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4.ご機嫌な侍女、青褪める執事と女中頭
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「でも、どうして分かったんですか?」
「リチャード達の買物が異常に増えたの。先月から一気に三倍くらいに。
これは最後の駆け込みなんじゃないかなって」
「今までだって毎月すごい金額だったじゃないですか。それが三倍ですか?」
「ええ。配達を止められる物はガードナーの倉庫に運んであるけど、今日のリチャードとステラ様のドレスやアクセサリーみたいな物もあるから凄い金額だわ」
ルーシーはシンプルなドレスに着替え髪を三つ編みにして、手に一冊のノートと糸巻き鉛筆を持って部屋を出ようとした。
「この部屋のものはどの様にしますか?」
「クローゼットの中の物は全部ベッドの上に出して頂戴。
箪笥に入っている物はそのままで。
執務室に行った後、各部屋を回るから」
「畏まりました」
(どのくらい入るか一度試してみたかったのよね)
執務室のドアを開けると青褪めたエマーソンと、普段は沈着冷静なミセス・ブラックリーがそわそわと手揉みしながら並んでいた。
「遅い時間に呼び立ててごめんなさいね。さっきも少し話したんだけど、リチャードから今晩中に荷物を纏めて出て行くように言われたの。
元婚約者のステラ・ラングストン様と結婚なさるって仰ってたわ」
「「・・」」
「エマーソンはこの机の中から全ての書類を出して、リチャードの執務室に運んで欲しいの。あの部屋には私の物は一切置いていないし、三年前から何一つ変えてないから。
私はこれから私物を片付けるからミセス・ブラックリーは一緒に来てくれるかしら?」
「あの、今後執務や家政の差配はどなたがなさるのでしょうか?」
「明日リチャードが帰ってきてから話してくれると思うわ。申し訳ないけど私には想像もつかないの」
「今までは給金も含め様々な支払いなどは奥様がなさっておいででした。
奥様が来られる前はほとんど無給でした。
離婚されたら私達は生活出来なくなってしまいます」
ルーシーが持ってきた持参金はリチャードとリチャードの両親の借金返済でほぼ底をついてしまった為、三年間の結婚生活中、屋敷の諸費用や使用人の給与などは全てルーシーの個人資産から出していた。
以前にも増して浪費の激しくなっているリチャードが、それらの事情を分かっているとは思えなかった。
「取り敢えずはリチャードがどうするつもりなのか本人に聞いてくれるかしら?
使用人のみんなには三年間本当に良くしてもらったから、もしもの時は私で良ければ再就職先の相談に乗らせて貰うつもりです。
その時は最善を尽くしますから遠慮なく連絡を下さいね。
但し、リチャード達には内緒でね。でないとどんな妨害をしてくるか分からないから」
「どうしても離婚は避けられないのでしょうか?」
「今日の夜会に参加しておられた大勢の方々の前で断言されたから、今更覆すのは無理だと思う。
それに私自身このまま便利な金蔓扱いされるのは。
今までのような散財を続けられたら破産してしまうわ」
「確かに、旦那様達のご乱行は私達使用人から見てもありえないことだと思っておりました。
この三年間の奥様の状況も考えず、自分勝手な事を申しました」
「気にしないで、今後が不安になるのは当然だわ。リチャードは明日から確実に不機嫌になるはずだから」
「と言いますと?」
「離婚したいならもう少し穏便な方法を選ぶ事もできたはず。
だから、徹底的にやらせて貰う事にしたの」
ルーシーはにっこり最高の笑顔で二人に伝えた。
「今から私の荷物を纏めるから、リチャードは明日大激怒するわ、間違いなく」
「リチャード達の買物が異常に増えたの。先月から一気に三倍くらいに。
これは最後の駆け込みなんじゃないかなって」
「今までだって毎月すごい金額だったじゃないですか。それが三倍ですか?」
「ええ。配達を止められる物はガードナーの倉庫に運んであるけど、今日のリチャードとステラ様のドレスやアクセサリーみたいな物もあるから凄い金額だわ」
ルーシーはシンプルなドレスに着替え髪を三つ編みにして、手に一冊のノートと糸巻き鉛筆を持って部屋を出ようとした。
「この部屋のものはどの様にしますか?」
「クローゼットの中の物は全部ベッドの上に出して頂戴。
箪笥に入っている物はそのままで。
執務室に行った後、各部屋を回るから」
「畏まりました」
(どのくらい入るか一度試してみたかったのよね)
執務室のドアを開けると青褪めたエマーソンと、普段は沈着冷静なミセス・ブラックリーがそわそわと手揉みしながら並んでいた。
「遅い時間に呼び立ててごめんなさいね。さっきも少し話したんだけど、リチャードから今晩中に荷物を纏めて出て行くように言われたの。
元婚約者のステラ・ラングストン様と結婚なさるって仰ってたわ」
「「・・」」
「エマーソンはこの机の中から全ての書類を出して、リチャードの執務室に運んで欲しいの。あの部屋には私の物は一切置いていないし、三年前から何一つ変えてないから。
私はこれから私物を片付けるからミセス・ブラックリーは一緒に来てくれるかしら?」
「あの、今後執務や家政の差配はどなたがなさるのでしょうか?」
「明日リチャードが帰ってきてから話してくれると思うわ。申し訳ないけど私には想像もつかないの」
「今までは給金も含め様々な支払いなどは奥様がなさっておいででした。
奥様が来られる前はほとんど無給でした。
離婚されたら私達は生活出来なくなってしまいます」
ルーシーが持ってきた持参金はリチャードとリチャードの両親の借金返済でほぼ底をついてしまった為、三年間の結婚生活中、屋敷の諸費用や使用人の給与などは全てルーシーの個人資産から出していた。
以前にも増して浪費の激しくなっているリチャードが、それらの事情を分かっているとは思えなかった。
「取り敢えずはリチャードがどうするつもりなのか本人に聞いてくれるかしら?
使用人のみんなには三年間本当に良くしてもらったから、もしもの時は私で良ければ再就職先の相談に乗らせて貰うつもりです。
その時は最善を尽くしますから遠慮なく連絡を下さいね。
但し、リチャード達には内緒でね。でないとどんな妨害をしてくるか分からないから」
「どうしても離婚は避けられないのでしょうか?」
「今日の夜会に参加しておられた大勢の方々の前で断言されたから、今更覆すのは無理だと思う。
それに私自身このまま便利な金蔓扱いされるのは。
今までのような散財を続けられたら破産してしまうわ」
「確かに、旦那様達のご乱行は私達使用人から見てもありえないことだと思っておりました。
この三年間の奥様の状況も考えず、自分勝手な事を申しました」
「気にしないで、今後が不安になるのは当然だわ。リチャードは明日から確実に不機嫌になるはずだから」
「と言いますと?」
「離婚したいならもう少し穏便な方法を選ぶ事もできたはず。
だから、徹底的にやらせて貰う事にしたの」
ルーシーはにっこり最高の笑顔で二人に伝えた。
「今から私の荷物を纏めるから、リチャードは明日大激怒するわ、間違いなく」
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