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第五章 良き出会いに乾杯
07.プレゼントは⋯⋯
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「あぁぁぁ! 忘れてた⋯⋯私って9歳だった」
誕生日が過ぎて9歳になっていた事に、今頃気付いたミリーは、自分専用の机の上を片付け始めた。
「忙しいから、すっかり忘れてたよぉ。今日は帰るけど、明日もいつも通りの時間に来る予定だから、後のことはよろしく~。シモン、ビリーに教えてもらいながら契約書の草案を作っといてね~。
そうだ! シモン、今回の貸しをなしにするのと1年間オネエ言葉で話すのとどっちがいいか決めといてね~」
ビリーに向かってペコリと頭を下げたミリーが、ドタドタと足音を立てて部屋を飛び出した。
「⋯⋯誕生日が過ぎてたのを忘れてたって事? それとも今日が誕生日だったの? それに、なんで急にオネエ言葉?」
「今日が誕生日で、家でお祝いがあるから急いで帰ったんじゃねえか?」
「う~ん⋯⋯もしかしてだけど、誕生日プレゼントの代わりがオネエ言葉なのかしら?」
ミリーが平民だったとしてもあの年齢なら家族がお祝いをするはず。ささやかなご馳走とプレゼントが待っているのだろう。
(ガキの頃の誕生日って言やぁ、ハイテンションな家族が朝から部屋に飛び込んで来るとこから始まったんだよなぁ。んで、前日の夜の間にこっそり飾り付けられたホールに大量のプレゼントが積み上げられてて⋯⋯ド派手なパーティーをする為に劇場を貸切ったり、でかい客船を購入したり。
うちの家族ってやっぱ、ヤベェよな)
(誕生日かぁ⋯⋯毎年のパーティーが嫌だったなあ。『長男は家族だけでお祝いしたがるから』とか言ってやらない癖に、僕の時は大勢の招待客を呼んでさぁ。何度もお召し替えさせられるのもわけわかんなかったし、お客様の前で歌えとか詩を朗読しろとか。恥ずかし過ぎて真っ赤になったら喜ばれたとか⋯⋯僕の黒歴史だよ)
(誕生日のお祝いらしい出来事と言えば、父上がこっそりやって来て頭を撫でてくれるのが嬉しかったな。父上や使用人達が内緒でくれるプレゼントは食べ物ばかりで⋯⋯プレゼントを貰ったと兄上にバレないようにと考えてくれてた)
(誕生日は新しいドレスとアクセサリーが楽しみだったわ。パーティー会場には毎年彼がエスコートしてくれたのよね⋯⋯幼馴染で親友で夫になった彼が。こっそりパーティーを抜け出したり、内緒でワインを味見したり⋯⋯いつも一緒にいた気がするわ。
でもミリーは⋯⋯多分だけど⋯⋯)
「ミリーの誕生日は今日かもしれないけど、お祝いやプレゼントはないんじゃないかしら」
あまり手入れされていない髪や肌、着古したチュニックやエプロンドレス。ミリーの見なりは平民の子供だが、貴族として最低限のマナー教育は受けている気がする。年齢よりも極端に小さな身体つき、知識で裏打ちされた理論的な口調は大人を納得させる程の迫力と説得力がある。時に辛辣に時に思慮深く、常に次の一手を考えて警戒を怠らない。
(人懐こく見えるけど誰に対しても一定の距離を置いていて、笑顔で誤魔化しながら周りの状況を値踏みしてる⋯⋯)
「ミリーの口からは家族の話が出たことが一度もないでしょう? あれって普通じゃないわ。遅くなったから早く帰らないとお母さんに叱られるとか、姉のお下がりなんだとかお揃いだとか⋯⋯ひとつも聞いた事がないの」
平民の8歳なら市民学校に行っており、貴族の8歳ならひとりでのお出かけは有り得ない。
「ネグレクトされてるんじゃないかってずっと思ってるの」
どこに住んでいるのか絶対に話さないミリーは、帰る時には今でもあちこち迂回しながら帰っている。
以前、レオンがミリーの後をつけた時も平民街の近くで見失ってしまった。
「今でもどこに住んでいるのかわたくし達に知られたくないんでしょうね。まるで警戒心の強い猫みたいだわ」
「たっだいま~。今日はね、ちょ~っと贅沢して主役の為のクッキーを買って来たんだよ~。お誕生日と言えばケーキだけど、持ち歩くのが難しくて諦めたの。いつか盛大なパーティーを開いてお花と料理とケーキと。あと⋯⋯ジュースなのかワインなのかはその時の年齢次第だね~」
独り言を言いながら傷だらけの机の上にクッキーの入った袋を置いた。一本だけ少し短い椅子の足に用心しながらそっと腰掛けて、袋の口を縛ってある紐を解いた。
「うっかり忘れててごめんね~。実里さんったら大失敗だよ~。
では、改めて⋯⋯ミリー、お誕生日おめでとう! 今回で7回目かあ、早かったような長かったような。足場を固めるのにもうちょっとかかりそうなんだけど、ミリーが戻って来た時に困らないよう、ひとりぼっちにならないようにって日々頑張ってるからね。
ミリーの好みはわかんないけど、これはほら木の実入りのクッキー」
袋の中からクッキーを取り出して光に翳して匂いを嗅いだ。
「少し甘くていい匂いが届いたかなぁ。これは実里からミリーへのプレゼントだから、匂いも味も届くといいなぁって願いながら⋯⋯代わりにいただきます」
奥深くで眠っているミリーの心に『お祝い』の気持ちが届くようにと願いを込めて。
(happy birthday⋯⋯マーサの居場所を必ず見つけるから。もう少し待っててね)
誕生日が過ぎて9歳になっていた事に、今頃気付いたミリーは、自分専用の机の上を片付け始めた。
「忙しいから、すっかり忘れてたよぉ。今日は帰るけど、明日もいつも通りの時間に来る予定だから、後のことはよろしく~。シモン、ビリーに教えてもらいながら契約書の草案を作っといてね~。
そうだ! シモン、今回の貸しをなしにするのと1年間オネエ言葉で話すのとどっちがいいか決めといてね~」
ビリーに向かってペコリと頭を下げたミリーが、ドタドタと足音を立てて部屋を飛び出した。
「⋯⋯誕生日が過ぎてたのを忘れてたって事? それとも今日が誕生日だったの? それに、なんで急にオネエ言葉?」
「今日が誕生日で、家でお祝いがあるから急いで帰ったんじゃねえか?」
「う~ん⋯⋯もしかしてだけど、誕生日プレゼントの代わりがオネエ言葉なのかしら?」
ミリーが平民だったとしてもあの年齢なら家族がお祝いをするはず。ささやかなご馳走とプレゼントが待っているのだろう。
(ガキの頃の誕生日って言やぁ、ハイテンションな家族が朝から部屋に飛び込んで来るとこから始まったんだよなぁ。んで、前日の夜の間にこっそり飾り付けられたホールに大量のプレゼントが積み上げられてて⋯⋯ド派手なパーティーをする為に劇場を貸切ったり、でかい客船を購入したり。
うちの家族ってやっぱ、ヤベェよな)
(誕生日かぁ⋯⋯毎年のパーティーが嫌だったなあ。『長男は家族だけでお祝いしたがるから』とか言ってやらない癖に、僕の時は大勢の招待客を呼んでさぁ。何度もお召し替えさせられるのもわけわかんなかったし、お客様の前で歌えとか詩を朗読しろとか。恥ずかし過ぎて真っ赤になったら喜ばれたとか⋯⋯僕の黒歴史だよ)
(誕生日のお祝いらしい出来事と言えば、父上がこっそりやって来て頭を撫でてくれるのが嬉しかったな。父上や使用人達が内緒でくれるプレゼントは食べ物ばかりで⋯⋯プレゼントを貰ったと兄上にバレないようにと考えてくれてた)
(誕生日は新しいドレスとアクセサリーが楽しみだったわ。パーティー会場には毎年彼がエスコートしてくれたのよね⋯⋯幼馴染で親友で夫になった彼が。こっそりパーティーを抜け出したり、内緒でワインを味見したり⋯⋯いつも一緒にいた気がするわ。
でもミリーは⋯⋯多分だけど⋯⋯)
「ミリーの誕生日は今日かもしれないけど、お祝いやプレゼントはないんじゃないかしら」
あまり手入れされていない髪や肌、着古したチュニックやエプロンドレス。ミリーの見なりは平民の子供だが、貴族として最低限のマナー教育は受けている気がする。年齢よりも極端に小さな身体つき、知識で裏打ちされた理論的な口調は大人を納得させる程の迫力と説得力がある。時に辛辣に時に思慮深く、常に次の一手を考えて警戒を怠らない。
(人懐こく見えるけど誰に対しても一定の距離を置いていて、笑顔で誤魔化しながら周りの状況を値踏みしてる⋯⋯)
「ミリーの口からは家族の話が出たことが一度もないでしょう? あれって普通じゃないわ。遅くなったから早く帰らないとお母さんに叱られるとか、姉のお下がりなんだとかお揃いだとか⋯⋯ひとつも聞いた事がないの」
平民の8歳なら市民学校に行っており、貴族の8歳ならひとりでのお出かけは有り得ない。
「ネグレクトされてるんじゃないかってずっと思ってるの」
どこに住んでいるのか絶対に話さないミリーは、帰る時には今でもあちこち迂回しながら帰っている。
以前、レオンがミリーの後をつけた時も平民街の近くで見失ってしまった。
「今でもどこに住んでいるのかわたくし達に知られたくないんでしょうね。まるで警戒心の強い猫みたいだわ」
「たっだいま~。今日はね、ちょ~っと贅沢して主役の為のクッキーを買って来たんだよ~。お誕生日と言えばケーキだけど、持ち歩くのが難しくて諦めたの。いつか盛大なパーティーを開いてお花と料理とケーキと。あと⋯⋯ジュースなのかワインなのかはその時の年齢次第だね~」
独り言を言いながら傷だらけの机の上にクッキーの入った袋を置いた。一本だけ少し短い椅子の足に用心しながらそっと腰掛けて、袋の口を縛ってある紐を解いた。
「うっかり忘れててごめんね~。実里さんったら大失敗だよ~。
では、改めて⋯⋯ミリー、お誕生日おめでとう! 今回で7回目かあ、早かったような長かったような。足場を固めるのにもうちょっとかかりそうなんだけど、ミリーが戻って来た時に困らないよう、ひとりぼっちにならないようにって日々頑張ってるからね。
ミリーの好みはわかんないけど、これはほら木の実入りのクッキー」
袋の中からクッキーを取り出して光に翳して匂いを嗅いだ。
「少し甘くていい匂いが届いたかなぁ。これは実里からミリーへのプレゼントだから、匂いも味も届くといいなぁって願いながら⋯⋯代わりにいただきます」
奥深くで眠っているミリーの心に『お祝い』の気持ちが届くようにと願いを込めて。
(happy birthday⋯⋯マーサの居場所を必ず見つけるから。もう少し待っててね)
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