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第七章 ただいま準備中

17.みんな仲良し

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「ミリーの自由と別の世界の情報をそれぞれ秤に乗せたらバランスは取れるかしら?」

 オーレリアがほんの僅かだけ右の口角を上げて意味深に笑った。優しく問いかけるように見えるのに追い詰められたように思わせる挑戦的な笑顔を。

(ひぃ! ほ、微笑みが怖い。怖すぎる。これがひとつの王国をミニマムにした元女王予定者の迫力⋯⋯)

「⋯⋯い、いや~、どうでしょうねえ。実里の知識がどのくらいオーレリア様のお役に立つのか、お役に立つ情報を持っているのかも自分ではさっぱり分かりませんし⋯⋯。それに、その。いつミリーと入れ替わるのかも。ミリーはこの世界の子ですから実里の知識を共有していません。それでも良いのかと考えると⋯⋯。
もし仮に、お役に立てないまま終わりそうだという状況になっても、ミリーを助けて下さるんでしょうか?」

「勿論。わたくしは中途半端が嫌いですからね、やりはじめたなら最後までやらなくては気が済まない。それでも不安なら保険をかけておきましょうか。そうですねぇ⋯⋯⋯⋯もし、もし情報が手に入らないと分かったならば、貴女のナイトをわたくしの侍従にしましょう」

「⋯⋯私のナイトって?」

「大きくて不器用な熊がウロウロしていますでしょう? 知恵と武力の二本立てで使えそうな、珍種の熊。多言語に通じていて役に立ちそうですよ」

「不器用な熊⋯⋯熊が私のナイト? いやいやいやいや、それ勘違いですから! 熊は私の⋯⋯私のなんだ? えーっと、えーっと、金蔓! じゃなくて商売相手! 商売相手です! 他にはディスって遊ぶおもちゃとか、あとあと⋯⋯不器用じゃなくて気の短い不機嫌な熊です」

「なあ、随分な言いようじゃねえか。一番初めに金蔓って言ったの聞こえたからな。後でお仕置き、覚えとけよ」

「え~、言ったっけなぁ。どんぐりを貢いでる気ならするけど~」

 おもちゃ発言をレオンがスルーしたのは自覚ありで許可もしていると言う事なのか。笑いを堪えきれずイリスが口元を扇子で隠して誤魔化した。

「デイムでも良いわね。騎士服からドレスまで似合いそうだから、潜入捜査ができそうだもの。報告書にミリーがオネエ言葉と言っていると書かれていて気になっていたから、聞いてみたいと思っているの」

 案外ミーハーな元王女かも。

(確かにドレス姿は見てみたい。ドレス姿で扇子をヒラヒラ~って。イリスと並んだらすごいスチルが⋯⋯いや、そうじゃなくて)

「デイムって女騎士ですよね。シモンは最近オネエじゃなくなった残念さんだから無理です。女じゃないし私のデイムでもないし、完全な勘違いです。シモンは元使いっぱ⋯⋯元同僚で今は貯金製造機に変身してますけど、デイムじゃないです。
わた、私の代わりの情報源をお望みなら⋯⋯セオじい。うん、セオじいがお勧めです。近々お迎えがとかちょくちょく言ってきますけど、500年くらい生きそうなヤバい爺ちゃんなんで。どこから仕入れてくるのか分かんないですけど、イリスとは別方向の情報持ってます。あ、でも本人に聞いてみなきゃですけど⋯⋯」

 レオンをナイトだと言われてパニックになったミリーは、セオじいを生贄にしはじめた。

「実際、私の事業に大きく貢献って言うよりも、セオじいありきで仕事してきましたから。ちっこいものが好きなんでお願いするとチョロいから、私がミリーになった後もおねだりできると思います。
動きが悪くなったらターニャ婆がネジを巻いてくれますから、ターニャ婆とセットなら永久機関かも。セリナさんのご飯でも簡単に釣れます。えーっと、なんの話をしてましたっけ」

(笑顔で威圧からの熊がナイトでシモンがデイムで⋯⋯保険、まさかのときの保険の話だった)

「セオじいなら腹黒スチュワードかしら。ミリーは知らないようだけれど、彼を手に入れるのは容易じゃないのですよ。気まぐれな風のような方だから、手こずっている方が何人もおられるのです」

 セオじいは初めてミリーが屋敷を飛び出した日に出会ってから、いつも同じ場所でキセルをモクモクさせている気がする。

「か、風の割にはいつも同じとこにいますけど⋯⋯ね?」

 同意を求めるようにイリスに目を向けると意外な言葉が返ってきた。

「ええ、ここ数年はね」

(ええ! そうなの? マジかぁ。オーレリア様がご存じってセオじい何者? あの時、アーノルドさんに聞いといた方が良かったのかなぁ。でもセオじいはセオじいだし)

「候補者は3名。イリスを候補に入れるとレイモンド子爵が暴れるから、今まで通りのストッパー役をお願いするだけに留めておきましょう。わたくしの新しいお友達のひとりですし。
では、契約成立ね。年寄りはここまでにして⋯⋯イリス、あとは手筈通りに」

「はい、畏まりました」

 合図したようすはなかったのにスルッと部屋に戻ってきた侍女を従え、レオンにエスコートされたオーレリアは裏口から帰って行った。

 深々と腰を落としたカーテシーのまま固まっていたミリーが叫んだ時、馬車は既に動きはじめていた。




「えぇぇぇ、契約成立って、いつ? いつ決まったのぉぉぉ!?」











 その頃、学園では⋯⋯悠然とソファに腰掛け笑みを浮かべる理事長の前で、真っ赤な顔で憤慨する学園長が叫んでいた。

「えぇぇぇ、入学させるって、いつ? いつ決まったんですかぁぁぁ!?」

「筆記の試験は学園初の満点。面接では瑕疵は見つからなかった。その時点で決まっていたよ」

「し、しかし、出自に大きな問題があります! そのような生徒を受け入れるわけにはまいりません」

「私の推測だが、近々連絡が来るのではないかな。とても楽しみだよ」










 その翌日、ミッドランド侯爵家では⋯⋯悠然とソファに腰掛けて届いた手紙の束を執事長から受け取り、1通目の手紙を開いた侯爵家当主ハリーが叫んでいた。

「はぁぁぁ、離籍したって、いつ? いつの話だぁぁぁ!?」

「さあ、聞いておりませんので」

「クリフを呼べ!! それと貴族院に行って調べて来い、私の許可なく離籍など出来るはずがない⋯⋯でっち上げか、タチの悪い悪戯に違いない。そうでなければ何かからくりがあるはず。すぐに調べて来い!!」

(何が起きている!? アレは大人しく北の部屋にいると報告を⋯⋯ん? 最後に報告を受けたのは何時だ? 確か⋯⋯くそっ、思い出せん。
まさか逃したんじゃなかろうな! もしそうならタダではおかん)







 その頃、ミリーは⋯⋯貴族街と平民街の間にある学園から馬車で10分程度の場所にある屋敷の居間で、 叫んでいた。

「えぇぇぇ、買い取ったって、いつ? いつ買ったのぉぉぉ!?」

 屋敷のイメージは今では珍しいロココ調の曲線的なデザインとパステルカラー。二階建てで、部屋数は8。

 白とライトベージュを基調した部屋のアクセントは金箔で、観葉植物の緑色が彩を添えている。貝殻や植物の葉を抽象化した『ロカイユ装飾』とモールディングや家具の脚に、ガーランドやガブリオールレッグの装飾。

 芝が敷き詰められた広々とした庭にはトレリスやガゼボのある花壇や噴水が見える。

 開け放たれたテラス窓から爽やかな風が吹き込み、レースのカーテンを揺らしていた。

(どうしてこうなった?)



  《 第七章 完 》

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