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第五章ー聖女と魔法使いとー
付け入る隙
しおりを挟むあれから、VIPルームから出て来たエディオル様と、ケーキを食べに向かったお店は、また人気のお店のようで、並んでいる人も居たが…その人達をスルーして、またまた個室に通された。
ー個室に2人だけって…本当に大丈夫なのかなぁ?ー
と、思ったりもしたが、何やら店員さんだけではなく、店内に居たご令嬢達もが微笑ましい視線を向けて来たから…大丈夫と言う事なんだろう。
個室は相変わらず緊張したけど、ケーキは美味しかった。パルヴァンに帰る前に、もう一度来れたらいいなぁ…と思いながら食べました。
ケーキ屋さんを出た後、少しお店を見ながら歩き、またノアに乗ってパルヴァン邸まで帰って来た。
「エディオル様、ありがとうございました。ケーキ、とっても美味しかったです!」
「それなら良かった。また、美味しそうなお店を探しておく。」
と、フワリと優しく笑うエディオル様。
ー“また”があるんだー
そんな些細な言葉がとても嬉しい。
「ふふっ…楽しみに…してますね?」
と、私もニッコリ笑った。
「おや、ハル様達も、今お帰りですか?」
「あ、ゼンさん。お帰りなさい。」
エディオル様とは玄関に入った所で話をしていたのだけど、そこにゼンさん達が帰って来た。
ー丁度良かったー
「ゼンさん、ちょっと訊きたい事があるんですけど…時間を改めた方が良いですか?」
「どちらでも構いませんが、どの様なお話でしょうか?」
ーエディオル様が居るから…ちょっと話しにくい…けど…いずれは話さなきゃいけないしねー
「あの…ゼンさんは、いつパルヴァンに帰りますか?私も…ゼンさんに合わせて一緒に帰ろうかなって思って…」
「「「…えっ!?」」」
「え?」
何故か、私の話にロンさんとルナさんとリディさんが反応した。
「─そうですか…。帰りのお話し…ですか。」
「はい。取り敢えず、王城に来る目的の事は終えましたし…黒いモヤの心配も…なくなったと思うので…後は帰るだけかなって…」
そう言ってゼンさんを見ると、ゼンさんは少し困ったように首を傾げていて、ロンさんとルナさんとリディさんは何とも言えない─みたいな顔をしている。
ー何だろう…私、おかしい事言った?ー
「分かりました。日程は決まっていないんです。まだ、少し王都でしなければいけない事もあるので…。そうですね─すみませんが、今日の夕食後にでも、執務室に来て頂けますか?だいたいの予定を組んでおきます。」
「いえ、私の方こそ、ゼンさんが忙しいところにすみません。」
「ではハル様、ここで一度、失礼しますね。」
と、ゼンさん達は邸の奥へと入って行った。
ーえっと…後ろにエディオル様が…居るよね?ー
静か過ぎない?あれ?背中がゾワゾワする?これ、振り返らない方が良いのでは?レフコース、そろそろ帰って来ても良いよ?いや、寧ろ帰って来て下さい!今すぐに!
「…ハル殿…」
いつもより少し低くて小さい声で呼ばれて、左手をギュッと掴まれた。
振り返ってエディオル様を見ると、エディオル様は真っ直ぐ私の目を見て来た。
「パルヴァンに…帰るのか?」
「そう…ですね。もともと、聖女様が同郷の子かどうか見に来ただけだったので…。それができたら、またパルヴァンに帰る予定だったんです。」
「どうしても?」
「……」
“はい”と、口にするだけで良いのに…口にできない自分が居て戸惑ってしまう。答えられなくて、思わず俯いてしまった。
「…まだ…付け入る隙がある?」
「え?」
フワリとシトラス系の爽やかな香りがして、優しく抱き締められた。
ーえっ!?何で!?ー
「俺が言った事…覚えてる?」
「言った…事?」
「俺は…色んなハル殿を知りたい。楽しい事は一緒に楽しみたい。辛い事があるなら、それらからハル殿を守りたい。俺の知らないところで泣かれるのは嫌だって…覚えてる?」
「…覚えて…ます。」
「伝わってなかった?」
「……」
「ずっと…俺は、ずっと、ハル殿と一緒に居たいって事。」
「…………………え??」
ーちょっと待って?え?そう言う…事だったの!?ー
いや…落ち着いて?私…モブだよ?たいして可愛くもないし貴族でもないし…え?
またまた脳内が軽くパニックを起こして、ワチャワチヤしていたら、エディオル様がスッと私から少し体を離して顔を覗き込んできた。
「っ!?ちかっ─!?」
「うん。近いな?でも…俺には足りない。もっとハル殿に近付きたい。」
「─なっ!?」
ボンッと、火がついたんじゃないかと思う位に、顔が熱を持ってクラクラする。
「顔…真っ赤だな。」
「なっ…だっ…」
ー誰のせいだと思ってるんですか!?ー
「うん。俺のせいだな?」
ーえー…エディオル様も私の心が読めるんですか!?ー
「ははっ…ハル殿は、本当に可愛いな?」
そう言って、エディオル様はまた、私を抱き締めた。
「なっ…ちょっ…え!?」
ー本当に勘弁して欲しい!レフコース!まだ帰って来ないの!?そろそろ登場して良いよ!?ー
そんな願いは虚しく、レフコースは暫くの間、帰っては来なかった。
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