巻き込まれ召喚のモブの私だけが還れなかった件について

みん

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第五章ー聖女と魔法使いとー

ノア、再び

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「ハル様、差し入れ、ありがとうございます。」

髪の毛一本も乱れる事なく、いつも通りのダンディー然りな爽やか笑顔で、ゼンさんが私を迎えてくれた。

「えっと…怪我をしている人とか居ませんか?居たら治療しますけど…」

と、ゼンさんに訊いてみると

「あぁ、大丈夫です。掠り傷程度でしょうから、態々ハル様が治療する程ではありませんから。」

「ソウナンデスネ」

背中がスースーゾワゾワする…笑顔です。この時は、きっと、逆らってはいけません。この数日で学びました─空気を読むハルです。

「それと、ゼンさんはこれからどうしますか?訓練は…これで終わり…ですよね?」

私から少し離れた所に王太子様が座り込んでいて、私の事を…何と言うか…捨てられた子犬のような目をして…見て来るのだ。

ー私に出来る限りの事はするので、その目は止めて下さいー

「…そうですね。折角ハル様が差し入れを持って来てくれたので、ゆっくり食べたいですからね。今日はここ迄に致しましょう。」

チラリと王太子様を見ると…泣いていました─。

ーお…お疲れ様でした…ー

「ただ、それを食べた後は神殿の方にも行かなければいけませんので、帰りもご一緒はできませんが…。」

ー神殿…ダルシニアン様…頑張って下さいー

「分かりました。えっと…あまり無茶は…しないで下さいね?」

と、言うと、ゼンさんは無言のまま綺麗な笑顔を私に向けた。

ゼンさん、ロンさん、ルナさん、リディさん、エディオル様と皆で差し入れを食べた後、言っていた通り、4人とも神殿へ行ってしまった。

「4人とも行くんですね。神殿って、魔導師さん達が居る所ですよね?騎士団の所みたいに、ゼンさんが訓練の指導をするって訳じゃないですよね?」

「…ゼン殿は魔力持ちだからな…」

「ソウナンデスネ」

ーあぁ、きっと、神殿でも同じなんですねー










じゃあ、私達は帰ろうか─と、城を出るとー

「…ノアだ…」

はい、差し入れを入れて来た鞄と共に馬車もなくなって、代わりにノアが居ました。

『馬なら、我が居なくても大丈夫だな?我も散歩しながら適当に帰る故、主は騎士、お前に任せたぞ?』

そう言って、レフコースはまた姿を消して飛び去って行った。

ーレフコース──!!ー

あわあわしている私をよそに、エディオル様は、またひょいっとノアに飛び乗り

「ハル殿、手を出して?」

「えっと…今日は無理です!!」

「何故?」

と、馬上から首を傾げるエディオル様。

「見ての通り、私、今日はワンピースなんです。ノアには乗れません!」

ーだって!跨いで乗ったら足丸出しだよ!?ー

「あぁ、そんな事か…」

と言いながら、エディオル様はノアから降りて来た。分かってくれて良かった─と安堵した瞬間

「失礼するよ?」

と言いながら、私の腰に両手を当ててグイッと持ち上げて、そのまま横向きにノアに座らせた。

「えっ?」

と思ってるうちに、今度はエディオル様が、またひょいっとノアに飛び乗る。

「これなら、ワンピースでも乗れるだろう?」

「─なっ…!?」

そして、また手綱を握るエディオル様の両腕に囲まれる。

「はい、危ないから…俺の方に凭れようか?」

と、またまたグイッと腰をひかれてエディオル様に凭れ掛かされる。

「─っ??????」

ーひーぃっ…待って待って待って!!近い!近いから!無理!無理ーっ!!ー

パニックです!私、どうしたら良いですか!?心臓痛いです!顔!顔、どうしたら良いですか!?顔はどこに向けるの!?じゃなくて、顔、熱いです!

「ふっ…顔…真っ赤だな…本当に…可愛くて困るな…ふっ…」

ー“カワイクテ  コマル”って何!?ー

「こっ…困ってるのは私の方ですからね!?」

と、思わずエディオル様を見上げてしまい、間近な距離で目が合ってしまった。

「─っ!!!!」

ーやっぱり近い!!無理!無理!ー

ボンッとまた音が出る勢いで顔が熱くなる。

「くっ─…本当に…ヤバいな…くそっ─」

エディオル様は何やら小さい声で言ったけど、私自身の心臓の音と、脳内パニックのせいで、よく聞こえなかった。

「はぁー…取り敢えず…進もうか…。ノア、今日も宜しく頼むよ。」

そう言うと、ノアはゆっくり歩き出した。









ノアが歩き出して、風景が流れるようになると、自然と心が落ち着いて来る。前の時もそうだったけど、いつもよりも高い目線で見る町並みは、いつもと違って見えて楽しくなる。

ーこんな風に、エディオル様とノアに乗れるのも…これで最後になるかもしれないんだよねー

そう思うと、ちょっと寂しい。

この景色を…しっかり覚えておこう─。








「ハル殿、すまないが、少し待っててくれ。」

目的地のお店に入ると、エディオル様はそう言って、お店の人と奥の部屋へと入って行った。所謂VIPルームと言うやつだろう。流石、侯爵家のご子息様だ。

待っている間に、店内を見ていると

「綺麗な…青…」

エディオル様の瞳の色によく似た石。

ー思い出に…私も何か作ろうかなー

自然とそう思って、エディオル様が戻って来る前に急いでその石を購入した。


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