【三章完結しました】チートは無いけどAIがある!社畜OLの異世界立身出世録

星 見人

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第19話 【王様は煙を見て笑う】

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 ラインハルト王国、王都西端。
 夜明け前の空はまだ青黒く、城壁の上には冷たい風が吹いていた。

 王都広場では、兵たちが慌ただしく動いている。
 鎧の金具が触れ合う音、馬の嘶き、荷車の軋む音。
 戦の前にしか生まれない、張り詰めたざわめきだった。

 その中心に、ラインハルト国王リュウコクは立っていた。豪奢なマントを羽織り、いつも通り穏やかな笑みを浮かべている。
 
 ザハラは白金の槍を持ちながら、整列する兵の列を金色の双眸で一瞥してから、ぽつりと言った。

「戦争とは、血の量で語るものだと思っていたのだがな…」

 リュウコクは肩をすくめる。
「ふふ、それは“結果”だよ。血は出る。必ずね。でもそれを目的にすると、判断が鈍る」

「ふっ、冷たい王だな」

「あはは!効率的、と言ってほしいなぁ~」

 ザハラは鼻で笑った。
「効率良く殺す。効率良く死なせる。違いはあるのか?」

「あるよ。生き残った者が、次を選べるかどうか」
 リュウコクは兵たちを見る。
「戦争はね、勇気比べじゃない。“どれだけ相手に間違った選択をさせるか”の競争だ」

「……だから、燃やした?」

「うん。敵の頭の中をね」

 ザハラは一拍置いて笑った。
「あははっ……なるほど。お前は戦争を、“地図の上で終わらせる男”か」

「あははっ!理想はね~☆でもさ~これって全部ミサトに教わった事なんだよね…。早く全部終わらせて、ミサトの甘いパンケーキ食べたいな☆」

 そう言って、リュウコクはいつもの笑顔を浮かべた。

「ねぇ?報告はまだ?」
 近くの兵士にかけたその声は軽く、まるで朝の紅茶の出来を尋ねるようだった。

「はっ!まもなくです!」

 そこへ、伝達係が全力で駆け込んでくる。
「報告!南方、ボダレス方面より報告!煙、確認! 大規模です!」

 リュウコクは一瞬だけ目を細め、そして、、にこりと笑った。

「よし。予定通りだね☆」

 隣に立つザイール女王ザハラが、金色の瞳を細める。
「……随分と分かりやすい合図だな?」
「うん。分かりやすいのが一番だよ。“ラインハルト、動いてます”ってね」

 リュウコクは軽く手を上げた。
「さぁ、全軍西の国境へ向かうよ」

 号令と共に、兵たちが一斉に動き出す。
 巨大な国が、静かに向きを変えた。

 出立の直前。
 リュウコクは城門の奥にいる、かつての王、、父ラインハルトの元へ向かった。

「父さん」
「あぁ……リュウコク、行くのか…」
「うん。南から敵は来ない。西に兵を集めておいて。何かあったら、王国をお願いします」

 父は息子をじっと見つめ、短く頷いた。

「あぁ……無事に戻れ」
「うん。多分ね~☆それじゃ、、行って来ます」
 軽口のような返事を残し、リュウコクは馬に跨った。

◇◇◇

 西の国境へ向かう街道。
 夜の帳が降りる中、軍は静かに進む。

 ザハラがリュウコクに馬を寄せ、低い声で尋ねた。

「なぜボダレスを燃やしたのだ?」
「ん~、、狼煙みたいなものかな…。ボダレスを獲られたら僕達が島嶼連合に攻めやすくなるでしょ。煙が上がれば当然獲られたらと思う。島嶼連合もマルディアも動かざる終えない…あははっ!」

 リュウコクは楽しそうに答える。
「ねっ?分かりやすいでしょ?しかもね、ミサトがいる時に燃やせば、、“血は流れない”。必ずミサトが戦争になる前に両方を止めてくれる。多分…“燃えた家直してあげる”ぐらい言ってると思うんだよなぁ~♪」

「本当に二人は妙な信頼だな…」

「あははっ!信頼じゃないよ。愛かな??あははあとちゃんと性格を知ってるだけ…。たぶん全部終わったらすっごい怒られそうだけどね~」

 ザハラは笑った。
「ボダレスは分かった!では、次だ。なぜマルディアには全軍で行かぬ?」

「この後の動きに必要だから☆まだ内容は内緒だけどね!」さらりと言う。
「マルディアは動くよ☆だってさ、あの煙があれば、南の島嶼連合も落とされるか同盟かの状況になったように見えるでしょ?」

「……この大陸で、大国が一つになる」
「うん。それそれ、“あいつら”が一番嫌がるでしょ~」

 ザハラは肩を震わせた。
「あははっ!化け物め。お前の頭の中では、どこまで終わっている?」

 リュウコクは少し考え、空を見上げる。

「ん~……ラインハルトの勝利まで?」
 そして、いつもの笑顔。

「あははっ!お前が“残酷な絵を描き”、ミサトが“綺麗な夢を描く”!どうなるか楽しみにしてるぞ!ふふ、、それまでは存分に“お前の矛”となってやる!」
「あはは、、バレてた……」

◇◇◇

 国境地帯。
 夜が深まり、草原に霧が流れ始めた頃。

 リュウコク陣営とザハラ陣営は、左右に分かれて陣を張った。

 やがて、、足音。
 ぞろぞろと、闇の向こうからマルディア兵が現れる。

 リュウコクは静かに手を上げた。

 その瞬間、
 ぱっ、ぱっ、と一斉に松明に火が灯る。

「やぁ♪こんばんは☆マルディアの諸君」
 驚き、ざわめく敵兵を前に、リュウコクは朗らかに続ける。
「ここから先は、ラインハルト王国だよ。後退するなら僕達は追わない」

 一拍。
「でも、、一歩でも踏み入れたら、分かるよね?」

 マルディア兵たちは逡巡する。
 その背後で、怒号が上がった。

「ギュギュギュッ!全軍突撃!!」

 同時に、ラインハルト陣営後方からも悲鳴。

「、、っ、裏だ!暗闇から何か来るぞっ!!気を付けろ!!」

 リュウコクが目を細める。
「ふふ、出たな!血吸いお化けめ……」

◇◇◇

 右陣、、
 静まり返っていたザハラが、騒ぎの起きた左の陣営を見て舌打ちした。

「ちっ!こっちはハズレか!」
 ザハラは馬を止め、近くの若い兵士に身を屈める。
「私はリュウコクの所へ行く!この軍の指揮は其方が取れ!」

「えっ?は、はいっ!でも、、何をすれば……」

 前屈みになった拍子に、ザハラの豊かな胸元が強調される。
 兵士の視線が、思わずそこに吸い寄せられた。

 ザハラは金色の瞳で睨み、くすりと笑う。
「ふふっ……どこを見ておる?」
 ドギマギする兵士の顔の前に指を立てる。
「こ~のスケベ♡全責任は私が負う。後は頼んだぞ!」

 そう言い残し、兵士の鼻をチョンと触るとザハラは馬を走らせた。
 戦場の夜が、完全に牙を剥く。

◇◇◇
 
 ザハラがリュウコク陣営に着くとすぐに白金の槍が、夜空を裂いた。

 投げたはずの槍は手を離れ、意思を持つ鳥のように宙を巡り、マルディア兵の陣を次々と穿つ。悲鳴が上がる前に、月に照らされた閃光だけが残った。

「遅れてすまぬな、リュウコクよ!」
 馬を寄せたザハラが笑う。

「あはは!大丈夫。全然予定通りだよ。僕の方が当たりだったしね!」
 リュウコクは穏やかに答えた。

「それにしても相変わらず派手だね。その槍。噂では知ってたけど……」

「あははっ!こいつはこいつの機嫌で飛ぶ。今日はずいぶんとご機嫌な様だ!ザイールに伝わる“聖物の力”とくと味合わせてやる!」

 白金の槍がザハラの周囲を旋回する。

「あははっ!なら安心だ☆」
 リュウコクは前を見る。
「今夜は、マルディアに逃げ道を残す戦いだ」

 ザハラは歯を見せて笑った。

「あははっ!逃げられる者は、生きる。生きた者は、震える……ふふ、いい戦だ!存分に楽しもうぞ!リュウコク!!」
「あぁ、、今日はやり過ぎても…怒られる心配が無いからね☆」
 二人は笑いながら戦場を駆け抜けた。

◇◇◇
 
 そしてこの戦いは、、
 その夜に決着はつかなかった。

 だが、流れは、確実に生まれていた。

 煙一つで動いた国。
 動かされた国。
 そして、静かに眠る女王。

 世界はもう、
 後戻りできない位置まで、駒を進めている。

 次に目を覚ます時、
 盤上に残っているのは、
 勝者か、敗走者か。

 それを決めるのは、、
 まだ、先の話だった。


          続
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