【三章完結しました】チートは無いけどAIがある!社畜OLの異世界立身出世録

星 見人

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第8話 【砂漠ミサト御一行 国境最後の村】

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 砂漠の縁、、、
 地平線は揺らぎ、ゆっくりとすり鉢状に沈んでいくようだった。砂粒は陽を受けて細かく跳ね、じりじりと靴底を焦がしてくる。

「……あっつぅ……ッッ!!」

 ミサトは馬から飛び降りた瞬間、足裏から魂が蒸発しそうになった。ミサトは馬に挨拶すると、馬は嬉しそうにミサトの顔に顔を寄せた。

「くっさっ!牧草臭っ!馬ってこんなに“乾いた加湿器”みたいな臭いしてたっけ……? やっぱりラクダのマツゲちゃんに乗って来れば良かったわ……。あの子はちゃんと私が歯ブラシしてあるし…よし。帰ったらこの子も歯ブラシだな!でもさ、ラクダって絶対、砂漠の民の知恵が詰まってるやつだよ……」

『はい。ミサト。ラクダは“人間が乗り物と決めただけ”でラクダは乗り物ではありませんよミサト。何をどう拡大解釈したらそうなるんですか?馬さんとマツゲちゃんに謝ってください』

「えぇ……?なんかごめん…ってなんでだよっ!だってラクダの中でもマツゲってすごいまつ毛長いじゃん。あんなの絶対“乗ってどうぞ”って言ってる……。目クリクリだし」

『はい。ミサト。絶対言ってません。マツゲはのんびりと水を飲み、草を食べ、優雅に砂漠を歩きたいだけです。特にあなたはラクダ使いが荒いからそのうち退職届け出されますよ』
「えぇぇぇ!それは困るな…。まっ!そんなもの受理しませんけどね!あははっ!」
『はい。ミサト。マツゲを辞めさせてあげてください』

 乾いた砂の上、ミサトの社畜的妄想は謎の方向に転がっていく。横で聞いていたニアは肩をすくめ、指先で遠くを差した。

「ほら見てみ。ミサトはん、あれや。ザイール国境の最後の村や。……やっと文明の香りがするで。いや、香り……するかぁ?まぁ、ここまで来ればボダレスはもうちょいや。ここで宿探すで~」

 蜃気楼越しに村の影が揺らぎ、まだらに伸びていた。石と粘土を積み上げた家屋。小さな風よけの木柵。少し心細い井戸。砂漠の入り口にしては、人の気配がそれなりにある。

 馬を引きながら進み、村の入口に足を踏み入れる。遠くで何かを煮込む匂いがミサトの鼻に入った瞬間、、

「むぅぅぅぅ……お腹すいた……ッ!!!!」
 ミサトの魂が口から出た。

「おいおい、出だしから元気やなぁ、まず宿やろ!」
「いや、、新しいところに着いたらまずご飯やろ…ニア君」
「いや、、ほんなら百歩譲ってまず水浴び……」
「いや!ご飯でしょッ!? 私いま“会社に戻れ”って言われるよりご飯食べないのが死ぬほど辛い!!」
『はい。ミサト。お腹が空きすぎて何を言ってるのかわかりません。社畜基準がおかしいです』

「あは、、あはは……あぁ、そうさ、会社は砂漠より乾いてるから……誰か水を…潤いをください」
『はい。ミサト。やめてください。恥ずかしいです。社畜的異常者だと思われます』

 ミサト達はそんな調子で言い合いながら、村で一番大きな食堂兼宿屋へ足を踏み入れる。

◇◇◇

 店内には、砂漠じみた不思議な香りが漂っていた。香草と肉、そして謎の発酵臭。

「あいよ~!!名物の“スナジャガ祭壇焼き”と“サンドマンの昼寝煮込み”だよ」
 店主の女が皿を出すと、テーブルの空気が一瞬止まった。そしてみんなブツブツと言い出す。

「……名前のインパクトすごくない?」
「スナジャガって何の略だ……?」「サンドマンって何者??」
「“砂のジャガイモ的な何か”……じゃないか?」
「なぬっ!適当すぎない?てかサンドマン……人??」

『はい。ミサト。こういう時は“地域文化を尊重する”ものです。スキャンした分析の結果毒ではありません』

「えっ?大丈夫??じゃあ文化を尊重して……いただきまふぅぅぅ!!」

 ナイフを入れると、ほくほくと湯気が上がる。
 ミサトは一口食べて目を輝かせた。

「うまぁ……ッ!! 何これ、健康診断の後に飲むコーヒーより美味しいんだけど……!!」
『はい。ミサト。比較対象をなぜいつも労働文化に寄せるのですか?そのコーヒーの味を誰が分かるのですか??』
「んっ?いや、、本能……でしょ??」
『はい。ミサト。やめなさい』

 和気あいあいと明日の話しをしながら食べていると、背後で“カラン”と椅子が揺れた。

「……今、お前たち……“ボダレス”の話をしてたよな?」
 茶髪の若い男が、鍋の影から顔を出してきた。目だけやたらと鋭い。
「お前らボダレスに行く気か?」
「えぇ、まあ……」

「よそ者が行く場所じゃねぇぞ。あそこは“気に入られなきゃ殺される”し、“嫌われても殺される”。何なら歩いてるだけで殺される…。ファミリーに属した奴以外は、まともに歩けもしねぇ。」

 ミサトはスプーンを咥えたまま返す。

「……ふえ、じゃあボダレスって“会社”??」
『はい。ミサト。違いますね』

「いやいや、完全に会社じゃん。ファミリーって部署でしょ。部署に属さないと死ぬ会社でしょ。そんなもんブラック通り越して闇だよ」
『はい。ミサト。そのあなたの歪んだ例え方を外に持ち出すのは危険ですよ』
「えぇ、えぇ、もう心の奥がブラックに染まっちゃってまして……」
『はい。ミサト。直ちに洗い流す事をお勧めします』

 若者はミサトとリリィのやり取り聞き、苦笑しつつ身を乗り出した。

「……知り合いがいる。紹介してやろうか? 少なくとも、お前らが速攻で海に沈められるのは回避できると思う。」

 その瞬間、ゴブ太郎とゴブ次郎が“ぎょろり”と目を光らせた。

「オイ、次郎…こいつアヤシイ……タスケルイミワカラない」
「うん。アニキ……このニンゲン……メガオヨイデルヨ」
「あんっ?!泳いでねぇよ!?」
「ウソつきのニオイ……スル……」
「しねぇよ!!しかもお前らさっきまで普通に喋れてただろ?何で急に片言なんだよっ!俺は元々ボダレスの人間だ!女と街を出てここで炭焼き屋を始めたの!でも子供が出来て金が必要なんだよ!だからちゃんと金は貰うぜ!」

「なぁ~んだ!ちゃんとしたガイドさんの仕事なのね!なら交渉成立よ!明日よろしくね~♪」

 その後もゴブ兄弟に絡まれ、若者は必死に弁解し、最終的にミサトの言葉と安堵と半泣きのバランスで承諾された。

◇◇◇

 夜。
 宿屋の一室、薄いランプの明かり。
 ミサトは天井を見つめながら、小さく息を吐き、脳内でリリィに話しかけた。

「ねぇ?リリィ……どうなるんだろうね、明日。」
『はい。ミサト。心配しても仕方ありませんよ。ですが、歴史の偉人たちは“最悪を笑える胆力”を持っていました。ミサトもそれに近いものがありますよ』

「えぇ~、私そんな器ないよ……?」

『はい。ミサト。あります。あなたは“笑える人”です。それは砂漠でも会社でも、あなたの持つ最強の才能ですよ』
「えぇ~……どうなるんだろ。大丈夫かな、私たち。すっごい怖くなってきたんだけど…上手く行くかなぁ~」
『はい。ミサト。恐怖は正常な反応です。しかし、あなたの歴史的同類である“勇気ある凡人”たちはいつも不安を抱えながら進み、結果として世界を動かしました』

「勇気ある凡人……誰よ?」

『はい。ミサト。例えば、無名の弁護士だったガンジー前夜のガンジーとか、、名もなき雑貨店経営していたリンカーンの青年時代とか、、トラックを走らせながら話しを考える小説書きとか、、どんな物事にもスポットライトがあたる前は暗いものです』

「えっ?……それってさ、、私でもワンチャン、ピカッ~ってのあるってこと??」
『はい。ミサト。もちろんです。あなたは立派な“凡人の希望モデル”です』

「……なんか、元気でた…そして、、なんか泣きそう……。そしてなんか凡人凡人って言われると嫌っ!」
『はい。ミサト。泣かないでください』

 そんなやり取りの最中、、突如空気を切り裂く爆音。

 ……ブボォォォォッ!!!!

 雷鳴のような音が部屋を揺らした。
 ミサトとリリィが固まる。

「えっ?何っ!……襲撃っ??爆撃っ??」
「すまん……みんな……どうやら砂漠の空気が……そしてさっきの飯が、、腸を……」

「くっさぁぁぁ!!どえらいの放り込んでくれたなぁぁぁぁ!お前の腸は国境を越えたな……。てか…窓を開けろや!いや…開けたら苦情くるか??」
 ニアが即座にツッコミを入れ、部屋に笑いが広がった。
 そんなやり取りの中ゴブ次郎は慣れたもので「すぅーすぅー」と寝息をたてながら寝ていた。
 
 その夜、砂漠の乾いた風の奥で、誰も知らぬ未来がゆっくりと動きだしていた。


          続
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