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第六章ー帰還ー
レフコースの散歩
しおりを挟む『馬なら、我が居なくても大丈夫だな?我も散歩しながら適当に帰る故、主は騎士、お前に任せたぞ?』
ー最近、主と騎士が良い感じだー
意識せずとも、嬉しくて尻尾が揺れてしまう。その揺れている尻尾を、時々主が心配そうに見てくるが…何か付いているのだろうか?
パルヴァンは、森林が多く、我にとっては住みやすい土地だ。特に、あのパルヴァンの森は気に入っている。この王都も、慣れれば楽しいが─緑が少ないのが…何とも─。
今日は、少し足を伸ばして…散歩でもして帰るか─。
『─ここは…』
気が付けば、城からだいぶ離れた所まで来ていた。そして見付けた、小さな森。パルヴァンの森とは比べようもない位の小さな小さな森。だが─
『白いの。お前は…綺麗な色だな。』
かつての我の主─パルヴァンの巫女─と、会った時のパルヴァンの森も…こんな雰囲気であったなぁ。
ー懐かしいー
その小さな森の中心にも大樹があった。
『ふむ。良いところを…見付けた。』
我は、その大樹の足元に丸まって昼寝をした。
『散歩していたら、王都の外れ迄行ってしまったのだが、そこでいい昼寝場所を見付けてな?グッスリ眠ってしまっていたのだ…』
ついつい心地がよく、眠り過ぎたようで、主の元に帰った時には、主を心配させてしまっていた。故に、素直に寝過ぎて帰りが遅くなった事を謝ると…何故か抱き付かれて撫で回された。主は、よく我に抱き付いて来る。大好きな主に抱き付かれるのも、撫でられるのも、我は気持ちが良くて大好きである。それに─主の魔力も温かくて大好きである。主が喜ぶと、我の中にある主の魔力も温かくなる。
基本、主の魔力はいつでも温かくて心地良いが─。
それが、いつからだろうか?時々、我の中の主の魔力が、不安定になる事が増えたのは─。
いや─原因はおそらく─あの魔法使いだ。主が奴と面会してから、主が時々影を落とす事も増えた。それと同じようなタイミングで、城の雰囲気も少しずつ悪くなっている感じがしていた。
『ふむ─。少し様子をみるか?』
我にとっては主が一番─主が良ければそれで良し─だが、この城には主が大切にしている者や場所がある。故に、主が悲しむ事がないように、我が城の様子を見ることにした。巫女や聖女のように、悪いものや穢れは完璧には祓えぬが、減らし抑える事はできる。
おかしい─。今、この城には聖女が居なかったか?
主と同郷の聖女。主と同じで、温かい力を持っているのだろうか?一度は…会ってみたいな─。
そうして、我は、あの小さな森での昼寝と、城の見回りが日課になった。
主を守ろうとした─筈だったのに。我は、城のソレに気を取られ過ぎていた。
主と、主が植えたと言うかすみ草を見た。そのかすみ草は、主みたいに優しい匂いがした。スンスンと匂いを嗅いでいると─ふいに名前を呼ばれ、振り向くと、主と同郷の聖女が居た。何故か、騎士にへばりつき、主に悪態を吐く。その横では何かに堪えるように立っている騎士─。そして、その騎士の腕には気持ちの悪い何かが纏わり付いている。
ーこの城で、何かが起こっているのか?ー
思案していると、また我の名を呼び、我を撫でて来る聖女。主と同郷のせいか、優しい雰囲気を纏っていた故、少し嬉しくなった─のだが、撫でられているうちに、どんどん気持ちが悪くなって来た。それと同時に、主の魔力が一気に乱れた。
『あ…ごめんなさい…あの…私…帰りたい…』
ー主に、一体何があった?ー
それでも、主は邸に戻る頃には落ち着いていた。それに我は安心して、再び騎士のもとに向かい、騎士に纏わり付くソレを定期的に祓う事を約束した。
結果、我は─主と過ごす時間が減ってしまっていたのだ。“主の大切なモノを守る為”などと思っていた我は
一番大切なものを見落としていた─。
あの日は、いつもと違う、城の奥にある庭園に、騎士と聖女が居た。聖女とはあまり関わりたくはないが、その日は騎士に纏わり付いているモノが、酷かった故に聖女には構わず、騎士に纏わり付いているソレを、少し時間を掛けて祓った。
『少し…魔力を使い過ぎたか?』
と、疲れた体を持ち上げると、フワリとあの匂いがした。
ー主のかすみ草の…匂いだー
匂いの方へと足を向けると、やはり、そこにはかすみ草があった。
『主─。』
そう言えば、最近はゆっくり一緒に居ておらぬな─
帰ったら…また…撫でてくれるだろうか…?
主のかすみ草の優しい匂いに包まれて、安心してしまった我は、そのかすみ草の前で眠ってしまっていた。
ゾワリッ
『─っ!?』
一気に血の気が引く様な感覚。この感覚には…覚えがあった。
『主の魔力が…途切れた─』
一気に魔力を解放し、元の姿に戻り、主の魔力を探る。
あの時は、もっと痛みを伴った。それは、無理矢理に、繋がりが断たれた故だった─。
痛みが無いと言う事は─
『…主の魔力を感じぬ─主が…何処にも居ない─』
我は、一番大切なものを見落としていた。
我は、一番守りたかったものを…また、守れなかった。
一番大切で守りたくて大好きだった主は
この世界から居なくなってしまった
主に─会いたい─
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