118 / 203
第五章ー聖女と魔法使いとー
泣く場所
しおりを挟む『主』
「ハル殿」
何処からか、とても優しい声で私を呼ぶ声がする。
そこに行きたいのに、体が重たくて動けない。
ーあぁ…もう駄目かもしれないー
そう思う度に、助けてくれる。
レフコース
エディオル=カルザイン様
何となく右手が温かくて…そこからゆっくりと自分の体も温かくなっていって─
フッと意識が浮上した─
「…んー…?」
目を開けると…部屋は暗かった。
あれ?ひょっとして…もう夜?ここは…何処だろう?
『主!目覚めたか!?』
ガバッと勢いよく現れたのは
「レフコース?」
『あぁ、主!目覚めて良かった…』
そう言って、自身の顔を私の頬に擦り寄せて来るレフコースは…可愛いしかない。
「えっとー…私、どうなってたのかなぁ?」
『騎士と話している途中で倒れたのだ。覚えておらぬか?』
あ…そうだ…。オーブリー様の話を聞いてて、あの魔導師との事を思い出して…また、震えそうになる手をグッと握り締める。
「それで、どれくらいの時間が経ってるの?」
『主が倒れたのが朝。今は丁度日付が変わった辺りだ』
「え!?そんなに経ってるの!?え?どうしよう─」
「ハル殿─。気付いたのか!?」
私が声を上げたからか、私が寝ている部屋と繋がっているドアが開かれて、カルザイン様が入って来た。
「え!?…どうしてカルザイン様が──」
「それは後で説明する。取り敢えず、医師を呼んで来る。」
そして、やって来たのは、前にもお世話になったマリンさんだった。私が気を失ったのは、騎士団の離宮だったけど、少し前にも診てもらっていたからと、カルザイン様が気を利かせて神殿の医務室迄運んでくれたらしい。
「うん。魔力もほぼ安定してますね。今日はもう遅いので、このままここで泊まっていって下さい。それで、明日から2~3日は安静にして下さい。」
「分かりました。本当に…続けざまにすみません。ありがとうございます。」
お礼を言うとマリンさんは部屋から出て行き、入れ替わるようにカルザイン様が入って来た。
「サンドイッチを持って来たんだが…食べれそうか?」
夜中だけど…
「食べれます…お腹、空いてます…。」
お昼と夕食を食べていないと気付いた瞬間から…お腹がキュルキュル鳴っていたのだ…欲に素直なお腹だよね…。
ベッドの上でサンドイッチを食べ終え、少し休憩した後
「今から眠れるか?もし、眠れないようなら…ハル殿が倒れてからの話をしようか?」
夜もかなり遅い時間になったけど、食べたばっかりだし、さっきまで寝ていたから眠たくはないんだけど…
「私は眠たくは…ないんですけど、カルザイン様のご迷惑になるので、話は明日…じゃなくて、カルザイン様が寝て、また起きてからでも良いです。」
「私も、隣の部屋で少し寝ていたから、今は目が覚めてるんだ。ハル殿が大丈夫なら…話をしよう。」
フワリと優しく笑うカルザイン様に、ホッとする自分とドキドキする自分が居た。
「………え?今……何て…言いました?」
「暫くの間は、近衛としては休みで、その間はハル殿の付き添いだけになる。」
「……な…何で…???」
ーちょっと意味が…分からないー
「…ハル殿が…倒れた理由だが…」
カルザイン様はそう言い掛けて、軽く目を伏せて口を噤んだ後、私の目を見据えて
「あの魔導師が…原因…だろう?」
ビクリッ─と、体が無意識に反応する。また、手の指先からスッと血の気が引いていく感覚に陥る。ギュッと手を握ると…その手をカルザイン様が優しく握ってくれた。
ーやっぱり、カルザイン様の手は…温かいー
その温かさが優しくて…泣きそうになる。
「ハル殿?」
カルザイン様は、私の手を握っていない方の手を私の頬に寄せて
「我慢せずに…泣いても良いんだ。怖いものは怖い。辛いものは辛い。隠す必要なんて…無いんだ。あぁ…少し違うか?」
カルザイン様は少し思案して
「ハル殿が隠したいと言うなら隠しても良いけど、俺にだけは…隠さないで欲しい。」
「え?」
「俺は…色んなハル殿を知りたい。楽しい事は一緒に楽しみたい。辛い事があるなら、それらからハル殿を守りたい。俺の知らないところで泣かれるのは嫌だから…泣くなら…」
「─へっ?」
握られていた手を優しく引き寄せられて、そのままカルザイン様に抱き締められた。
「俺の腕の中で…泣けば良い。顔も隠れるし…丁度良いだろう?」
もう…どうなっているのか…分からない。分からないけど…ここが温かくて、安心できると言う事は…分かる。
「うー…」
そう思ってしまったら、もう駄目だった。そんなつもりはなかったけど、一度流れ出した涙は止まらなかった。
カテリーナ様を守らないと─私は魔法使いだから大丈夫だ─と思った。
魔力封じの首輪を着けられて、体がどんどん重くなっていって…初めて
ーこのまま死んでしまうのかなー
と思った。レフコースとカルザイン様に助けられて、この世界での居場所も見付けて、もう大丈夫だと思っていたけど…
あの時は…本当に怖かった…助かって…本当に良かった…。
ギュッと、カルザイン様の服を掴んで
「…ありがとう…ございます…」
と言うだけで、精一杯だった──。
176
あなたにおすすめの小説
取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?
きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。
しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……
【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです
大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。
「俺は子どもみたいな女は好きではない」
ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。
ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。
ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。
何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!?
貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。
自業自得じゃないですか?~前世の記憶持ち少女、キレる~
浅海 景
恋愛
前世の記憶があるジーナ。特に目立つこともなく平民として普通の生活を送るものの、本がない生活に不満を抱く。本を買うため前世知識を利用したことから、とある貴族の目に留まり貴族学園に通うことに。
本に釣られて入学したものの王子や侯爵令息に興味を持たれ、婚約者の座を狙う令嬢たちを敵に回す。本以外に興味のないジーナは、平穏な読書タイムを確保するために距離を取るが、とある事件をきっかけに最も大切なものを奪われることになり、キレたジーナは報復することを決めた。
※2024.8.5 番外編を2話追加しました!
お飾り公爵夫人の憂鬱
初瀬 叶
恋愛
空は澄み渡った雲1つない快晴。まるで今の私の心のようだわ。空を見上げた私はそう思った。
私の名前はステラ。ステラ・オーネット。夫の名前はディーン・オーネット……いえ、夫だった?と言った方が良いのかしら?だって、その夫だった人はたった今、私の足元に埋葬されようとしているのだから。
やっと!やっと私は自由よ!叫び出したい気分をグッと堪え、私は沈痛な面持ちで、黒い棺を見つめた。
そう自由……自由になるはずだったのに……
※ 中世ヨーロッパ風ですが、私の頭の中の架空の異世界のお話です
※相変わらずのゆるふわ設定です。細かい事は気にしないよ!という読者の方向けかもしれません
※直接的な描写はありませんが、性的な表現が出てくる可能性があります
0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。
アズやっこ
恋愛
❈ 追記 長編に変更します。
16歳の時、私は第一王子と婚姻した。
いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。
私の好きは家族愛として。
第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。
でも人の心は何とかならなかった。
この国はもう終わる…
兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。
だから歪み取り返しのつかない事になった。
そして私は暗殺され…
次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。
笑い方を忘れた令嬢
Blue
恋愛
お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。
婚約破棄されたトリノは、継母や姉たちや使用人からもいじめられているので、前世の記憶を思い出し、家から脱走して旅にでる!
山田 バルス
恋愛
この屋敷は、わたしの居場所じゃない。
薄明かりの差し込む天窓の下、トリノは古びた石床に敷かれた毛布の中で、静かに目を覚ました。肌寒さに身をすくめながら、昨日と変わらぬ粗末な日常が始まる。
かつては伯爵家の令嬢として、それなりに贅沢に暮らしていたはずだった。だけど、実の母が亡くなり、父が再婚してから、すべてが変わった。
「おい、灰かぶり。いつまで寝てんのよ、あんたは召使いのつもり?」
「ごめんなさい、すぐに……」
「ふーん、また寝癖ついてる。魔獣みたいな髪。鏡って知ってる?」
「……すみません」
トリノはペコリと頭を下げる。反論なんて、とうにあきらめた。
この世界は、魔法と剣が支配する王国《エルデラン》の北方領。名門リドグレイ伯爵家の屋敷には、魔道具や召使い、そして“偽りの家族”がそろっている。
彼女――トリノ・リドグレイは、この家の“戸籍上は三女”。けれど実態は、召使い以下の扱いだった。
「キッチン、昨日の灰がそのままだったわよ? ご主人様の食事を用意する手も、まるで泥人形ね」
「今朝の朝食、あなたの分はなし。ねえ、ミレイア? “灰かぶり令嬢”には、灰でも食べさせればいいのよ」
「賛成♪ ちょうど暖炉の掃除があるし、役立ててあげる」
三人がくすくすと笑うなか、トリノはただ小さくうなずいた。
夜。屋敷が静まり、誰もいない納戸で、トリノはひとり、こっそり木箱を開いた。中には小さな布包み。亡き母の形見――古びた銀のペンダントが眠っていた。
それだけが、彼女の“世界でただ一つの宝物”。
「……お母さま。わたし、がんばってるよ。ちゃんと、ひとりでも……」
声が震える。けれど、涙は流さなかった。
屋敷の誰にも必要とされない“灰かぶり令嬢”。
だけど、彼女の心だけは、まだ折れていない。
いつか、この冷たい塔を抜け出して、空の広い場所へ行くんだ。
そう、小さく、けれど確かに誓った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる