【三章完結しました】チートは無いけどAIがある!社畜OLの異世界立身出世録

星 見人

文字の大きさ
174 / 179

第18話 【女王休憩中につき世界異常】

しおりを挟む

 前の戦いから、三日が経っていた。

 ボダレス南端の砂浜。
 潮風は生温く、波はやけに穏やかだった。

 その真ん中で、、
 ミサトは、ロッキンチェアーに揺られていた。

 ビッチな服。大股開き。サングラス。
 片手には濃いめのコーヒー。
 そしてテーブルには沢山のチキン。
 完全に、休日の社畜だった。

「はぁ~……海っていいよねぇ……。この波音が癒されんのよ~。監視業務って言葉だけ聞くとブラックなのに、現場はホワイト……。はぁ~完全にバカンスだわ~☆」

『はい。ミサト。リラックスし過ぎです。脚の開き角度が過度です。見方によっては丸見えです』
「ん??」
『はい。ミサト。ですから……その体勢ですと、貴女の“大事な部分”が世界に向けてオープンです』

「はははっ!問題なし!ど~せ見えてるの海だけだから!」
『はい。ミサト。理論上、“お嫁に行けません”』

「関係ないねっ!!今の所行く予定もないし!どっかの王様は私の事ほっといて砂漠の女王とよろしくやってるみたいだしねっ!!今どき結婚=幸せとか昭和だから!!けっ!」

 ロッキンチェアーが、ぎいぎいと鳴る。

「それにさぁ……三日も何も起きないとさ……魂抜けてくんじゃん…拍子抜けって言うか…さ。まっ私が動かない様にしちゃったんだけど…」
『はい。ミサト。油断は禁物です』

「分かってる、分かってるって。でも人間さ~、常にピリピリしてたら壊れるのよ。社畜的に言うと“緊張の持続は生産性を下げる”ってやつ☆なんでもほどほどがいいってこと!」
『はい。ミサト。ですが現在の状況は戦争前夜』
「だ~か~ら~休憩してんの!女王にも社畜にも休憩は必要!!リリィあんたも休みな!」

 ミサトはコーヒーを一口飲み、満足げに息を吐いた。
「それにさ……こうして座ってるだけで“女王監視中”って言えるの、コスパ良すぎない?」
『はい。ミサト。最悪の上司ムーブです。職権濫用です』
「あははっ!褒め言葉として受け取っとくね☆」

 砂浜の端で、ゴブ太郎とゴブ次郎が並んで海を見ていた。

「兄貴……。ボス、、座ってチキン食って、コーヒー飲んでるだけだな…」
「おう。でもちゃんと見てるんだろ?あの人、“何もしてない顔”で一番してる」

 そこにニアがコーヒーを飲みながら来る。

「いやぁ~、、このリラックス感たまりませんなぁ~。しっかしミサトはんもええ身分やなぁ。椅子で揺れて、サングラスして、女王業やて…。まっ、俺もずいぶん楽させて貰ってるんやけどなぁ」
 ゴブ次郎が首を傾げ笑う。
「あはは、それでも立った瞬間、全部自分で背負う顔になるっ」

 ニアは砂を蹴り、ふっと笑った。
「あはは、せやな。楽そうに見える人ほど、逃げ場ない席座っとる。一番しんどいとこやで…」

 ゴブ太郎が頷く。
「ははは!だから俺らはミサトの前に立つ。殴られる側でいい。始まれば必ず無茶するからな…ミサトは、、」

 三人の視線の先で、ミサトはロッキンチェアーを揺らしていた。
 まだ、何も起きていない。
 、、それが、一番危ない時間だった。

 砂浜は静かだった。
 南の海も、何も語らない。

◇◇◇

 ➖➖ラインハルト陣営とボダレスの境界線➖➖

「おい、兵隊~!そっち下がれよ!この線踏んだら殴るかんな~」

 ラインハルト兵士が、やや困った顔で言った。
「はぁ?誰に言ってるんだ?私か?私に言ってるのか??」

 ボダレスの男が、一歩近づく。

「くっくっく!お前に言ってんだよっ~!お前ら俺たち殴れないんだろ?」
「あぁ、手は出すなと上からの命令と規律があるからな……」
「くっくっく!へぇ~。じゃあ一発サービス」

 ゴン。
「なにっ!?痛っ!」
「ギャハハっ!うわ、当たった!ビックリした顔してる!!」
「おいっ!当てるなよ!」

「はははっ!お前ら殴れないんだろ??ほら?殴り返してみろよっ!ギャハハ!!」

 調子に乗るボダレス側。

「おらおらっ!もう一発いったろかぁ~!」
 そこへ、、ゴツン。

「痛ぇ!!」
 チャムチャムの拳骨が、ボダレスの男に落ちた。

「あぁ~はぁ~んっ♪お前ら調子乗りすぎ」

 続いて、、ゴツン。

「えっ!?俺も!?えっ??何で俺も?」
 今度はラインハルト兵士。

「お前も殴られ過ぎ。喧嘩両成敗」
 チャムチャムはケタケタ笑った。
「殴られたら終わり。殴れなくても終わり。だから最初からやるなって話」

「お前ら!理不尽だろ!!」
「あぁ~んっ??ここどこだ?ボダレスだぞ?」
 
 ボルドがニヤニヤしながら肩をすくめる。
「あはは!理不尽が嫌なら、国に帰れって話だな。ここじゃ“納得するって奴”は贅沢品だ」

「あははっ!違ぇねぇ♪」
 チャムチャムは笑いながら指を鳴らす。
「この街じゃな、正義は朝に生まれて昼に殴られて、夜には墓に入る。怖くてママの選んだパンツにチビったならさっさと国帰れ!あははっ!」

「間違いな~い!んで、翌朝には“昨日の正義”を売る商人が出るって話しだ!」
「あぁ~はぁん♪そりゃ高値だぞ?“元正義”って肩書き付きだからな」

「あははっ。保証書は?」
「あるわけねぇだろ。保証できるのは、、」

 二人同時に、境界線を見る。
「「“今日まで生きてる”って事だけだ」」

 ラインハルト兵士が黙り込む中、
 二人はケタケタと笑った。

「な?ボダレスだろ?」
「優しい方だ。今日はまだ殴る理由を説明してやってる」

 ボルドが腕を組み、何かに気付き遠くを見る。
「……おい。向こう、騒がしくねぇか?」
 
 チャムチャムも遠くを眺める。
 すると懐から太巻きを取り出すと、焚き火で火をつけ肺いっぱいに吸い込むと吐き出した。
「あはは!始まるねぇ~♪」
 
 その瞬間。
 馬の蹄の音が、陣営を裂いた。

◇◇◇

 ➖➖ラインハルト陣営➖➖
 
 作戦天幕に、早馬が飛び込む。
「報告!報告!!」

 カリオスが顔を上げる。
「おぉ、、やっと来たな!どうだ?リュウコクは何て言ってる?」

「はぁはぁ、、それがカリオス様……西です、、西の陣営が、、、」

 息を整える暇もなく、伝令は叫んだ。

「リュウコク王率いるラインハルト軍、敗走!!ザイール女王ザハラも敗走!!そのまま行方不明になりました!そしてマルディア王国が、そのままラインハルト領内に侵攻しています!!」

 沈黙。地図が、音もなく揺れた。

「……何?」
 カリオスは、言葉を失った。

「敗走……?嘘だろ……我が女王がか…」
 ラキムが唇を噛む。

 カリオスは即座に立ち上がった。

「撤退だ。全軍、ラインハルトへ戻る」
「ここはどうする?」
「後回しだ。国が割れる方が致命的だ!」

 そして、ラキムを見る。

「お前さんは、今は俺預かりだったな…」
 ラキムは、即座に頷いた。
「分かった。暫し力を貸す。……信じられんが」

 カリオスは伝令係に伝えた。
「おい、伝令!ボダレス内に湯ノ花の女王ミサトが居る…。さっきと同じ事を伝えてくれるか…。街に入ると何をされるか分からんから何人か連れて行け。頼んだぞ!」
 
 そして軍は、向きを変えた。
 戦争は、別の場所で牙を剥いた。

◇◇◇

 その頃。砂浜。

 ミサトは、、
 ロッキンチェアーで爆睡していた。

 サングラスはずれ、チキンの骨が足元に散乱し、コーヒーは空。

「……ぐー……ぐー……」

『はい。ミサト』
 返事はない。

『はい。ミサト女王。世界が一段階、悪化しました』
 
 波の音だけが返る。

『はい。ミサト。現在、緊急対応が必要ですよ~』

「……すー……ぐー……ぴー…」

 リリィは、ほんの一瞬だけ沈黙した。
『はい。ミサト。……現在、女王は休憩中です』

 波の音だけが、一定のリズムで砂を撫でていた。
 遠くで、何かが動いた気配がある。
 だが、誰もそれを“異変”とは呼ばない。

 休憩とは、止まることではない。
 力を溜め、世界が先に動くのを待つ行為だ。

 ミサトが眠るあいだ、湯ノ花の里は息を潜める。
 そして敵は、、その沈黙を、好機と誤解する。

 それが、最も致命的な勘違いだということを、
 まだ誰も、知らなかった。
 
 海は、何も言わない。
 だが確実に、、
 世界は、次の局面へと転がり落ちていた。


          続
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

落ちこぼれ職人、万能スキルでギルド最強になります!

たまごころ
ファンタジー
ギルド最弱の鍛冶師レオンは、仲間に「役立たず」と笑われて追放された。 途方に暮れる彼の前に現れたのは、伝説の鍛冶書と、しゃべる鉄塊(?)。 鍛冶・錬金・料理・魔道具――あらゆるクラフトスキルを吸収する《創精鍛造》を極め、万能職人へと覚醒! 素材採取から戦闘まで、すべて自作で挑む“ものづくり異世界成り上がり譚”が今、始まる。 裏切った元仲間? 今さら後悔しても遅いぞ!

異世界にアバターで転移?させられましたが私は異世界を満喫します

そう
ファンタジー
ナノハは気がつくとファーナシスタというゲームのアバターで森の中にいた。 そこからナノハの自由気ままな冒険が始まる。

神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~

於田縫紀
ファンタジー
大西彩花(香川県出身、享年29歳、独身)は転生直後、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられた。目の前は砂浜と海。反対側は枯れたような色の草原と、所々にぽつんと高い山、そしてずっと向こうにも山。神の権能『全知』によると、この地を豊かにして人や動物を呼び込まなければ、私という土地神は消えてしまうらしい。  現状は乾燥の為、樹木も生えない状態で、あるのは草原と小動物位。私の土地神としての挑戦が、今始まる!  の前に、まずは衣食住を何とかしないと。衣はどうにでもなるらしいから、まずは食、次に住を。食べ物と言うと、やっぱり元うどん県人としては…… (カクヨムと小説家になろうにも、投稿しています) (イラストにあるピンクの化物? が何かは、お話が進めば、そのうち……)

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

盾乃あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

竜の国のカイラ~前世は、精霊王の愛し子だったんですが、異世界に転生して聖女の騎士になりました~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
辺境で暮らす孤児のカイラは、人には見えないものが見えるために悪魔つき(カイラ)と呼ばれている。 同じ日に拾われた孤児の美少女ルイーズといつも比較されていた。 16歳のとき、神見の儀で炎の神の守護を持つと言われたルイーズに比べて、なんの神の守護も持たないカイラは、ますます肩身が狭くなる。 そんなある日、魔物の住む森に使いに出されたカイラは、魔物の群れに教われている人々に遭遇する。 カイラは、命がけで人々を助けるが重傷を負う。 死に瀕してカイラは、自分が前世で異世界の精霊王の姫であったことを思い出す。 エブリスタにも掲載しています。

処理中です...