されるんだろうか?」
「恐らくは…そうだろうな…」
「くっ─、そこは否定して欲しかった!」
そう言って、ランバルトは机に突っ伏した。
ーそれは無理だろうー
例え俺が否定しても、引き摺り出される事に変わりは…無いだろう。せめて…ゼン殿が来る迄に、ハル殿が目覚めますようにと…こっそり願う事位はしておこう。
「まぁ…我々に拒否権は…無いだろうから…やるしかないよな…あれから何の進展も無いし…はぁー…。取り敢えず、ゼン殿が来る前に、もう一度あの魔導師を調べるか…。」
あの魔導師は、相変わらず飄々としていて、いまいち手応えが無いようだ。その態度から、ギデルのようにに“駒”では無いと思われるが…。
「エディオル、もともと今日はハル殿の付き添いの日だっただろう?なら、もう今からハル殿の側に行ってこい。数日と行ったが…暫くは近衛に関しては、特に大きい仕事はないから、気にしなくていい。兎に角…ハル殿を頼んだよ。」
「分かった。それじゃあ…お言葉に甘えて、神殿へ戻る。」
断る理由もなかったし、ハル殿の事も気になっていたから、俺はすぐさまランバルトの執務室を後にした。
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