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第七章 ただいま準備中

16.裏ルートならできるもん

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「あの、つかぬ事をお伺いますが⋯⋯お輿入れされた時の誓約書に移動範囲が指定してあったような記憶があるのですが」

「ええ、別荘の周囲半径2KM。ただ、その誓約書は今で言うと先々代当主と交わしたものですからね、とうの昔に無効になっています。わたくしは好きな時に出かけますし、友人をお迎えするのも自由。
それにあの辺りの土地はかなり前にわたくしの代理人が購入したので、ミッドランド侯爵家の者には立ち入る権利さえ与えるつもりはありません」

「領地を売っちゃったんですか!? あ、申し訳ありません」

 驚きすぎて思わず敬語を忘れたミリーは立ち上がって頭を下げた。

「わたくしの前で言葉遣いなど気にしなくても良いのです。ミリーはミリーのままで」

(いや~、それはマズいよ。絶対やらかしちゃう)

(いや~、それはマズいぞ。絶対やらかすに決まってる)

 久々にミリーとレオンの意見がシンクロした。両者睨み合って⋯⋯。

((ムムッ!))


「本当に仲が良いのね。やはり『見ることが信じること』だわ」

「えーっと、ん? 見ることが⋯⋯ああ、百聞は一見にしかずですね」

「実里の世界ではそう言うのね。とても良い言い回しだわ。ミッドランド侯爵家は家令が頑張っているけれど、財政は取り返しのつかないところまできているの。担保も準備できず信用貸しにまで手を出して、領地を切り売りしているわ。
それでも見栄を張り贅沢をしているのだから、爵位を売っても足りない状態になっていますよ」

(そこまでかぁ。この国って会社更生法とか民事更生法とかないよね。いや、会社じゃなくて個人? なら自己破産⋯⋯これもないな。なら、そのまま全部売っぱらって、残りは働いて返す。お貴族様が働くとかできるんだろうか。まあ、私には関係な⋯⋯ある! 関係あるぞ。めちゃめちゃヤバいじゃん。連帯責任とかってあり? 子供の資産とかも対象になったりする?)

「あ、あのですね。お言葉に甘えて普通に喋らせてもらいます。ミッドランド侯爵家が破産ってなった時に、ミリーの持ってる物も返済に当てられたりします?」

「ええ、なりますよ。子供が持っている貴金属や高価なドレス、本や鞄など全てが対象になります」

 オーレリアの言葉にイリスとレオンも頷いた。

(マジか! この世界って子供に酷すぎじゃん。親の借金を子供も背負うとかありえないっしょ。侯爵家のお金をたいして使ってないのに、持ってる物は全部取り上げるなんて酷すぎるじゃん)

 ミリーは指を折りながら費用を予想し始めた。

(住んでいる場所は貴族街にある侯爵家の屋敷の一室だから、家賃の相場は分からないけど結構お高いはず。衣服は何年かに1枚、靴もそのくらいで支給されてるな。
食事はいまだにパンと具のないスープだけど数年前から2食になったし。あとは衣服やリネン類の洗濯代とレンタル代くらい⋯⋯後で紙に書き出して、出てく時に置いてけば文句は言わない?)

 貴族が領地を手放すのは最後の手段に近いはず。

 貴金属などの金目の物を売り払った次が家屋敷。領地を売るなら担保にしてお金を借りるはずだが、それができなかったから売るしかなかった。

(つまり、貸してもらえなかったって事だよね。領地は大切な金のなる木なのに、それを手放すまで追い詰められてるとか、マジやばいんだけど。
あやつらに私の努力を掻っ攫われるのは絶対にヤダ。私が貯めたお金も特許もミリーの物なんだから。奴等にはビタ一文渡さん!)

「やっぱり学園への入学はなしで、即刻離籍する方法探します⋯⋯裏ルートなら国境も越えられるけど、できれば正規ルー⋯⋯」

「おい、チビすけ。国境を越える方法はねえって言ってたじゃねえか!」

「も~うっさいなあ。正規のルートでは子供だけじゃ越えられないって言ったの。そうじゃない方法ならとっくに見つけてるもんね~だ。熊は連れてかないけど。こちとらミリーの生命を預かってるんだから、どうにもならなきゃ危ない橋だって渡ります~」

「ミリー、落ち着きなさい。その為にわたくしがいるのですからね。ミリーが、頼ってくれると言うのなら、いくらでも方法がありますよ」

(オーレリア様を頼る? 初めて会った血の繋がらないお祖母様を⋯⋯信用できるんだろうか)

 ミリーを見捨てていたことに関しては、オーレリアの過去を知る前も知った後も何も思う事はない。

 オーレリアに対する印象は、冷酷な一面と温厚で面倒見の良い一面がある、信用出来る人。

(でも、失敗した時のリスクを考えると⋯⋯助けて下さいと言うのは簡単だと思うけど、予想外のトラブルが起きたら? 私が差し出せるものでバランスが取れるとは思えないのに、何があっても助けてくれますかなんて言えない。途中で手を離されたら全てが終わるかもしれないのに)

 助けて欲しい、危険すぎる、助けて欲しい、危険すぎる⋯⋯。

「⋯⋯わたくしの事が信用できないのは当然でしょう。その慎重さはとても大切だと思いますよ」

「信用していないのではありません。オーレリア様はとても素晴らしい方だと思います。ただ、助けて欲しいと願う時に差し出せるものを何も持っていないので。
私にあるのは見る人によっては大金だけど、別の人から見たらポケットマネー以下の資金と幾つかの特許があるだけで、対価と出来るほどではないのです」

「ミリーの信条は『情報にはそれに見合う対価を』でしたね。では、わたくしがミリーを助ける対価に情報を願います。ミリーが今まで行ってきた事の大半は実里の世界のもの。この世界にはない知識は何よりも貴重な資産ですよ。
ミリーはこれまで、とても危険な綱渡りをしてきましたね。ミリーにとって必要だったし、とても慎重に行動してきたから問題なくやってこれたけれど、今後も同じとは限らない。
わたくしの過去に起きた出来事のように、いつかどこかで誰かがミリーを羨み妬み足を引っ張ろうとするかも知れません。
ミリーは天秤のバランスを気にしていると聞いています。情報に見合う対価を求めるのは、バランスを崩した天秤から全てがこぼれ落ちるのを恐れているから」

「⋯⋯その通りです。人は心変わりをする生き物なんです。ほんのちょっとしたキッカケで手のひらを返すから、常に心に天秤を置いてバランスを取るように心掛けなきゃいけない。裏切られたり傷つけられたりするのが嫌なら常にそれを気にかけておかないと全部無くしてしまうから。バランスを取る自信がないなら手は出さない」

 実里が家を出たきっかけ⋯⋯両親の秤は実里がいくら重石を乗せ願い叶えてもバランスがとれなくなったから。要求に応えられる間だけしか笑顔を向けてもらえない、叶え続けるのはもう無理だと思ったから。

「ミリーの安全と別の世界の情報をそれぞれ秤に乗せたらバランスは取れるかしら?」

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