【三章完結しました】チートは無いけどAIがある!社畜OLの異世界立身出世録

星 見人

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第17話 【煙の下で、チキンを食う奴ら】

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 火は消えきっていなかった。
 ボダレスの空には、まだ薄い煙が棚引いている。

◇◇◇

➖➖ラインハルト陣営・作戦天幕➖➖

 天幕の中、地図を挟んで向かい合う二人の男がいた。

「……で、これからどうするのだ?」
 ザイール兵士長、ラキムが低く尋ねる。

 カリオスは鼻で笑った。
「どうもこうもねぇよ。あぁなったら、リュウコクと……お前さんとこの女王を連れて来ねぇと、話しが先に進めねぇ」

「我々だけで始める、という選択肢は?」
「はははっ!あるわけねぇだろ」

 即答だった。

「湯ノ花の女王を無視して街を焼く?それは戦争じゃねぇ。“自爆”だ。湯ノ花の本気の軍事力は相当の物だ。それにミサトを巻き込んで始めれば後でリュウコクに何言われるかわかんねぇ…」

 カリオスは地図を指で叩く。

「あの女、、ミサトはな……頑固だ。人を傷つけるのを嫌う。何より、“上から押し付ける命令”が大嫌いだ」

 ラキムが小さく息を吐く。
「……なるほど。だから現場で暴れた」

「暴れた??違うな」
 カリオスは苦く笑う。
「“俺達を止めに来た”んだよ。あの女は」

 沈黙。

「早馬を出す。ラインハルトへ。ザイールも同様に動かしてくれ」

 天幕の外で、馬の蹄が鳴った。
 時間は、走り出していた。

◇◇◇

➖➖ボダレス広場➖➖

 簡易浴場から、ミサトが出てきた。

「うぃぃぃ!……さっぱりしたぁぁ」

 次の瞬間。

「おいっ!なんでまたその格好なんだよ!!」
「ビッチ服復活かよ!!」
「おいおい戦争中だぞ!!」
「あはは!ビャャャァァァチッ!」
『はい。ミサト。私知ってましたよ…その服気に入ってるの』 
 四方八方からツッコミが飛ぶ。

「うるさいな!!おまいらエロい目で見んなっ!」
 ミサトは腰に手を当てた。
「これはね!ボダレスで気合い入れる用の戦闘服!!」

『はい。ミサト。防御力は皆無ですが、精神安定効果は確認されています』
「うおっいっ!そこ強調しなくていい!!」

 広場の中央。
 チャムチャムママのチキンが山のように積まれていた。

「ほらみんな、食べな食べな!生きてるうちに食え!!」
 ママが叫ぶ。

 ミサトはチキンを頬張りながら、口を開いた。

「やっぱうまっ!……よし、これからの話しよっか」

 場が静まる。

「この煙を合図に、南の島嶼連合が動く可能性がある。ラインハルトとザイールが強行する可能性もゼロじゃない」

「じゃあこっちから行くか??」
 チャムチャムが笑う。
『はい。全滅したければどうぞ』
 リリィが即答。

「はははっ!」
 ボルドが肩をすくめる。
「ざっと見て、こっち五百。向こう四千。やれて千だな~」
「数字で言うな!!」
 ミサトが叫ぶ。

 ニアはチキンの骨を指先で弄びながら、首を傾げた。

「なぁミサト。戦争って不思議やで」
「はい、いきなり哲学来たな」

「まぁ、聞けや。始まる前は皆、声デカいやろ。“守るため”“正義のため”って」
「うん。会議資料が一番厚くなるやつ」

「でも実際始まったらな、残るんは予定外ばっかりやで」
「残業とトラブルと胃痛ね」

「せや。しかも誰も“これ自分の判断です”って言わへん」
「全員“流れでした”って顔するんだよね」

 ニアは苦笑した。

「せやからな、俺は思うねん。戦争って“覚悟”やなくて、“言い訳の耐久テスト”や」
「最悪の評価軸きたね!」
「それの合格者はな、顔色変えずに後始末できる奴や」
「えぇぇぇ!それって私じゃん!!」

「せや。せやから今日もミサトはチキン食べとる」
「何それ??チキン食べた評価が重すぎるんだけど!?」

 ニアは肩をすくめた。

「まぁ安心し。生きとるうちは、まだ修正効く」
「……それ、、私に優しい慰めの言葉言ってる?」
「たぶん、な」

 その時、影が一つ前に出た。

「おい……俺も使え」
 アイスマンだった。
「あんた嫌っ!信用できない」
 ミサトが即答する。

「ぶっははっ!この街に信用できる奴なんかいねぇよ」
 チャムチャムが笑う。

「ふん、信用は、この街で一番価値の無い通貨だ」
 アイスマンは淡々と言った。
「だから俺は、腕で払う。どこの防衛でも請け負う」

 ボルドが鼻で笑った。
「信用が通貨だった時代?そんな時もあったな。三日で紙切れになったけどよ」

「あははっ!朝に信用して、夜に刺された」
 チャムチャムは指を折る。
「昼に組んで、夕方に誰かが死体で転がる。忙しい街だった」

 アイスマンは淡々とチャムチャム達に続けた。
「契約書は燃え、誓いは流れ、最後に残ったのは死体の数だけ」

「でもよ~」
 ボルドが肩をすくめる。
「その頃の方が分かりやすかった。敵は正面、裏切りは近距離」

「ふふ、今は?」
 チャムチャムが歯を見せる。
「今は皆、笑いながら刃を隠す」

「進化したな」
「劣化だろ」

 アイスマンは短く言った。
「だから腕だけは嘘をつかない」

 チャムチャムは頷いた。
「あぁ、ボダレスじゃ、それで十分だ」
 ミサトは、その会話を聞き終えて、静かに天を仰いだ。

「……ねぇリリィ」
『はい。ミサト』
「ここの治安って概念、途中で転生してない?」

『はい。ミサト。調べます。確認出来ました。死亡率が“挨拶”を上回っていた時代があります』
「ぐぇぇぇ!最悪じゃん」

 ミサトはこめかみを押さえる。
「信用が通貨じゃない街で、私は何を基準に交渉すればいいのよ……」

『はい。ミサト。恐怖、腕力、脅迫、もしくは冗談です』
「おいおい、、その冗談が一番怖いんだけど!?」

 リリィは少しだけ間を置いた。
『はい。ミサト。ただし現在のボダレスは改善傾向にあります』
「ほんとに??どんな??」
『はい。ミサト。以前は“笑顔=襲撃前兆”でしたが、現在は“笑顔=襲撃済み”です』

「済み!?済んじゃって笑ってんの?それ悪化してない!?KPIどうなってんのこの街!!」

 遠くでチャムチャムが笑った。

「安心しろビッチ!今日はまだ平和だ」
「ビッチ言うなっ!その“まだ”が一番信用ならないんだけど!!」

 リリィは淡々と締める。
『はい。ミサト。結論:本日の業務も通常運転です』
「おいっ!もしこれが社畜としての通常運転なら命が軽すぎるわ!!」
 
 暫しの沈黙。

「よしっ!決めた!……防衛を固める。ラインハルトとの前線、南の海岸両方に防衛線を張る」
 ミサトが言った。
「動かず、見る。そして、どう動いても大丈夫な様に備える。食料はある?」

 市場を仕切るメキルが頷く。
「一ヶ月分ぐらいの食料と多少の金目の物は確保してる…。もちろん金は取るけどな…でもこんな状況だ…ツケでもいいし割引もしてやるよ」

「さっすが商人!ありがとう。とりあえず街のみんなの食料品のお金は、全部湯ノ花に回しといて。私が全部払うから!」
 ミサトはチキンを食べながら頭を下げた。
「ぜ、、全部!!逃げんなよ…ちゃんと請求するからな!」
「あははっ!逃げないよ。任せといて☆」
 
 会議は、そこで解散した。

 広場を離れる人々。
 燻る街を見て、泣く者もいた。

 ミサトは、その背中を見つめてから、チャムチャムに言った。

「ねぇ、チャムチャム。この戦いが終わったら……湯ノ花で、責任持ってこの街直すから……あははっ!トイレ風呂付き。エルフの木材で、バシッとね☆」

 チャムチャムは鼻で笑った。
「ははっ!王国のビックリクジぐらい期待しとくよ!そういや泊まるとこねぇだろ?今日もうち泊まってけよ!」
「あははっ!助かるぅ~。今日もお邪魔しま~す☆」

◇◇◇

➖➖夜・チャムチャムの家➖➖

 布団に転がり、ミサトは天井を見た。

「ねぇリリィ?……今日ってさ、めっちゃ忙しかったのに…何も終わってないよね?」
『はい。ミサト。現状維持です』
「ぐぅえぇぇ!やっぱり……。一番嫌なやつ!!」

『はい。ミサト。ですが、全員生存。街も存続』
「ははは……それだけで十分か~」

 ミサトは目を閉じた。

「ねぇ、リリィちゃん?』
『はい。ミサト』
「私、ちゃんと女王やれてるかな?」

『はい。ミサト。全国民がどう思っているかまでは分かりませんが…私の中では少なくとも“逃げないヤ○○ン女王責任者”です』
「ははは、、ヤ○○ンは余計だわ!そして最悪の褒め言葉だな……。とりあえず寝よ。おやすみリリィ」
『はい。ミサト。おやすみなさい』

 外で、まだ煙が流れている。
 だが今夜、街は静かだった。

 嵐は去っていない。
 けれど、ここにいる者たちは、、
 明日を話し合う権利を、確かに手にしていた。


          続
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