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第八章 いざ、決戦!
13.初手ユーフェミア
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AクラスとBクラス合同授業の翌日、ユーフェミアの授業はCクラスだった。
多目的ホールに集合したCクラスの生徒達は2列の横並びでユーフェミアの前に並び、期待に胸を膨らませていた。
(期待してますとも! このクラスの中でいっちば~ん楽しみにしてました~。何を言ってくるんだろうね~、盛大にやらかして下さいね~)
この数ヶ月で溜まりに溜まったストレスがミリーの中で爆発寸前になっている。
張り切っているイライザやニール達高位貴族チームは一列目の真ん中に陣取り、ミリーとカサンドラやカミーユは後列のやや左端近く。
「このクラスは初めてお会いする方が多いと思いますので、全員でわたくしに向かってご挨拶をしていただきます。わたくしの合図でご挨拶をはじめ、よしと言うまでその姿勢をキープして下さい。それでは⋯⋯はい!」
ユーフェミアが手を叩き、全員がカーテシーとボウ・アンド・スクレープを行う。
「背が曲がってるわ。あなたはもっと腰を深く落として。前屈みにならない。目線は少し下に」
ひとりひとりに注意をしていくユーフェミアは一見親切に見えるが、膝を曲げた中腰の姿勢をキープするのは至難の業。
「このくらいの時間でグラグラするなんて、貴族として恥ずかしいですわね。せめて1分はこの姿勢を保てなくては」
体幹がものを言うカーテシーをキープし続けるのは至難の業で、普通は1~2秒程度と言われている。
「ボウ・アンド・スクレープは首からではなく、腰から体を前にかがめます。頭をもう少し上げて、頭から腰までが一直線になるように。あなたは背中が曲がってますわ」
ボウ・アンド・スクレープは右足を少し後ろに引き、右手は体に沿わせるか胸に当てる。左手を横に水平に差し出すようにして腰をかがめる動作。
(カーテシーに比べると格段に楽ちんじゃん。男女差別が酷すぎ~る。うぐぐぅ⋯⋯負けるもんかぁ)
時間が経つごとにひとり、またひとりと脱落者がではじめた。
「ほら、しっかりと背を伸ばして。グラグラしていてはカーテシーとは言えませんわ」
1分経ちユーフェミアが『やめ』と言った時、残っていた女子はミリーの他に3人だけだった。
「男子生徒は右に集まって下さい。さて、女子生徒の皆さんは、想像以上に残念だったと言うしかありませんわね。こんなに酷いなんて、本当に困りましたわ。数回の授業ではどうにもならない方もいらっしゃるし」
残念でならないと言いつつ頬に人差し指を当てたユーフェミアが、何かを思い出したらしい。
「そう言えば⋯⋯このクラスには平民がひとりいたはずですのに、女子全員がカーテシーをしていましたわね。えっと、平民の子の名前は⋯⋯」
「ユーフェミア様、平民の名前はミリー・コンプトンですわ」
1分間の耐久カーテシーから早々に脱落した『わ娘』が張り切って声を上げ、クラスメイトの目がミリーに集中した。
「あなたがコンプトンさんなの? 皇子殿下に付き纏う心得違いの平民ならカーテシーをしたくなっても分かるけれど⋯⋯ねえ。皆さんどう思われまして?」
くすくすと笑う高位貴族と一部の低位貴族達。
「コンプトンさんは入学した時からわたくし達と同等だと思っておられるようでしたわ。テオドール皇子殿下にも平気で言い返しておられたり、クラスメイトのわたくし達を蔑んでいるような行動もありましたわ」
「中間試験の後もギルバート王子殿下を貶めるような態度で⋯⋯」
「注意したかったのですが、成績の評価に影響しそうで私達は仕方なく耐えていました」
今がチャンスとばかりに我も我もと不満をぶちまけたり、嘘を並び立てるのイライザを筆頭にした高位貴族と彼等の腰巾着。
頷いている一部の低位貴族は口に出す勇気はないようだが、高位貴族のつく嘘に目を輝かせていた。
俯いているのはイジメを見て見ないフリをしている生徒達。
「まあ、それは大変! 貴族社会で爵位を軽んじる事は許されない事ですけれど、それ以上に平民が貴族に楯突くなど⋯⋯それに⋯⋯『真実の愛』を謳うには残念なお顔ではございませんこと?」
ぷっと吹き出したのはニール達だろう。俯いて表情を隠す生徒の間に、ニヤニヤと笑っている者がいるのが見えた。
「さて、コンプトンさん。平民でも貴族の養子になればと思っておられるのかも知れませんが、コンプトンさんを受け入れる貴族の方がおられるとは思えませんの。いても成り立てで一代貴族の男爵家くらいかしら」
我慢できなくなったカサンドラが一歩足を踏み出したのを、カミーユが止めているのが見えた。
(カミーユ、ナイス! カサンドラもありがとね)
「ですからね、皇子殿下に纏わり付くなど高望みしすぎですし、何よりも不敬な事ですの。あなたの行いで我が国と帝国の間に不和が生まれたら、責任を取れるとお思い?
平民のくせに貴族の真似事をして、帝国の皇子殿下に纏わり付いた罰として学園から出ていくのをお勧めするわ」
右手に持っていた扇子を左手に打ち付けながら話していたユーフェミアが、扇子でミリーを指して言い放った。
「発言してもよろしいでしょうか」
「⋯⋯え、ええ、よろしくてよ」
そろそろ泣き出してホールを飛び出すはずだと思っていたユーフェミアは、ミリーの堂々とした態度に一瞬怯んだが胸を張り頷いた。
(平民のくせに生意気な! わたくしが退学に追い込んでやるわ。貧乏な奨学生ごときが偉そうにしてんじゃないわ)
「先ずは一つ目。見本となる1分間のカーテシーを見せていただく事はできますでしょうか?」
「は? な、何を⋯⋯わたくしは平民がカーテシーをするのは間違っていると言ったのですわ」
「はい、その通りですがそのお話は後ほど⋯⋯。講師であるユーフェミア様は1分間カーテシーをキープ出来るのは貴族として当然と仰られましたので、是非見せていただきたいと思いました」
「そ、それは⋯⋯わたくしが平民の願いでそんな事をする必要なんてありませんわ」
「グラグラせずに1分間のカーテシーができなければ貴族として恥ずかしいのであれば、講師として見本を見せていただけるのではありませんか? ここにはユーフェミア様が臨時講師にいらっしゃった事を喜んでいる貴族の子息令嬢が大勢おられます。我が国で最も厳しい女子修道院をご卒業され、我が国で誉高き王立学園の講師になられた方のカーテシーを見せていただきたいと、皆さんも思われませんか?」
「確かに。見せていただけるのなら」
「ユーフェミア様なら簡単なんじゃないか?」
「ユーフェミア様、平民のいう事などお聞きにならなくても良いのですわ!」
「そうよね、わたくし⋯⋯」
「まあ、なんて事でしょう! イライザ様はもしかしてユーフェミア様には無理だと思われていらっしゃる? まさか、そんな事はありませんわよね。あぁ、申し訳ありません。先程イライザ様は早々に体勢を崩して座り込んでおられましたから、ユーフェミア様も仲間だと思いたいのかも⋯⋯」
ユーフェミアを追い込むついでに、イライザのプライドも傷つけたミリーの勢いは止まらない。
「イライザ様以外の貴族の方々は、ユーフェミア様を信じておられるようですが、証明なさいますか?」
多目的ホールに集合したCクラスの生徒達は2列の横並びでユーフェミアの前に並び、期待に胸を膨らませていた。
(期待してますとも! このクラスの中でいっちば~ん楽しみにしてました~。何を言ってくるんだろうね~、盛大にやらかして下さいね~)
この数ヶ月で溜まりに溜まったストレスがミリーの中で爆発寸前になっている。
張り切っているイライザやニール達高位貴族チームは一列目の真ん中に陣取り、ミリーとカサンドラやカミーユは後列のやや左端近く。
「このクラスは初めてお会いする方が多いと思いますので、全員でわたくしに向かってご挨拶をしていただきます。わたくしの合図でご挨拶をはじめ、よしと言うまでその姿勢をキープして下さい。それでは⋯⋯はい!」
ユーフェミアが手を叩き、全員がカーテシーとボウ・アンド・スクレープを行う。
「背が曲がってるわ。あなたはもっと腰を深く落として。前屈みにならない。目線は少し下に」
ひとりひとりに注意をしていくユーフェミアは一見親切に見えるが、膝を曲げた中腰の姿勢をキープするのは至難の業。
「このくらいの時間でグラグラするなんて、貴族として恥ずかしいですわね。せめて1分はこの姿勢を保てなくては」
体幹がものを言うカーテシーをキープし続けるのは至難の業で、普通は1~2秒程度と言われている。
「ボウ・アンド・スクレープは首からではなく、腰から体を前にかがめます。頭をもう少し上げて、頭から腰までが一直線になるように。あなたは背中が曲がってますわ」
ボウ・アンド・スクレープは右足を少し後ろに引き、右手は体に沿わせるか胸に当てる。左手を横に水平に差し出すようにして腰をかがめる動作。
(カーテシーに比べると格段に楽ちんじゃん。男女差別が酷すぎ~る。うぐぐぅ⋯⋯負けるもんかぁ)
時間が経つごとにひとり、またひとりと脱落者がではじめた。
「ほら、しっかりと背を伸ばして。グラグラしていてはカーテシーとは言えませんわ」
1分経ちユーフェミアが『やめ』と言った時、残っていた女子はミリーの他に3人だけだった。
「男子生徒は右に集まって下さい。さて、女子生徒の皆さんは、想像以上に残念だったと言うしかありませんわね。こんなに酷いなんて、本当に困りましたわ。数回の授業ではどうにもならない方もいらっしゃるし」
残念でならないと言いつつ頬に人差し指を当てたユーフェミアが、何かを思い出したらしい。
「そう言えば⋯⋯このクラスには平民がひとりいたはずですのに、女子全員がカーテシーをしていましたわね。えっと、平民の子の名前は⋯⋯」
「ユーフェミア様、平民の名前はミリー・コンプトンですわ」
1分間の耐久カーテシーから早々に脱落した『わ娘』が張り切って声を上げ、クラスメイトの目がミリーに集中した。
「あなたがコンプトンさんなの? 皇子殿下に付き纏う心得違いの平民ならカーテシーをしたくなっても分かるけれど⋯⋯ねえ。皆さんどう思われまして?」
くすくすと笑う高位貴族と一部の低位貴族達。
「コンプトンさんは入学した時からわたくし達と同等だと思っておられるようでしたわ。テオドール皇子殿下にも平気で言い返しておられたり、クラスメイトのわたくし達を蔑んでいるような行動もありましたわ」
「中間試験の後もギルバート王子殿下を貶めるような態度で⋯⋯」
「注意したかったのですが、成績の評価に影響しそうで私達は仕方なく耐えていました」
今がチャンスとばかりに我も我もと不満をぶちまけたり、嘘を並び立てるのイライザを筆頭にした高位貴族と彼等の腰巾着。
頷いている一部の低位貴族は口に出す勇気はないようだが、高位貴族のつく嘘に目を輝かせていた。
俯いているのはイジメを見て見ないフリをしている生徒達。
「まあ、それは大変! 貴族社会で爵位を軽んじる事は許されない事ですけれど、それ以上に平民が貴族に楯突くなど⋯⋯それに⋯⋯『真実の愛』を謳うには残念なお顔ではございませんこと?」
ぷっと吹き出したのはニール達だろう。俯いて表情を隠す生徒の間に、ニヤニヤと笑っている者がいるのが見えた。
「さて、コンプトンさん。平民でも貴族の養子になればと思っておられるのかも知れませんが、コンプトンさんを受け入れる貴族の方がおられるとは思えませんの。いても成り立てで一代貴族の男爵家くらいかしら」
我慢できなくなったカサンドラが一歩足を踏み出したのを、カミーユが止めているのが見えた。
(カミーユ、ナイス! カサンドラもありがとね)
「ですからね、皇子殿下に纏わり付くなど高望みしすぎですし、何よりも不敬な事ですの。あなたの行いで我が国と帝国の間に不和が生まれたら、責任を取れるとお思い?
平民のくせに貴族の真似事をして、帝国の皇子殿下に纏わり付いた罰として学園から出ていくのをお勧めするわ」
右手に持っていた扇子を左手に打ち付けながら話していたユーフェミアが、扇子でミリーを指して言い放った。
「発言してもよろしいでしょうか」
「⋯⋯え、ええ、よろしくてよ」
そろそろ泣き出してホールを飛び出すはずだと思っていたユーフェミアは、ミリーの堂々とした態度に一瞬怯んだが胸を張り頷いた。
(平民のくせに生意気な! わたくしが退学に追い込んでやるわ。貧乏な奨学生ごときが偉そうにしてんじゃないわ)
「先ずは一つ目。見本となる1分間のカーテシーを見せていただく事はできますでしょうか?」
「は? な、何を⋯⋯わたくしは平民がカーテシーをするのは間違っていると言ったのですわ」
「はい、その通りですがそのお話は後ほど⋯⋯。講師であるユーフェミア様は1分間カーテシーをキープ出来るのは貴族として当然と仰られましたので、是非見せていただきたいと思いました」
「そ、それは⋯⋯わたくしが平民の願いでそんな事をする必要なんてありませんわ」
「グラグラせずに1分間のカーテシーができなければ貴族として恥ずかしいのであれば、講師として見本を見せていただけるのではありませんか? ここにはユーフェミア様が臨時講師にいらっしゃった事を喜んでいる貴族の子息令嬢が大勢おられます。我が国で最も厳しい女子修道院をご卒業され、我が国で誉高き王立学園の講師になられた方のカーテシーを見せていただきたいと、皆さんも思われませんか?」
「確かに。見せていただけるのなら」
「ユーフェミア様なら簡単なんじゃないか?」
「ユーフェミア様、平民のいう事などお聞きにならなくても良いのですわ!」
「そうよね、わたくし⋯⋯」
「まあ、なんて事でしょう! イライザ様はもしかしてユーフェミア様には無理だと思われていらっしゃる? まさか、そんな事はありませんわよね。あぁ、申し訳ありません。先程イライザ様は早々に体勢を崩して座り込んでおられましたから、ユーフェミア様も仲間だと思いたいのかも⋯⋯」
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