18 / 32
18.取らぬリチャードの皮算用
しおりを挟む
ガードナー男爵家に離婚届を持っていったものの、何も取り返せず帰ってきたリチャードとロンデリー子爵。
玄関を入ると従僕が二人の帽子とステッキを預かり、古ぼけた帽子かけにそれをかけている。
(くそ、いつもの帽子かけはウォールナットで、騎乗した騎士と我が家紋が彫られた特注品だったのに)
絨毯の敷かれていない階段をコツコツと音を立てて登り、執務室に入って行った。
所々擦り切れたソファの対面に座り、リチャードは腕を組んでロンデリー子爵を睨みつけた。
「結局何も取り返せなかったではないか。どうするつもりだ」
「勿論、裁判です。元々そのつもりで準備していたのですから、今までの生活に戻るのにちょっとばかり時間がかかるだけです」
「それ迄は我慢しろと言うことか?」
憤懣やるかたないリチャードはロンデリー子爵の無能ぶりに腹を立てた。
「あまりに不便だと言う事であれば、暫くの間はホテルに泊まられては如何ですかな?」
「・・身の回りの物まで持って行かれたのだ。こんな貧相ななりで外出するなどあり得ん」
「仕立て屋を呼んで急ぎで仕立てさせては?」
「・・」
支払いが出来ないリチャードは仕立て屋を呼ぶことが出来ない。
何しろ領地から上がった収入はいつも全て使い切っており、それ以外はツケで購入していたのだから。
「領地から金を送らせるとか」
「それだ! 当面の資金は領地から送らせれば良い。
で? これからの予定は?」
(ホテルに泊まる金も仕立て屋を呼ぶ金も無いとは、何とも情けない姿だな)
「裁判所に訴状を提出します。敲き台はすでに出来ているので、それに今回の窃盗罪の訴状を追加するだけです。
明日の朝一番に提出しましょう」
「勝てるんだろうな。負けたら鐚一文払わんからな」
「問題ありません。裁判所で訴状の受付が終わると被告へ訴状が送付されます。
それを見たら奴等は慌てふためいて大騒ぎになるでしょうね」
「ガードナーへの訴状も明日提出を?」
「勿論。その方が効果覿面ですし、何よりマルフォー卿の離婚の為にはガードナー男爵の褫爵は必須ですから」
「警備が厳重で商会に忍び込めなかった時は慌てたが、ガードナーの犯罪の証拠は上手く準備出来たしな」
「場所は何処に仕掛けたんですか?」
「話してなかったか? トゥールとメルプレースだ。
トゥールには荷受票をメルプレースには請求書の控えを仕込んだ」
「いい選択ですね。トゥールは大きな港町で、各国からの輸入品が届いている。
メルプレースはホラントリア帝国に繋がる街道があります。
関所の検問は厳しいと言われていますが、あんな物は金次第でどうにでもなる」
「終わったらサミュエルには相応の物を渡すことになっている。
奴は裏の仕事に詳しいからな、今回も最適の奴を連れて来てくれた」
「では、プラスに転じたと言うところですね。元々は犯罪者として断罪するだけでしたが、国家反逆罪で起訴するので罪の重さも桁違いですから」
「ホラントリア帝国に弩と手銃を売ったとなれば死罪は確定。ガードナー商会は慰謝料がわりに私が差配する。ロンデリー卿にはしっかりと仕事をしてもらわなければ」
「ガードナーは今頃帳簿の確認に大慌てです。例の物に気付く暇など絶対にないと断言できます」
玄関を入ると従僕が二人の帽子とステッキを預かり、古ぼけた帽子かけにそれをかけている。
(くそ、いつもの帽子かけはウォールナットで、騎乗した騎士と我が家紋が彫られた特注品だったのに)
絨毯の敷かれていない階段をコツコツと音を立てて登り、執務室に入って行った。
所々擦り切れたソファの対面に座り、リチャードは腕を組んでロンデリー子爵を睨みつけた。
「結局何も取り返せなかったではないか。どうするつもりだ」
「勿論、裁判です。元々そのつもりで準備していたのですから、今までの生活に戻るのにちょっとばかり時間がかかるだけです」
「それ迄は我慢しろと言うことか?」
憤懣やるかたないリチャードはロンデリー子爵の無能ぶりに腹を立てた。
「あまりに不便だと言う事であれば、暫くの間はホテルに泊まられては如何ですかな?」
「・・身の回りの物まで持って行かれたのだ。こんな貧相ななりで外出するなどあり得ん」
「仕立て屋を呼んで急ぎで仕立てさせては?」
「・・」
支払いが出来ないリチャードは仕立て屋を呼ぶことが出来ない。
何しろ領地から上がった収入はいつも全て使い切っており、それ以外はツケで購入していたのだから。
「領地から金を送らせるとか」
「それだ! 当面の資金は領地から送らせれば良い。
で? これからの予定は?」
(ホテルに泊まる金も仕立て屋を呼ぶ金も無いとは、何とも情けない姿だな)
「裁判所に訴状を提出します。敲き台はすでに出来ているので、それに今回の窃盗罪の訴状を追加するだけです。
明日の朝一番に提出しましょう」
「勝てるんだろうな。負けたら鐚一文払わんからな」
「問題ありません。裁判所で訴状の受付が終わると被告へ訴状が送付されます。
それを見たら奴等は慌てふためいて大騒ぎになるでしょうね」
「ガードナーへの訴状も明日提出を?」
「勿論。その方が効果覿面ですし、何よりマルフォー卿の離婚の為にはガードナー男爵の褫爵は必須ですから」
「警備が厳重で商会に忍び込めなかった時は慌てたが、ガードナーの犯罪の証拠は上手く準備出来たしな」
「場所は何処に仕掛けたんですか?」
「話してなかったか? トゥールとメルプレースだ。
トゥールには荷受票をメルプレースには請求書の控えを仕込んだ」
「いい選択ですね。トゥールは大きな港町で、各国からの輸入品が届いている。
メルプレースはホラントリア帝国に繋がる街道があります。
関所の検問は厳しいと言われていますが、あんな物は金次第でどうにでもなる」
「終わったらサミュエルには相応の物を渡すことになっている。
奴は裏の仕事に詳しいからな、今回も最適の奴を連れて来てくれた」
「では、プラスに転じたと言うところですね。元々は犯罪者として断罪するだけでしたが、国家反逆罪で起訴するので罪の重さも桁違いですから」
「ホラントリア帝国に弩と手銃を売ったとなれば死罪は確定。ガードナー商会は慰謝料がわりに私が差配する。ロンデリー卿にはしっかりと仕事をしてもらわなければ」
「ガードナーは今頃帳簿の確認に大慌てです。例の物に気付く暇など絶対にないと断言できます」
181
あなたにおすすめの小説
【完結】今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
釣り合わないと言われても、婚約者と別れる予定はありません
しろねこ。
恋愛
幼馴染と婚約を結んでいるラズリーは、学園に入学してから他の令嬢達によく絡まれていた。
曰く、婚約者と釣り合っていない、身分不相応だと。
ラズリーの婚約者であるファルク=トワレ伯爵令息は、第二王子の側近で、将来護衛騎士予定の有望株だ。背も高く、見目も良いと言う事で注目を浴びている。
対してラズリー=コランダム子爵令嬢は薬草学を専攻していて、外に出る事も少なく地味な見た目で華々しさもない。
そんな二人を周囲は好奇の目で見ており、時にはラズリーから婚約者を奪おうとするものも出てくる。
おっとり令嬢ラズリーはそんな周囲の圧力に屈することはない。
「釣り合わない? そうですか。でも彼は私が良いって言ってますし」
時に優しく、時に豪胆なラズリー、平穏な日々はいつ来るやら。
ハッピーエンド、両思い、ご都合主義なストーリーです。
ゆっくり更新予定です(*´ω`*)
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。
【 完結 】「婚約破棄」されましたので、恥ずかしいから帰っても良いですか?
しずもり
恋愛
ミレーヌはガルド国のシルフィード公爵令嬢で、この国の第一王子アルフリートの婚約者だ。いや、もう元婚約者なのかも知れない。
王立学園の卒業パーティーが始まる寸前で『婚約破棄』を宣言されてしまったからだ。アルフリートの隣にはピンクの髪の美少女を寄り添わせて、宣言されたその言葉にミレーヌが悲しむ事は無かった。それよりも彼女の心を占めていた感情はー。
恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい!!
ミレーヌは恥ずかしかった。今すぐにでも気を失いたかった。
この国で、学園で、知っていなければならない、知っている筈のアレを、第一王子たちはいつ気付くのか。
孤軍奮闘のミレーヌと愉快な王子とお馬鹿さんたちのちょっと変わった断罪劇です。
なんちゃって異世界のお話です。
時代考証など皆無の緩い設定で、殆どを現代風の口調、言葉で書いています。
HOT2位 &人気ランキング 3位になりました。(2/24)
数ある作品の中で興味を持って下さりありがとうございました。
*国の名前をオレーヌからガルドに変更しました。
聖女に選ばれた令嬢は我が儘だと言われて苦笑する
しゃーりん
恋愛
聖女がいる国で子爵令嬢として暮らすアイビー。
聖女が亡くなると治癒魔法を使える女性の中から女神が次の聖女を選ぶと言われている。
その聖女に選ばれてしまったアイビーは、慣例で王太子殿下の婚約者にされそうになった。
だが、相思相愛の婚約者がいる王太子殿下の正妃になるのは避けたい。王太子妃教育も受けたくない。
アイビーは思った。王都に居ればいいのであれば王族と結婚する必要はないのでは?と。
65年ぶりの新聖女なのに対応がグダグダで放置され気味だし。
ならばと思い、言いたいことを言うと新聖女は我が儘だと言われるお話です。
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
王家の面子のために私を振り回さないで下さい。
しゃーりん
恋愛
公爵令嬢ユリアナは王太子ルカリオに婚約破棄を言い渡されたが、王家によってその出来事はなかったことになり、結婚することになった。
愛する人と別れて王太子の婚約者にさせられたのに本人からは避けされ、それでも結婚させられる。
自分はどこまで王家に振り回されるのだろう。
国王にもルカリオにも呆れ果てたユリアナは、夫となるルカリオを蹴落として、自分が王太女になるために仕掛けた。
実は、ルカリオは王家の血筋ではなくユリアナの公爵家に正統性があるからである。
ユリアナとの結婚を理解していないルカリオを見限り、愛する人との結婚を企んだお話です。
【完】王妃の座を愛人に奪われたので娼婦になって出直します
112
恋愛
伯爵令嬢エレオノールは、皇太子ジョンと結婚した。
三年に及ぶ結婚生活では一度も床を共にせず、ジョンは愛人ココットにうつつを抜かす。
やがて王が亡くなり、ジョンに王冠が回ってくる。
するとエレオノールの王妃は剥奪され、ココットが王妃となる。
王宮からも伯爵家からも追い出されたエレオノールは、娼婦となる道を選ぶ。
婚約破棄のその後に
ゆーぞー
恋愛
「ライラ、婚約は破棄させてもらおう」
来月結婚するはずだった婚約者のレナード・アイザックス様に王宮の夜会で言われてしまった。しかもレナード様の隣には侯爵家のご令嬢メリア・リオンヌ様。
「あなた程度の人が彼と結婚できると本気で考えていたの?」
一方的に言われ混乱している最中、王妃様が現れて。
見たことも聞いたこともない人と結婚することになってしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる