【三章完結しました】チートは無いけどAIがある!社畜OLの異世界立身出世録

星 見人

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第16話 【社畜女王 眠い朝から戦略会議へ】

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 柔らかな朝の光が、障子越しに差し込んでいた。
 鳥の声が遠くから聞こえ、温泉郷の朝はゆったりとした空気に包まれている。

「んん……ん~……」
 ミサトは布団の中で寝返りを打ち、瞼を開いた。まだぼんやりとした視界の端に、人影が映る。

「おはよう!ミサト♡」

「……ん? ……あぁ、おはよ……」
 反射的に返事をしてから、脳が覚醒する。目の前に座っていたのは、、、
「って、なんであんたがここにいんのよっ!!」
 布団を蹴飛ばして飛び起きた。

 天守閣のミサトの部屋に豪奢なマントを羽織ったリュウコクが、涼しい顔で腰かけていた。

「いやぁ、今回もミサトの寝顔はなかなか愛らしいものだったよ。眼福ペロペロご馳走様でした」
「黙れぇぇぇ!!寝顔見んなぁぁぁっ!!」

『はい。ミサト。朝から騒がないでください。そしてイチャイチャしないでください。わたくしのCPUが不必要に熱暴走しかけました』
 横で機械的に呆れる声。リリィだ。

「あっ?!誰がイチャイチャしてんのよ!? この変態がっ!勝手に部屋に入ってこないでよ!リリィも警報ぐらい鳴らしなさいよ!!」
「ふふっ。照れちゃって☆妻の寝顔を見るくらい、夫の特権だろう?」
「誰が!いつ!貴様の妻になったぁぁぁっ!!」

 ばしん、と枕を投げつける。リュウコクは軽やかに受け止め、顔を埋めて深呼吸した。
「すーはーすーはー♡ご褒美、ご褒美♡」
「こらぁぁぁ!匂いを嗅ぐんじゃなぁぁぁいっ!!」

「……はぁ……また朝から騒がしいなぁ」
 布団からむくりと上体を起こしたのは、マリーだった。髪は乱れ、脚を大股に広げてあくびをしている。
「うるさくて寝直せやしねぇ……。お前ら、朝っぱらから元気だなぁ?こんな事毎朝やってんのか??」

「ごめん。起こしちゃった? でもこいつが勝手に転がり込んで来たから、毎朝とかそんなんじゃないからっ!」
 それを聞いてニタニタしながらまた布団に潜り込むマリー。「どうぞ、ごゆっくり~♪」
 
 ミサトは下唇を噛み、そして深く息をつき、ようやく真顔に戻った。
「で? あんたの用事はどうせアルガスの話でしょ?」
 リュウコクの口元に笑みが浮かぶ。
「ふふふ、やっぱり察しが早いな、僕の妻は」
「だから誰が妻だっつってんだろ!!」

 軽いチョップをリュウコクの頭に見舞ってから、ミサトは腕を組んだ。

◇◇◇

「まず結論から言おう。僕の狙いは、アルガスの流通網を締め上げることだ」
 リュウコクの声が低く響く。

「……流通網?」ミサトが眉をひそめる。

「そうだ。ラインハルト領内の港の出入りを抑える。あの港の書記官ルディアに声をかけ、アルガスの商品に重税をかけるんだ」

「ふむふむ……それで?」

「当然、アルガスの商品は売れなくなる。さらに、、本来アルガスに卸すはずの商品を、港で止める。ここで湯ノ花にも手伝って貰いたい。その結果、アルガス国内に不満が集まる」
 リュウコクの眼差しは真剣そのものだった。
「そして、不満が爆発し商人が離れ出した瞬間を叩く。これでアルガスの心臓、バレンティオを握れる」

「……」ミサトは腕を組んだまま、黙り込む。

「どうした? 僕の策に異論でも?」
「異論はない。昨日リリィに聞かれて同じ様な事考えてた……でも、やっぱり最後の“力技”は好きじゃない」
 ミサトの声には苦味が混じっていた。
「市場を操作して、誰かが飢えたり損したりする。そこからの交渉はしょうがないと思うんだよ。でも最後は軍を動かして制圧でしょ? そういうやり方は、なるべく避けたいんだよ」

 リュウコクは小さく笑みを浮かべる。
「僕だって、出来るならしたくないさ。けれど……今回ばかりは避けられない。アルガスは、もう背後から刃を突き立ててくる位置にいる。先に仕掛けてきたのはあっちだしね…。国王が変われば当然狙い目だからね…」

 ミサトの眉がさらに寄る。

「横槍、失礼しま~す」
 低い声が割り込んだ。マリーだ。

◇◇◇

「バレンティオ……あの男は元海賊上がりだ。金のためなら人を売り、街を焼き、仲間すら裏切る」
 マリーは昨日の残りの酒を手に一口飲み、静かに言った。
「くぅ~、なんで昨日の残りの酒の一口は美味いんだろな~……。 んで、そうやられた奴を、私は何人もアルガスで見てきた。あいつに遠慮なんざ要らねぇよ。もしアルガスをバレンティオ獲るならなら……あたしも力を貸すよ。あいつには何度も苦汁を飲まさせられてるからね!」

 その言葉に、リュウコクが頷く。ミサトは少しだけ目を伏せた。

『はい。ミサト。……これはまさに、ミサトの“ジョーカー発動”ですね』
「はぁ!? 誰がジョーカーよ!」
『はい。ミサト。この状況、あなたが動けばみんなが動く。今や湯ノ花の里は国です。貴女が作った異世界でのミサト式楽市楽座のシステムは立派な戦力です』
「うっ……!でもやっぱりたくさんの血が流れるのは嫌だよっ!」

 リリィの淡々とした言葉に、ミサトはそう返した。

『はい。ミサト。血が流れるか流れないか。それは、やってみなくちゃ分からないじゃないですか』
 リリィの声が少し柔らかくなる。
『けれど、あなたなら最小限に抑えられるはずです。社畜時代で磨いた無駄のない手腕で、人も街も救えるはずです』

「う……っ」
 ミサトは深呼吸をした。重い責任の影が肩にのしかかる。
 それでも、、ミサトの瞳は、まっすぐ前を見据えていた。
「はい。……分かりました。やるしかないんだもんね…」
 その声に、リュウコクもマリーもほっと息をついた。
 リリィは小さく瞬いた。
『はい。ミサト。素直なお返事、まるで社畜の頃みたいですね。今こそ社畜女王の知恵を、世界に見せてやりましょう』
「うん。そうだね……。って、誰が社畜女王だよ! そー言えばさ、あたしが元の世界で社畜OLやってた頃も似たようなこと、あったんだよね。スケールは小さいけどさ……」
 ミサトは遠い目をした。

「取引先が強引に値下げ要求してきてさ。上司は“従え”って言うだけ。だけど、こっちだって黙って従うわけにいかない。だから、、」
 唇に苦笑を浮かべる。
「他の取引先に情報を流して、自然と価格競争が起こるように仕組んだ。向こうが安値を叩きつけてきても、“あの会社はもっと高くても買うんですよ”ってカードを切れば、相手は引き下がるしかない。あはは、リリィが社畜、社畜うるさいから変なの思い出しちゃったなぁ~……」

「なるほど……。それも使えるね!」
 リュウコクの瞳が輝いた。

「つまりさ、アルガスの横暴に正面からぶつかるんじゃなくて、“他の道がある”って示すこと。社畜の処世術よ。潰すんじゃなく、勝手に自滅してもらう。これが上手くいけば流れる血は少なく済むかな??」

 みんなの決意が固まる頃、窓の外には昼の光が湯ノ花の街を金色に照らし始めていた。


          続
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