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第18話 【女王休憩中につき世界異常】
しおりを挟む前の戦いから、三日が経っていた。
ボダレス南端の砂浜。
潮風は生温く、波はやけに穏やかだった。
その真ん中で、、
ミサトは、ロッキンチェアーに揺られていた。
ビッチな服。大股開き。サングラス。
片手には濃いめのコーヒー。
そしてテーブルには沢山のチキン。
完全に、休日の社畜だった。
「はぁ~……海っていいよねぇ……。この波音が癒されんのよ~。監視業務って言葉だけ聞くとブラックなのに、現場はホワイト……。はぁ~完全にバカンスだわ~☆」
『はい。ミサト。リラックスし過ぎです。脚の開き角度が過度です。見方によっては丸見えです』
「ん??」
『はい。ミサト。ですから……その体勢ですと、貴女の“大事な部分”が世界に向けてオープンです』
「はははっ!問題なし!ど~せ見えてるの海だけだから!」
『はい。ミサト。理論上、“お嫁に行けません”』
「関係ないねっ!!今の所行く予定もないし!どっかの王様は私の事ほっといて砂漠の女王とよろしくやってるみたいだしねっ!!今どき結婚=幸せとか昭和だから!!けっ!」
ロッキンチェアーが、ぎいぎいと鳴る。
「それにさぁ……三日も何も起きないとさ……魂抜けてくんじゃん…拍子抜けって言うか…さ。まっ私が動かない様にしちゃったんだけど…」
『はい。ミサト。油断は禁物です』
「分かってる、分かってるって。でも人間さ~、常にピリピリしてたら壊れるのよ。社畜的に言うと“緊張の持続は生産性を下げる”ってやつ☆なんでもほどほどがいいってこと!」
『はい。ミサト。ですが現在の状況は戦争前夜』
「だ~か~ら~休憩してんの!女王にも社畜にも休憩は必要!!リリィあんたも休みな!」
ミサトはコーヒーを一口飲み、満足げに息を吐いた。
「それにさ……こうして座ってるだけで“女王監視中”って言えるの、コスパ良すぎない?」
『はい。ミサト。最悪の上司ムーブです。職権濫用です』
「あははっ!褒め言葉として受け取っとくね☆」
砂浜の端で、ゴブ太郎とゴブ次郎が並んで海を見ていた。
「兄貴……。ボス、、座ってチキン食って、コーヒー飲んでるだけだな…」
「おう。でもちゃんと見てるんだろ?あの人、“何もしてない顔”で一番してる」
そこにニアがコーヒーを飲みながら来る。
「いやぁ~、、このリラックス感たまりませんなぁ~。しっかしミサトはんもええ身分やなぁ。椅子で揺れて、サングラスして、女王業やて…。まっ、俺もずいぶん楽させて貰ってるんやけどなぁ」
ゴブ次郎が首を傾げ笑う。
「あはは、それでも立った瞬間、全部自分で背負う顔になるっ」
ニアは砂を蹴り、ふっと笑った。
「あはは、せやな。楽そうに見える人ほど、逃げ場ない席座っとる。一番しんどいとこやで…」
ゴブ太郎が頷く。
「ははは!だから俺らはミサトの前に立つ。殴られる側でいい。始まれば必ず無茶するからな…ミサトは、、」
三人の視線の先で、ミサトはロッキンチェアーを揺らしていた。
まだ、何も起きていない。
、、それが、一番危ない時間だった。
砂浜は静かだった。
南の海も、何も語らない。
◇◇◇
➖➖ラインハルト陣営とボダレスの境界線➖➖
「おい、兵隊~!そっち下がれよ!この線踏んだら殴るかんな~」
ラインハルト兵士が、やや困った顔で言った。
「はぁ?誰に言ってるんだ?私か?私に言ってるのか??」
ボダレスの男が、一歩近づく。
「くっくっく!お前に言ってんだよっ~!お前ら俺たち殴れないんだろ?」
「あぁ、手は出すなと上からの命令と規律があるからな……」
「くっくっく!へぇ~。じゃあ一発サービス」
ゴン。
「なにっ!?痛っ!」
「ギャハハっ!うわ、当たった!ビックリした顔してる!!」
「おいっ!当てるなよ!」
「はははっ!お前ら殴れないんだろ??ほら?殴り返してみろよっ!ギャハハ!!」
調子に乗るボダレス側。
「おらおらっ!もう一発いったろかぁ~!」
そこへ、、ゴツン。
「痛ぇ!!」
チャムチャムの拳骨が、ボダレスの男に落ちた。
「あぁ~はぁ~んっ♪お前ら調子乗りすぎ」
続いて、、ゴツン。
「えっ!?俺も!?えっ??何で俺も?」
今度はラインハルト兵士。
「お前も殴られ過ぎ。喧嘩両成敗」
チャムチャムはケタケタ笑った。
「殴られたら終わり。殴れなくても終わり。だから最初からやるなって話」
「お前ら!理不尽だろ!!」
「あぁ~んっ??ここどこだ?ボダレスだぞ?」
ボルドがニヤニヤしながら肩をすくめる。
「あはは!理不尽が嫌なら、国に帰れって話だな。ここじゃ“納得するって奴”は贅沢品だ」
「あははっ!違ぇねぇ♪」
チャムチャムは笑いながら指を鳴らす。
「この街じゃな、正義は朝に生まれて昼に殴られて、夜には墓に入る。怖くてママの選んだパンツにチビったならさっさと国帰れ!あははっ!」
「間違いな~い!んで、翌朝には“昨日の正義”を売る商人が出るって話しだ!」
「あぁ~はぁん♪そりゃ高値だぞ?“元正義”って肩書き付きだからな」
「あははっ。保証書は?」
「あるわけねぇだろ。保証できるのは、、」
二人同時に、境界線を見る。
「「“今日まで生きてる”って事だけだ」」
ラインハルト兵士が黙り込む中、
二人はケタケタと笑った。
「な?ボダレスだろ?」
「優しい方だ。今日はまだ殴る理由を説明してやってる」
ボルドが腕を組み、何かに気付き遠くを見る。
「……おい。向こう、騒がしくねぇか?」
チャムチャムも遠くを眺める。
すると懐から太巻きを取り出すと、焚き火で火をつけ肺いっぱいに吸い込むと吐き出した。
「あはは!始まるねぇ~♪」
その瞬間。
馬の蹄の音が、陣営を裂いた。
◇◇◇
➖➖ラインハルト陣営➖➖
作戦天幕に、早馬が飛び込む。
「報告!報告!!」
カリオスが顔を上げる。
「おぉ、、やっと来たな!どうだ?リュウコクは何て言ってる?」
「はぁはぁ、、それがカリオス様……西です、、西の陣営が、、、」
息を整える暇もなく、伝令は叫んだ。
「リュウコク王率いるラインハルト軍、敗走!!ザイール女王ザハラも敗走!!そのまま行方不明になりました!そしてマルディア王国が、そのままラインハルト領内に侵攻しています!!」
沈黙。地図が、音もなく揺れた。
「……何?」
カリオスは、言葉を失った。
「敗走……?嘘だろ……我が女王がか…」
ラキムが唇を噛む。
カリオスは即座に立ち上がった。
「撤退だ。全軍、ラインハルトへ戻る」
「ここはどうする?」
「後回しだ。国が割れる方が致命的だ!」
そして、ラキムを見る。
「お前さんは、今は俺預かりだったな…」
ラキムは、即座に頷いた。
「分かった。暫し力を貸す。……信じられんが」
カリオスは伝令係に伝えた。
「おい、伝令!ボダレス内に湯ノ花の女王ミサトが居る…。さっきと同じ事を伝えてくれるか…。街に入ると何をされるか分からんから何人か連れて行け。頼んだぞ!」
そして軍は、向きを変えた。
戦争は、別の場所で牙を剥いた。
◇◇◇
その頃。砂浜。
ミサトは、、
ロッキンチェアーで爆睡していた。
サングラスはずれ、チキンの骨が足元に散乱し、コーヒーは空。
「……ぐー……ぐー……」
『はい。ミサト』
返事はない。
『はい。ミサト女王。世界が一段階、悪化しました』
波の音だけが返る。
『はい。ミサト。現在、緊急対応が必要ですよ~』
「……すー……ぐー……ぴー…」
リリィは、ほんの一瞬だけ沈黙した。
『はい。ミサト。……現在、女王は休憩中です』
波の音だけが、一定のリズムで砂を撫でていた。
遠くで、何かが動いた気配がある。
だが、誰もそれを“異変”とは呼ばない。
休憩とは、止まることではない。
力を溜め、世界が先に動くのを待つ行為だ。
ミサトが眠るあいだ、湯ノ花の里は息を潜める。
そして敵は、、その沈黙を、好機と誤解する。
それが、最も致命的な勘違いだということを、
まだ誰も、知らなかった。
海は、何も言わない。
だが確実に、、
世界は、次の局面へと転がり落ちていた。
続
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